5月6日:CAR―Tを進化させる(5月31日号Cell掲載論文)
AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ

5月6日:CAR―Tを進化させる(5月31日号Cell掲載論文)

2018年5月6日
CD19に対する抗体の細胞外部分と、T細胞受容体の細胞内部分を合体させた遺伝子を自分のT細胞に導入して、CD19を細胞表面に出しているがん細胞を殺す治療(キメラ抗原受容体T細胞治療:CART)をこのブログで最初に紹介したのは、2014年10月だった(http://aasj.jp/news/watch/2309)。もう手の施しようがなくなっていたリンパ性白血病の患者さんの半数が完全寛解したことを読んで私も興奮し、がんに対する免疫システムの力を確信した。実際、昨年ノバルティスはこの時報告されたCAR-T療法の認可をFDAから受けた。さらに米国では他の2社もT細胞受容体部分を少しづつ変えたCAR-Tに参入する賑々しさだ。

しかし、CAR-Tもまだまだ改善の余地がある。まず、がん特異性をさらに高める必要がある。さらに、固形がんに対する有効性を高めないと、治療は一部のがんに限られる。そして、キラー活性を必要ならオフにしたい、などなどだ。すでにがんに対する免疫系の力は示されたため、今や多くの研究室でこの課題解決の様々な方法が試みられ、論文に発表されている。

今日紹介するボストン大学からの論文はこの研究分野で進んでいる開発競争の典型で、5月31日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「Universal chimeric antigen receptors for multiplexed and logical control of T cell responses(T細胞反応の多用途で論理的な調節を可能にする普遍的CAR-T)」だ。

現在使われているCAR-TはT細胞を活性化させる細胞内領域が、ガン抗原に反応する細胞外の抗体部分と直接結合したキメラ受容体を発現しているため、シンプルだが一旦キラー活性が発揮されると制御は全く効かない。この点を改善するため、ガン抗原に対するキメラ抗体と、T細胞に導入するキメラ受容体を切り離し、ガン抗原を直接T細胞の標的にするのではなく、がんに結合するキメラ抗体上に別の標的分子をのせて、それをT細胞が特異的に認識する方法が様々な研究室で開発されていた。この方法だと、もしキラー活性を抑える必要が生まれた時、T細胞が認識する標的抗原を抗体から切り離して注射すると、T細胞活性を中和することができる。

今日紹介する論文も、基本はガン抗原認識と、キラー活性を切り離して、制御性を上昇させるというこれまでのアイデアの点では全く同じだ。ただこの研究では、ガン抗原を認識する抗体と、T細胞上の受容体に、転写因子同士が結合するときに使われるロイシンジッパーをカセットとして用いたアイデアが最大の売りになっている。細胞外での分子同士の反応には細胞外の分子を利用しようと思うのが普通だが、代わりにロイシンジッパーをカセットにする考えついた時点でこの研究は完成したと言える。これにより、ロイシンジッパーカセットが、細胞外の分子と反応する心配はなくなる。
これまでの報告を凌駕する制御性が獲得できるということが結論になっている。では何が具体的にできるのか、いかに列挙しておく。

1) 抗体部分の特異性や親和性を変えることで、同じロイシンジッパーを用いてもキラー活性や特異性を変えることができる、
2) ロイシンジッパーのコンビネーションを変化させ親和性を変えてもキラー活性を変化させられる。
3) ロイシンジッパーの親和性を落とした抗体部分を使うと、キラー活性を中和することができる。
4) がん細胞上の2つの抗原に対して同時に攻撃できる。
5) 異なるガン抗原の発現パターンを選んでがんを殺すことができる。
6) T細胞受容体と、T細胞の補助シグナルを同時に活性化でき、がん細胞周囲でのサイトカイン分泌を制御できる。
7) CD4,CD8細胞を同時に調節できる。

など様々な免疫機能の操作が可能なことを、マウスモデルで示している。もちろん、ここのアイデア自身はそれほど画期的とは言えないが、ロイシンジッパーに思い当たったこと、そしてそれを用いてあらゆる可能性に一度に対応できる方法に仕上げた力が評価されたのだと思う。同じ方法をうまく使って、おそらくT細胞の浸潤を操作したりできるようになると、固形がんへの応用も進むと思うが、治療にかかるコストが無限に上昇するのではと心配にもなった。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月5日:IgA欠損症の腸内細菌叢(5月2日号Science translational medicine掲載論文)

