2026年2月1日
2000年に始まった再生医学のミレニアムプロジェクトの目標の一つは、自己免疫反応によってインシュリンを分泌するβ細胞が欠損した1型糖尿病の患者さんに、多能性幹細胞から誘導した膵島細胞を移植して機能を回復させるというテーマだった。他の目標と比べると、競争相手も多く、必要な細胞数も多いため、最も難しい目標だと思っていたが、昨年京大のCiRAと京大病院が既に臨床治験を行っていると聞き、うれしい限りだ。ミレニアムプロジェクトの生みの親とも言える京大元総長の井村先生は、現在95歳で全く歳を感じさせないほどお元気で、この前京大芝蘭会館で一緒に昼食をとりながら、坂口さんや山中さんを擁した京大再生研設立を手始めに、ミレニアムプロジェクト、そして今回ノーベル化学賞の北川さんを擁したWPIプロジェクト発足と続いた様々な事業の話で盛り上がったが、特に再生医学が当時期待した以上の進展を見せてくれていることを喜んでおられた。
この京大の膵島移植で用いられたのが、ハイドロゲルファイバーに出来た膵島を閉じ込めて、他家由来の膵島でも免疫反応を誘導できないように隔離する方法だが、免疫隔離法については様々な方法が開発されている。
しかし、隔離できたから長期間安全にインシュリンを作ってくれると期待するのは早いようだ。今日紹介するMITからの論文は、隔離に使われるゲルに対する異物反応を抑え長期に細胞機能を維持できるシステムを開発したところ、Allo=他家の細胞はこの方法で長期間維持できるのに、Xeno=他種になると隔離していても強い免疫反応が起こることを示し、細胞を免疫から隔離する方法はまだまだ完全でないことを示した研究で、1月28日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Crystallized colony-stimulating factor-1 receptor inhibitor protects immunoisolated allo but not xeno transplants in primates(CSF-1受容体の結晶化した阻害剤は免疫隔離した他家細胞は守れるが他種になると守れない)」だ。
この研究では、サルiPS細胞由来膵島をハイドロゲルに閉じ込めて、膵島を破壊したサル(人間で言うとAlloになる)の腹腔内網囊に移植したとき、最初の50-60日目にはなんとか血中グルコースをコントロールできていても、100日たつとほとんど膵島の機能を果たさないことを示し、ハイドロゲルが必ずしも万能でないことを示している。この原因を探るために、1年後にゲルを取り出して中の細胞を調べると、案の定ゲル内の細胞はほとんど死んでいる。この失敗の原因は免疫隔離の失敗ではなく、ゲルに対する異物反応によりゲル内への様々な分子供給が滞るためであることを明らかにする。
異物反応は最初マクロファージにより引き金が引かれるので、マクロファージの活性化に関わるCSF-1受容体をブロックすることで、ハイドロゲルに対する異物反応を抑えられるのではないかと考えた。しかしCSF-1受容体阻害剤を投与し続けることは問題が多い。そこでCSF-1受容体阻害剤GW2580をまず結晶化して化合物がゆっくり放出されるようにし、この小さな結晶をゲルの中に膵島細胞と一緒に閉じ込め、膵島を破壊したサル網囊に移植した。すると今度は、ほぼ一年近く血中グルコースを正常に保ち、正常に機能することがわかった。1年後にゲルを取り出すと、ゲルに対する異物反応は抑えられており、阻害剤結晶も2%程度残存していること、そして閉じ込めた細胞の75%以上が生き残ってインシュリンを分泌していることがわかった。以上の結果、ゲル内のCSF-1受容体阻害剤結晶は、1年ぐらいは保持され異物反応を防いでくれることがわかる。京大ではハイドロゲルの線維が使われているが、もしこのような物理的方法で異物反応が防げるとしたら期待できる。いずれにせよ、ハイドロゲルを用いたAllo膵島移植の今後の課題が生体の異物反応抑制である事がよくわかる。
次に、免疫隔離と異物反応抑制が実現すれば、Xeno=即ち異なる種の膵島でも移植出来るかを調べている。このため、実際に患者さんに利用されたヒト膵島細胞をCSF-1受容体阻害剤結晶と一緒にハイドロゲルに閉じ込め、サルの網囊に移植している。ところが期待に反して、全くうまく働かない。1ヶ月後にゲルを取り出そうとすると基質化しており、組織から外れてこない。即ち同じゲルで異物反応を抑えているのに強い組織反応が起こって、中の細胞が死滅していることがわかった。
遺伝子発現や組織学的に調べると、自然免疫反応に加えて、CD4T細胞やBリンパ球の強い浸潤が起こっており、遺伝子発現のタイプから抗原に対する免疫反応が起こっていることがわかった。残念ながら、反応している抗原などについては全く解析できていないので、何故ゲル内の細胞が免疫反応を誘導するのかについては明らかでない。Xeno細胞からかなり強い抗原がゲル外に分泌されるのではと考察しているが、説得力はない。
以上、免疫隔離法を利用するときの異物反応の重要性と対処方法の開発は重要な貢献だが、明らかになったXenoとAlloの差は免疫学的には全く新しい課題として解いていく必要がある。
2026年1月31日
