8月3日 キリフィッシュの老化機構(7月31日号 Science 掲載論文)
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8月3日 キリフィッシュの老化機構(7月31日号 Science 掲載論文)

2025年8月3日
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魚の寿命は多様だ。このブログでも200歳を超す寿命を持つメバルのゲノムを調べたカリフォルニア大学バークレイ校からの論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/18305)、長生きの秘密を知りたいとメバルに頼る気持ちはよくわかる。一方で、脊髄動物の中で最も短い寿命を持っているのも魚類 Killifish (キリフィッシュ)で、アフリカの雨期に水たまりの中で孵化し、乾期が来るまでに繁殖し、卵を残したあと乾期になると水たまりが干上がるので死んでしまう。長くてもふ化後数ヶ月の寿命しか持たない。

キリフィッシュが面白いのは、結局干上がって死んでしまうのだからわざわざ老化する必要が無いのに、なんとこの短い期間で老化が進むことだ。実際実験室で飼育する場合、野生型のキリフィッシュは5-7ヶ月の寿命しか持たず、乾期がなくても死んでしまう。すなわち、短い期間に老化が進む。この理由については多くの研究があり、エピジェネティッククロックの進行、mT0R の強い活性化、高い炎症性サイトカイン、ミトコンドリアによる活性酸素蓄積など、文字通り老化の指標のオンパレードであることがわかる。ただ、この全体の老化の引き金になるメカニズムまでは明らかになっていない。

今日紹介するドイツ・イエナにあるフリッツリップマン老化研究所と米国スタンフォード大学からの論文は、脳について老化の引き金を遺伝子発現とプロテオームから探索した研究で、7月31日号の Science に掲載された。タイトルは「Altered translation elongation contributes to key hallmarks of aging in the killifish brain(翻訳時の伸長反応の変化がキリフィッシュの脳の老化を誘導する)」だ。

研究ではキリフィッシュを飼育し、5週、12週、39週で脳を取り出し、脳全体を RNA から翻訳結果としてのプロテオームと、転写活性としての mRNA を調べている。転写が一定の場合、プロテオームを用いて調べるタンパク量の mRNA 量と12週の脳までは概ね比例しているが、39週になるとタンパク質の方が強く抑制され、mRNA の翻訳が多くの遺伝子で滞っていることがわかった。

ただ翻訳全体が低下したり、あるいはタンパク分解が促進しているというわけではなく、強く抑制されているのは塩基性のアミノ酸を含むタンパク質の翻訳で、これらの分子は主に DNA や RNA と結合するタンパク質で、DNA修復やリボゾーム形成と翻訳などに関わる分子の翻訳が軒並み低下する。

リボゾームを分離して結合している RNA の種類を調べる Ribo-seq を行うと、老化に伴いリボゾームの衝突が増え、リボゾーム上での翻訳が中断してしまっていることがわかる。この中断はリジンやアルギニン部位で起こっており、結果塩基性で核酸と結合して機能する分子の合成が選択的に低下する。

このように、核酸に結合して機能するタンパク質の翻訳が滞ると、DNA 修復や転写、スプライシングなど様々な異常が誘導されいずれも老化の指標を高める。ただ最も深刻なのは、リボゾーム結合タンパク質の量が減ることで、リボゾーム機能が低下し、その結果翻訳の中断する症状が悪化する悪循環に入ることだ。最初の引き金が何かは示されていないが、この悪循環が、キリフィッシュが短い期間で老化を加速させる原因になっているのかもしれない。そして翻訳の中断がおこると、伸張の止まったペプチドが内部で沈殿を起こし、細胞老化は加速する。

結果は以上で、キリフィッシュではリボゾームでの翻訳、特に塩基性アミノ酸を持つタンパク質で起こり始めることで、リボゾーム機能が坂を転がるように低下するメカニズムがスイッチオンすることが、様々な老化過程のスイッチを入れ、短期間に老化が進むと結論している。

今後はこの悪循環にスイッチを入れるメカニズムと、それを入れるタイミングが重要な課題になる。

カテゴリ:論文ウォッチ

8月2日 アルツハイマー病で重要なミクログリア活性化の新しい誘導分子(7月30日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2025年8月2日
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アルツハイマー病 (AD) 発症やその予防にミクログリアが重要な働きをしていることは疑えない事実として確立している。例えばAβプラークを減らすのにミクログリアの活性化が使えることはわかっていても、明確な活性化方法が確立しているわけではない。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、ミクログリアの活性化に関わる分子セットとして、ミクログリア側の TREM2 と神経細胞側の Semaphorin6D (Sema6D) を、既存のデータベースとインフォマティックスを駆使して突き止めた研究で、7月30日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Systematic analysis of cellular cross-talk reveals a role for SEMA6D-TREM2 regulating microglial function in Alzheimer’s disease(系統的に脳内での細胞間相互作用を解析することで Semaphorin6D と TERM2 がアルツハイマー病でのミクログリアの機能での役割を明らかにした)」だ。