2018年5月5日
免疫システムは体内に侵入した病原体に対して働く専守防衛が原則だが、例外はIgA反応で、腸管などの体腔に分泌され、体外で働いている。ところが遺伝的にIgAが欠損しても、腸管などで激しい炎症が起こるというわけではなく、ミサイル能力はあまり意味がないのではと考える人もいた。ところが最近、腸内の細菌叢をIgAの結合している細菌と結合していない細菌に分けると、結合している細菌は病原性が高いことを示す論文が発表され、IgAの機能を再検討する必要が生まれていた。

今日紹介するソルボンヌ大学からの論文はIgA欠損患者さんと正常人の腸内細菌叢を調べ、この問題を明らかにしようとした研究で5月2日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Microbial ecology perturbation in human IgA deficiency(IgAの欠損した人の細菌叢生態の乱れ)」だ。

この研究では、まず20人の血中IgAが欠損した人たちを選んで健康状態を調べ、消化管の症状の程度がまちまちであることを確認する。すなわちIgAがないからといって、必ずしも消化管症状が出るわけではないことを確認している。

そこで腸内細菌叢が正常人と違っているか調べると、腸内細菌叢の多様性は正常人とほとんど違いはないが、IgAが欠損する人に共通に増える細菌種と減る細菌種があることがわかった。特に、抗炎症性のバクテリアは低下し、炎症を惹起するバクテリア種は増殖している。面白いのは、IgAが欠損する人では口内細菌が腸管に見つかる点で、今後重要な研究課題になるように思う。正常人の細菌叢はIgAを惹起する細菌と、惹起しない細菌に分けられるので、この差がIgA欠損症で増減する細菌と関係があるかを次に調べているが、確かにその傾向は認められても、これで決まりだという歯切れのいい結論にはなっていない。これは何千もの細菌種を扱う細菌叢研究の特徴で、大きな集団を相手にして最終的因果性を決めることの難しさを物語っている。IgA欠損という特殊な状態を調べた研究から決定的なことが学べるかと期待したが、そこまでのインパクトはなかった。

歯切れの悪さの原因の一つがIgA欠損をIgMが代わりをして、抗体の管腔内分泌が免疫原性の高い菌を抑える可能性も検討しているが、これも傾向は確かに見られるが、これで決まりと歯切れよく結論できない。結局細菌同士のネットワークが変化して炎症性の細菌が増加している点も加味して総合的に理解すべきとしている。

結局IgA分泌が炎症を抑えているかについては、IgAを分泌することで細菌叢のバランスが維持されてひどい炎症になるのを防ぐという結論に思える。IgA欠損症の細菌叢の包括的研究という意味では、重要な研究だし、例えば口内細菌の腸管への移行など面白い問題も見つかってはいるが、まだまだ群盲象を撫でるという印象が強い。今後、母親の抗体をミルクから供給する段階から、自分のIgAにスイッチした後での最近叢の変化を調べることも含め、さらなる研究が必要だと思った。

読んでいるうちに、専守防衛ではなく、敵地攻撃ミサイルも有効かなど、今の我が国での議論を見るような気がしたのは、連想がたくまし過ぎるか?
カテゴリ:論文ウォッチ

5月4日 パーキンソン病の神経科学(Natureオンライン掲載論文)

2018年5月4日
私たちのNPOはなぜかパーキンソン病の患者さんたちとの交流が多いが、付き合ってみると、再生医療でドーパミン神経を再構成させるという根本的治療だけでなく、もっと生理学や薬理学に基づいた、対症療法も大事なことがつくづくわかる。そしてそのためには、パーキンソン病でおこる神経細胞の変化を深く理解する必要がある。

一般的医学として習うパーキンソン病の生理学は、かなり大雑把なもので、「視床・皮質運動回路は、脳の様々な情報が集まる大脳基底核の調整を受けており、この調節はドーパミンが抑制性に、アセチルコリンが興奮性に働いてバランスを取っている。パーキンソン病ではこの抑制が外れるため、基底核が興奮して筋肉が緊張し、震えがくるため運動が障害される」と習う。この知識をやりくりして、患者さんと話したりしているが、患者さんの症状をこれだけで明確に説明できることはまずない。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、マウスの基底核の有棘神経細胞集団の興奮を長期間観察し続けてパーキンソン病の生理学の基礎を確立しようとした論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Diametric neural ensemble dynamics in parkinsonian and dyskinetic state(パーキンソンとディスキネシア状態での相反する神経集団の統一的動態)」だ。