ずいぶん昔になるが、盲腸を切除した人ではパーキンソン病 (PD) のリスクが低下していることを発見し、PDの原因である異常シヌクレインが盲腸で合成されていることを示す論文を紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/9180)。この仮説がどこまで受け入れられているのか定かではないが、PDの始まりが脳か腸かについてはPDでもホットな領域として研究が続いている。
今日紹介する University College London からの論文は、盲腸とは違って主に十二指腸の筋層に存在するマクロファージが異常シヌクレインの産生元と言うだけでなく、PDの炎症を腸から脳へと伝搬する役割も持ったヤバい細胞である事を示した研究で、1月28日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Intestinal macrophages modulate synucleinopathy along the gut–brain axis(腸内マクロファージはシヌクレン症を腸から脳への軸を介して変化させる)」だ。
この研究は動物実験を通して腸から脳への PD の伝搬可能性を確かめることにある。そのために、凝集しやすい変異をもつ αシヌクレインを神経やT細胞で発現し、典型的 PD 脳症状を発症するマウスを用いて、腸と脳でシヌクレインの蓄積を調べている。すると、筋層にあるマクロファージ (ME-MC) で早くから異常シヌクレインの蓄積が見られることを発見する。またその結果、マクロファージに取り囲まれた筋層の神経節の機能が阻害され、便通が低下することもわかった。即ち、神経由来の異常シヌクレインをマクロファージが取り込んで、神経異常を起こしていることになる。また異常シヌクレインを取り込むことで、オートファジーが亢進し、ME-MC も活性化される。
驚くのは ME-MC がシヌクレインを取り込むことで、神経から神経へとプリオンのように伝搬活性を持つ異常シヌクレインへと転換されるという結果で、PD の起源が ME-MC である可能性が強く示唆される。ただしこの変化は筋層の ME-MC だけで、腸管のマクロファージには全く見られない。
次は腸から脳へ異常シヌクレインが伝播するかを調べるため、神経間で伝搬する活性のあるヒトPD由来シヌクレイン線維を直接十二指腸に注入すると、早くから筋層の神経節に異常シヌクレインが蓄積し、その結果便通が低下する。そして3ヶ月目には脳幹にも異常シヌクレインが現れる。以上の結果から、十二指腸で形成される、あるいは吸収された異常シヌクレインは、脳内へと伝播することがわかる。
PD のほとんどは遺伝性が明確ではなく、誰がなってもおかしくない。これを孤発性と称しているが、腸管内のマクロファージが異常シヌクレインを外界の刺激や、あるいは何らかの間違いで作るとすると、孤発性の発症過程も理解できる可能性がある。
ここまででも十分面白いのだが、この研究では異常シヌクレインを取り込んだ ME-MC が MHC を強く発現してT細胞を刺激し、そのT細胞が脳へと移動することを、腸局所での凝ったT細胞ラベリング実験によって証明している。そして、T細胞抗原受容体のシークエンシング解析から、おそらく腸と脳内で同じ抗原に対する免疫性炎症を誘導して PD の神経細胞死を助長する可能性を示唆している。しかし、T細胞の役割を明確にする実験は行われていない。
最後に、CSF-1 受容体へのモノクローナル抗体とCCR2へのモノクローナル抗体を用いて ME-MC を比較的選択的に除去することが出来ることを示し、PD由来シヌクレイン線維を十二指腸に注射する実験で、ME-MC が除去されていると、PD病理が抑えられ、さらにT細胞の病変部位への浸潤も抑えられる事を示している。
以上が結果で、ME-MC が異常シヌクレインを形成して脳へと伝搬することと、腸内で抗原特異的炎症誘導T細胞を誘導して脳へと移行させる、2つの経路で PD 発症の主役になっていると結論している。ME-MC を抑制する方法が人間でも利用できると、意外なPD治療薬が誕生することになるが、さてどうなるか?もう少し様子を見たい。
2026年1月30日
このブログで何回も紹介してきたMYCは、様々な遺伝子の強力な転写の核として働き、ガン征圧にとっても最も重要な標的分子だが、エンハンサーに結合して転写を調節する以外の機能があるとは想像だにしなかった。
今日紹介するドイツビュルツブルグ大学からの論文は、同じMYCがRNAにも結合し転写が止まったRNAを分解して自然免疫の誘導を抑え、ガンを守る働きがあることを示す極めて面白い研究で、1月22日 Cell に掲載された。タイトルは「MYC binding to nascent RNA suppresses innate immune signaling by R-loop-derived RNA-DNA hybrids(MYCの転写されたばかりのRNAへの結合は、RNA-DNAループ形成による自然免疫刺激を抑制する)」だ。
1月25日に血液の観察からスタートした血小板の新しい活性化機構について紹介した論文もビュルツブルグ大学からだったが(https://aasj.jp/news/watch/28201)、ドイツが地方大学も高いレベルが維持できているのは学ぶ必要があると思う。
この研究以前にもMYCがRNAに結合していることは知られていたようで、この研究ではタンパク質とRNAを結合させた後、MYCに結合しているRNAを詳しく調べ、染色体にまだ結合している出来たばかりのRNAで、このRNAの合成が止まったりするストレスでDNAからRNAに移行して、特にイントロン部分に結合することを生化学的に明らかにしている。