この研究は、single cell レベルの遺伝子発現データの中には細胞間相互作用による変化が含まれており、増殖シグナルでも特に結果としての細胞数などが明確にわかっていなくても、発現分子の変化から特定できるという革新に基づいている。さらに、この細胞間相互作用の解析を正常と AD とで比べ、その中に遺伝子多型などの研究から明らかになった AD リスク遺伝子を位置づけてて行くことで、インフォーマティックスだけで重要な細胞間相互作用とそれに関わる分子を特定できると考えて、現在利用できる single nucleus RNA sequencing のデータを CellPhone と呼ばれるアプリで解析し、脳内組織中での各細胞間の相互作用を特定した上で、AD で最も変化する細胞間相互作用をリストし、この中で最も AD で変化が大きい相互作用としてミクログリアと興奮神経がリストされてくること、こうして単一細胞レベルの RNA sequencing から明らかになった相互作用ネットワークの中に多くの AD リスク遺伝子が含まれることを突き止める。

そこで研究はミクログリアと神経間の相互作用に絞り、Cyto Talk と呼ばれる分子間相互作用の機能を推定できるアプリケーションを用いて、この過程に関わる分子間相互作用を解析する中で最も高いスコアをつけたのが Sema6D と TREM2 だった。

いずれの分子も神経発生やミクログリアの活性化に重要であることがすでに明らかになっている分子だが、両方が直接相互作用をする可能性については示されていない。そこで、この関係のADでの重要性をさらに裏付けるために、AD のステージングがはっきりしているデータベースを用いて、TREM2、Sema6Dと繋がる分子ネットワークの変化をステージごとに調べると、両方ともステージが進むにつれネットワークが破壊されていく。

もちろんインフォーマティックスだけでは論文を通すのは難しいので、ここからはこのデータを元に実験的研究へと移っている。まず、患者さんの悩を組織学的に調べ、Aβ プラークの周りに Sema6D分子と TREM2分子がとくに AD 初期段階で集合していること、またその部位には元々 Sema6D のリガンドとして知られる Plexin が存在しないことを発見する。すなわち、直接 Sema6D と TREM2 が相互作用する可能性が示唆された。

そこで iPS細胞由来ミクログリア細胞を用いて Sema6D を培養に転嫁する実験を行い、Sema6D 添加でミクログリアの貪食活性が上昇すること、またこの上昇は TERM2 をノックアウトすると見られなくなる。他にも、TREM 刺激で起こる Syc などのリン酸化も調べ、Sema6D がリン酸化カスケードを誘導し、TREM2 ノックアウトでこれが消失することを示して、両方の分子が直接相互作用している可能性を示している。

結果は以上で、分子間シグナルの研究としてはよく論文が通ったなという感じだが、インフォーマティックスから生まれた可能性を確認した合わせ技一本と言っても良い気がする。いずれにせよ、これが正しければ、AD 初期の新しい治療が可能になるかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

8月1日 マスト細胞は脳脊髄液の流れを調節する(7月24日 Cell オンライン掲載論文)

2025年8月1日
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昨日に続き今日紹介するワシントン大学からの論文も脳にあるマスト細胞に注目してその機能を調べ、ヒスタミンなどの分泌を介してクモ膜下腔から硬膜へと続く脳脊髄液の流れをネガティブに調節することを示した研究で、昨日紹介した研究とサイドバイサイドで7月24日 Cell にオンライン掲載されている。タイトルは「Mast cells regulate the brain-dura interface and CSF dynamics(マスト細胞は脳と硬膜のインターフェースを調節して脳脊髄液のダイナミックスに影響する)」だ。

この研究では昨日頭蓋骨髄からのカナル構造がクモ膜を突き抜けることで、クモ膜下腔から脳脊髄液 (CSF) を硬膜へと流す流路にもなっており、マスト細胞は頭蓋からの細胞移動だけでなくCSF の流れも調節するのではと考えた。

そこで、まず昨日紹介したマスト細胞特異的に発現している Mrgprb2 に作用があることが知られている 48/80 と呼ばれる化合物を頭部皮下に注射し、脳のマスト細胞を刺激すると、期待通りマスト細胞は活性化し脱顆粒する。そのとき、脳の大槽に直接蛍光タンパク質を注射しその動きを追跡すると、クモ膜下腔から硬膜への CSF の流れが強く抑制されることを発見する。この抑制は48/80でなく、同じく Mrgprb2 を刺激できる内因物質 substance P でも起こるし、また IgE による刺激でも起こるので、マクロファージ活性化に伴う脱顆粒で分泌される分子が直接 CSF の流れを抑えていることがわかる。