運動の視床皮質回路を抑制的に調節している基底核は、2種類の有棘神経細胞によりバランスが取られている。一つは淡蒼球内節を介して直接視床に影響するdirect pathwayの神経細胞で、もう一つが淡蒼球外節・視床下核を介するindirect pathwayで、この2種類は互いに拮抗していると考えられている。この研究では基底核のdirectおよびindirect有棘細胞集団(dSPNとiSPN)を生きて活動しているマウスで、それぞれを区別して連続的に観察し、運動時、ドーパミンが欠乏したパーキンソン状態、ドーパミンが高まったディスキネジア状態など様々な条件で調べている。基本的には、神経を記録しただけに見える論文だが、多くの細胞を同時にモニターすることがどれほど大変かがひしひしと伝わる研究だ。しかし、この領域でのスタンフォード大学の貢献は群を抜いている印象がある。

詳細を省いて結果をまとめると、
1) dSPNとiSPNはほぼ同じようなタイミングで活動しており、決して反応にずれはない。
2) ただ、運動が始まる前には、興奮するdSPN,iSPNが一つの領域に集中する。すなわち、抑制と興奮がまとまるように調節を受ける。この結果運動回路の抑制と興奮のバランスが取れる。
3) ドーパミンが慢性的に欠乏しつづけると、iSPNは運動時に興奮が正常化する。しかし、dSPNはそのまま変わらない。従って、急性期とは異なる運動バランス状態が成立する。
4) 急性のパーキンソンモデルでドーパミンの量が減ると、dSPNの興奮が低下し、iSPNの興奮が高まる。この結果、抑制が優位になり、不随意運動が高まる。
5) 一方、ドーパミンを投与されディスキネジアが起こるときは、dSPNが過剰に興奮する一方で、iSPNの活動が全般的に抑えられる。
6) パーキンソン、ディスキネジアのどちらの場合も、dSPNとiSPNの協調的な興奮は全く見られなくなる。
7) SPNの動態でパーキンソン病をモニターしたとき、治療効果が最も高いのはL-Dopaで、2種類あるドーパミン受容体の刺激剤はともにdSPNの活動を抑える。
などだ。

基本的にはこれまで言われていたように、dSPNとiSPNが拮抗的に働くという図式は同じだが、運動前に両方が限られた領域で協調するという現象を見出し、これがパーキンソン、ディスキネシアの両方の状態で分離してしまうことがこの研究のハイライトだろう。これにより、様々な症状をある程度説明できるようになる気がする。いずれにせよ、単純な興奮だけでなく、興奮のクラスタリングをモニターする方法は確立した。是非、ディスキネジア状態から改善するための薬理学に役立ててほしいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

5月3日:磁場を用いた難治性うつ病の治療(4月28日号The Lancet掲載論文)

2018年5月3日
最近の人間の脳についての研究を見ていて驚くことの一つは、磁場や電流を脳の様々な領域に照射して、脳や病気をコントロールする方法の急速な進展だ。侵襲性が少ないことから正常のボランティアにも脳操作が行われ、記憶を促進したり、自分の性格を乗り越えたりする効果があることはこのブログでも紹介した。この方法はシナプスの結合を強める効果があると考えられているが、メカニズムを完全に理解できているわけではない。それなのに、記憶が高まるならと、一般用の機械まで販売される事態にまで至っている。ただ、論文を読んでいると、物理的刺激にも関わらず効果が長く続く。もしシナプスの結合に変化があるとするなら、複雑な脳内で何が起こっているのか完全に予測することは難しく、私は正常な人に使うのは当分控えたほうがいいと思う。

一方、これもメカニズムは完全に理解できたわけではないが、病気の治療への応用は目覚ましいものがある。中でも、お薬で治療が難しいうつ病の治療に対する経頭蓋磁場刺激(TMS)による治療法は、臨床治験を経てFDAにも承認され、わが国でも保健は適用されていないものの昨年薬事承認された。ただ、FDA に認可されている方法は(10Hzの磁場を6000回近く照射する)一回の治療に約45分はかかるため、治療できる人数が限られており、わが国だけでも100万人以上と推定されているうつ病の治療とし普及するにはもっと短いプロトコルの開発が必要だった。

今日紹介するカナダ・トロントにあるCenter for Addiction and Mental Healthからの論文は、FDAで認可されている10Hzの磁場を38分かけて照射する方法と、その後効果が確認されたTheta burst stimulation(TBS:50Hzの磁場を0.2秒間隔で3分間照射する)方法を比べた無作為化臨床治験研究で4月28日号のThe Lancetに掲載された。タイトルは「Effectiveness of theta burst versus high frequency repetitive transcranial magnetic stimulation in patient with depression: a randomized non-inferiority trial(うつ病患者さんに対するtheta burst法と高頻度反復性経頭蓋磁気刺激法の比較:無作為化非劣勢試験)」だ。

