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4月10日 GLP-1受容体アゴニストの効果を予測する(4月8日Natureオンライン掲載論文)

2026年4月10日
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3日前にGLP-1受容体アゴニスト(GLP-1RA)の適用が、糖尿病や肥満治療を超えて拡大していることについてまとめたところだが、今日公開になったNatureにおもしろい論文が掲載されていたので紹介する。

個人ゲノムサービスのさきがけとも言える23&Meからの論文で、会員のゲノムと健康情報から、GLP-1RAの効果と副作用の個人差を説明しようとした研究で、4月8日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Genetic predictors of GLP1 receptor agonist weight loss and side effects (GLP-1RAの体重減少効果と副作用を予測する遺伝因子)」だ。

しかし、23&Meからの研究を目にするのは久しい。日本では個人ゲノム検査会社は総じてうまくいっていないように思えるが、この会社が今も頑張ってNatureに論文をだしてくると言うのにまず感心した。このように消費者に根ざした会社は、独自の気づきがある。米国のように10%近い人がGLP-1RAを使うようになっている国では、効果と副作用の個人差は重要なテーマだが、研究論文では平均値のみが問題になりバリエーションになかなか注目しない

この研究ではGLP-1RA を使用しているか会員に呼びかけ、使っていると答えた27894人について、基本は自己申告によるアンケート、そして電子カルテを利用させてくれる場合はその情報、そしてこの会社で行ったSNP解析をベースに、体重減少効果を決める要因、そして最も多い副作用の嘔吐と吐き気の発生する要因を調べている。

このような会員自己申告型研究は、対象の設定やデータサンプリングが科学的でないとされることが多いが、少数ではあるが電子カルテにアクセスできた例で、ほぼ98%自己申告が信用できることを確認している。そして、GLP-1RAが最も体重減少効果を示すのが、2型糖尿病を持つ人で、年齢が高くなると効果が減じることを確認している。

次にGWAS解析で、ズバリGLP-1受容体のN末端に存在するシグナルペプチドに対応するrs10305420一塩基多型で、この部位がCと比べてTだとより体重が減ることがわかった。さらに、ヨーロッパ人にT型が多く、GLP-1RAがヨーロッパ人で効果が高いという結果と一致する。

次に、GLP-1RAの最も多い副作用、嘔吐と吐き気の発生と相関する多型を調べ、これもGLP-1受容体遺伝子近くのrs11760106が嘔吐、rs9347296が吐き気と強く相関することを突き止める。どちらの多型もエクソンではなく、調節領域の多型と考えられ、またこの相関はどのGLP-1RAを使っても同じように得られることから、脳神経に発現するGLP-1受容体の発現量が副作用の強さを決めている可能性が示された。

最もおもしろいのは、吐き気が出にくい多型rs1800437がGLP-受容体とGIP受容体の両方に効果があるデュアルアゴニストを用いた人のみ、G型で吐き気を防ぐ方向、C型で吐き気を高める方向が確認されている。この多型は354番アミノ酸のグルタミン酸とグルタミンの置換を伴い、グルタミンに変わると機能が低下することが知られている。またこれまでの研究で、GIPR刺激はGLP-1RAによる吐き気を抑えることが知られていることから、この受容体の機能低下は吐き気を高めると考えられる。

最後にゲノムと他のリスクファクターを合わせることで、効果や副作用を一定程度予測可能である事を示している。

結果は以上で、示された平均値だけで判断するのではなく、遺伝子検査など個人に合わせた治療の重要性を示している。特に様々な薬剤が市場に出回っているGLP-1RAの薬選びには必要だと思う。我が国の個人遺伝子サービスは大きく発展しているとは言いがたいが、その原因の一つは平均値でいいと考える臨床家が、患者さんのためにそれ以上の努力をしないことにある気がする。

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