当然最も重要なマスト細胞由来分子はヒスタミンなので、ヒスタミンを頭蓋皮下に注射すると、期待通り CSF の流れが抑制される。これは頭蓋からのカナルを形成する静脈をヒスタミンが拡張させ、その結果クモ膜下腔と硬膜をつなぐ隙間が減少することで起こることを示している。

昨日の論文と合わせると、マスト細胞の活性化はカナルを通る好中球を高めるとともに、CSFの流れは抑えられることになる。

昨日の論文では卒中によるマスト細胞の活性化に焦点を当て、結果マスト細胞の活性化を抑えることが卒中後の神経壊死を抑えることを示していた。即ち、マスト細胞はネガティブな作用を持つことになる。

一方この研究では、細菌やウイルス感染によるマスト細胞の活性化モデルを取り上げ、細菌によるマスト細胞の活性化が CSF が流れる隙間を閉じることでカナルから出てきた細菌やウイルスが脳内への侵入を防ぐポジティブな役割があることを示している。また、この研究でもマスト細胞の活性化により好中球が頭蓋骨髄から脳内への浸潤が高まることも示している。即ち、細菌感染という枠組みで考えると、マスト細胞がこの特殊な組織構造を調節して脳を感染から守るポジティブな役割を演じていることもわかる。

以上2日間、まだまだマスト細胞の謎はつきないようだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月31日 マスト細胞は頭蓋骨からの白血球の移動を調節している(7月24日 Cell オンライン掲載論文)

2025年7月31日
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今日と明日、 7月24日 Cell にオンライン掲載されたマスト細胞の脳での新しい機能の発見に関する論文を続けて紹介する。

まず最初のジョンホプキンス大学からの論文は、マスト細胞が頭蓋骨髄からの白血球の移動を調節する鍵となる細胞で、この機能を抑えることで脳卒中後の慢性炎症を防ぎ、症状を軽くすることを明らかにした論文で、タイトルは「A mast cell receptor mediates post-stroke brain inflammation via a dural-brain axis(マスト細胞受容体は卒中後の脳炎症を硬膜-脳経路を介して調節する)」だ。

このグループはマスト細胞特異的に発現している Mrgprb2 と名付けられた、リガンドがはっきりしないG共役型の受容体に着目して研究をしてきており、この遺伝子をノックアウトしたマウスを調べる中で、中脳動脈を閉塞させて虚血を誘導する卒中モデルで Mrgprb2 がノックアウトされると神経細胞壊死を抑制できることを発見した。このメカニズムについて解析したのがこの研究になる。

Mrgprb2 はマスト細胞だけで発現しており、まず調べる必要があるのはマスト細胞が脳のどこに存在するかだ。組織学的に調べた結果、髄膜に存在するマスト細胞で発現しており、卒中後急性期が過ぎると、脱顆粒することがわかった。即ち、虚血が続くとマスト細胞が活性化される。一方、Mrgprb2がノックアウトされている場合はこのような活性化は起こらない。

では活性化の結果何が起こるのか。細胞学的には卒中後に好中球の脳内の浸潤が起こり持続するが、Mrgprb2 がノックアウトされると中期以降の好中球浸潤は抑えられる。好中球の浸潤はミクログリアを活性化し脳内の炎症を誘導するが、この過程に Mrgprb2 が必須であることを示している。また、マスト細胞がこの過程を調節していることについては、Mrgprb2ノックアウトマウスの卒中を誘導したあと、正常マスト細胞を脳に投与する実験でマスト細胞が脳内への好中球の移動を調節していることを示唆している。

これで思い出されるのが2018年にこのブログで紹介した驚くべき結果、即ち脳内への好中球浸潤は頭蓋骨髄から続いているカナルを通って起こり、決して循環細胞からリクルートされているわけではないとするハーバード大学からの論文だ(https://aasj.jp/news/watch/8894)。ただこの論文ではマスト細胞の役割については全く言及していなかった。

この研究もこの論文着目し、マスト細胞が頭蓋から脳への白血球の移動を調節しているのではと考えた。そこで GFP でラベルされた頭蓋を移植し卒中を誘導すると、ハーバードの論文で示されたように、好中球は全て頭蓋骨髄から硬膜を通って脳内に移動することがわかった。そして Mrgprb2ノックアウトマウスでは特に硬膜から脳内への移動が阻害されており、これが好中球浸潤とその後の炎症を防いでいることがわかった。

このルートでは semaphorin3a が白血球の移動を抑えていることがわかっているが、マスト細胞は semaphorin3a を分解するプロテアーゼを分泌し、移動の抑制を抑えている。すなわち、Mrgprb2 がないと、マスト細胞が活性化されず、semaphrin3a はそのまま硬膜からのルートを通る白血球の移動が抑えられたままになる。

以上がマウスモデルでのメカニズムだが、最後に人の卒中で Mrgprb2 に対応する Mrgprx2陽性のマスト細胞が活性化され、卒中の患者さんでは semaphorin3a が低下していることを明らかにし、人間でも同じ事が起こっている可能性を示唆している。

