2026年9月27日
APOE遺伝子には大きく3種類の対立遺伝子が存在し、APOE4を持つほどアルツハイマー病 (AD) リスクが高まることが知られている。そのメカニズムについては脳血管関門が破れるなど様々な説が示唆されているが、なるほどと納得できるシナリオはないように思う。
これに対し今日紹介する Ichan School of Medicine at Mount Sinai からの論文は、APOE4がTGFβを介して血管周囲細胞を線維化型細胞へと変化させ、細胞外マトリックス、特にファイブロネクチンの蓄積を高めることで、血管周囲でのアミロイドの蓄積を高めることを示した力作で、9月24日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A pericyte-to-myofibroblast transition links APOE4 to cerebrovascular degeneration(ペリサイトから myofibroblast への転換がAPOE4と脳血管変性をつないでいる)」だ。
この研究ではまずADから切り離して、APOE4キャリアーの脳の single cell レベルのRNA発現データを様々なデータベースから集めて統一的に解析し、最終的にAPOE4キャリアーでは血管周囲細胞が減少して、線維化に関わる myofibroblast が増えていることを発見する。この結果をベースに組織学的に調べると、小血管の周りの周囲細胞が脱落して回りに myofibroblast が増えていることも確認している。さらに、ヒトのAPOE4やAPOE3を発現させたマウスの脳でも、加齢に伴って同じことが起こることも確認している。
あとはこの変化がAPOE4による周囲細胞自体の変化であることを、ヒトiPS細胞由来の周囲細胞と脳オルガノイド培養を組み合わせた創意に満ちた培養系で証明している。即ち、オルガノイドが正常由来でもAPOE4周囲細胞を供給すると、myofibroblast へ変化し血管から離脱する。
以上の結果から、周囲細胞の分化自体がAPOE4により変化して myofibroblastへ の転換が起こったと考え、single cell レベルの解析を分化の視点から見直すと、APOE4存在下で周囲細胞が中間段階の細胞を経て myofibroblast へと分化していることを明らかにしている。また、ヒトiPS細胞由来脳オルガノイドや、ヒトAPOEを発現させたマウスモデルを用いてこの結果を確認している。
このようにADとは関係なく、APOE4キャリアーでは血管周囲細胞がmyofbroblastへと転換することを確認した後、ADとの関係を探っている。そして、myofibroblastへの転換の結果起こる線維化、特にファイブロネクチンの合成上昇が、アミロイドβの蓄積を促進することを、マウス実験系やオルガノイドで確認している。そして、ファイブロネクチン合成を抑えることで、アミロイド直積を抑えられる事も示している。
周囲細胞からmyofibroblastへの転換にはTGFβが関わることが知られており、APOE4で見られる転換もTGFβが関わるのか、TGFβの発現を調べると、TGFβ1はmyofibroblastで最も発現が強いが、TGFβ2はアストロサイトで強く発現している。APOE4キャリアーでは確かにTGFβ1の発現が上昇し、またオルガノイド培養にTGFβ阻害剤を加えることでmyobibroblastへの転換が抑えられる事、さらにマウスモデルに同じ阻害剤を投与することでAPOE4によるmyofibroblastへの転換を抑えられる事を確認している。
以上の結果から、APOE4ではメカニズムははっきりしないが血管周囲細胞でのTGFβ産生が上昇しmyofibroblastへの転換が起こりやすくなり、血管周囲の線維化が促進される結果、蓄積したアミロイドの除去が抑えられ、結果的にADの進行を促進するというシナリオになる。ヒトのデータベース再検討から始まり、マウスやオルガノイドなど創意に満ちた実験を重ねて、APOE4についての新しい統一的シナリオまで至ったのは素晴らしい。また新しい治療標的としての開発も始まる気がする。
2026年9月26日
老化の一つの原因が老化しても組織に居座る細胞が増加することで、老化細胞を標的にして新陳代謝を早める Senolysis は老化研究の重要分野になっている。問題は senolysis を誘導する方法が見つかっても老化を防ぎたいと思うと、それに必要な薬剤などを飲み続ける必要がある。従って、動物実験で寿命が延びることを示せても、寿命の長い人間で治験を行うことは難しい。事実、抗老化を目的とした senolysis 治験の成功例はまだ聞いたことがない。代わりに senolysis は、肺線維症や腎硬化症など、線維化が進む病気の治療として効果があることが知られている。
今日紹介する米国 スローンケッタリング ガン研究所からの論文は、老化細胞で細胞接着分子Pセレクチンが強く発現していることを利用して、老化細胞特異的 senolysis による線維化治療法を開発する中で、この治療効果が老化細胞一般ではなく、老化マクロファージの senolysis を介していることを明らかにした、senolysis 分野では重要な研究で、9月24日 Science に掲載された。タイトルは「Senescence-directed nanotherapy ameliorates fibrosis and overcomes immune exclusion in cancer(老化細胞を標的にしたナノ粒子治療は線維化を軽減し腫瘍免疫を高める)」だ。