RNAに結合したMYCはDNAに結合する時のMYC/MAXのような二量体ではなく、いくつも集まってRNAに結合しており、このMYCに結合しているタンパク質を調べると、MYCがハブとなってRNA分解する様々な分子が複合体を作っていることがわかる。
この研究のハイライトは、このような生化学的結果に基づき、多重化が出来ないためRNA結合が出来なくなったMYC変異分子を作成したことで、これによりMYCのRNA結合の生理的機能を明らかにすることが可能になった。
膵臓ガン細胞株の内因性MYCを抑えて、正常型MYCあるいはRNAに結合できない変異MYC (mMYC) を発現させると、細胞の増殖は特に変化がなく、転写因子としてのMYCは機能していることがわかる。しかし、これをマウスに移植すると、mMYCを発現したガン細胞の増殖は強く抑制されることがわかった。即ち、増殖は問題ないがホストの免疫機能を誘導して増殖が抑えられる。
このメカニズムを探ると、mMYCではNFkBやインターフェロンシグナル等の自然免疫経路の抑制が起こらない。すなわちmMYCでRNA分解ができないと、自然免疫を調節するTBK1が活性化されたままになり、NfkBやインターフェロン経路が抑制できないためであることがわかった。
最後に核酸を感知するTLR3と核酸の結合を調べることで、mMYCはRNA自体の結合よりはRNAとDNAがペアリングした2重鎖の結合を阻害していることがわかった。すなわち、RNAループに結合して分解することで、TLR3を刺激するRNA-DNAハイブリッドの形成を阻害し、自然免疫を免れていることがわかった。
以上が結果で、MYCのRNA結合から始めて、自然免疫抑制機能まで、面白く納得のシナリオが生まれている。ビュルツブルグは実家のあった大津市と姉妹都市だが、この規模の都市にある大学からトップジャーナルに相次いで論文が採択される高い研究力が示されていることは、科学立国を目指す我が国も、この高い研究力を支える政策面を学ぶ必要があると思う。
2026年1月29日
人間の様々な集団について調べた腸内細菌叢の研究を読むと、人間の言語によく似ているなといつも思う。我々は言語を話す能力を持って生まれてくるが、言語自体は一生をかけて人とのつながりの中で学習し、自分の脳内に言語空間を形成する。とは言え、言語は我々の脳内の言語空間に閉じ込められるわけではなく、自分が発する言葉として社会に投げられる。そこで、他の構成員から投げられた言葉とともに、個人とは独立した大きな言語空間が形成される。それぞれは相互に作用し合い、刻々変化する。そして、流行語や優れた文章に見られるように、言語空間を形成するユニットは、個人から個人、個人から社会、社会から個人へと不断に行き来する。
言語と同じで細菌叢も、最初は両親兄弟など家族を中心に、その後個人が経験する様々な社会から獲得され、個人の細菌叢として発達する。もちろん細菌叢が維持される社会の場所があるわけではないが、多くの人がコミュニケーションを通して影響力のある細菌叢が形成され、これは地域や民族により異なる。
少し前置きが長くなったが、細菌叢の個人と社会のコミュニケーションによる発達や変化について研究をしたのが今日紹介するイタリア・トレノ大学からの論文で、1月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Baby-to-baby strain transmission shapes the developing gut microbiome(子供から子供の系統の移行が発達中の腸内細菌叢を形成する)」だ。
研究では、生後1年目から同じ保育園に預けられた43人の新生児を、生後1年の家庭内での育児期間に1回、その後保育園に預けられている間に40回程度(途中2回の休みにそれぞれ1回)便を採取して、細菌叢の全遺伝子解析を行っている。これと平行して、保育園の先生、母親父親、そして兄弟についても数回の細菌叢ゲノム解析を行い、それぞれの子供が家庭から保育園という社会で育っていく中で、細菌叢が社会の他のメンバーの細菌叢とどのように相互作用していくかを調べている。
細菌叢とコミュニティーの研究はこれまでも数多く行われてきている。しかし同じ保育園での子供同士を比べる研究は面白いアイデアで、これまで行われていない。さらに、細菌が個人間を伝搬する過程を正確に調べるため、細菌叢から得られる全ゲノムを解読し、これまで特定されない201種を含むトータル512種の系統関係を明らかにし、これを用いて細菌の個体間の伝搬の様子をレトロスペクティブに追跡出来るようにしている。これまでの研究が属レベルを区別する16rRNA シークエンスで行われてきたのを考えると、この徹底性がこの研究の特徴だ。
まず言語と同じで、新生児の細菌叢の種類は少なく、大人も子供も一人一人存在する種類が異なっている。不思議なのは、この方法で比較すると、これまで言われていたような出産時の抗生物質使用、帝王切開などの差は、細菌種の多様性に大きくは影響しない。また、兄弟がいる方が種類が多様化するので、発達時に多くのメンバーとコミュニケーションがあるほど細菌種が増える。
共有されている種の比率から、子供の細菌叢を形成する過程で細菌種の個体間のやりとりを特定できる。この結果、兄弟の影響と同じで、保育園で新しい子供同士のコミュニケーションを続けることが、家族以上に細菌叢の発達に大きく寄与することがわかった。