ではメカニズムがわかって治療可能性はあるのか。マウスモデルだが Mrgprb2阻害剤として知られる植物由来化合物Osthole を投与すると、Mrgprb2ノックアウトマウスと同じで卒中後の炎症が抑えられ、壊死領域が抑制されることを示している。

以上、マスト細胞が脳でも機能しており、脳卒中の回復を促進するための標的になり得るという面白い研究だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月30日 動物の行動学も脳を調べ始めると単純化されてしまう(7月23日 Nature オンライン掲載論文)

2025年7月30日
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少しアップロードが遅れて心配していただいたかもしれない。ただ、朝6時半から夜9時まで鳥や動物を追いかける強行軍で、ホテルに帰って論文紹介を完成させたのが今になってしまった。夜になってから撮影したのが、コスタリカ固有のコスズメフクロウだったので証拠に写真を示す。しかし、ご安心あれ。明日もアップロードは遅れるかもしれないが、毎日一報は旅行中でも守っていこうと決心している。

さて、動物行動学者には想像力の豊かな、理系文系を超えた研究者が多い。我が国では我々の一つ上の世代の日高先生が最も印象に残るが、この人たちの想像力は我々が行っている仮説形成やデータの解釈とは全くことなる様に思う。すなわち地道な観察による行動記録を支えるパッションとしての想像力が感じられる。ところが、動物行動学の背景には当然脳の進化が存在しており、それに踏み込み出すと想像力が制限されはじまる。そんなことを感じさせる論文がハーバード大学から7月23日、Nature にオンライン発表された。タイトルは「The neural basis of species-specific defensive behaviour in Peromyscus mice(シロアシネズミの種特異的防御行動の違いの神経的基盤)」だ。

この研究が対象とする行動は、危険を察知したときの防御行動だ。2種類のアメリカに多く住むシロアシネズミのうち P.maniculatus (以後PM) は深い茂みの中に生息しており、危険を察知すると巣へ走って逃げる。一方、開けた草原に住む P.popilonotus (以後PP) は危険を察知するともっぱらフリーズして動かない。実験により PM と同じ生息域と行動を持つ P.leucotus (以後PL) も用いている。

常識的には一目散で巣に逃げた方が生存確率は高いと思ってしまうが、その場所に多い捕食者の視覚システムの差などでこのような行動の差が生まれたようで、行動学者はここから様々な可能性を想像できる。

このような状況を実験室に持ち込もうとするときも想像力が必要だ。鷹を飛ばすというわけにはいかないので、まずマウスの動きをビデオ追跡できる30cm/45cmの部屋を作り、そこで自由に動いているマウスに対して、捕食者が空に現れるイメージと、空から餌を狙って降りてくるイメージを合成できるようにし、それぞれの刺激に対してどう防御行動を起こすか調べている。

おそらく結果はこれまでの行動解析から想像できていたのだと思うが、深い茂みに住む PM や PL は上に捕食者が現れると動きを止めるが、上から近づいてくるのを察知すると、一目散に巣の方に逃げる。ところがオープンフィールドに生きている PP は近づいてくるのを察知しても動きを止めたままであることがわかる。まさに、想像したのと同じで、PM と PP は捕食者に対し明確に異なる反応を示す。

これは捕食者に対する防御行動が環境に応じて進化したと考えられるが、これを追求するためには行動の差にある生理学的変化と、最終的にはそれに対応する遺伝的変化まで明らかにする必要があり、ここからはなかなか想像力が発揮できない領域に入る。

この研究は生理学的背景に焦点を当てて進めており、そのために子の行動の差が巣に逃げ込むという行動がトリガーされる閾値の問題であることを確認した上で、この閾値の差を説明できる脳活動を探索している。

実験的には可能だと思うが、より脳生理学で普通に行われる実験系、即ち頭をフィックスしたマウスの脳活動を記録しながら、逃避行動を誘導する実験を行っている。ただ、マウスでも脳は極めて複雑で、本当は全脳レベルで興奮を調べて PM と PP の差を調べる必要があるが、ここでは防御反応や攻撃行動に関わる背側中脳水道周囲灰白質 (dPAG) に絞って調べ、巣へと逃げ込む PM では興奮に応じ てdPAG の活動が高まるが、PP では運動と dPAG の興奮が全く連動していないことを見いだす。

そこで、dPAGを光遺伝学的に刺激する実験を行うと、PM では走る速度が高まる一方、PP で刺激しても走る速度が上昇することはない。一方光遺伝学的に抑制実験を行う(実際には化合物投与による dPAG 神経興奮の抑制)と、捕食者が近づく刺激を与えても逃げるのが遅れるようになる。