このグループはPセレクチンに強く結合する fucoidan をナノ粒子として薬剤をPセレクチン発現細胞にデリバリーする方法を開発しており、腫瘍の微小環境を標的にしてMEK阻害剤を投与、ガンの様々な治療を高められることを既に示している(2016 Science Translational Medicine, 8:345)。
その後の研究、Pセレクチンが老化細胞の関わる線維化病巣で発現しているという可能性を示唆する観察が増えたことから、fucoidanナノ粒子 (FNP) で線維化を抑えられるのではないかと着想し、この研究を始めている。まずヒトの肝硬変や肺線維症組織でPセレクチンの発現を見ると、特に細胞老化のマーカーを発現している細胞でPセレクチンも発現が上がっている。これを確かめるため、マウスの肝硬変や肺線維症を誘導して調べると、線維化が起こっている領域でPセレクチンの発現が上昇している。
これを確認してから、次にFNPにBcl2阻害剤、あるいは転写因子BET阻害剤を詰めて線維化モデルに静脈注射すると、期待通り線維化を強く抑制することが明らかになった。おもしろいのは、Bcl2阻害剤ではPセレクチン陽性の老化細胞が低下することにより線維化が抑えられるが、BET阻害剤の場合は老化細胞はそのままで、コラーゲンなどの転写の変化で線維化が抑えられる。また、これらの薬剤はそのまま投与すると副作用が強いが、FNPでデリバーするとほとんど副作用はない。
Pセレクチンを発現する老化は多くの細胞で見られるので、どの細胞が実際の標的になっているのか、Pセレクチンと老化マーカーであるβGalの発現を指標に様々な細胞をソーティングして、FNP-薬剤の効果を調べると、なんとマクロファージだけが FNP を取り込んだ後、最終的にリソゾームまで粒子を運んで阻害剤を遊離することがわかった。即ち、Pセレクチン陽性細胞全体が標的ではなく、ナノ粒子による治療はマクロファージが主要な標的で、このマクロファージが組織全体の老化と線維化を調節していることが明らかになった。Single cell レベルの解析から、マクロファージの中でも脂肪を処理する能力を持つマクロファージが、組織線維化の主役であることも明らかにしている。この結果は、今後病的な線維化、及び加齢による線維化、及びその senolysis による治療も、同じマクロファージから見直してみることの重要性を強く示唆している。
さらに、この研究では病的線維化として、増殖の強い腫瘍の周りの線維化も同じではないかと考え、線維化を誘導した肝臓に腫瘍を移植する実験系で、FNP の効果を調べている。結果は期待通りで、FNP により Bcl2阻害剤を投与すると、腫瘍に薬剤が到達できるようになり、それまで効果がなかった抗ガン剤が効くようになる。そしてこの効果は腫瘍周辺に集まるマクロファージを senolysis で除去することで起こること、また薬剤による治療をガンに対する免疫が助けていることを発見する。即ち、Pセレクチン陽性老化マクロファージを senolysis させることで、腫瘍周辺の線維化が消失し、薬剤がガン細胞へ移行しやすくなると同時に、T細胞によるガン免疫反応のアクセスが高まり、治療効果が安定化することがわかった。
最後に人間でも同じことが言えるかを調べるため、ガン組織のデータベースを調べ、ガン増殖を助けるマクロファージが存在するとされてきた組織にPセレクチンマクロファージが存在すること、免疫チェックポイント治療に反応しないグループでこのようなマクロファージが多いことを確認している。
以上が結果で、senolysis の標的をマクロファージに絞れたことがこの研究の大きな貢献で、線維化だけでなく、ガン治療にも新しい可能性が生まれた重要な研究だと思う。
2026年9月25日
薬剤開発が不可能とまで考えられた変異K-rasに対する薬剤の開発が続いている。アムジェンの K-ras G12C 特異的な共有結合型阻害剤 sotorasib を皮切りに、Revolution Medicines の開発したほとんどのRas変異を阻害する daraxonrasib が FDA により認可されている。我が国でも、G12D変異Ras を分解してしまう setidegrasib がアステラス製薬により開発され、肺ガンで第3相の治験が始まっている。このように、あっという間に多くのRas阻害剤が利用できるようなり、また目覚ましいガン抑制効果が証明されているが、問題はRas阻害剤単独では必ず耐性が発生することだ。
