9月22日 前頭前皮質形成の発生学(9月16日 Nature オンライン掲載論文)
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9月22日 前頭前皮質形成の発生学(9月16日 Nature オンライン掲載論文)

2026年9月22日
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レチノイン酸 (RA) は発生学で最も重要なモルフォゲン(濃度勾配で発生パターンを形成する分子)で、ホメオボックス遺伝子を支配して胎児の前後軸を決定したり、左右や背腹軸、更には手足の指のパターン形成にも関わることが知られている。おそらく発生学の専門誌ではRA勾配の研究は続いていると思うが、一般紙ではあまり見かけなくなった。

今日紹介するイエール大学からの論文は、最近では一般誌では珍しいRAモルフォゲンの分子メカニズムからスタートした研究で、9月16日 Nature にオンライン掲載された、私のような引退後の老兵を懐かしい気持ちにさせる研究だ。タイトルは「A retinoic acid autoregulatory loop governing prefrontal–motor arealization(レチノイン酸の自己調節回路が前頭前皮質と運動皮質の区域化を調節する)」だ。

思考や感情をコントロールして高次行動を決定する過程に関わる前頭前皮質は、主にマウスを用いた研究でRAモルフォゲン勾配によって運動皮質と区域化されていることが知られている。この研究の目的は、RA勾配の下流で働く転写因子を特定して、RA勾配が前頭前皮質形成メカニズムを明らかにすることだ。

研究ではまずRAの下流で働き前脳前皮質形成に関わる転写因子を、人間の発生途上の脳を用いて探索している。RNA sequencing やクロマチンを調べる Atac-seq 、さらにRA受容体の結合などを組み合わせて調べ、前頭前皮質形成時期に発現する候補遺伝子として Meis2 を特定している。もちろん他にも同じような遺伝子は見つかっているのだが、何故 Meis2 に絞るのかの理由については、自閉症スペクトラムや統合失調症のリスク遺伝子としてしられていること以外は言及されていない。いずれにせよここからこの論文は Meis の神経特異的ノックアウト研究になる。

Meis2 はマウス、サル、ヒトで皮質形成時に皮質で発現が見られ、RA受容体が遺伝子に結合してクロマチンがオープンになっている。即ちRNの下流で働いている。

脳特異的にノックアウトすると、前頭前皮質が縮小し、運動皮質が拡大する。その結果視床各部位との投射が低下し、逆に脊髄との神経結合が上昇する。細胞レベルでは皮質の上層細胞が消失し、逆に最も下層の第5第6層が拡大し、この細胞レベルの神経分化の変化の結果、他の領域との神経結合が大きく変わってしまう。特徴的なのは、脳梁を介して反対側の大脳への結合がほぼ完全になくなることで、結果として脳全体の調整機能などが失われると想定される。

実際マウスの行動学的には、作業記憶は保たれているが、対象物への興味の低下、不安行動の上昇、目的に向けた行動など、前頭前皮質の機能として知られている機能がほとんど失われる。ヒトでも Meis2 が片方の染色体で欠損すると脳梁が縮小し、また知的障害にいたる脳の発達障害を来すことが知られているが、この研究でヒトの病態の解析への明確な視点が生まれた。また、自閉症スペクトラムや統合失調症との関係もさらに理解が深まると思う。

研究では最後に、Meis2とRA合成との関わりについても調べ、大脳皮質上層でのRN合成が失われることも示している。ただ、Meis2 自体がRA合成酵素を調整するわけではなく、おそらく合成細胞の分化に関わる結果だが、これにより、RA→Meis2発現→皮質上層細胞分化→RA合成という自己再生回路が働き、RA勾配が維持されるメカニズムも示している。

久しぶりのモルフォゲン勾配の論文で懐かしい気分になった。

カテゴリ:論文ウォッチ
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