研究では、一つの細菌種が同じ保育所の子供たちに伝搬する過程を追跡して、これらの発達が人間観での細菌種の伝搬によることも、証明している。そして、このやりとりの中から、伝搬性の強い細菌を特定することにも成功している。伝搬性の高い細菌は、好気環境に強く、また逆境で休眠できる種と言える。この中で、保育園で子供同士で伝搬しやすい細菌種の代表はビフィズス菌で、このことを知る前から、我々が経験的にプロバイオとして利用しているのもおもしろい。
子供の言語吸収能力が早いのと同じで、抗生物質で一度壊れた細菌叢の回復力は子供が圧倒的に早く、多くは新しく他の人間から導入している。一方大人になると、他の人間から細菌種を獲得することは少なく、元々持っていた細菌叢が増えてくるのを待つことになる。英語を子供の時に習うほど良いというのに似ている。
私たちの時代は共稼ぎは珍しく、幼稚園まではほとんど家族と近所の子供と過ごした。しかし今は多くの子供が保育園を経験する。この研究では細菌叢の健康への影響は示していないが、1歳児保育の有り無しで子供の将来の健康を比べることは重要なテーマになると思う。
自分で面白いと思った点を強調して紹介してしまったが、この研究を読んで、細菌叢の発達は言語の発達と同じという確信を強くした。
2026年1月28日
少し遅れたが、今年最初のジャーナルクラブは2月6日午後7時から開催する。タイトルは「アルツハイマー病治療開発の現状」にして、アルツハイマー病 (AD) 治療とて急速に実現可能性が高まってきたTauに対するモノクローナル抗体療法の総説が昨年暮れ Cell に掲載されていたので、この総説論文を中心に、最近面白いと思ったAD治療標的についての研究を紹介しようと思っている。例によって直接参加したい方は、連絡してほしい。
このとき是非取り上げたいと思っているのが、今日紹介する中国北京大学からの論文で、胆嚢や膵臓に働くコレシストキニン (CK) がなんと海馬でも働いていて、神経に発現している受容体B (CCKBR) を刺激すると、認知機能が改善するだけでなくアミロイドプラークなど病理まで改善することを明らかにし、さらにこれを刺激する薬剤まで開発した研究で、1月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Elucidating pathway-selective biased CCKBR agonism for Alzheimer’s disease treatment(アルツハイマー病治療のためのシグナル経路特異的CCKBRアゴニストを解明する)」だ。
脳内でCKは様々な場所に発現しているが、アミロイド蓄積が始まる嗅内皮質 (EC) で強く発現していることをヒントに、著者らはアミロイド蓄積が早期に起こるモデルマウスECでのCK発現を調べ、90%も低下していることを確認する。この低下自体が認知機能低下の原因かどうかを調べるため、CCKBRノックアウトマウスを用いてこのシグナルがないと認知機能が低下することを確認している。だとすると、アミロイドによる認知機能低下をCCKBR刺激によって改善できる可能性がでてくる。
ただ CCKBR刺激ペプチドCCK8は脳内に到達できないので、このシグナルの効果を神経細胞にアミロイドを加えて細胞死を誘導する培養実験系を用いて測定し、CCK8がこの効果を抑制できることを明らかにしている。さらに試験管内での刺激系を用いてCCK8刺激によるCCKBRシグナルが3種類のGタンパク質を介して伝達されることも確認する。その上でCCKBR刺激でADの認知機能が改善するかどうかは、脳にも到達する化合物を開発して調べるという大変な道を選んでいる。
CCKBR刺激薬開発の方向性としては、刺激剤として使われているCCK8ペプチドのうちの4ペプチド核として、これを有機化学的に改善して脳に到達する化合物をデザインする方法を選んでいる。このために構造解析を中心として、様々な実験が行われているが、なかなか高い力量を感じさせる。具体的には、CCK8とCCKBR、そして下流のGタンパク質の構造をクライオ電顕で詳しく調べ、それに基づいて骨格とする4ペプチドをスタートラインとして、CCKBRアゴニストとしての効果、脳への浸透などを至適化する改変を行い、最終的に4ペプチドにロイシンの異性体を加えた3r1と硫化メチオニンを加えたz44やLyz-866を開発している。どちらもCKKBR刺激アゴニストとして働くが、3r1はGaqを、z44やLyz-866はGaiを選択的に活性化する。
こうして出来た脳へ移行する化合物を用いてアミロイド蓄積マウスモデルを治療すると、Gaqを選択的に刺激する3r1が、認知機能改善だけでなくアミロイドプラーク形成やリン酸化Tsuの合成まで抑制できることがわかった。
最後にこの効果のメカニズムについて、CCKBR下流のGaqが活性化されると、Plbc4上昇、これに続くADAM10の上昇が誘導され、ADAM10によりアミロイド前駆体が無毒な形で切断されることにより、病因性のアミロイド形成を抑制することを示している。
最終的にCCKBR刺激からADAM10までの経路が解明できているわけではないが、ADAM10が上昇してアミロイドが無毒型へと切断されるメカニズムは新しい経路として期待できる。CKはもちろん消化管に対する作用が予想されるが、Gaq選択的アゴニストでこの副作用が軽減されるとしたら期待の薬剤になる可能性はある。さて、副作用にないAD治療薬として世に出せるか?