この問題を解決する方法の一つとして期待されているのが、免疫チェックポイント治療など免疫治療との併用で、Ras阻害剤でガンを殺し、そこで発生するガン特異的な抗原に対する免疫を誘導し、薬剤に対する耐性ガンの出現を抑え込む方法だ。今日紹介するハーバード大学からの論文は、膵臓ガンモデルでRas阻害剤と併用する免疫方法を探索し、タンパク質デザインの大御所 David Baker さんたちが開発した、IL-21活性を持つデザインペプチドが最も高い併用効果があることを示した面白い論文で、9月23日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「CD4 T cells convert transient responses to KRAS inhibition to durable remissions in pancreatic cancer(CD4T細胞はKRAS阻害による膵臓ガンへの一時的効果を持続的に変える)」だ。
IL-21はT, NK, B細胞やマクロファージ、樹状細胞を刺激できるインターロイキンで、IL-21受容体はIL-2と共通のcommonγ受容体と重合体を形成し独自のシグナルを生成する。このグループはIL-21について研究を続けており、その一環として、David Baker さんと共同で、マウスとヒトのIL-21Rを刺激できるデザインペプチド21h10を報告していた。そして今最も注目されているRas阻害剤と免疫治療の組み合わせに使えないか、膵臓ガンを移植したマウスで調べている。これまで示されてきたように、Ras阻害剤はチェックポイント阻害の組み合わせや、自然免疫の活性化を加えると生存が伸びる。また Baker さんたちがデザインしたIL-2/IL-15活性を持つペプチドでも同じように生存期間が延びるが、効果は限定的だ。これに対し21h10を同時に注射すると、8割以上で完全に腫瘍が消失し、100日以上生存する。IL-2/IL-15ペプチドの効果が限られていることからcommonγシグナルだけではなく、IL-21受容体とcommonγによるシグナルがこの効果に必要であることがわかる。移植モデルだけではなく、変異Rasとp53欠失を組み合わせた自然発ガンマウスでも、また肺ガンマウスでも同じように効果が得られる。
この効果のメカニズムを探るべく、膵臓にガンを移植しRas阻害剤+21h10の組み合わせでガンに浸潤してくる細胞を探索している。IL-2と同じでIL-21も全身投与すると膵臓炎など強い副作用が出るので、これを抑えるための抗TNF抗体も組み合わせている。これだけ高い効果が得られるのでおそらくキラー細胞が活性化されているのかと思いきや、なんと活性化されたCD4が増加していることを発見する。同じCD4でも制御性T細胞は低下している。Single cell レベルで増殖しているCD4細胞を調べると、インターフェロンγを発現するTh1型のCD4細胞が増殖していることもわかった。
抗体や遺伝子ノックアウトマウスを用いて、21h10の効果の原因細胞を調べると、CD8細胞やDC1樹状細胞は必要無く、Th1 CD4T細胞と免疫を誘導するDC2樹状細胞がこの効果に必須であること、そしてこの活性にはクラスI MHCを介する直接的ガン細胞障害は必要無いこともわかった。詳細は割愛するが、Ras阻害剤で一過性に傷害されたガン細胞がDC2に取り込まれTh1 CD4T細胞を活性化し、分泌されるインターフェロンにより炎症及びガン細胞のマクロファージによる貪食が高まり、ガンが消滅することを示している。
結果は以上で、最後のインターフェロンはマクロファージの貪食を活性化してガンを殺すという点については、本当にそれだけでこれほどの効果が得られるのか疑問に思う。またこの効果がデザインペプチドでしか得られないのか、IL-21でもいいのかも是非知りたいところだ。一方で、この研究もCD4T細胞が直接的ガン細胞障害を越える作用を持つことを証明しており、今後のがん免疫療法を考える上で重要だと思う。おそらく人間の場合全身投与は問題があると思うので、21h10にさらに細工が必要だと思うが、是非膵臓ガンの根治を目指す治療法開発へと発展してほしい。
2026年9月24日
高温でも棲息できる高熱細菌は生物学の発展に大きく寄与している。Covid-19パンデミックで一般の人にも完全に周知されたPCR検査は、高温に耐えるDNA複製酵素が支えている。と言うのもPCRによる遺伝子増幅には、複製したい2本鎖DNAをまず一本鎖に変えてからそれぞれの鎖を複製する必要がある。DNA2本鎖が一本づつに別れるためには94℃以上に熱する必要があり、その後プライマーと会合させて複製を進めるには温度を下げる必要がある。即ち、温度を2本鎖分離、プライマー結合、複製と変える必要がある。この温度変化に耐えるために使われているのが、好熱菌から分離したDNAポリメラーゼで、これら異なる温度で働くことが出来るのは、高熱細菌由来のポリメラーゼだけだ。このように、細菌や古細菌には100℃以上の環境で増殖するものが多く見つかっているが、これまで知られている高い温度で棲息できる真核細胞は、カビや藻類で見つかっているだけだった。
今日紹介する米国ニューヨークのシラキュース大学からの論文は、藻類より進化したアメーバの中にも63℃と言う高温でDNA複製と細胞分裂や細胞移動を平気で行う種の存在を明らかにした研究で、9月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A geothermal amoeba sets a new upper temperature limit for eukaryotes(地熱地帯で発見されるアメーバは真核生物が生存可能な新しい限界を示す)」だ。