今回対象に用いた患者さんはハミルトン尺度と呼ばれる自己申告に基づく基準値が18以上で、一般の抗うつ剤の効果が見られなかった患者さん414名を無作為化して、FDAが認可したTMS法と、新しいTBSに振り分け週5日照射を4週間続けている。

TMSをうつ病治療に用いた治験論文を読むのは初めてだが、確かに驚くべき効果だ。TMSもTBSもともに、ほぼ半数に効果がみられ、3割が寛解している。ハミルトン指標も平均値で最初の24程度から、14程度に低下し、少なくとも効果は1週間続いている。これまで抗うつ病治療を続けていた患者さんであることを考えると、素晴らしい結果というほかない。ただこの研究の目的は、磁場治療自体の効果ではなく、従来のTMSとTBSを比較することで、この点については効果に差がないという結果だ。しかし、TBSが3分の照射で済むことを考えると、一台の機械で治療を受けられる人数は10倍近くに増やすことができる。こうしてみていくといいことづくめの経頭蓋磁場照射だが、頭痛が65%の人で起こるなど、副作用も間違いなくある。幸い、4週間の治療期間でドロップアウトするほどではなかったようで、なんとか耐えられるレベルの副作用だ。もちろん、抗うつ剤と比べても、だいたいコントロール可能な程度でおさわっているのだろう。

とはいえ、効果のメカニズムが完全にわからないのはやはり気になる。TBSはともかく、TMSについてはかなり症例数も増えてきているはずだ。今後できるだけ早く、自殺率や再発の有無など長期的な経過とともに、MRIによる構造学的変化の追跡など、反応した人のゲノム解析などより踏み込んだ解析結果が発表されることを願っている。うつ病領域でもう一つのトピックスは、麻酔薬ケタミンが注射後24時間でうつ病症状を改善させるという結果だ。これについては、動物実験で少しづつメカニズムがわかってきている。ぜひ、この治療との比較研究も行い、最も安全で確実な治療法を開発してほしい。
カテゴリ:論文ウォッチ

5月2日:体内代謝物イタコン酸には抗炎症作用がある(4月25日号Nature掲載論文)

2018年5月2日
最近、体内で分泌されて炎症を誘導するTNF, IL-6, IL-17など様々なサイトカインに対する抗体療法が開発され、炎症治療は大きく変化した。しかし、それ以前はステロイドホルモンか、抗炎症剤と呼ばれる化合物が治療の中心だった。このうちの最も歴史が古い薬剤がアスピリンだが、この化合物は、体内で合成され炎症を誘導する物質で最も有名な分子はプロスタグランディンで合成を抑制することがわかっている。

アスピリンから抗体治療まで全て体内で分泌される炎症誘導物質の機能をおさえるのが炎症治療の中心だが、体内では炎症を抑える物質も合成されており、それを抗炎症剤として使えることを2016年ワシントン大学のグループが発表した。これがイタコン酸だ。この研究によると、イタコン酸はLPSなどによる刺激を受けたマクロファージで特に産生が高まり、TCAサイクルのコハク酸でハイドロゲナーゼを抑えることでコハク酸の合成を高めて炎症を抑えることが示された(Cell Metabolism 24:158, 2016)。すなわち、体内に備わった炎症のフィードバック機構になっている。

今日紹介する論文は2016年の研究の続きで、イタコン酸の作用はコハク酸の上昇だけでは説明しきれず、実際にはこれとは異なる新しい経路で抗炎症作用が発揮されていることを示した研究で 4月25日号のNatureに掲載された。タイトルは「Electrophilic properties of itaconate and derivatives regulate IκBζ-ATF3 inflammatory axis(イタコン酸とその発生物質の求電子的性質がIκBζ-ATF3を介する炎症経路を調節する)」だ。

この研究では、コハク酸による炎症抑制以外の経路を探索するため、イタコン酸を処理したマクロファージで誘導される分子を調べ、イタコン酸処理により求電性の物質や外来の化学物質により細胞がストレスにさらされた時の反応と同じ経路が活性化されていることに気づく。そして、このイタコン酸により誘導されるストレス反応の原因が、ストレス物質を中和するグルタチオン(GSH)にイタコン酸が結合して、GSHがストレス物質を中和するのを抑制するため、ストレスが上がってしまうことを明らかにしている。そして、求電性のストレス分子が蓄積すると、不思議なことにLPSによる刺激のメディエーターIκBζの翻訳が特異的に抑制され、炎症が抑制されることを示している。