2026年1月27日
昨日に続いて今日も考古学の研究で、スイス ローザンヌ大学からの論文だ。コロンビアで発見された5500年前の骨から梅毒の原因菌 Treponema Pallidum ゲノムを見つけ出し、配列を解読した研究で、1月22日 Science に掲載された。タイトルは「A 5500-year-old Treponema pallidum genome from Sabana de Bogotá, Colombia(コロンビア Sabanade Bogota で発見された5500年前の Treponema pallidum ゲノム)」だ。
感染症の歴史の中でも梅毒の歴史はダイナミックだ。以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/25818)南米で見つかった梅毒患者と思われる骨から分離された Treponema Pallidum のゲノム解析から、梅毒は南米コロンビア領域でおそらく動物からの感染により人間の感染症として確立し、その後コロンブス以降船乗りによりヨーロッパ、そしてアジアへと蔓延するようになったことはもう間違いがない。
とは言え18世紀でも梅毒が特定の性病として確立していたわけではない。これについては英国の外科医でドリトル先生のモデルになったとも言われる John Hunter についての実話がある。Hunter は帝王切開を初めて行った外科医としても有名だが、淋病と梅毒が同じ病気か異なる病気かを確かめるために患者の病巣を自分に移植し、最終的に淋病と梅毒にかかってしまったことがわかっている。この経験に基づき、彼は淋病は梅毒の初期症状と結論し、フランスの Ricord により正されるまでこの説が受け入れられてしまう。
要するに移植した病巣が両方の菌を持っていた可能性が高いが、自分に移植すると言う探究心には頭が下がる。Hunter は種痘を開発したジェンナーの先生にあたり、研究に当たっては「Don’t thin, try!(考える前にトライ)」という有名な言葉を残しており、ジェンナーの種痘もこの精神から生まれたと思うと納得する。
話が長くなったが、研究の内容はシンプルで、5500年前の骨から Treponema Pallidum の遺伝子配列が見つかり、断片を集めて最終的にx1.7の精度でゲノムを解読できたという話だ。以前紹介したように古代の梅毒の歴史を調べる目的には、梅毒による変形を認める骨を探し、ここから Treponema ゲノムを探すのが普通だが、この研究で見つかったのは全く正常の骨で、骨の持ち主が本当に梅毒にかかっていたのかなどいくつかの問題に答える必要があった。
いずれにせよ5500年前と確認された骨なので、これまでゲノム解析された中では最も古い Treponema になる。しかもこれまで確立しているゲノム系統樹と比べると、もう一つの系統 Treponema paraluisleporidarum に近い。ただゲノム一致性の程度を計算すると、間違いなく Treponema pallidum で、おそらく13700年ほど前にこれまで知られている系統から分岐したと結論している。
この骨が発見された領域では、梅毒に罹患していると思われる病変を持つ骨が多く発見されていることから、13700年前に分岐したと思われる T.pallidum が発見されたことは、かなり長期にわたったこの地域に梅毒が蔓延していたことになる。ただ問題は、この菌が発見された骨には梅毒の異常がみられなかったので、この菌が本当に梅毒を引き起こす病原性があるかどうかを確かめる必要がある。そのため Treponema の病原性に関わる59の遺伝子を他の系統と比べている。結論だが、遺伝子の変異や消失等が認められるものの、おそらく病原性は維持されていたとしている。
結果は以上で、5500年前の菌の病原性を証明するには、同じ病原遺伝子の再構成と感染実験が必要だが、時間はかかりそうだ。いずれにせよ、梅毒の南アメリカ起源説はもう揺るぎないように思う。こんな時代になったことを Hunter さんに是非伝えたいものだ。
2026年1月26日
ホモサピエンスがイスラエル回廊を突破してユーラシアに移動したのは4万5千年前前後で、それ以前ユーラシア大陸はネアンデルタール人とデニソーワ人が棲息していた。しかし一旦ホモサピエンスがヨーロッパに侵入すると、ネアンデルタール人は1万年しないうちに姿を消してしまう。個人的な想像に過ぎないが、シナイ回廊で両者が対峙した10万年の間に、ホモサピエンスが何らかの優位性(例えば言語発生など)を獲得した結果均衡が破れヨーロッパに移動、これがネアンデルタール人の滅亡に関わったのではないだろうか。このように想像する一つの理由は、サウジアラビア、インド、ラオスそしてスマトラを通ってオーストラリアに至るルートを通るホモサピエンスの移動はずっと早くから確認されており、オーストラリアには6.9-5.9万年前にホモサピエンスが到達しているからだ。即ち競合者がいない領域では、ホモサピエンスはスムースにアフリカを出ることが出来た。