カビや藻類で60℃近くで生存する種は知られているので、この研究では最初からアメーバに絞って米国のラッセン火山国立公園の49℃-65℃のお湯が流れる川で、pHが6-7と安定している支流を選び、3年かけて探索し、高温で生息できるバクテリアを食べるアメーバを分離するのに成功している。最初は実験室で63℃で増殖させた系統を解析に使っているが、その後同じアメーバを高温の環境から直接分離することにも成功している。
まずゲノムを解析して系統関係を確立し、これまで耐熱性があることで知られる Vermamoeba vermiformis に近い新種で、Incendiamoeba cascadensis(炎のアメーバ)と名付けている。63℃で平気で増殖することから、真核生物の高温耐性の限界を引き上げる新種の発見と言える。
まず細胞学的に、高温で細長い芋虫様形態と典型的アメーバ様構造をとることができる。それぞれは食べる時と移動するための形態といえる。増殖活性は55℃がピークだが63℃まで増殖できる。そして、完全に融資分裂がこの温度で起こることも確認される。また、さらに高温になると増殖は止まりシスト形成により生存が可能だ。これにより70℃までは生存し温度を下げると増殖を再開するが、80℃になると死滅する。
重要なのは、高温でも生存するメカニズムだが、これについてはゲノムや遺伝子発現をざっと見ているだけで、詳しい解析はこれからになるが、それでも熱耐性への進化の道筋は追うことができる。まず最も近い V. vermiformis と比較した時、共通の遺伝子は半分だけで、残り7000近くの遺伝子はこの種特異的であることが分かった。原核生物では遺伝子がコンパクトになるとは逆の戦略がとられている。また遺伝子自体の耐熱性のためのコドンの使用パターンも違う。
温度が上昇した時に発現が変化する遺伝子を調べると、シャペロン、タンパク分解システム、DNA修復、細胞膜やオルガネらとの輸送システムなどが上昇し、アミノ酸代謝、脂肪代謝など軒並み低下が見られる。重要なのは、高温で強く誘導される200遺伝子のうち、70%が機能が予想できない分子で、熱耐性を理解するための宝の箱が開いたかもしれない。
そして、多くのタンパク質で高温耐性が発生している。代表的な分子の構造をAIで調べると、疎水性で側鎖が荷電していないアミノ酸がタンパク質表面から除去されることで、高温でタンパク質が凝集するのが防がれている。また、表面の電荷が少ないのは熱耐性菌でも見られる。
以上が結果で、遺伝子解析は行われていても、なぜ60℃を超える高温でアクチンや微小管をコントロールして分裂や遊走貪食が可能なのかなど、多くの面白い課題が残った。さらに、全く機能のわからない何千もの分子が存在し、全てではないにせよ耐熱性を支える分子の宝箱がどう進化したのか、興味は尽きない。
2026年9月23日
ノルエピネフリン(ノルアドレナリン:NE)は交感神経が、末梢の様々な細胞に働きかけて全身の調節を行う神経メディエーターだが、同じようなNE神経が脳内にも存在しており、交感神経と同じように、シナプスを介する神経伝達ではなく、NEの分泌を通し神経やグリア、更には血管にまで働いて、脳の覚醒状態やアテンションを高める働きがあることが知られている。
今日紹介する米国アレン研究所からの論文は、青班核から脳内に投射するNE神経の構造と機能を一から基礎的に調べ直した研究で、NE神経についてなるほどと理解が進む論文で、9月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Topographic structure and function of locus coeruleus noradrenaline neurons(青班核のノルアドレナリン神経のトポロジー構造と機能)」だ。
まずNE合成の律速段階の酵素を用いてNE神経を標識する方法を開発し、片方の半球の青班核からの神経投射を見ると、脳内のほとんどの場所に神経線維が投射されているのが見事に示されている。
ただ全体を眺めるのではなく、一本一本の線維を追いかけるとNE神経の特徴を見事に表現した構造が見えてくる。まず、青班核の場所に応じて投射する場所が決まる。例えば脳皮質に投射するのは青班核の背側、小脳へ投射するのは腹側中部、そして脊髄に投射するのは腹側に神経が存在している。
さらにおもしろいのは投射で、他の脳神経と異なり特定の神経細胞へシナプスを形成するわけではないので、なんとほとんど分岐のない長い軸索を領域全体に言ったり来たりしながらカバーする。なんと一番長い軸索は70cmを超える。マウスの脳の大きさを考えると、その長さに驚嘆する。NE神経は軸索上に数珠のようにつながるバリコシティーからNEを分泌するので、この構造はまさに一本の神経が領域全体をカバーして、脳細胞全体の状態を調節するという目的にドンピシャで合致しており納得する。
青班核のNE細胞から核を取り出し、single nucleus RNA sequencing で遺伝子発現を調べると、決して単一な集団でなく、極めて多様な細胞集団であることがわかる、この多様性を、組織上で多くの遺伝子の発現を調べる Merfish で調べると、青班核の背側から腹側にかけて、まさにモルフォゲン勾配でも存在するかのように(おそらく存在していると思うがこの論文では研究されていない)、それぞれの遺伝子が勾配を持った分布を示している。この遺伝子発現の違いにより投射の場所が決まっていると思うが、メカニズムについてはこれからだろう。これまでの神経接合の選択性とは全く違ったメカニズムが今後明らかになると期待される。
