2026年8月8日
今日紹介するスタンフォード大学とアーク研究所からの論文は、Evo1、 Evo2 と名付けたゲノム進化だけを学習させた生成AIモデルに、大腸菌に感染できるファージウイルスゲノムを生成させるのに成功した研究で、8月6日 Science に掲載された。タイトルは「Generative design of bacteriophages with genome language models(ゲノム言語モデルを用いてバクテリオファージのデザインを生成する)」だ。
実はこの論文は査読前の論文を発表する BioRxiv に昨年9月に発表されており、そのときから話題をさらっていた。私もそのときから、教材としてこの論文を利用している。そのため、8月6日査読を通って発表された論文を見ると、えらく時間がかかったなという印象だ。2024年に発表された原核生物のゲノムを学習した Evo1 の論文が発表されたときから(https://aasj.jp/news/watch/25610)、ウイルス設計も時間の問題だと思っていたが、実際にはそれから1年で、より広いゲノムを学習した Evo2 を発表するとともに(https://aasj.jp/news/watch/25610)、両方を用いて機能的なファージウイルスを作って見せた研究になる。
一般の人から見ても重要な論文と判断され、日経は昨日の夕刊トップで紹介しているが、論文発表前にも多くのメディアで紹介されている。いずれの紹介記事も、ゲノム生成の方法についての説明には困っているようだが、以前紹介したように Evo1、Evo2 も Chat のような単純な transformer/attention とは異なる、畳み込みと rotary attention を組み合わせて1Mの核酸配列を扱えるように設計したモデルなので、これも含めて紹介していかないと、生物分野でのAI研究の重要性を過小評価してしまうことになる。
まず Evo が目指すのは、DNA を媒体とする情報が集まる潜在空間を形成することだ。そのために、通常の transformer ではないモデル・Stripedhyena を作成し、1Mまでのゲノムをそのまま学習できる様になっている。これにより、これまでの進化過程で起こった様々なコンテクストが潜在確率空間として形成される。生成AIの潜在空間は可能性の空間であり、起こったことを学習していても、この空間から起こっていないが可能な配列を生み出すことが出来る。例えばハムレットの最初「Speak; I am bound to hear」とchatにインプットしても、必ず「Ghost so art thou torevenge・・」と続くわけではないのと同じだ。
Evo1、Evo2 の説明は以前のブログを参照して貰うことにして続けると、この研究ではそれぞれのモデルにゲノム可能性を生成させるときは、まず生成したいタイプ(この研究ではφx174)が属する Microviridae ウイルスゲノムをを多く学習させるファインチューニングを行う。このファインチューニング配列には Microviridae である事とφx174 との相似性を示すトークンを加えている。こうして、進化確率空間の内部に印が付けられる。
次に、ゲノムを生成するときには Microviridae という特殊トークンと欲しいゲノムの φx174 との相似性を表すトークンに続いて、Microviridae の5‘に保存されている遺伝子配列をインプットしている。同じインプットを入れても、アウトプットが異なるのが確率空間の面白い点で、膨大な数のアウトプットが生成される。面白いのは、この最初の遺伝子配列の長さを変えてやる実験を行って、Evo1 で予測させるときは6個並べれば良いが、Evo2 の場合は9個並べる必要があることを示している。理由については述べられていないが、このような結果はモデルが形成している潜在空間を理解する意味で重要に思える。
我々が Chat と向き合うときには、何万もの答えの中から選ぶことはしないが、この研究のもう一つのポイントは、出てきたゲノムを徹底的に評価して選ぶという過程を行なっている点だ。すなわち、Evo だけでは終わらず、たとえばウイルスらしさ、GC の使い方、長さ、などなど多くの条件でアウトプットを自動的に選ぶための様々なソフトを開発している。φx174 の場合、ゲノムの長さ、遺伝子の配置、GC 含量、遺伝子オーバーラップ、ゲノムの構造などをチェックして、最終的に200程度に絞っている。
あとは、機能的ウイルスゲノムかどうか、想定した系統の大腸菌にまず遺伝子だけを導入し溶菌がおこり、その上精をもう一度大腸菌に加えて感染性があるかどうかを調べ、16種類の機能的ゲノムを分離している。これらは最初指示した通り、φx174の配列とは95%以下になっている。すなわち、全く新しいゲノムが生成されている。ただこうして生まれるゲノムは進化可能性が生成されたもので、決して新しい設計というわけではない。
こうして得られたウイルスの中には、φx174 よりも高い感染性を示すものもあり、しかも大腸菌の方で抵抗性が獲得されると、それに対する抵抗性を自然に進化させる能力があり、全く通常のウイルスと同じだ。