今日紹介するオーストラリアの Griffith 大学からの論文は、おそらくホモサピエンスが東へと移動する過程でスラベシに棲息した時に残したHandstensil (手の上から塗料を吹きかけて洞窟の壁に描いた手形絵)が、新しいウラニウム同位元素を用いる方法で6万7千年前と特定した研究で、1月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Rock art from at least 67,800 years ago in Sulawesi(スラベシで発見された少なくとも67,800年前の洞窟壁アート)」だ。
ホモサピエンスのオーストラリアへのルートは、ウォレス線と呼ばれるラオス、スマトラからパプアやオーストラリアへほとんど歩いて渡れる回廊を使っていたと考えられている。今日紹介する研究では、ウォレス線の最も北側ルートにあるスラベシ地方の44カ所の洞窟の調査が行われ。8カ所の洞窟絵画の時代測定が行われた。この目的で、ウラン系列法という新しい方法で年代測定を行ったのがこの研究のハイライトになる。具体的には絵の表面に形成された炭酸カルシウム層の微少な一部をレーザーで切り出し、底に移行したウラン同位元素を用いる時代測定で、論文の多くの記述がこの方法について行われている。要するに描かれた絵自体を傷つけることなく、正確な時代測定ができる優れた方法のようだ。
絵画のタイプは、handstensil、指で書かれたと思われる人物や動物で、測定された時代はまちまちだが、その中の2つの handstensil の時代測定で、一つは6万900年、もう一つは6万7千800年前に描かれたことがわかり、後はこの発見の意味について考察が行われている。
これまで知られている最も古い handstensil はスペインの洞窟で発見された6万6千700年前のもので、年代からネアンデルタール人によると考えられ、ネアンデルタールも絵を描いた証拠として現在も様々な議論が行われている。
今回発見されたスワレシの最も古い handstensil はこれよりまだ千年ほど古く、世界最古の handstensl になる。ただ、このルートにネアンデルタールは見つかっていないので、ウォレスルート上のホモサピエンスによると言える。既に説明したように、ウォレスルートはこの時代海面が下がって歩いて移動できたのではと考えられるが、今回最も古いhandstensilが発見された北側のルートは当時でも海上移動を必要とす地域で、ホモサピエンスが7万年近く前に船を使っていた可能性を強く示唆すると結論されている。
今回の調査で調べられた洞窟画の半分以上が handstensil で。時代も2万年-4万年が中心だが、それよりさらに新しいhandstensilも存在しており、手を壁に付けてその上から塗料を吹きかける絵画が7万年前から長い間にわたって使われていたことがわかる。今回示された写真では、最も古い handstensil に接して、動物や人物の絵が新しく描かれており、この洞窟が何万年も使われる間に、handstensil を見ながら様々な絵画が発展したことになる。即ち、人間の絵を描く能力の進化についても、スワレシ地方は重要な資料を提供することがわかる。
2026年1月25日
コロナパンデミックで脚光を浴びたのが感染の重症化の問題で、サイトカインストームや炎症と血小板や凝固異常について多くの研究が行われ、個人的にも知識を新たにすることが出来た。おおよそのシナリオは、サイトカインによる強い炎症が起こると血小板が活性化、凝固系の異常による血管内皮障害と微小血栓、それによる出血傾向などが急速に進んで死に至るというものだ。
このように血小板の活性化が病態の中心にあるが、これまで知られていたのとは全く異なる血小板活性化様態があり、これが重症化に最も大きな影響を持つのではないかとする興味深い研究がドイツビュルツブルグ大学から1月22日号 Science に発表された。タイトルは「Platelet-derived integrin- and tetraspanin-enriched tethers exacerbate severe inflammation(血小板由来のインテグリンとテトラスパミン分子が濃縮された紐状突起が重症炎症を促進する)」だ。
この研究はCovid-19で重症化した患者さんの末梢血標本を子細に眺め、血小板から長い紐状が飛び出していることに気づいたことに始まっている。最近では医師はほとんど血液像を眺めることはなくなり、検査室からの結果だけに依存するようになっているが、新しい発見は観察からしか生まれないことの重要な教訓だと思う。同じ紐上突起は敗血症患者さんにも見られる