最後に、NE神経の反応を電気的に、あるいは光遺伝学的にレコードして、学習した結果から行動を決定する課題を行わせるときの反応を調べている。この過程に関わる脳皮質に投射した神経の活動は、同じ行動が続くときより、違う行動をとるときに興奮が高まり、また予測に反する結果を得たときに反応が高まる。これまで指摘されてきたように、興奮状態で脳内を調節して、新しい記憶を形成するのに役立っていることがわかる。
以上が結果で、脳全体をこのように調節する青班核へのインプット、更には投射場所の異なる青班核細胞についての光遺伝学的機能検査など、おもしろい研究が続く予感がする研究だった。なんと言っても、構造をはっきり示されることで脳内NE神経の機能がしっかり理解できる論文だった。
2026年9月22日
レチノイン酸 (RA) は発生学で最も重要なモルフォゲン(濃度勾配で発生パターンを形成する分子)で、ホメオボックス遺伝子を支配して胎児の前後軸を決定したり、左右や背腹軸、更には手足の指のパターン形成にも関わることが知られている。おそらく発生学の専門誌ではRA勾配の研究は続いていると思うが、一般紙ではあまり見かけなくなった。
今日紹介するイエール大学からの論文は、最近では一般誌では珍しいRAモルフォゲンの分子メカニズムからスタートした研究で、9月16日 Nature にオンライン掲載された、私のような引退後の老兵を懐かしい気持ちにさせる研究だ。タイトルは「A retinoic acid autoregulatory loop governing prefrontal–motor arealization(レチノイン酸の自己調節回路が前頭前皮質と運動皮質の区域化を調節する)」だ。
思考や感情をコントロールして高次行動を決定する過程に関わる前頭前皮質は、主にマウスを用いた研究でRAモルフォゲン勾配によって運動皮質と区域化されていることが知られている。この研究の目的は、RA勾配の下流で働く転写因子を特定して、RA勾配が前頭前皮質形成メカニズムを明らかにすることだ。
研究ではまずRAの下流で働き前脳前皮質形成に関わる転写因子を、人間の発生途上の脳を用いて探索している。RNA sequencing やクロマチンを調べる Atac-seq 、さらにRA受容体の結合などを組み合わせて調べ、前頭前皮質形成時期に発現する候補遺伝子として Meis2 を特定している。もちろん他にも同じような遺伝子は見つかっているのだが、何故 Meis2 に絞るのかの理由については、自閉症スペクトラムや統合失調症のリスク遺伝子としてしられていること以外は言及されていない。いずれにせよここからこの論文は Meis の神経特異的ノックアウト研究になる。
Meis2 はマウス、サル、ヒトで皮質形成時に皮質で発現が見られ、RA受容体が遺伝子に結合してクロマチンがオープンになっている。即ちRNの下流で働いている。
脳特異的にノックアウトすると、前頭前皮質が縮小し、運動皮質が拡大する。その結果視床各部位との投射が低下し、逆に脊髄との神経結合が上昇する。細胞レベルでは皮質の上層細胞が消失し、逆に最も下層の第5第6層が拡大し、この細胞レベルの神経分化の変化の結果、他の領域との神経結合が大きく変わってしまう。特徴的なのは、脳梁を介して反対側の大脳への結合がほぼ完全になくなることで、結果として脳全体の調整機能などが失われると想定される。
実際マウスの行動学的には、作業記憶は保たれているが、対象物への興味の低下、不安行動の上昇、目的に向けた行動など、前頭前皮質の機能として知られている機能がほとんど失われる。ヒトでも Meis2 が片方の染色体で欠損すると脳梁が縮小し、また知的障害にいたる脳の発達障害を来すことが知られているが、この研究でヒトの病態の解析への明確な視点が生まれた。また、自閉症スペクトラムや統合失調症との関係もさらに理解が深まると思う。
研究では最後に、Meis2とRA合成との関わりについても調べ、大脳皮質上層でのRN合成が失われることも示している。ただ、Meis2 自体がRA合成酵素を調整するわけではなく、おそらく合成細胞の分化に関わる結果だが、これにより、RA→Meis2発現→皮質上層細胞分化→RA合成という自己再生回路が働き、RA勾配が維持されるメカニズムも示している。
久しぶりのモルフォゲン勾配の論文で懐かしい気分になった。
2026年9月21日
CRISPR/Cas でノーベル賞を受賞した Doudna さんは、受賞後により活動が活性化した一人だと思う。同時に受賞した Charpantier さんと比べるとよくわかる。また活動の幅が広がり、基礎から応用まで、それも新鮮なアイデアで研究が続けられているのを見てただただ感心している。今日紹介する Doudna 研からの論文は基礎研究だが、その中に応用の目がちゃんと隠れていることがわかるおもしろい研究で、9月17日 Science に掲載された。タイトルは「A noncontiguous code for RNA-guided DNA recognition at the origin of CRISPR- Cas(RNAにガイドされたDNA認識の非連続的コードが CRISPR/Cas の起原に存在していた)」だ。