以上が結果で、ともかく特定の領域の神経興奮の差に、行動の差を落とし込んだという印象がある。しかし、責任神経細胞を特定するという点では不十分だと思うので、これを遺伝子情報の変化に落とし込むには大きな壁が立ちはだかっている。そして何よりも、できるだけ想像力を排して単純化する方向で研究が進むような気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月29日 2種類のらい病菌の進化(7月24日号 Science 掲載論文)

2025年7月29日
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現在ミュンヘンからコスタリカまでの長い移動の途中で、短い論文を選ぶことにした。感染症研究の長い伝統を持つパストゥール研究所からの論文で、21世紀に入ってアメリカで発見された新しいらい病菌 Mycobacteria lepromatosis のアメリカ大陸での広がりと進化についてゲノムレベルで調べた研究で、7月24日号の Science に掲載された。タイトルは「Pre-European contact leprosy in the Americas and its current persistence(ヨーロッパ人がアメリカ大陸に侵入するより前かららい病はアメリカに存在し、現在まで続いている)」だ。

治療中のらい病を見る機会があったのは我々の世代が最後だろう。私の学生時代では我が国で新たならい病の患者さんの発生はなくなっていたが、京大には皮膚科特研と呼ばれる西占先生が主宰されている臨床施設があり、東南アジアから受け入れていた患者さんかららい菌を分離する実習を行った記憶がある。それでも、一見してらい病とわかる進行した患者さんは見たことがない。

一方で人類とらい病の関係は古く、聖書をはじめとして、らい病を治すというのは最もわかりやすい奇跡として書かれてきたし、最近では変形が見られる古代人の骨かららい菌のゲノムが分離され、らい病と人間の長い歴史が明らかになりつつある。この歴史の中で、アメリカ大陸のらい病はヨーロッパ人がアメリカ大陸に侵入し始めたときに持ち込まれたとされてきた。

この論文を読むまで私も全く知らなかったが、21世紀に入ってアメリカ大陸のらい病の患者さんの中に、らい病菌として特定されている Mycobacterium leprae とは系統的に大きく離れた M.lepromatosis が存在することが明らかになり、アメリカ大陸には固有のらい菌とらい病が存在すると考えられるようになった。

この研究では、アメリカ大陸でのらい病患者さんから分離された400例以上の菌のDNA配列を見直し、M.lepromatosis の頻度を調べたところ、南米では360例の菌のうちアルゼンチンで発見された1例だけが lepromatosis だったのに対し、米国ではほとんどが、そしてメキシコでは半数近くが lepromatosis だった。もちろん米国の症例数は少ないのでこれが実情をどの程度反映しているのか判断できないが、最近まで lepromatosis が持続していたのに驚いた。

この研究では患者さんから分離したらい菌だけで無く、1300年、940年、そして860年前に埋葬され、骨格かららい病と考えられる骨のらい病菌、そしてヨーロッパには全くないはずの lepromatosis に感染が確認されている英国のリスについてもらい菌を分離し、DNA配列を決定し、それぞれの系統関係を調べている。

まず3体ではあるが、ヨーロッパ人が侵入するより前の骨格に残るらい菌は全例 lepromatosis で、アメリカ大陸でヨーロッパから持ち込まれて Leprae が広がったのは間違いは無いが、それ以前から lepromatosis 感染によるらい病が存在したことが明らかになった。

一方で、中米から北アメリカの最近の患者さんから分離された lepromatosis はよく似ており、系統関係から280年ぐらい前に分岐してきた菌の子孫であることが明らかになった。即ち、おそらくメキシコや中米で進化した lepromatosis が現在まで中米、北米で維持されてきていることがわかる。

現代に分離された lepromatosis と1300-800年前の骨から分離した lepromatosis を比べると、2500−1500年前に分岐した系統であることがわかり、アメリカ大陸では古くから lepromatosis によるらい病が持続していたことが示唆された。さらに面白いのは、英国のリスの lepromatosis を調べると、さらに古く3200年前に現代の lepromatosis 系統から分岐していることがわかり、おそらくアメリカ大陸で何千年も前からリスに維持され進化した lepromatosis が人間によりアメリカから英国に持ち込まれた菌であることもわかった。

最後に、リスも含めて現代まで続く lepromatosis 全体をカバーする先祖が発生した時期を計算すると、ほぼ1万年前になり、アメリカ大陸でへ人類が移動した早い時代かららい菌との深い関係があったことをうかがわせる。

系統樹から leprae と lepromatosis が分離した時期も計算し、これまでの推定と比べてかなり古い時期、70万年前から200万年前と推定している。この先祖がどこで現れ、最終的にユーラシアと、アメリカで独自に発展したのか、今後の面白い課題だと思う。しかし、らい病はまさに人間の歴史と言える。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月28日 Bakerさんのタンパクデザインシステムを用いてCARTを作成する(7月24日号 Science 掲載論文)