あとは、なぜ求電性物質によるストレスが、炎症を抑えられるのか検討し、
1) イタコン酸処理によりストレスが上昇すると、マクロファージ内でATF3が誘導される。
2) ATF3の作用によりeIFαがリン酸化されると、IκBζの翻訳がなぜか特異的に低下する。その結果、LPSによる炎症反応は抑制される。
3) LPSなど自然免疫による炎症時にイタコン酸が合成されるのは、体内に備わった炎症を抑える自然のフィードバック機構になっている。
4) 同様の効果は、イタコン酸でケラチノサイトを刺激しても見られる。
5) イタコン酸はLPSだけでなく、IL-17のようにIκBζを活性化することで起こる炎症を抑える。
以上、なぜ翻訳が特異的に抑えられるのかなど明らかにならない部分も残っているが、イタコン酸を体が備わった抗炎症剤として働くメカニズムを理解した上で、TLR7/8 刺激によるマウスの乾癬モデルを細胞内に浸透できるイタコン酸の派生分子で治療できるか調べて、期待通り炎症をほぼ完全に抑えることを明らかにしている。

もともとイタコン酸は細胞内で産生されており、食品安全委員会などから安全と認可された分子だ。したがって、この論文の結果はすぐに実際の臨床現場で調べ直すことができる。おそらく当面は、動物モデルで有効性を示すことができた乾癬の治療に使われるのではと期待される。難治性の乾癬もサイトカインの抗体などで抑制できるようになってきたが、もし細胞の中にある単純な代謝物にこれほどの効果があるなら、新しいメカニズムの治療として期待できる。本当の意味で

自然治癒の仕組みをうまく利用した、安全な治療法の開発が成功するか期待を持って見ていきたい。
カテゴリ:論文ウォッチ

5月1日:クリスパーの新しい利用法(4月27日号Science掲載論文)

2018年5月1日
我が国ではクリスパー=遺伝子編集として報道されることが多い。しかしクリスパーとは外来の核酸の侵入に対する特異的免疫機能に他ならず、特異的にDNAやRNAの配列を記憶し検出する機能が系の共通の条件で、あとの機能は自由自在に組み合わせられるという本質が忘れられてしまう。しかしこの根本を理解した上でこの系の機能的多様性を巧みに利用して遺伝子編集以外の様々な用途にこのシステムを使おうとする研究者が数多く存在している。例えば、生きた細胞の核の中で、ある特定の遺伝子がどこに位置しているのか連続的にモニターすることができるのは、CASがクリスパーRNA(crRNA)が結合するゲノム領域に結合できるからで、CASの本来の機能を除去し蛍光タンパク質を結合させれば特定の遺伝子の核内の位置を知ることができるというわけだ。このように、crRNAと標的の特異的結合だけに結合するCas分子の基本の上に、核酸に対する働きかけはCasごとに異なっていることから、その活性をうまく利用することで、「びっくりおもちゃ箱」のように新しいアイデアを刺激し、思いもかけない可能性が示されてきた。

今日紹介するこの分野の開拓者Doudnaさんの論文は通常用いられるCas9とは酵素活性が異なるCas12を研究する中で、これをウイルスなどの特異的遺伝子の高速・高感度検出に使えることを示した研究で4月27日号のScienceに掲載された。タイトルは「CRISPR-Cas12a target binding unleashes indiscriminate single stranded DNase activity(CRISPR-Cas12aの標的への結合は非特異的一本鎖DNA分解酵素活性を解き放つ)」だ。

crRNAとDNAが結合した時、多くのCasでは、それを認識して例えばDNAを切断するなど、一つの機能を発揮する。これに対し、同じようにDNAをカットしたあと、これにより変化したcrRNAの構造をスイッチとして使って、全く新しい機能を発揮する2重機能をもつCasの存在が、の2016年,やはりこの分野の開拓者Charpentierさんたちのグループが発見していた。

今日紹介するDoudnaさんたちの研究では、Lachnospiraceaeという細菌種から新しいCas12aと呼ぶ新しいCasを精製し、その酵素活性を試験管内で調べるうちに、この分子がcrRNAが結合した標的DNAを切断するだけでなく、同じ反応系に存在する全ての一本鎖DNAを完全に分解してしまうことに気づく。しかも、この一本鎖DNAは標的と全く関係なくても分解されることがわかった。