研究の目的は CRISPR/Cas システムの起原を探すことだ。DNAを切断する クラスII-CRISPR の Cas9 の起原はトランスポゾンの一つ TnsB である事が知られているが、より古いタイプのクラスI システムについてはよくわかっていない。それを調べるため、この研究ではクラスI システムの Cas5,6,7 に相同な遺伝子の探索から始めている。ところがDNA配列から似たものを探してもうまく見つからない。そこで、AlphFold2 ライブラリを用いて、構造的に似たタンパク質を探索する DALI-search と呼ばれる方法を用いて、最終的にファージウイルスにコードされている、Viral Interference Program Repeat (Vipr) と名付けた遺伝子ファミリーの特定に成功している。そして、ファージウイルス上で Vipr はそれと対になった Vap1遺伝子とセットで存在していることを発見する。系統樹から、Vpr は Cas5,6,7 の先祖で、それぞれ独自に進化していることも確認している。
次にこのウイルスを大腸菌に感染させ、大腸菌ゲノムに統合された後から転写されてくるRNAを調べると、Vipr と Vap1由来RNA の前後に特徴的な繰り返し配列が存在していることを突き止め、これこそが CIRSPRのRNA アレーに相当するのではと考え調べている。
以前紹介したように Doudna さんの研究室はいち早く様々なAIを取り入れて研究しているが、この繰り返し構造についても、一般的なゲノム比較では相当するファミリーが見つからないので、多くのゲノムをただ学習させた Evo2 に、似た配列を生成させる方法を用いて、GGT に任意の塩基が12回繰り返す構造を特定する。Evo2 に配列を生成させた点には本当に感心する。
その上で、この XX+1 という標的配列が、CRISPRのRNA ガイドの役割を演じていることを実験的に確かめている。即ち、GGT に続くXXには壊したい標的に対応する塩基対が来る。実際このウイルス側のリピートに対応するリピートを設計して壊したい遺伝子の上流に挿入すると、Vipr とリピートを持つ遺伝子により破壊される。
最後に、この Vipr システムがどのように働いているのかを探索し、最終的に感染した細菌に、他のウイルスが侵入してきたときにそれを破壊する目的で発達したシステムであることを発見する。おもしろいのは、それぞれの相手機対応するリピートを持つウイルス同士が一つの細菌を巡って競争までする点で、おもしろい。
結果は以上で、なんとウイルスなどに対応するクラス1 CRISPRの起原は、ウイルスにコードされており、しかもウイルス同士の競争の武器として使われていたというおもしろい話だ。ただ、このシナリオのために、DALIからAIまであらゆる可能性が駆使されているのに驚く。しかも、Vpr1はガイドに従って標的遺伝子を壊せるにもかかわらず、分子は小さいことから、将来の遺伝子編集にも使えるというおまけ付きだ。Doudna さんの次の論文が楽しみになる。
2026年9月20日
毎日論文を読んでいるが、現役を退いた今はもっぱら読んで説明するだけで、論文を自分の研究に使うことはなくなった。もちろん現役時代は、論文に書かれている方法やデータは、自分の研究に使えるということが重要だった。特に最近になって、膨大なデータとその解析手段が生命科学研究の重要なテーマになってくると、ますます論文を使うことが重要になってくる。しかし先日紹介した Google Deepmind から発表された Alpha Genome モデル(https://aasj.jp/news/watch/28262)を自分の研究室環境でセットアップしようとすると、かなり IT 知識のあるメンバーに、API キーの取得から、Python 環境までセットアップが必要になる。ChatGPT や Claud が使える様になってからは LLM に教えて貰いながらなんとかできるようにはなるが、こんな作業をおもしろいと思った論文で繰り返すのはほとんど不可能だ。
ところが今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、論文を Claude AI Agent を使って、自動的に論文で使われデータやたコードベースを整理し、必要な外部のデータを利用して自分のデータを解析、結果をアウトプットできる MCP サーバーへと変換できることを示した研究で、9月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Reimagining research papers as interactive and reliable AI agents(研究論文を相互作用可能で信頼性の高いAI agentとして再構想する)」だ。