2025年7月28日
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先日、抗体の作成が難しいタンパク質の天然変性領域に結合するタンパク質の設計を可能にした David Baker さんの研究を紹介したばかりだが(https://aasj.jp/news/watch/27138)、今回は、T細胞受容体では認識できても抗体の作成が難しい主要組織適合抗原 (MHC) に結合した抗原ペプチドに対して、全く新しい結合タンパク質を設計する研究についての論文を紹介する。この分野において、1編はBakerさんの研究室から、もう1編はコペンハーゲン大学から、いずれも7月24日号の Science 誌に掲載された。

本来であれば、システムを開発したBakerさんの論文を紹介すべきところだが、この手法がすでに広く普及して他の研究室でも使われていることを示す観点から、今回はあえてコペンハーゲン大学の論文を取り上げることにした。論文のタイトルは:

“De novo-designed pMHC binders facilitate T cell–mediated cytotoxicity toward cancer cells”
(ペプチド-MHC複合体に対して新たに設計した結合タンパク質が、T細胞によるガン細胞の細胞障害反応を媒介する)

Baker さんが開発したタンパク質設計システムでは、まず標的となるアミノ酸構造に対応した3次元構造を、RFdiffusion と呼ばれる方法で設計する。続いてその構造を ProteinMPNN によってアミノ酸配列に変換する。その後、得られた配列が本当に標的と結合できるかどうかを AlphaFold2 を用いて予測し、構造の適合性を検証する。適合が不十分であれば、再度 diffusion による部分的に設計をし直し、再び配列化し適合性を検証する。このサイクルを繰り返すことで、最適な結合タンパク質を計算的に設計する。

本研究でもこの手法をそのまま踏襲している。具体的には、結晶構造が明らかとなっている MHC 結合型腫瘍抗原ペプチドをもとに、どのアミノ酸と結合すべきかという指示に基づいて RFdiffusion で結合タンパク質を設計し、ProteinMPNNで配列化、その後さらに配列をファインチューニングしている。独自の工夫としては、AlphaFold2 による予測構造に結合スコアを表示させるようにしている点が挙げられる。

設計した結合タンパク質の遺伝子配列を、T細胞受容体の細胞外ドメインと置き換えてキメラ型T細胞受容体 (CART) を作成し、これをレンチウイルスでT細胞に導入。その後、MHC/ペプチドテトラマー複合体を用いた染色法により、標的と結合するかを評価した。その結果、多くの設計タンパク質が目的のMHC/ペプチドに結合可能であることが確認された。

その中で最も高い結合力を示した「NY1-B04」を選抜し、その結合力の構造的基盤を解析した結果、予想通りペプチドとの密接な接触が高い結合力の要因であることが示された。

次に、NY1-B04 を細胞外ドメインに持つ CART細胞を用いて、腫瘍細胞に対する細胞障害活性を評価し、ペプチド特異的なキラー活性を確認。このことから、本手法がそのままCART療法に応用可能であることが示された。

さらに、新たな抗原系として、転移性メラノーマで発現が確認されている腫瘍ネオ抗原ペプチドと MHC の組み合わせに対しても、AlphaFold2 で構造予測を行い、それをもとに同様の方法で96種類の結合タンパク質を設計した。これらを全てT細胞株に発現させ、FACS を用いて結合活性を評価。その中から高い結合を示した SILSY1-G05 を選び出すことに成功している。

本研究は、これまで抗原特異的な抗体やT細胞受容体に依存してきた CART の開発が、抗原ペプチドの情報さえあれば、in silico で個別に設計可能であるという道を開いたことを示している。今後、CART が効きにくい固形ガンを対象に、本手法を用いた実証研究が進むことが予測される。

何よりも驚くべきは、進化の過程で形成されてきた「MHC/ペプチド/T細胞受容体」の複雑な三者関係を、人為的に再構築し、しかもまったく新しい分子設計により代替可能にしたという点である。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月27日 データベースを駆使してアルツハイマー病の治療薬を突き止める(7月21日 Cell オンライン掲載論文)

2025年7月27日
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アルツハイマー病(AD)に対する治療は、現在もなお限られている。例えば、エーザイのアリセプトは、ADで低下するコリン作動性神経の機能を補うことで症状の軽減に用いられており、アデュカヌマブは脳内に蓄積するアミロイドβ(Aβ)を除去することで病気の進行抑制を目指している。この他にも、本ブログで紹介してきたように、タウ(Tau)をはじめとするADに関連する分子を標的とした新規治療法の開発が活発に進められている。

こうした原因分子に基づくアプローチとは対照的に、今回紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文(2024年7月21日付で Cell オンライン掲載)は、病因分子にはこだわらず、ADで観察される遺伝子発現の異常を正常化できる薬剤を、既存の薬剤1300種の中から探索した、非常にユニークかつ実践的な研究だ。タイトルは「Cell-type-directed network-correcting combination therapy for Alzheimer’s disease(細胞種別ネットワークを正常化するアルツハイマー病治療薬の組み合わせ)」だ。