生化学実験から、このCas12aがcrRNAとDNAの結合を認識して標的にカットを入れてcrRNAが変化するとカットされた基質がスイッチになって、全ての一本鎖DNAを分解する酵素活性が新たに誘導されることがわかった。2重鎖DNAが標的の場合、この活性化にはPAM配列と正確なcrRNAと標的の一致が必要だが、一本鎖DNAを標的にする場合は、DNAとcrRNAが結合しておれば十分なことが明らかになった。即ち、新しい酵素活性の誘導自体は、crRNAと標的一本鎖DNAが結合して居れば良いが、2重鎖DNAが標的の場合はcrRNAがCas12aを活性化できるよう変化する必要があり、そのためには配列特異性とPAMを介した特異的標的DNAのカットが必要になる。極めて精巧な酵素だとつくづく感心する。
そして最後に、このcrRNAと標的DNAで活性化できる一本鎖DNAを分解する活性は他のバクテリアのCas12aにも存在することを確認している。

以上から、Cas12aが持つ無関係の一本鎖DNAを分解してしまう活性を、crRNAと標的DNAの特異的結合により制御できることがわかる。そこで、この特性を利用するとウイルスなど外来のDNAの高感度の検出法が開発できると着想して、ヘルペスウイルスを例に、これが実現可能であることを示している。

詳細は述べないが、方法は以下のようなものだ。先ず生化学的検討から明らかになった、ウイルスに対する至適なガイドRNAを合成する。次に、ウイルスDNAを増幅して、そこにガイドRNA とCas12aを加える。ガイドに一致するウイルス配列があると、特異的にCas12aの一本鎖DNAに対する分解酵素活性のスイッチが入る。ここに、切断されると蛍光を発するようにした一本鎖DNAを加えておくと、反応液が蛍光を発するという段取りだ。これを用いて、微量なヘルペスウイルスを極めて高い特異性で検出できることを示して論文を締めている。

Doudnaさんの論文と同時に、もう2編、同じ趣旨の論文が同じScience に掲載されており、この分野でいまも熾烈な競争が繰り広げられているのがわかる。ただ、検査法の開発だけでなく、Cas12aの生化学がわかりやすく示されているのは、さすが本家のDoudnaさんと言っていいだろう。

しかし、crRNA と標的核酸の結合を検出する共通性の上に、これほど多様な機能を生み出している進化にはただただ驚くだけだ。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月30日:世界中から家系図を集めるGeni.comを科学に(4月3日号Science掲載論文)

2018年4月30日
ずいぶん昔ルーツという、アメリカの黒人が奴隷としてアフリカを出て、アメリカで家族を形成する歴史を描いたテレビ番組が流行ったが、今生きている一人一人は自分のルーツに興味を持っている。わが国でも、名前や自分の先祖に関するテレビ番組は根強い人気があるし、韓国のように家系を重視するがゆえに例えば戸籍に始祖の出身地を書く欄があり、系統を重視するがゆえに夫婦別姓をまもり、各家系図を出版するところさえある。もちろん、ここまでしなくとも、戸籍を追跡すれば現在でも家系図をかなりの程度で書くことができるが、どの国でも戸籍を科学目的で使うことなど以ての外にになる。

しかしゲノム研究が進んで、この家系図の重要性が一段と増している。すなわち、家族関係がわかっているとゲノムデータの情報処理が格段に容易かつ正確になる。従って、病気や形質に対する遺伝と環境の影響を調べる多くの研究では、家族関係がわかっているデータセットを使うことが多い。例えば同じゲノムデータでも、韓国のように家系図が明らかになっている場合では、データとしての価値が格段に上がる。

前置きが長くなったが、今日紹介するニューヨークゲノムセンターからの論文を読んで、個人の自己申告による家系を集めて世界規模の人間のつながりをしらべ、登録した人たちのルーツや親戚を探してくれるGeniという会社があることを知った(https://www.geni.com/corp/)。すでに一億におよぶ家系に関するプロファイルが集まっており、そのうち半分近くは他のプロフィルと結合している。言ってみれば世界の人類のつながりが把握されだしていることになる。この論文では、こうして集められたデータの問題を解決して信頼度を上げたデータセットを抽出し、それを様々な科学的、社会的用途に使えることを示した論文で4月3日号の Scienceに掲載された。タイトルは「Quantitative analysis of population scale family trees with millions of relatives(何百万人もの親戚が集まっている集団スケールの系統図を定量的に解析する)」だ。

自己申告をもとに民間が集めているデータなど不正確で役に立たないと言ってしまえば簡単だが、このグループはこのようなデータに問題はあっても、ソフトを改良し正確なデータに近づけることが可能で、さらにサンプルを抽出してゲノムデータを集めることで、信頼度を検証できると考え、会社と交渉しさらに信頼度の高いデータセットに仕上げている。その上で、ミトコンドリアとY染色体のプロフィルを211系統について調べさせてもらい、母親の記述についての間違いは0.3%、父親でも1.9%にとどまることを確認している。すなわち、アカデミアが入ることでGeniの信頼度が上がったことになる。この結果、登録した人たちの信頼の置ける膨大な関係図が出来上がり、これは何世紀にもわたるデータをカバーすることができるようになった。