全ゲノム配列を調べる中で、自然にイントロンのような配列が挿入されており、それを除くとウイルス活性が落ちるようなケースも見つかっている。個人的な解釈だが、イントロンの進化などについても研究可能性があるように思えた。
結果は以上で、できたウイルスについての詳しい解析は割愛したが、次の目標は自立生命の設計だろう。
2026年8月7日
ミクログリアが胎児期の卵黄嚢から発生時期に脳に移動して、後は脳内で自己再生し、骨髄からの新陳代謝がないことは広く受け入れられているが、この研究は私の研究室の Igor Samokhavlov 君とシンガポールから共同研究に来ていた Ginhoux 君の発見で、短い期間に Igor の実験系から重要な実験を成し遂げたのは本当に感心した。
ただ、高齢者の血液で見られるクローン性造血が追跡されるようになり、場合によっては骨髄細胞が脳のミクログリアを置き換えられることがわかってきた。実際 CSF-1 受容体をブロックしてミクログリアを除去すると、人間でも骨髄細胞からミクログリアを置き換えられることを示す研究も発表されている(https://aasj.jp/news/watch/27099)。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、生理的な条件でも骨髄細胞からミクログリアがリクルートされることを、高齢者に自然に起こるクローン性造血発生を利用して調べた研究で、こうしてクローン性造血細胞で置き換わることがアルツハイマー病を予防することまで示した点でおもしろい。タイトルは「Somatic mutations reveal the ontogeny of microglia in human aging(体細胞突然変異は高齢者のミクログリアの発生を明らかにする)」だ。
この研究では、コホート研究として死後解剖で脳組織が保存され細胞レベルの解析が可能な検体の末梢血の全ゲノム解析を詳しく行い、一定の割合で発見されるクローン性造血に対応するゲノム変異を特定している。この中には直接増殖を促進する変異もあるが、多くのケースでは明確なドライバー変異はなく、またいくつかの変異が時間とともに積み重なっており、クローン性造血は発生から後の過程をゲノム変異から追跡することができる。
こうして特定した変異が、脳の実質に存在するか調べると、同じ変異を持つ細胞が脳実質に存在することを確認する。即ち、クローン性造血を始めた細胞が脳実質にも存在する。そして、この現象は決して明確なドライバー変異が存在するクローンに限らず、少なくともクローン性造血として特定できる細胞の一部は脳に浸潤していることがわかる。
次は脳内に浸潤しているクローン性造血細胞は血液細胞のうちどの細胞になっているのかを調べるため、脳細胞核を Atack-seq で解析して細胞の種類を特定するとともに、ゲノム配列から特定した遺伝子変異が存在するかどうか、変異部位をキャプチャーする方法で調べている。結果は、クローン性造血で特定される変異はほぼ全てミクログリアに存在しており、ミクログリアが高い効率でクローン性造血細胞で置き換わることを明らかにした。
クローン性造血細胞で置き換わったミクログリアの比率はまちまちで、多くは25%ぐらいだが、なんと75%のミクログリアがクローン性造血細胞で置き換わったケースも存在する。また、末梢のクローン性造血とミクログリアを置き換えたクローン性造血はほぼ正比例しており、血液でクローン性造血が増えたあと、ミクログリアへとリクルートされるのもわかる。また、時間がたつほどミクログリアがクローン性造血細胞で置き換わることもわかる。
置き換わりの速度を調べるために、骨髄移植を受けたあと亡くなった患者さんの脳と末梢血を、特にミトコンドリアの変異について single cell level で調べている。即ち、ミトコンドリアの変異を解読すると同時に Atac-seq で細胞種を特定する実験を single cell level で行っている。おもしろいことに、このケースでは脳ではT細胞とミクログリアにだけ見られるミトコンドリア変異が、血液では他のクローン性造血細胞で置き換わっていたことで、脳に早く入ってきたクローンが血液とは独立に残っているという発見だ。即ち、脳内でのターンオーバーはそれほど早くない。この患者さんの場合骨髄移植後20ヶ月で亡くなっていることから、2年以内にかなりの細胞が置き換われることを示している。
最後はこの研究の最大のハイライトで、アルツハイマー病 (AD) コホートで集められた脳と末梢血からクローン性造血細胞のミクログリアへの寄与率を調べ、ミクログリア内のクローン性造血、特にドライバーのはっきりしないクローン性造血細胞の割合が増えるほど、AD 発症が抑えられることを示している。通常、クローン性造血細胞は悪い細胞の代表として語られるのだが、AD に関しては全く逆でおもしろい。ともかく脳内のミクログリアを置き換えれば ADの進行が抑えられると考えればいいのだろう。本当ならおもしろい仕組みだ。
2026年8月6日
