脂肪細胞は、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、そして刺激により褐色脂肪化するベージュ脂肪細胞に分けられている。同じ脂肪細胞だが、脂肪を蓄える白色脂肪細胞と、脂肪やグルコースを代謝、特に熱に換える褐色脂肪細胞と機能が全く異なる。機能差から見ても、健康に関しては褐色脂肪細胞が多い方が良いが、寒冷などの刺激がないと、年齢とともに失われる。このブログで褐色脂肪と検索すると、既に24編の論文を紹介しているが、人間を用いる研究は簡単でない。
今日紹介するロックフェラー大学からの論文は人間の褐色脂肪細胞)BAT)の活動を、ガンの診断に用いられるグルコースの取り込みを調べるFDG-PETで検出することが出来ることを利用し、10万人規模の対象でBAT陽性と陰性にわけ、様々な健康指標と相関させたユニークな研究で10月14日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Artificial intelligence-enabled clinical phenotyping of human brown fat(人工知能は人間の褐色脂肪を臨床的に分類できる)」だ。
BATをPETによるグルコース取り込み(FDG-PET)で検出するとは考えたことがなかったが、BATのガンに匹敵する驚異的グルコース取り込みを考えると納得できる。おそらくこの研究の最大の難点はFDG-PET検査を受けたガン患者さんのデータを使っている点で、10万人という規模でも代謝に大きな影響を持つガン自体の要因をどう排除するかが議論はされていても、問題は残る気がする。しかしこの問題を外して、患者さんの電子カルテレコードと対応させると、これまで知られていたBATの健康への貢献に加えて、BATの新しい側面も見えてくる。
まず10万人の対象から、様々な影響を排除してこの研究で利用されたのは26000人で、FDG-PETではっきりとBAT陽性と確認されたのは8897人で、陰性と判断されたのが、17405人だ。平均年齢が50歳なので、加齢とともにBATが減少することがよくわかる。
次にBAT陽性と陰性を様々な健康データと相関させると、これまで指摘されていたようにBATの多い人では、2型糖尿病や、心臓血管病の頻度が大きく低下していることがわかる。おもしろいところでは、BATの多い人は不安症などの精神症状が少ない。
BATは頸部、鎖骨上部、腋下、等など身体のいくつかの場所に存在する。これらの活性を個別に判断して、病気と相関させるため、FDG-PETイメージと電子カルテのデータを学習したAIを構築して、より正確な診断が出来るようにしている。これを用いると、異なる場所のBATと様々な病気や症状との相関がはっきりと診断できるようになっている。
これを用いると、糖尿病はほとんどの場所のBATと相関するが、心臓血管径の病気の場合、頸部や縦隔のBATの方が相関が強いことがわかる。ただこれらは全て現象論で、その背景にあるメカニズムは個別に調べる必要がある。
糖尿病からわかるように、検査指標もBATと相関し、BAT陽性の人は空腹時血糖が低く、HbA1cも低い。また脂肪代謝でもHDLが高く、トライグリセライドは低い。FDG―PETはCTも同時に調べてあるので、他のタイプの脂肪量や心臓の大きさなどとも相関させられる。基本的には、これまで知られているように、BATは健康な代謝と強く相関している。
BATと服用中の薬剤との関係を探索する中で、高血圧の治療薬アンジオテンシンII受容体阻害剤(ARB)がBAT陽性の人に多いことがわかり、培養実験も含めて詳しく調べている。ARBの一つロサルタンをマウスに投与すると、BATの代謝の鍵になっている熱生成に関わるUcp1の発現が上昇する。またBATで熱性性が上昇するのも観察できる。ただ、これはアンジオテンシン受容体を介する反応ではなく、ロサルタンの代謝物が直接脂肪細胞のPPARγ転写因子を介して誘導していることがわかる。とすると、ARBのうち少なくともロサルタンはアンジオテンシン受容体シグナルを抑制する血圧降下作用と、代謝物を介したBATを誘導し刺激する効果があることがわかる。
結果は以上で、ガン患者さんでのデータであることをのぞくと、FDG-PETでBATの状態を診断するのは納得できるアイデアだ。我が国ではガン早期発見のためのPET検査が行われているが、この時正常と判断された方の画像を集めて、是非調べ直してほしい。
