過去記事一覧
AASJホームページ > 2026年 > 10月 > 31日

10月31日 tRNAを標的にした抗ガン剤の開発(10月28日 Nature オンライン掲載論文)

2026年10月31日
SNSシェア

抗ガン剤開発というと最近では分子標的薬を思い浮かべるが、基本的にはガン細胞への効果を高めるというのが目的で、例えばADC等は標的分子自体は薬剤をデリバリーする時に利用するだけで、ガン細胞の増殖抑制は抗体に結合した様々な抗ガン剤を用いている。このように、ガン細胞で効果が高くなるあらゆる可能性が現在追求されており、こんな標的も使えるのかと驚くこともしばしばだ。

しかし、今日紹介するケンブリッジ大学と Storm Therapeutics 社から10月28日号の Nature にオンライン発表された論文は、tRNAの修飾酵素を標的にしており、抗ガン剤としての標的の意外性としてはトップクラスだ。タイトルは「Pharmacological inhibition of METTL1 as a therapy against solid and blood cancers(METTL1を阻害する薬剤を固形ガン及び血液腫瘍治療に使う)」だ。

DNAだけでなく、RNAも様々な修飾を受ける。このブログでもmRNAのアデニンのメチル化については数回紹介している。ただ、RNA修飾で言うと、tRNAの修飾は群を抜いている。GPT-5に作って貰ったイラストを参考に掲載しておく。

mRNAワクチンで有名になった擬ウリジンまで存在するのに驚かれたと思うが、核酸コードを全く物理関係の無いアミノ酸に変化させる生命の最も重要過程の主役だと考えると、なんとなく納得できる。この研究では、グアニンにメチル基を付加する酵素METTL1機能を阻害することで、抗ガン剤が開発できないかを考えている。と言うのも、白血病やガンでMETTL1発現が上昇しており、ガン化によりよりMETTL1への依存性が高まると予想されていた。

まず29万の化合物の中からメチル化反応を抑制するリード化合物を選び、そのリードを徹底的に至適化して、ナノモルレベルでグアニンメチル化反応を抑制する化合物STM9005を開発している。様々な核酸がメチル化を受けるが、STM9005はMETTL1特異的であることが確認された。

次は細胞内過程への影響だが、様々なガンをナノグラムオーダーの親和性で阻害できる。細胞周期で見ると、DNA合成期の細胞が最も影響を受ける。この変化が tRNAグアニンメチル化の阻害で起こっているのかを調べるため、いくつかのガン細胞のグアニンメチル化された tRNAを調べると、どのガンでも同じようにグアニンメチル化 tRNAが減少する。おもしろいのはメチル化の現象の仕方が tRNAにより異なる点で、例えば TCT-Arg や CCA-Trp と言った tRNAはどのガンでも強く抑制される。

何故一部の tRNAが減ることでガン細胞でより強く増殖が抑制されるのかも調べており、グアニンメチル化されたtRNAが減るとガンの増殖に必要なMycの翻訳が低下すること、及び p53の翻訳が上昇する事がその原因の一部ではないかと想像している。即ち、Mycなど増殖に必要な分子ほど安定した tRNA供給に依存しているのではと考えている。

この結果を受けてガンを移植するモデル系で、ガン増殖抑制を調べている。膵臓ガンや、メラノーマ、肺ガンなどをモデルとして使っているが、いずれもガンの増殖を抑制することができる。白血病にも同じように効果があり、この系で正常血液幹細胞への影響を見ているが、造血コロニーアッセイではほとんど問題が無い。メカニズムからも想像できるが、ガン細胞を殺すというより、増殖を抑制する作用が中心になるが、他の抗ガン剤と組み合わせることで、METTL1を高発現するガンには役に立ちそうな薬剤に仕上がっている。

以上が結果で、マウスで副作用があまりないから人間でもないというわけではないが、全く新しい標的であること、またMETTL1の発現が高い場合は他の抗ガン剤と組み合わせるという使い方はあり得るだろう。

自分のガンについてもMETTL1を検索すると、それほど高くはないが、発現はある。このように、変異遺伝子の特定だけでなく、ガンの遺伝子発現を調べておくことは重要であると実感する。

カテゴリ:論文ウォッチ
2026年10月
月 火 水 木 金 土 日
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031