つい3日前に L1トランスポゾンが何故X染色体に多いのかについて研究した論文を紹介したばかりだが(https://aasj.jp/news/watch/29317)、今日紹介するテキサス大学とコロンビア大学からの論文は、L1が免疫グロブリンの遺伝子変異を促進し高い親和性を持つ抗体産生に必須であるとするおもしろい研究で、8月3日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Co-option of retrotransposons promotes antibody diversification(レトロトランスポゾンを利用することで抗体の多様性を促進できる)」だ。
抗体多様性の形成は免疫学の中心課題で、我が国では利根川さんや本庶さんなどが20世紀の終わりにしのぎを削っていた課題だ。この中から、本庶先生はクラススイッチと、抗体V遺伝子の突然変異の頻度を高める APOBEC ファミリー分子 AID を発見する。
今日紹介する研究は、多くの抗体 VH 遺伝子上流に L1トランスポゾン、特に活性化が出来なくなったタイプが近接して存在していることに気づいた。そして、これだけ多くの VH と近接しているのは偶然の話ではないと考え、B細胞の機能、特に免疫後リンパ節の胚中心で起こる急速な突然変異誘導に関わるのではと考えた。おそらく最初はプロの勘のようなものだが、さすがと思う。そして、VH 遺伝子上流の L1 を除く実験を行い、期待通り VH の突然変異頻度が著しく低下することを確認する。実際には様々な VH 遺伝子に隣接する L1 を除く実験を行っているが、全てで変異生成が低下する。ただ、影響の及ぶのは L1 の下流にある VH 遺伝子だけで、遠くの VH 遺伝子には全く影響がない。
この段階の突然変異生成はもっぱら AID の作用なので、L1 は下流 VH に AID をリクルートする作用を持つことになる。また L1 はゲノムから見たとき外来遺伝子なので、すぐに HUSH と呼ばれる分子コンプレックスによってサイレンスされる。このことから、AID を L1 下流 VH へとリクルートするのは L1 の動きを感知した HUSH に AID が結合して、リクルートされるのではと考えた。そして、HUSH と AID が複合体を形成して L1 に結合することを CHIP 法と呼ばれるゲノムとタンパク質の相互作用を調べる方法で確認している。
問題は HUSH はサイレントな L1 と結合しないことで、VH 上流の L1 が活性化され転写が始まっている必要がある。しかし、ほぼ全ての VH 上流 L1 は活性化に必要な領域を失っている。そこで考えたのが、抗体の転写を誘導するプロモーターが、逆向きにも働いてL1の転写を誘導する可能性で、RNAseq を詳しく調べると、VH 上流のプロモーターから L1 の転写も誘導されていることがわかった。この活性化状態を検知した HUSH が L1 に結合し、B細胞分化の後期ではそのとき AID が発現しており、HUSH と結合した AID がVHへ選択的にリクルートされることになる。
VH全体を眺めると、L1の存在しないVHも多く存在するが、L1下流の VH と比べると変異頻度は低い。しかし、このような VH の上流に L1 を挿入すると変異の頻度が上昇することから、L1 は免疫反応後期に起こる hypermutation 誘導による抗体の親和性の上昇に必須の働きをしていることになる。
そして、これはヒトやマウスに限ったことではなく、ニワトリを含む多くの種で同じように見られる。即ち抗体遺伝子進化の早い段階でと L1トランスポゾンを利用することが始まり、現在に至っている。特におもしろいのはニワトリで、我々と違い使う VH 遺伝子は一つだけだが、偽 VH 遺伝子との gene conversion で変異を増やす仕組みを持っている。この偽 VH 遺伝子にも L1 トランスポゾンが近接して存在しており、多様化システムにかかわらず、抗体多様化に L1 が組み込まれている事になる。
免疫反応に沿って今回の研究をまとめると、免疫後期胚中心でB細胞がクラススイッチを始めると、AID が発現して、VH とは全く別のイントロンに働きクラススイッチを誘導する。これと平行して、VH 遺伝子上流のプロモーターが強く働くと、L1 の転写が起こり、これに HUSH が結合するが、そのときクラススイッチを終えた AID は VH にリクルートされ、今度はデアミネーションによる hypermutation に関わる。実験的には示されていないが、HUSH は元々クロマチンを閉じる働きがあるので、この時 L1 領域が閉じる過程で AID が VH に運ばれる可能性も示唆される。
以上の過程を見てみると、目的から時間経過まで、なんとうまく L1 が使われいるかに驚くが、L1をジャンクと呼ぶのがためらわれる、進化の妙に感動する。
2026年8月5日
現在病気の診断は、具合が悪くなって医療施設に訪れたとき、あるいは定期検診で行っているが、全てスナップショットの検査が診断の中心になる。ただ、定期検診の場合、時間経過が追いかけられるので、同じ検査でも情報量が多いと考えられる。例えば胸のX線検査だけでも、肺の病気だけでなく、骨の状態などもわかる可能性がある。ただ医者の立場で言うと、そこまで考えて診断をすることは希だ。この問題を LLM にデータを学習させることで、特殊な検査なしに経過から病気を診断する取り組みが進んでいる。
