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4月8日 行動上の個人差が発生する起原(4月1日Natureオンライン掲載論文)

2026年4月8日
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京都大学では医学部と理学部は大学の南西と北東に位置しているため、距離的には最も遠い学部だったが、学生時代講義や勉強会によく参加した。同級生の宮坂君と出席した動物学教室・村松先生が開催されていた免疫学の読書会で取り上げたBurnetのSelf and Not-selfは、その後の私の行く道を決めたと思う。他にも、3回生時代に受けた岡田節人先生の発生学講義にも影響を受けた。その岡田先生の講義で今も鮮明に覚えているのが、男性と女性の研究者を比べた時、男性ならもう諦めてしまうときに、もう一回と実験を繰り返せるのが女性研究者の特徴で、シュペーマンの共同研究者のマンゴルドの胚操作、あるいは胎児の神経管移植を行ったニコル・ルドワランを例として上げられていた。

今日紹介するパリPSL大学からの論文は、行動の個人差が生まれ際に性差は大きな影響を持っていることを示したおもしろい研究で、読みながら岡田先生の講義を思い出した。4月1日Natureにオンライン掲載され、タイトルは「Dopaminergic mechanisms of dynamical social specialization(社会的特殊性の発生動態に関わるドーパミンのメカニズム)」だ。

この研究では、レバーを押すと餌が出てくる仕組みを50cm四方の生活空間に設定している。ただ、餌の出口とレバーは部屋の反対側にあるため、レバーを押した後餌の出口に移動することを学ぶ必要がある。この部屋に匹だけマウスを入れると、すぐにレバーと餌の関係を学習する。おもしろいことにオスはレバーを押すとすぐに餌をあさる(Achiever行動)が、メスはレバーだけ押して餌はそのまま放置する(Storer行動)ことが多い。この時の背側被蓋ドーパミン神経興奮を調べるとAchiever行動ではレバーを押す時と餌にありつく時の両方で興奮が見られるが、Storer行動ではではレバーを押す時の反応は低い。即ちAchiver行動ではレバーを押す時、餌を食べる期待が条件付けられている。一方Storer行動では報酬にかかわらず試しているのがわかる。

以上は一匹だけの結果だが、メスだけ、あるいはオスだけ3匹づつ一緒に行動させる実験を行うと、メスでは共同生活でも変化はないが、オスの場合レバーを押して餌をとるWorkerと、押さずに餌だけくすねScroungerに別れる。そして、Scroungerでは、自分でレバーを押すときにはドーパミン神経の興奮は起こらないが、他の個体のレバーを押す行為に反応する様になっている。すなわち、共同生活という状況で、たまたま他の個体がレバーを押すのに反応する様になると、レバーを押さずに餌を食べるScroungerが生まれる。おもしろいことに、Storer行動の多いメスの場合、余計に他人の餌をくすねるScroungerが生まれていいはずなのに、メスばかりの共同生活ではScroungerはほとんど現れない

以上をまとめると、レバーを押す行動が餌という報酬に強く条件付けられるかどうかは性差が関わっている。おそらくレバーを押すときに報酬を期待するドーパミン神経の興奮閾値の違いを反映するのだろう。そして、この条件付けが他人がレバーを押す行動に条件付けられると、特にオスにScroungerが現れるということになる。

この状況を強化学習モデルによく利用されるQ-learning modelを用いてシミュレーションすると、

未知の可能性の探索(exploration)と、現在ある報酬を利用(exploitation)を決める閾値を変化させることで、Storer, Worker, Scroungerの出現をシミュレーションできることを示している。

最後に、光遺伝学的に被蓋のドーパミン神経を興奮あるいは抑制させて、行動上の性差を変えられるか調べている。オス被蓋のドーパミン神経を一過性に興奮してから、他の個体と社会生活を送らせると、通常は発生しないStorerが発生してくる。一方、メスの被蓋ドーパミン神経を共同生活前に抑制すると、WorkerやScroungerが現れる。即ち、オスとメスの定常的なドーパミン神経興奮のレベルの違いが、レバーを押す行動を報酬への条件付けるのに必要なドーパミンのレベルを変化させるため、オスは報酬への条件付けが強くなるという結論だ。

以上が結果で、強化学習シミュレーションで行動予測を行い、その結果をマウスで再現するという意味でもおもしろい結果だ。ただ個人的には、岡田先生が話していた、男は結果にこだわりすぎて、もう一回実験をやってみることが出来ないということがなんとなく理解できた気がしたのが一番の収穫だった。

カテゴリ:論文ウォッチ
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