この研究は別に新しいモデルやデータベースを構築したという論文ではない。アンソロピックの Claude Code Agent を使って独自の AI Agent を構築しただけなのだが、画期的なのは発表された研究論文を AI agent に転換したという点だ。多くの読者は LLM に論文をダウンロードして要約させたり、詳細を質問したりしていると思うが、この研究で開発された Paper2Agent は、LLMを使うだけでなく、実際に論文で行われたデータ処理を自分でも行えるようにするため、
- 論文で開発されたアプリケーションを構築するときに使われるコードベースを探しだし、ダウンロードして自分で使えるようにする。
- 様々なタスクを実行する AI 環境を整備する。
- 外部の情報を取り込んで使い方についてわかりやすいマニュアルを作成する。
- サンプルを実行して正しく動くか検証する。
- このようにして一つの論文から様々な MCP ツールを抜き出して使える様に整備し、論文と同じデータ処理などが出来るよう必要な外部とのリンクを備えた MCP サーバーとしてまとめる。
この結果、「この論文の方法で私のデータを解析して」と自然言語でインプットすると、論文の方法に従って解析した結果が図として現れると言うわけだ。論文を「読んで調べる」から「使う」への変換が行われている。もちろんこの背景にあるアンソロピックやオープン AI の MCP サーバー技術が素晴らしいのだが、これを使って論文専用の MCP サーバーを作ってしまうという発想は画期的だ。
おそらく Paper2Agent を使わなくても、Claude や Chat に、この論文の方法で RNAseq データを解析できるようにしてとインプットすると、自動ではないがターミナルを使って様々な外部ソフトとリンクして、なんとか結果が出るようになることは自分のガンのデータで経験し、そのパワーに感心しているが、Paper2Agent によってこれらの作業が自動的に行えるようになったと考えられる。
その例として、AlphaGenome 論文を読み込ませ、22種類の MCP ツールからなる MCP サーバーを完成させている。これには45分かかり、おそらく Claude 利用代金として14ドルかかると紹介されている。そしてこのサーバーに遺伝子配列をインプットして、この配列の遺伝子発現調節機能を予測せよとインプットすると、答えが出てくる。これにより、例えば自分の知りたい遺伝子多型の機能的役割を調べることもできる。
もう一つの例としては、single cell RNA sequencing の解析方法 SCANPY についての論文をインプットして作成した MCP サーバーをそのまま自分の single cell データの解析に使えることを示している。Single cell データ解析の場合、クオリティーの高いデータの選別から、圧縮次元での表示まで一連の過程を順番に進める必要があり、改めて AI agent のパワーを認識する。
最後に、自己免疫病T細胞の CRISPR による網羅的ノックアウトを single cell level で解析した Perturb seq データ論文と、AlphaGenome 論文を読み込ませて、解析方法とデータを異なる論文から一つの MCP サーバーとしてまとめることで、それぞれの論文の著者らが発見していない新しい発見が得られることまで示している。
実際には AlphaGenome のように研究用の場合無料でアクセスできないと、API アクセスする度に課金されることになるので、まさに研究のオープンアクセスの重要性が問われるようになると思うが、自分の PC から LLM の利用料だけで、AlphaGenome のような無料の API にリンクして操作できる様になる。論文発表の意味が、読むから使うへ大きく変化させた、画期的なアイデアだと思う。
2026年9月19日
奈良の古寺で出会う仏像の顔や衣装に異国の面影が見られるのは、仏像をまつる文化がガンダーラからシルクロードを経て中国へ、そしてそれが日本にもたらされたからだ。この西と東を結ぶのがシルクロードの天山回路で、日本人にも馴染みが深い。例えばだれもが知っている孫悟空の玄奘三蔵が命がけでたどったのがこの回路で、古代から多くの民族が交流していたと考えられる。
今日紹介する中国吉林大学からの論文は、この天山回路を形成するウイグル自治区にある東天山に散在する青銅器時代から鉄器時代の遺跡から出土した人骨のDNA解析研究で、青銅器時代からこの領域で多くの民族が交流していたことがわかる論文だ。タイトルは「Ancient DNA unveils distinctive ancestries in the Bronze and Iron Ages of East Tianshan(古代DNAは青銅器時代、鉄器時代の東天山で暮らしていた他とは違う先祖を明らかにした)」だ。
この研究では東天山11カ所の遺跡から135人の古代ゲノムを解析し、これまで解析されたゲノムと比較している。得られた135人のゲノムを現代の様々な民族の遺伝子マップに重ねると、天山回路の西と東の民族のちょうど間にクラスターを形成し、既に特別な民族を形成していることがわかる。
遺伝子構成を定量すると、東アジアゲノムと西ユーラシアとが合わさったゲノムだが、量的には東アジアゲノムが主要構成成分になっている。即ち、東アジアのゲノムの上に、西ユーラシアを中心に様々なゲノムが交雑して形成されていることがわかる。重要なことは、このゲノム構成が遺物に見られる生活様式や文化の東西交流と相関していることで、今後より詳しい交流史をゲノムから探ることが可能になると期待できる。