今日紹介する中国温州大学からの論文は、百万人規模のコホート研究データを学習させた Oncoformer が個人の経過を追跡した検査データからガンの種類やステージを予測できるとする研究で、7月27日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Advancing cancer detection and treatment using longitudinal routine clinical data(ルーチンの臨床データを経時的に集めることでガンの発見と治療が進展する)」だ。
ここまでは割とポジティブに紹介してきたが、実際にはこの論文にいい印象を持っていない。同じグループは2025年同じ電子データを用いて老化や様々な病気のリスクを予測できることを示し、このブログでも紹介している(https://aasj.jp/news/watch/27704)。この同じフレームワークをガンの発生予測に特化したのが Oncoformer になる。手法は全く同じ、経時的な検査からガンが予測できてめでたしめでたしと言う論文になる。しかも、胸部レントゲン以外は胃カメラなどの特殊検査は全くしていないのに、様々なガンの種類を予測できる。
この論文には詳しく示されていないので、2025年の論文から184種類の検査項目を見直してみると、例えば末梢T細胞を CD4、CD8 は言うに及ばず、樹状細胞や Treg まで調べている。さらに CEA やシフラなど15種類のガンマーカーも検査に入っている。さらに、インターロイキンは8種類、血液ガス、また便中の血液細胞などが含まれている。このような検査を百万人規模で行った中国パワーに驚くが、検査項目はおそらく高級人間ドックでも行われていない詳細なものだ。論文を読むとルーチン検査を続けておれば早く診断が出来るように錯覚するが、これだけの検査を定期的に行うためには膨大なコストがかかると思う。
前の論文で紹介したように、一人の電子レコードを検査ビジットごとの歴史としてトークン化するなどのアイデアはいいのだが、予測精度を争うのではなく、その背景にあるメカニズムも浮き上がるような LLM の使い方をすべきではないかと思う。
良い例をあげると、Alphafold は構造予測精度で評価されているが、その背景にある Multiple sequence alignment, pair representation が重要で、構造予測なしにこれら進化と構造のコンテクストを利用することすら出来る。この研究でもどの項目が予測に役立ったのかを探索しているが、異なるガンでの寄与度や、実際に時系列でどうだったのか(上昇や下降など)でどうだったのかが全く書かれていない。要するに予測競争だけに終始して、経時的データから何がわかるのかの検討が皆無だ。かわりに Oncoformer では single cell 解析の velocity のように、経過が流れとしてわかりガンへの道筋が見えるとしているが、これも背景を議論せずうまくいったことだけ述べている。
読んでいて正直詳細な結果を紹介する気は失せてしまったので申し訳ない。結局ほとんど文句だけを並べたが、LLM を black box の診断ツール開発だけに使うことは、少なくとも医学研究としてはやめた方がいいと思う。これまで膨大すぎて分析できなかった診断の背景から病気の発生メカニズムが抽出できることが、今後の方向だと思う。その意味で、最終的に診断予測精度だけを議論したこの論文は、LLM の悪い使い方として紹介した。
2026年8月4日
リソゾームは細胞内で発生する様々な老廃物を分解し、またオルガネラのリサイクルを通して細胞代謝を支えている。様々な理由でリソゾームの機能が傷害されるリソゾーム病では、時間とともに細胞機能が傷害され、中枢神経系を始め様々な臓器の不可逆的な障害を引き起こす。これらの治験から、リソゾームから細胞老化を考える研究が行われている。
今日紹介する米国MITからの論文は、老化細胞からリソゾームを直接調整して代謝物を調べ、リソゾーム内に蓄積するシスチンと glycerophosphodiester が、老化と正比例する分子マーカーとして利用できることを示した研究で、7月30日 Science に掲載された。タイトルは「Atlas of lysosomal aging reveals a metabolite signature shared with lysosomal storage disorders(リソゾームの老化アトラスはリソゾーム病と同じ代謝の特徴を明らかにした)」だ。
この研究の最大のハイライトは、老化細胞からリソゾームを精製してきて代謝物を直接調べる方法を用いたことだ。最初は、リソゾーム膜に発現している分子にタグを付け、これを指標に老化マウスの脳、心臓、筋肉、脂肪組織からリソゾームを生成、老化に伴って大きく変化する代謝物を探索している。この直接的実験により、アミノ酸ではシスチン、脂質では細胞膜の脂質が分解する過程で出来る代謝物 glycerophosphodiester (GP) が老化とともに上昇する事を発見する。この変化はリソゾームを精製しないと全く検出できない。
この発見が研究のハイライトで、次はタッグを付けていないリソゾームを精製する方法を開発し、リソゾームを精製さえすれば同じ結果が安定して得られること、さらにマウスだけではなくラットやサルでも同じ結果が得られることを明らかにしている。ただ、サルの場合シスチンは優位の差はなかった。