さらに面白いことに、血小板から飛びだしている長いひもにはαIIbβ3インテグリンと、CD9トランスパミン(4回膜貫通型のシグナル分子)が集まっており、他のインテグリンや血小板表面分子は見られない。
αIIbβ3に対する抗体を加える実験から、この不思議な分布はαIIbβ3とCD9が急速に膜状を移動して、血小板から飛びだしている紐状突起に移動するが、他の分子は同じような移動が起こらないことに起因する。そして、遺伝子ノックアウトや阻害実験から、この紐状突起形成はこれまで知られている血小板活性化とは別の機構で起こっていることが明らかになった。
次に体内でこの反応を誘導するためαIIbβ3抗体をマウスに投与すると、血小板の肝臓や脾臓への集積が起こり、血中から血小板が消失する。そして、臓器に蓄積した血小板では紐状突起の形成が見られる。この時血小板がマクロファージに取り込まれないようにすると血小板は血液に戻るが、驚くことにこの血小板から紐状突起物とともにαIIbβ3やCD9分子が消えている。即ち、臓器にαIIbβ3やCD9が濃縮した紐状突起物が残されることになる。この結果、血小板数は戻っても血小板機能が抑制されているため、出血傾向は維持される。
すなわち、炎症部位のフィブリンやvWFによりαIIbβ3が刺激されると血小板の紐状突起物形成が誘導され、この突起物が炎症部位のマクロファージや白血球、更にはvWF因子を発現する血管内皮に接着し、血小板本体がちぎれた後もその場に残り、場合によっては相手側の細胞膜と統合されることを示している。しかも残ったαIIbβ3を発現する紐状突起は炎症を促進し、血管の微小血栓を誘導することになる。実際、重症の炎症では、患者さんの白血球にはこのような紐状突起が接着しているのを見ることができる。そして、血小板でαIIbβ3の発現が低下する(即ち紐状突起物を形成してαIIbβ3を組織に残す)ほど、炎症の重症度が高まることも臨床例で確認している。
以上が主な結果で、血小板が飛び道具を出してインテグリンを炎症部位に残すことで、炎症を増強するという全く新しい血小板活性化過程が明らかになった。正常では、炎症センサーとして働く血小板がそのまま残ると血栓ができてしまうので、紐状突起物だけを残して炎症を高めるのだと推察するが(本当かどうかはわからない)、重症化し始めると調節がきかずにとんでもないことになることがわかる。Covid-19と血小板や凝固系の関係がさらによく理解できた。
2026年1月24日
アルツハイマー病などの神経変性疾患の最も大きなリスク因子は老化で、これら疾患に見られる症状は、自分でも老化とともに現れてきていることを実感する。これら疾患の特徴は、タンパク質の新陳代謝が変化して、アミロイド、Tau、そしてシヌクレインと言ったタンパク質が凝集沈殿物を形成することなので、メカニズムの理解にタンパク質の新陳代謝を調べることの重要性が示唆されてきた。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、体内に存在するほぼ全てのタンパク質を細胞や領域特異的にラベルして、その新陳代謝や凝集について調べる方法を確立し、老化に伴うタンパク質の分解が遅れることが神経異常の背景にあることを示した重要な論文で、1月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Ageing promotes microglial accumulation of slow-degrading synaptic proteins(老化は分解が遅延したシナプスタンパク質のミクログリアへの蓄積を促進する)」だ。
この研究のハイライトはなんと言ってもBONCATと名付けられたタンパク質標識方法の開発なので、少し詳しく解説する。この研究で利用するタンパク質のラベルは、アジド基の付加されたフェニルアラニンやチロシンで、普通のフェニルアラニンとして使えるが、通常のアシルトランスフェラーゼでは tRNAにロードされない。そのため、このアジドフェニルアラニンを tRNAへロードできる変異アシルトランスフェラーゼを神経系で特異的に発現させることで、神経内のタンパク質だけアジドフェニルアラニンで標識出来、アジドを指標に神経で発現しラベルされたタンパク質を、他の細胞由来のタンパク質を除いた形で精製できる。
この変異アシルトランスフェラーゼの発現を、神経遺伝学の方法を駆使して行うことで、アデノウイルスを用いた領域特異的標識、更にはアシルトランスフェラーゼを蛍光標識することで、前もってラベルタンパク質を発現する細胞を濃縮することも出来る。
このマウスを普通のアミノ酸で飼育するとラベルされることはないが、様々な年齢で1週間毎日アジドアミノ酸を投与し、その後脳組織のタンパク質を調整、その中のアジドフェニルアラニンを取り込んだタンパク質を質量分析で解析すると、神経細胞のほぼ全てのタンパク質の分解速度を解析することができる。まさにタンパク質新陳代謝を追跡する画期的な方法が完成した。