次にこのデータがいかに有効かを調べるために、死亡統計についてついて調べ、アメリカで例えば南北戦争、第一次、および第二次世界大戦で若者の死亡率が選択的に上昇していることがデータとして示せること、あるいは人間の死に場所についての世界地図が書けることを示している。

さらに、寿命についての遺伝的影響が、これまで言われていたよりあまり強くないこと、またどれほど広い範囲から結婚相手が選ばれるのか、それに伴い男女のどちらが移動しているのか、子供と親の生活圏の距離についても長期間にわたって(なんと17世紀から)計算できることを示している。

それぞれのデータはもちろん面白く、このデータが今後医学や、社会学、教育学に大きな役割を演じることを予感する。しかし、習うべき最も重要な点は、家族の系統樹というこれまで利用がタブー視され、行政も公開しないデータを、ウェッブを使っていとも簡単に集められることに気づいたGeniやその他の家族系統を調べるベンチャー企業の創業者と、それと共同して科学的データを集められると考えたこの論文の著者らの発想の豊かさだろう。疫学調査や社会学調査というとアカデミアの統計重視主義は、21世紀のネット社会でいとも簡単に乗り越えられてしまうことがよくわかった論文だと感心した。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月29日:ALSの原因の一つFUSタンパクの細胞内沈殿メカニズム(4月19日号Cell掲載論文)

2018年4月29日
細胞の基本的機能の維持に大量に必要とされる分子が多くある。なかでもRNAに結合して様々な機能を調節しているFUSタンパク質は細胞内タンパク質の中で濃度が最も高い分子として知られている。問題は、タンパク質の細胞内濃度がこれほど高いと、細胞内で沈殿を作り細胞死を招く心配があることで、実際FUSの細胞内沈殿はALSやFTD(前頭側頭型認知症)の一つの原因になっている。これまで知られているALSとFTD共通にみられるFUS沈殿の条件はFUS が核へ移行できずに細胞質に停留する異常だが、細胞質でFUSが沈殿する条件については理解が進んでいなかった。
今日紹介するミュンヘンのルードビッヒ・マクシミリアン大学からの論文はこの条件を試験管内、細胞内を行き来しながら突き止めた研究で4月19日号のCellに掲載された。タイトルは「Phase separation of FUS is suppressed by nuclear import receptor and arginine methylation (FUSタンパク質の相転換は核内移行受容体とアルギニンメチル化により調節されている)」だ。
これまでの地道な生化学的研究の蓄積の上にまとめられた論文であることがよくわかる研究で、FUSタンパク質は電荷を帯びているため沈殿しやすいのを、うまく遺伝操作で調節して安定タンパク質を大量に作った後、保護している人工タンパク質を除いて沈殿させるという実験系を実験の基本として使って、この沈殿を防ぐ条件を探っている。

もともと沈殿しやすいタンパク質は、沈殿を防ぐタンパク質(シャペロンと呼ばれる)と結合していることが普通で、これまでの研究に基づき著者らはTNPO1と呼ばれる核内へFUSを移行させる分子が細胞質のシャペロンとして働いているとあたりをつけ、このことを確認している。すなわち、TNPO1は核内へFUSを汲み出すだけでなく、細胞質内でFUSの沈殿を防いでいる。

細胞内でこの過程を調べると、TNPO1 が存在することで、FUSがストレス顆粒に濃縮することを防いでいることが最も大事で、ストレス顆粒内にいこうすると、そこで相転換が起こって沈殿が起こることを明らかにしている。そして、様々な変異タンパク質を用いて、FUSタンパク質のRGG配列とC末端にあるPY配列にTNPO1が結合し、RGGのアルギニンがメチル化されることが、TNOP1結合の重要な要因であることを示している。

この結果をもとに、ALS誘導性のFUSタンパク質を見直すと、単純に核内移行だけでなく細胞質内でストレス顆粒への移行防止も異常化する、ダブルヒットによりFUSが沈殿することを明らかにしている。

ではこれでFUSの変異が原因のALSの患者さんの治療がすぐ開発されるかというと、話はそう簡単ではないだろう。ただ、沈殿が一つの過程で決まるのではなく、様々な過程が条件として必要であるという認識は重要だ。すなわち、治療法開発のための標的過程が増える。その意味で、こういった地道だがプロの研究がトップジャーナルに取り上げられることは重要だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月28日Leptinが作用する神経回路(4月26日号 Nature掲載論文)