この研究の出発点は、AβやTauの蓄積が引き金となって、脳内のさまざまな細胞において遺伝子発現の大規模な変化が生じ、それがADの病態を形成しているという前提になる。研究チームは、原因そのものを取り除くのではなく、その結果生じる遺伝子発現異常をできる限り正常に戻すことが病気の進行を抑制する可能性がある、という仮説に基づき、薬剤の探索を進めている。原因に手をつけずとも、その波及効果を制御すれば治療につながるという点で、ある意味“乱暴”ながらも非常に斬新なアプローチといえる。

まず、既存の3本の論文から、AD患者脳の single nucleus RNA sequencing データを収集し、組織に存在する多様な細胞種ごとに、ADによって変化した遺伝子発現パターンを抽出した。さらに、KEGGなどのパスウェイ解析を用いて機能的に分類し、細胞間のネットワーク構造を整理した。

次に、がん細胞株に薬剤を投与した際の遺伝子発現変化を収録したデータベースを活用し、ADで観察された遺伝子発現の異常を逆方向に修正するパターを示す薬剤を1300種類の中からスクリーニング。その結果、25種類の薬剤が、ADで見られる細胞種ごとの異常を“補正”できる可能性があることを見出した。

仮説が正しければ、これらの薬剤を日常的に使用している患者では、ADの発症率が低くなるはずです。そこで、カリフォルニア州の1000万人分の医療レコードを解析し、最終的に5種類の薬剤がADの発症リスクを有意に低下させていることを確認しました。

その中でも、神経細胞の遺伝子発現異常を改善するアロマターゼ阻害剤レトロゾール(乳がん治療薬)と、ミクログリアに作用するトポイソメラーゼ阻害剤イリノテカン(大腸がん・肺がん治療薬)の組み合わせが、最も広範に遺伝子発現パターンを正常化できると判断している。

両薬剤とも抗がん剤であり、副作用への配慮が必要なので、低用量で2日に1回、長期間投与できる条件を模索し、ADモデルマウスへの単独および併用投与を実施。予想通り、併用群ではマウスの記憶障害が有意に改善している。

加えて、病理学的解析では、海馬の神経細胞変性の抑制、Aβおよびリン酸化Tauの蓄積抑制、ミクログリアの活性化低下が観察されている。さらに、投与マウスの脳をsingle nucleus RNA sequencingで解析したところ、細胞種ごとの遺伝子発現パターンが正常に近い状態に戻っていることも確認された。

この研究は、病因ではなく病態に注目し、遺伝子発現ネットワークの正常化を図ることで病気の進行を抑えるという、ある種漢方的発想にも通じる新しい治療戦略を提示している。しかも、使用された薬剤はいずれもすでに臨床で用いられており、理論上はすぐにでも応用可能だ。しかし、副作用のリスクがある抗がん剤であるため、実際の治験に向けたデザインには慎重な検討が必要だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月26日 バクテリアの鞭毛はお腹の中で食欲を抑えてくれる(7月23日 Nature オンライン掲載論文)

2025年7月26日
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腸管が我々の食欲調節に深く関わっていることはよく研究されている。お腹がいっぱいになったことを感じるメカノセンサーを起点とする神経回路だけでなく、L細胞と呼ばれる内分泌細胞から分泌されるGLP-1 や PYY などの内分泌系による視床下部への作用を介する食欲抑制など、極めて複雑なネットワークが形成されている。このブログでも何度も紹介したように、このような消化管ホルモンを誘導する刺激の多くは、グルコースや脂肪、タンパク質などの栄養分で、グルコースに対数 SGLIT1 など様々な受容体が特定されている。

今日紹介すデューク大学からの論文は、このような栄養分に加えて、なんと鞭毛を持つバクテリアを L細胞が感知して食欲抑制の PYY などを分泌させる事を示した研究で、腸の細胞の多様性が覗える。論文は7月23日 Nature にオンライン掲載され、タイトルは「A gut sense for a microbial pattern regulates feeding(腸管は細菌叢のパターンを認識して食欲を調節する)」だ。

消化管ホルモンを発現する腸内の感覚上皮細胞をラベルして、これらの細胞がバクテリア由来分子の刺激を受けるとしたら必要な受容体について探索すると、なんと消化管ペプチドPYY を発現する上皮細胞がバクテリアの鞭毛を感知する TLR5受容体を特異的に発現していることを発見する。即ち、バクテリアの鞭毛に反応して PYY を分泌して食欲を落とすというドンピシャの関係が示唆された。

そこで、PYY を発現している細胞特異的に Tlr5 をノックアウトすると、代謝自体には大きな変化はないものの、食べる量が増えることが明らかになった。この効果が Tlr5 が鞭毛を感知しているためであることを確認するために、PYY分泌細胞を鞭毛成分フラジェリンで刺激するとカルシウム反応が高まり、また PYY の分泌量が Tlr5 をノックアウトすると抑えられることがわかり、確かに Tlr5 が刺激されることで誘導されるカルシウム反応の結果、PYY の分泌が起こっていることがわかる。