何故 GP やシスチンの蓄積が起こるのかについてはほとんど解析が行われていないが、老化リソゾームで bis phosphate と呼ばれるコレステロールのリソゾームからの輸送や、リソゾーム内の酵素のコファクターとして働いている分子が蓄積していることも示しているが、明確なメカニズムは示されていない。
代わりに、脳でどの細胞がシスチンや GP の蓄積が著しいかを調べ、最も老化の影響を受けるのがミクログリアで、次いで神経細胞自体であること、一方アストロサイトやオリゴデンドロサイトでは老化による変化はほとんど認められないことを示している。即ち、細胞により影響が全く異なる。
さらに、この変化が細胞老化自体を反映しているのか、他の要因の二次的変化かを調べるため、異なる年齢のマウスからリソゾームを取り出して、シスチンや GP を調べると、見事に年齢と正比例することから、これらの分子は老化度を測るマーカーになることを示している。
最後に、この変化を老化を遅らせる介入で変化させられるかも調べ、カロリー制限によって心臓や筋肉では老化に伴う変化を軽減することが可能だが、脳では全く効果がないことを示している。
結果は以上で、リソゾームを精製して調べたという点がこの研究の全てで後は現象論に終始していると思う。しかし、リソゾームが細胞老化の鍵として働いていることは納得できる仕事だ。
2026年8月3日
このブログでもX染色体不活化についての研究は何度も紹介してきた。ザクッとまとめると、2本あるX染色体のうち Xist と呼ばれるl ong noncoding RNA の転写が片方で始まると、Xist はその染色体を包み込んでクロマチンの不活化を誘導する。逆にもう片方では Xist の転写が完全にメチル化で封印される。しかし、マウスとヒトでは多くの点でメカニズムが異なり、染色体不活化の全貌を理解するのはなかなか難しい。
今日紹介するオーストラリアのクイーンズランド大学と米国ワシントン大学からの論文は、我々のゲノムの中で今も活性化されるとコピーを他の染色体に挿入する L1 レトロトランスポゾンが、なぜX染色体で多く挿入されているのかと言う疑問に向き合うことで、X染色体不活化の生物学を教えてくれる研究で、8月3日 Science に掲載された。タイトルは「X-chromosome inactivation draws L1 mutagenesis to the human X chromosome(X染色体不活化がX染色体の L1 による変異の原因になる)」だ。
L1 トランスポゾンは我々のゲノムの20%近くを占め、今も転写して他のゲノム部位に挿入を繰り返すレトロトランスポゾンだ。この論文を読むまで、L1 は常染色体と比べるとX染色体に2倍以上存在することは知らなかった。この理由を調べたのがこの研究だが、読者としてはこれまで考えもしなかった視点からX染色体不活化について学べることになる。
さて、L1 の活性化と挿入を調べようとすると、安定的に不活化が維持され、L1 の移行が観察できる細胞株が必要になる。もちろん生きた個体の発生過程で調べればいいのだが、ヒトでは簡単ではない。ES 細胞なども利用できるのだが、培養すると不活化が不安定になる。この研究では卵巣の生殖細胞由来の腫瘍細胞株 PA-1 が安定に不活化を維持し、歴史が明確なクローン細胞で L1 の移行を調べることが可能であることを示すところから始めている。即ち、最適の細胞株を得たことがこの研究の成功の一つになる。
次の疑問はX染色体のうち、不活化された方か活性化された方のどちらに L1 が多いかだ。PA-1 は一個の細胞からのクローンで調べられるので、この実験が可能になる。そして、ゲノムやエピゲノムなど様々なマーカーを用いて明確に活性化 X (Xa) と不活化 X (Xi) を遺伝子配列解析で区別出来ることを確認する。
こうして Xa と Xi を分けて L1 トランスポゾンを調べると、L1 の数は Xi で Xa の2倍に達することが明らかになった。
では何故このような差が生まれるかだが、L1 はDNA複製で発生する replication fork と呼ばれる分裂が進行している場所に挿入することが知られており、細胞内での分裂の時間経過がこの差を生んでいるのではないかと考えた。即ち、Xi は他の染色体と比べると分裂時期が遅れるが、これが L1 が挿入しやすい原因でないかと考えた。この可能性を、Repli-seq 等様々な手法を駆使して追求し、Xi は最も遅く複製を始める染色体であることを確認している。また、Xa でも複製開始が早い場所と遅い場所に分けることが出来、L1 は遅い場所に挿入されることがわかった。即ち、L1 は同じ細胞の中で分裂が遅く始まるゲノム領域に選択的に挿入されることがわかった。
さらに重要なことは、L1 は通常不活化されるが、Xa は L1 が活性化されやすい条件が整っており、結果 Xa から転写された L1 レトロトランスポゾンが、分裂時期が遅く replication fork が多く残っている Xi に挿入されることが繰り返すことがわかる。
他にもこの過程に関わる分子基盤について研究を行っているが、割愛していいだろう。X染色体で L1 挿入の結果起こる遺伝病が知られているが、て変異の発生メカニズムもかなり明らかになるのではないだろうか。X染色体不活化の複雑な作用について新しい学びが得られた。
