今年のノーベル賞は光遺伝学の神経科学への応用を薦めたダイセロス、へーゲマン、ナーゲルの3人が受賞したが、神経科学を大きく変革させた技術システムの開発という点ではなんと言ってもダイセロスの貢献が圧倒的で、このブログだけでも光遺伝学で検索すると164件の記事が出てくる。また多くの論文の紹介とともにYoutubeでも「光遺伝学の細菌の進展」(https://www.youtube.com/watch?v=_o6cy7lJ_jA)及び、まさに精神科医出身のダイセロスならではの研究といえる論文を「解離体験についてのDeisseroth論文を読む」と題して紹介している(https://www.youtube.com/watch?v=6Q6tbLO79sw)。そのため、今回のノーベル賞解説はスキップするが、このHPの記事や動画を是非見直して頂きたい。
光遺伝学では光を感知して開くチャンネル分子が用いられるが、今日紹介するコーネル大学からの論文は、光に反応して形を変えることでモルフィネ受容体の刺激をオンオフ出来る化合物の開発で、10月15日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「An opioid efficacy switch for reversible optical control of analgesia(鎮痛作用を光で可逆的に発揮する、麻薬様の効果が変化するスウィッチ)」だ。
化合物の構造を光で変化させてチャンネルを開いて神経を刺激する化合物は、視細胞を失った人の神経節に入って光を感じれるようにする化合物の開発として現在も行われており、このブログでは2014年に紹介した(https://aasj.jp/news/navigator/1194)。今日紹介する論文は、痛みを抑える切り札、モルフィネに反応するμオピオイド受容体(MOR)を365nmの光が当たったときだけ刺激できる化合物の開発で、局所でだけ鎮痛効果が得られる薬剤につなげようとしている。
モルフィネの高い鎮痛作用を考えると、MORを標的とした、局所に光を当てたときだけ働く化合物が出来れば素晴らしい。この研究ではモルフィンの化学構造に2個のアゾベンゼンをつなげることで、光に応答してアゾベンゼンの構造が変化してリガンド特性が変化するアゾモルフィンを4種類作成し、その中から、365nmの光でMORを刺激し、460nmの光に変えると、作用が低下するAM-3を完成させている。専門的になるので詳細は割愛するが、AM-3がMORと結合する部位が光によって大きく変化させることが出来、これがMOR刺激の閾値の変化につながっていることを示している。MORと結合しているGタンパク質の構造を調べると、AM-3の構造変化により、MORと下流のGタンパク質の構造変化が起こることも確認している。
後は、AM-3をマウスに注射して様々な状況で鎮痛作用を調べている。AM-3を注射前に365nmの光で処理すると、モルフィネと同じように足の裏の痛みを抑えることができる。その後で460nmの光を当てると鎮痛作用はなくなるが、365nmにすぃっちすると鎮痛効果が再び現れる。脳のスライス培養ではモルフィネと同じ作用を示すが、静脈注射したときには脳にほとんど作用はなく、脳血管関門を通れないことがわかる。
以上の結果から、静脈注射しても光を当てた局所だけで働く鎮痛剤として使えることが確認された。そこで、様々な痛みモデルでその効果を確かめている。例えばガンによる局所痛、あるいは消化管の痛み、あるいは神経損傷に対する鎮痛効果で、一定の効果を確認している。
結果は以上だが、ではそのまま人でも同じように使えるかどうかはまだまだ時間がかかると思う。まず使っているのがUVA波長なので、より波長の短いUVと比べると影響は無いといえ、長期間照射を続けられるかわからない。また痛みだけは主観的なものなので、人間に使ってみないとわからない。幸い、先に光照射しておくと活性型に代わるので、これを注射してモルフィネと比べることで、人でも同じ効果が得られるかを確認できるので、まず脳に入らない鎮痛剤としてモルフィンと比べ、その後鎮痛の必要無い部分には可視光を照射して作用を抑えるといった使い方になる様に思う。いずれにせよ期待したい。