PYY の食欲抑制効果は直接視床細胞に働く可能性もあるが、フラジェリンを腸内に注入する実験では、迷走神経の興奮が検出できるので、鞭毛刺激による PYY分泌はまず迷走神経の興奮を誘導し、これが視床下部の食欲制御に繋がると考えられる、実際迷走神経には PYY に対する受容体P2受容体が発現しており、迷走神経のP2受容体をノックダウンするとフラジェリンによる興奮は消失する。以上の結果は、フラジェリンによる Tlr5 刺激→ PYY 分泌による迷走神経刺激→視床下部を介する食欲抑制という経路が明らかにされた。

最後の仕上げに、実際にフラジェリンを腸管に注入すると食欲が抑えられるかを調べ、1㎍/ml のフラジェリンを浣腸で腸内に直接投与すると、食欲が強く抑制される急性反応が起こること、そしてこの急性反応は PYY細胞の Tlr5遺伝子ノックアウト、あるいは P2受容体ノックアウトで消失することを示し、鞭毛に対する反応が10分単位で現れる早い反応であることを明らかにしている。

以上のフラジェリン浣腸刺激実験から、Tlr5遺伝子がPYY細胞でノックアウトされたマウスで食欲が上昇するのは、フラジェリンを感知して食欲を抑制する回路が欠損した結果である事がわかる。

以上が結果で、鞭毛細菌が腸内で増えると食欲が落ちるという話になるが、鞭毛を持つ細菌が腸炎や加齢で増加することを考えると、これらの状態でしばしば食欲が落ちるので、この話は納得できる。さらには、高脂肪食でも鞭毛を持つ細菌が増えることが報告されているので、高脂肪食をフラジェリンの刺激の強さから眺めてみると面白いかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月25日 幻覚剤シロシビンには抗老化作用がある(7月8日 npj-Ageing オンライン掲載論文)

2025年7月25日
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現在移動中なので軽めで少し風変わりな現象を扱った2編の論文を短く紹介することにする。

このブログでも幻覚剤シロシビンを一回投与して幻覚を誘導するとうつ病の症状が一定期間消失するという論文を紹介した。この効果は全てシロシビンが持つセロトニンを介する神経作用によると思っていたが、シロシビンがテロメアの短縮を防ぐことがこの効果の背景にあるのではと言う途方もない可能性が提案されているようだ。

この研究はこれを確かめるため、細胞レベルや個体レベルでシロシビンを投与し、驚くなかれ細胞老化を押さえ、マウスの寿命まで延長できることを示した研究で、7月8日 npj-Ageing にオンライン掲載された。タイトルは「Psilocybin treatment extends cellular lifespan and improves survival of aged mice(シロシビンは細胞の寿命を延長するだけでなく老化マウスの生存期間を延長する)」だ。

まず胎児肺から調整した線維芽細胞の継代培養を続ける細胞老化を誘導する実験で、シロシビンを培地に加えて様々な老化指標を調べる極めて単純な実験だ。シロシビンを加えた培養では増殖が続き老化が抑えられる。また定番の β-gal 染色で老化した細胞を調べると、陽性細胞数は半分にまで低下している。

メカニズムについては詳しくは解析していないが、老化を抑える転写因子の代表 Sirtuin1 の発現が上昇し、活性酸素の産生が低下し、期待通りテロメアの短縮が強く抑えられている。

そして20月齢のマウスに月一回づつ15mg/Kgのシロシビンを投与し続け、生存曲線を調べている。この量がどの程度か正確に判断できないが、投与後のマウスの状態から脳症状が発生しているのがわかる。いずれにせよ驚くべき結果で、コントロールのマウスは28ヶ月で50%が死んだのに対し、シロシビン投与群では80%以上が生きているという結果だ。メカニズムがわかれば、幻覚とは切り離した薬剤も可能かもしれない。

もう一編の論文はさらに不思議な論文で、訓練された犬はパーキンソン病 (PD) 患者さんを匂いで嗅ぎ分けるという報告で、7月14日 Journal of Parkinsons Disease にオンライン掲載された。タイトルは「Trained dogs can detect the odor of Parkinson’s disease(訓練された犬はパーキンソン病の匂いを嗅ぎ分ける)」だ。

PD患者さん及び正常人の皮膚のスワブを集め、これで10匹の犬を訓練し、高い能力を持つ2匹に新しいサンプルを嗅がせて診断率をテストしている。結果は2匹とも、80%近い感受性と、90%を超す特異性でPDを嗅ぎ分けた。確かに面白いが、診断という点ではよほど早期診断が可能でない限り、今後も犬に頼ることはないと思う。

いずれも再現がとれれば、メカニズムを探求するのに値する現象だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