2026年8月2日
アミノ酸代謝はタンパク質合成だけでなく、代謝サイクルのオイルとしても重要で、結果多様な生体機能に関わっている。今日紹介するロックフェラー大学の論文が焦点を当てているアルギニンもT細胞の活性化に重要とされているが、この代謝経路を介する作用と考えられてきた。
ところが今日紹介する論文は、アルギニンは翻訳を介してクラスI – MHC (MHC-I) の発現を調節しており、不足するとガンやウイルスに対するキラー反応を低下させる意外なメカニズムがあることを示した研究で、研究全体のレベルよりは、その意外性で7月30日 Cell に掲載された。タイトルは「Dietary arginine drives codon-dependent MHC class I translation and improves immunity in colon tumorigenesis and respiratory viral infection(アルギニンの摂食はコドン依存性のMHCクラスI抗原の翻訳を介して直腸ガンや呼吸系のウイルス感染を改善する)」だ。
このグループはガンや感染と言ったストレスが組織のアミノ酸濃度にどう影響するかを調べる中で、ガンと呼吸器感染症の両方で強く抑えられるアミノ酸としてアルギニンを特定している。そして、これまであまり指摘されてこなかった、ガンでの MHC-I の発現が低下していることを発見する。発現減少は半分ぐらいだが、キラー細胞はガンを殺しにくくなる。
MHC-I に絞って発現が低下する原因を調べた結果、全ての MHC-I で翻訳活性が低下すること、そしてその原因がリボゾーム上で翻訳される時に、アルギニン tRNA のリクルートが低下することで翻訳が停止するためであることを明らかにする。さらにおもしろいことに、MHC のアルギニンに対応するコドンを AGG に置き換えると、発現が正常化する。即ち、他のコドンを使うアルギニン tRNA 特異的に、アルギニン欠乏の影響を受けて、翻訳が滞る。とすると、何故 HHC-I で強い変化が見られるかだが、MHC-I はアルギニンの頻度が高いため、翻訳が影響されやすいと結論している。一方で、アルギニンの関わる代謝にはほとんど影響がないことも示しており、効果は翻訳レベルでの変化が中心と結論している。
いずれにせよ、組織のアルギニンを上昇させれば、ガンに対する免疫が上がり、低下すればガンの増殖が促進されることになる。もちろん、アルギニンの経口摂取量を上げると大腸ガンの発生は抑制され、減らすとガン発生が促進する。この効果は、MHC-I が機能しないβ2ミクログロブリンマウスで見られなくなるので、ほとんどが MHC-I を介していると結論できる。ただ、食事中のアルギニンだけでなく、組織に浸潤してくる白血球が発現しているアルギナーゼも組織中でアルギニンを分解するため、発ガンを促進する。白血球特異的にアルギナーゼをノックアウトすると、見事に MHC-I の発現が上昇し、腫瘍発生が抑えられる。このように組織中のアルギニン量は複雑に調節されていることがわかる。
最後に Covid-2 やインフルエンザのような呼吸器感染症実験系で、白血球のアルギナーゼノックアウトの影響を調べ、感染への抵抗力がアルギナーゼのノックアウトで上昇する事を示している。もちろん経口的にアルギニンを投与する実験も行っており、アルギニン摂取が感染の症状を抑えることを示している。
以上が結果で、これまで考えられてきた代謝経路とは全く別に、アルギニンが免疫、特にキラー活性特異的な効果を持つことが示された。実験自体はオーソドックスだが、高齢のガン患者にとってはおもしろい論文だ。
2026年8月1日
膜上に設置した孔にDNAを通した時の電流の変化からDNA塩基を区別するナノポアシークエンサーは、長いDNAストレッチを読むことができるシークエンサーとして定着している。この物理的性質を利用して分子を区別する方法は核酸だけでなくアミノ酸にも使える可能性は高く、ナノポアを利用するアミノ酸配列解析法の開発が行われている。このブログでも2021年11月に、オランダ デルフト大学から発表されたポリペプチドをナノポアを通してアミノ酸配列を解読する方法についての論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18292)。
今日紹介する南京大学からの論文は、ポリペプチドを孔を通して解析するという核酸での成功体験を完全に捨て去って、ナノポアをセンサーとして使うアイデアでアミノ酸配列決定法確立に大きく近づいた研究で、7月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Sequential reading of a stepwise-shortened peptide immobilized on nanopore(ナノポアに固定したペプチドを順番に短くすることでアミノ酸配列を解析する)」だ。