青銅器時代の東天山の特徴は、コアになるゲノムとは離れたゲノムが同時に存在している点で、この地域での交流が、異なる民族がゆっくり融合したというより、東アジアゲノムの上に、様々なゲノムが一過性に流入していることがわかる。
そしてこの地域での青銅器時代から鉄器時代にかけての変遷を調べると、コアとなる構造は変わっていないが、東西のゲノムの流入が進み多様化していることが明らかになった。即ち、東西交流の要衝としてのこの地域の重要性が増していく様子がゲノムからわかる。
以上が結果で、より詳しい生活様式などについての考古学と合わせて紹介されるようになると、もっとおもしろい話になると思う。特に言語に関しては、インドヨーロッパ語、チュルク語、中国語など全く別系統が交わった領域と言えるので、新しいシルクロード研究がゲノムとともに始まっていることがよくわかる論文だ。
2026年9月18日
チェックポイント治療やガンのネオ抗原ワクチンなど、現在ガンの免疫療法の主役として考えられているのはαβT細胞受容体 (TcR) を発現したT細胞だ。しかし、以前紹介したようにトリプルネガティブ乳ガンの場合Vδ1を発現するγδT細胞がガン局所に存在すると予後が良いという報告は(https://aasj.jp/news/watch/11533)、γδT細胞もガン免疫に関わっていることを示している。
今日紹介するトロントのマーガレット女王ガンセンターからの論文は、骨髄腫に対するADCを用いる新しい治療を受けている患者さんで予後と相関するリンパ球を探索し、様々なガンに反応するγδT細胞がガン組織に存在すると予後が良くなることを明らかにし、このγδT細胞の特質を調べた研究で、9月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Identification of broadly tumour-reactive γδ TCRs from multiple myeloma(広い範囲の腫瘍に反応するγδT細胞受容体を多発性骨髄腫で特定した)」だ。
多発性骨髄腫 (MM) には様々な薬剤が開発されているが、最新の方法はMMに特異的な抗体に微小管形成阻害剤を結合させたADC、Belamaf を用いる治療で、この研究ではこの治療に反応した患者さんと反応しなかった患者さんの違いを探る中で、血中に流れてきたDNAを調べる検査、 (cell free DNA検査) δTcR遺伝子が高い患者さんの予後が良いことを発見する。
ADCによる治療は直接MMを殺す方法だが、抗体薬でもあるのでγδT細胞が治療を助けている可能性を考え、MMが増殖している骨髄細胞の single cell 解析から、γδT細胞の中でもキラー活性を示すGZMB陽性細胞が治療効果と相関することを発見する。
次に骨髄中のγδT細胞からTcR遺伝子のレパートリーを解析、それぞれのγδの組み合わせをT細胞株に導入して、MMや様々なガン細胞に対する反応を調べるという大変な実験を行っている。これにより治療に反応した患者さんには、MMに直接反応するキラーγδT細胞が存在し、その細胞が発現するγδTcRはMMには反応しても正常細胞には反応しないことを確認している。おもしろいのは、これらγδTcRはMMだけでなくいくつかの腫瘍細胞に反応するので、ガン共通の何らかの抗原に反応している可能性がある。
こうして得られた多くのTcR反応性のデータを機械学習(ランダムフォレスト)で仕分けできるようにした簡単なモデルを作成し、患者さんの骨髄中のγδTcRから治療効果と相関するレパートリーを特定出来るようにしている。
この方法で得られる治療効果を反映する( γδ TcR:Rγδ) を発現するT細胞を骨髄で調べると、多くはGZMB陽性のキラー細胞であることが確認され、治療効果の一つのマーカーとして利用できる。また、治療に反応した患者さんではこのTcRを持つT細胞がクローン増殖していることも確認できている。そしてクローン増殖を指標に病気の再発を比べると、50%progression free survival で 8ヶ月 vs 40ヶ月 と大きな違いが見られる。
最後にではRγδTcRが認識する抗原を探索し、なんとHLAの一つHLA-C(ほぼ全てのHLA-Cタイプに反応できる)ことを発見する。しかし、HLA-Cは正常細胞にも発現していることからγδT細胞がMMや腫瘍だけに反応するという結果と矛盾する。このメカニズムを探り、γδT細胞が発現する KIR3DL1 が正常細胞の HLA-A や B上の Bw4 エピトープと結合し、キラー活性を抑えていると結論している。
結果は以上で、骨髄という特殊な臓器で増殖するMMに限った話だと思うが、γδT細胞による腫瘍免疫を、最終的に抗原とTcRレベルまで突き止めたのはおもしろいと思う。しかし、最後に抗原がHLA-Cと特定された結果、逆に多くの問題が残されてしまったように感じる。なぜ Belamaf の効果を反映するのか、Bw4エピトープのない患者さんは最初からγδTは関与できないのか、これらの問題が解決されると、ひょっとしたらおもしろい免疫治療が生まれるかもしれない。