新陳代謝にはタンパク質が分解されることも重要で、この方法を用いてタンパク質の分解速度を調べると、大体5種類のパターンに分かれるが、どのパターンでも老化とともに分解速度が遅くなり、平均で2倍分解が遅くなる。
これらは全て神経由来分子であることは確認されるが、海馬や感覚野の細胞ほどタンパク質の寿命が延びている。また、シナプス形成や機能に関わる分子ほど分解が遅い。
次に凝集したタンパク質だけ集めて、タンパク質寿命との関係を調べると、まず神経内で凝集される分子は、変性疾患の原因分子ももちろん存在するが、これまで注目されていない多くの分子も凝集していることがわかる。しかも、これらのほとんどは老化に伴って寿命が延びたタンパク質であることもわかった。
次に分解が遅れたタンパク質がミクログリアに取り込まれるかも調べている。この型ではミクログリアで合成されるタンパク質はラベルされない。しかしミクログリアに神経内でラベルされたタンパク質が多く取り込まれている。その半分はリソゾーム関連分子なので、グリアがシナプスを飲み込んで新陳代謝を助けていることがわかる。
以上、老化に伴う主にシナプス分子の新陳代謝の低下と、ミクログリアの役割を明らかにした画期的な研究だと思う。今後様々な神経変性マウスと掛け合わせ、面白い研究が出てくることを予感させる。
2026年1月23日
一般の方にとって窒素酸化物は大気汚染物質のイメージが強いと思うが、その中の一酸化窒素 (NO) は血管拡張作用から臨床医学では重要な分子として研究されている。例えば、ニトログリセリンは古くから狭心症発作などに使われているが、体内でNOを放出して血管を拡張させることが効果の背景にある。NOは血管平滑筋のサイクリックGMPを誘導して血管を拡張させるが、この分解を阻害する酵素の阻害剤を開発する途中でバイアグラが生まれたのもNOを巡る面白いエピソードだ。さらに、呼吸器領域では、NOガスを吸引させて肺の血流を上昇させる治療も広く行われている。
今日紹介するハーバード大学マサチューセッツ総合病院からの論文は、同じNOを高濃度で吸引させることで、血管拡張作用はそのままで感染細菌の数を大きく減らす効果があることを示す面白い研究で、1月21日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Inhaled nitric oxide at 300 ppm treats multidrug-resistant Pseudomonas pneumonia in swine and is safe in humans(300ppmNO吸入によりブタと人間の多剤耐性緑膿菌感染症を治療できる)」だ。
この論文を読むまで全く知らなかったが、NOが抗菌活性を持つことは既に知られていたようだ。ただ、NOがヘモグロビンに結合すると酸素結合を阻害する可能性があり、実際NO吸入でメトヘモグロブリンが上昇する事が知られている。さらに、組織障害が起こる可能性もあるので、むやみに濃度を上げることは出来ない。
この研究ではNOを発生させるNOドナーを細菌培養に加えると容量依存的に細菌が死ぬことを確認した後、ブタを用いた緑膿菌感染モデルを用いた実験に進んでいる。これまで肺の循環を高める目的には50ppm以下の濃度が使われているが、抗菌効果を得るためには300ppmが必要で、まず肺内でこの濃度がベンチレーターを使って到達可能か、また肺機能に悪影響がないかを確認した後、緑膿菌を繰り返し感染させたブタに、NO単独で感染を抑えられるか調べている。
もちろん抗生物質と異なり100%の細菌を減らすというわけではない。しかし、NO吸入単独で肺内の緑膿菌数を2ログ、即ち100分の1に減らすことができる。またNO本来の肺血流改善効果も合わさって、肺機能不全による動脈血酸素量の低下を防ぐことが出来ている。肉眼解剖学、更には組織学的にも肺炎の進行を抑えることができていることは明確だ。
この結果をベースに、健康人ボランティアで、1日30分、3回、300ppmNOを吸引させ、5日目の肺血管機能、メトヘモグロビンなどを調べ、考えられる副作用は全くないことを確認している。
次に重症感染症でICUに入っている2人の患者さんを同じようにNO吸引を行わせ経過を観察、両患者さんとも39回の吸引治療を副作用なく続けることが出来、30日目の喀痰検査では細菌が消失していた。もちろん最大限の抗生物質を併用した上だが、NO吸入が十分な効果があったと結論している。マサチューセッツ総合病院では、過去6年間にすでに107人の患者さんを同じように治療しており、懸念される酸素結合能を喪失したメトヘモグロビンもほぼ10%以下に抑えられ(1例だけで11%)、副作用に関しては問題がなかったことも記述している。
結果は以上で、おそらく最終的治験は臨床専門誌に発表されるのだと思うが、馴染みのあるNO治療にこんな効果があるとは驚きだ。