アミノ酸配列決定には20種類のアミノ酸を物理的に区別するナノポアが必要になる。このグループは2023年に、自然界に広く分布する非定型抗酸菌の一つスメグマティスの porinAにnickel-nitrilotriacetic acid (NTA) を結合させることで、ナノポアにアミノ酸をトラップすることが出来、この時ナノポアの電流変化を AI を用いて解析することで20種類のアミノ酸を区別出来ることを発表している(Nature Methods Vol21, 92-101)。
この基盤の上にアミノ酸配列を連続的に読み取るためにいくつかの新しいアイデアを実現したのがこの研究になる。この方法では孔の端にあるNTAにアミノ酸が結合しその結果起こる電気的変化を読み取る。従って、ペプチドを穴を通して順番にアミノ酸を読むことは不可能になる。そこで、ペプチドの C末端にシスティンを付加して、これと共有結合するリンカーをナノポアに結合させ、まずペプチドがナノポアに固定されるようにした。こうしてC末端でナノポアに固定されたペプチドのN末端をNTAでトラップして、この時の電気変化を測定し、N末端のアミノ酸を読み取る。
ただ、このままではナノポアは同じアミノ酸に占有されてしまうので、これを切り離して次のアミノ酸へ移るために、N末端のアミノ酸をペプチダーゼで切り離す方法を開発した。実際には、ナノポアを支える膜にペプチダーゼを結合させ、N末端を順番に切り離す方法を開発した。
この結果、12個のアミノ酸が並んだペプチドでも連続的にアミノ酸配列を決定できることを明らかにしている。
問題は自然界のアミノ酸には様々な修飾が加わっていることで、例えばメチル化やリン酸化などが加わっていると、ペプチダーゼが働けなくなるなど、途中で解析が止まる。従って、あらかじめ様々な修飾を外しておく必要がある。ただ将来、修飾に関わらずアミノ酸を切り離せる酵素が見つかればこの問題も解決する。
最後にさらに正確を期すため、3アミノ酸をセットで検出(ABCDEFGという並びを、ABC、BCD、DEF、EFG とセットにして電気的変化を調べる)方法も可能であることを示している。これは余計複雑にするように思えるが、3アミノ酸の並びの総数は高々8000種類なので、AI で正確に区別出来ると考えている。
以上が結果で、穴を通すと言う考えを捨てたことで、アミノ酸を直接ナノポアで解析する方法に大きく近づいたと思う。
2026年7月31日
2024年のノーベル化学賞がタンパク質の生成 AI に授与されたことからわかるように、タンパク質デザインのための様々な AI が生まれている。我々の様な素人は、最終的に少数のモデルに集約されるのかと思っていたが、現実は全く逆で、タンパク質デザインの論文は、研究の目的にかなり特化した AI モデルを開発する方向で進んでいる気がする。最近立て続けにタンパク質デザイン AI モデルを紹介しているが:7月19日(https://aasj.jp/date/2026/07/19)、7月26日(https://aasj.jp/news/watch/29271)、7月28日(https://aasj.jp/news/watch/29282):全て目的特化型の AI の論文だった。
今日紹介するデューク大学からの論文は、このトレンドを絵に描いたような論文で、現在あるタンパク質の機能を保ったまま長さを変化させるための生成 AI の開発で、7月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Miniaturizing and modifying natural proteins with Raygun(タンパク質の大きさを変えることができるRaygun)」だ。
これまで紹介してきた多くのタンパク質デザインは、機能や構造から全く新しいアミノ酸配列を設計していた。この時使われるモデルのほとんどでは、一つのタンパク質をアミノ酸の長さnのベクトル列で表現し、それを transformer のアテンション機能で全体のコンテクストを要約すことで機能や構造を比較しているが、各蛋白質はアミノ酸の数により次元数は異なるため、異なる長さのアミノ酸をそのまま比較すること、例えばヘモグロビンで必要のないアミノ酸をカットして小さなヘモグロビンを設計することは難しかった。
そこでこの研究では、異なる長さのアミノ酸が同じように比べられる潜在空間を新たに加える方法を考えた。すなわち全てのタンパク質を50個のブロックに分けて表現することで、異なる長さのタンパク質を同じ空間で比べられると考えた。例えば500アミノ酸のタンパク質は10アミノ酸ブロック50個のユニット、200アミノ酸のタンパク質は4アミノ酸ブロック50個のユニットと見なす圧縮を行い、同じ潜在空間に分布させている。ESM では一つのアミノ酸残基に1280のエンベッディングが与えられるが、新しい空間では全てのタンパク質は50ユニットなので、各ユニットに1280種類のエンベディングを与えると、64000次元で固定されることになる。
この研究では、Raygun にたった8万種類のタンパク質を学習させて用いている。マスク学習と同じような自己教師あり学習だが、ESM での意味を保ったまま新しい空間へエンコード、デコードできるように、さらにサイズを変えたアミノ酸を作らせてもできるだけ同じ空間位置に来るように学習を行わせている。即ち、アミノ酸の長さを変えること一点に絞った学習をさせている。そして、いくつかのタンパク質から生成された短い配列を比較するファインチューニングを行って、Raygun を完成させている。
後は、ヘモグロビン、ケモカイン、LacZ、mTor から短いアミノ酸を設計させ、アミノ酸は短くなっても AlphaFold3 で予測できる構造が保持されていること、GFP や mCherry のような蛍光タンパク質も、蛍光活性を持つ10%以上短いタンパク質を設計できることを示している。他にも EGF を鋳型に、EGF 受容体の機能を抑制できるペプチドを設計することにも成功している。
結果は以上で、例えばウイルスベクターを使うとき、少し長さを短くしたいと言った時に役立つモデルだと思う。ただ、どこまで一般的に使われるのかには疑問を感じる。とは言え、目的に合わせて計算量の少ない簡易モデルをどんどん開発することの重要性を示す典型的研究だ。
余談だが、意味の冗長性が大きい自然言語と、機能の冗長性の少ないアミノ酸を同じようなモデルで比べることで、将来DNA進化と自然言語を比較するおもしろい視点が与えられる可能性もある。
2026年7月30日
手違いでアップロードできておらず、発表が遅れたため、心配されているようです。手違いで私は正常通り生活しております。
心臓の機能に交感神経や副交感神経が影響していることはだれでも知っている。緊張するとドキドキするし、ゆっくり呼吸してリラックスすると脈拍を落とせる。ただ、先日心房細動の後頻脈が何時間も続いたときは、副交感刺激をトライしてみたがあまり効果がなかった。ところが頻脈が続いたまま病院から炎症再生医学会で講演させて貰っていると、10分ほどで頻脈は収まったので、驚いて主治医が見に来てくれた。要するに、心臓はペースメーカー、伝導系、心筋がまとまった独立系以上の複雑なシステムで、まだまだ理解できていないことが多い。
今日紹介するイエール大学からの論文は、まさにタイムリーに心臓に存在する神経回路の存在を私に教えてくれたおもしろい研究で、7月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「The intrinsic cardiac nervous system is essential for cardiac function and survival(心臓内の固有の神経回路は心臓の機能と生存に必須)」だ。
心臓内の固有神経システム (ICNS) は一般にも知られているが、実際の機能に正面から取り組んだ研究は少ない。この研究では心臓内の神経細胞をラベルして FACS で純化後、single cell RNA sequencing で解析、遺伝子発現から4種類の集団に分け、そのうち大きな2種類の集団をニューロペプチドY (Npy) と、NO合成酵素 Ddah1 を分子マーカーとして区別することが出来ることを発見する。
それぞれの神経の心臓内の投射を調べると、Npy 神経は心臓に広く分布しているが、特に大動脈機部と洞房結節に多く投射している一方、Ddah1 神経は、洞房結節、房室結節、肺静脈、肺動脈に投射し、いずれも心臓のリズムや機能と深く関わることが示唆された。
次にそれぞれの神経の機能と脳の自律神経支配を調べている。Npy 神経は副交感神経から投射を受け、Npy 神経自体の刺激により副交感神経刺激と同じ心拍数の低下を誘導することができる。また、ジフテリアトキシンを発現させて Npy 神経を除去すると、副交換刺激剤の作用が消失する。ただ、副交換刺激をただリレーしているだけではないことが、Npy神経を除去したマウスを長期に追跡すると明らかになってくる。即ち、Npy 神経がないと全てのマウスは心拍数が低下し続け、特に拡張期の血圧が強く抑制され、1週間で死に絶える。
この生理学的原因を探っていくと、大動脈基部での力学的コントロールに必須で、Npy 神経がないと大動脈弁閉鎖に対応する dicrotic notch が無くなり、弁が閉じた後大動脈圧が急速に低下し、結果、冠動脈への血流が低下することがわかった。即ち、大動脈基部に分布するNpy神経は、自立的に大動脈基部での力学的機能維持に関わっており、生命に必須であることがわかった。
一方、Ddah1神経は直接交感神経と結合しているが、驚くことにこの神経系をディフテリアトキシンで除去しても、マウスは正常に生存する。素人から見るとよく見つけたなと思うのだが、このマウスも、狭い場所に閉じ込めるストレス、あるいは37度という熱い環境で飼育すると、徐々に死に始める。即ち、ストレスに弱くなる。その生理学的原因を調べると、ストレスによる交感神経緊張に対して、心拍数の上昇が抑えられず、そこから不整脈、そして心室頻脈へと発展することがわかった。逆に、強いストレスにさらされたときDdah1神経を刺激すると、抵抗力が上がり生存率が高まることを示している。即ち、Ddah1 神経系は、心臓の様々なストレスに対して心機能のホメオスターシスを守る働きがあることが示された。
結果は以上で、心臓内の神経回路を理解することで、正常及び異常状態での心機能についての新しい視点が生まれることがよくわかる。それぞれの神経と伝導系や心筋との関係についてはこれからの問題だが、研究が進むに従い新しい不整脈などに対する治療が生まれることは間違いがない。また、アブレーションと言ったある意味乱暴な方法から、より特異的な治療方法の開発にも道が開ける気がする。