2018年4月28日
まだノックアウト技術が普及していない頃は、遺伝的異常を示すマウスや人の突然変異を特定することが遺伝学の重要な課題だった。CRISPRの時代から見ればまどろっこしい時代に見えるが、それはそれなりに面白い時代だったと思う。このような分子遺伝学的アプローチで特定された分子の中でも大ヒットの一つが食欲を抑えるホルモンとして華々しく登場したレプチンだろう。脂肪細胞から分泌され、脳に働いて食欲を抑え、エネルギー代謝を促進し、血糖を安定化するいいことづくしの分子で、おそらく代謝研究を脳科学と結合したという意味では重要な発見だったと思う。

しかしよく考えてみると、その後の進展をフォローしなかったこともあるが、今日紹介する論文を読むまで私の理解もここで止まっていた。この理由は、レプチンの機能や作用標的があまりに複雑すぎ、何がレプチンの直接作用か特定するのが難しかったためのようだ。事実、私がレプチンを初めて知ったのはマウスの毛色に関わるAgoutiの促進作用を持つ分子としてだった。今日紹介するタフツ大学からの論文は、クリスパー技術を駆使してレプチンの作用する神経回路を明らかにしようとする研究で、4月26日号のNatureに掲載された。タイトルは「Genetic identification of leptin neural circuits in energy and glucose homeostasis(レプチンの作用するエネルギーとグルコースのホメオスターシス維持回路)」だ.

教科書的にはレプチンは視床下部のAgouti related peptide(AGRP)を発現する神経細胞に作用するとされていたが、この論文を読むとこの細胞でレプチン受容体をノックアウトしてもマウスの食欲や代謝に大きな変化が起こらず、新しい回路を特定することが急務だったようだ。

この研究では、なるべくレプチンの2次的な作用を拾わないような実験系を探索し、インシュリンの分泌が低下したマウスを用いることで、肥満一般の作用を排除してレプチンに反応する神経を特定しようとまず試み、弓状核(ARC)内のAGRP分泌 ニューロンがレプチンに直接反応する神経細胞であることを特定している。

この結果は、AGRPニューロンでレプチン受容体をノックアウトしても異常が起こらないという結果と矛盾する。しかし、アデノ随伴ウイルスベクターで局所的にノックアウトする方法を用いてAGRPニューロンでレプチン受容体遺伝子をノックアウトすると、レプチンの代謝や食欲への効果が完全にブロックできたことから、AGRPがレプチンの作用を媒介することは明らかになった。この矛盾を探るためにAGRPニューロンの作用の調節機構を、局所でのクリスパー技術と一般的ノックイン技術を組み合わせて特定の神経の遺伝子を自由自在にノックアウトする方法を駆使して、AGRPニューロンでのレプチンの作用をKチャンネルが促進すること、さらにこのニューロンをレプチンによりポジテッィブに刺激されるGABA作動性ニューロンが活性化するという複雑な回路になっていることを明らかにしている。すなわち、レプチンはAGRPニューロンを抑制的に調節するが、それをレプチンによりプラスに活性化される神経がGABAを介して2重に調節しているため、単純なノックアウトではレプチンの作用が見えないこともわかった。

レプチンのネガティブ、ポジティブ両方の作用が同じ神経に集まるという分かり難い話だが、要するに、レプチンの作用する主要回路が分かったと理解してもらえばよく、今後新しい分子標的を探し出して、レプチンの機能を臨床にトランスレートするための基盤ができたと考えられる。

ただ、一般の研究者にとって、この結論より遺伝的に特殊な細胞だけでクリスパーが働くようにした上で、アデノ随伴ウイルスを用いて局所で様々な遺伝子をノックアウトするという技術を駆使してこの研究が行われていることで、結論より参考になるのではないかと思った。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月27日:遺伝子疾患を胎児期に治療する(4月26日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2018年4月27日
X-linked hypohidrotic ectodermal dysplasia (X染色体連載低発汗性外胚葉異形成症:XLHED)という日本語で読んでも、英語で呼んでも舌を噛みそうな病気がある。X染色体上に位置するEDAと呼ばれるTNFファミリー分子の欠損による病気で、汗腺の発生が阻害され発汗が低下する、毛が少ない、歯が少ないという3つの症状を中心に、口腔や鼻腔の様々な症状を示す。中でも汗が出ないことで、体温が上昇し易く、特に子どもの場合死につながる。受容体もシグナル経路もよくわかっているのだが、毛根の発生時にだけ使われるため、生後EDAを供給しても治療することが出来ない。従って、胎児期にEDAを供給することで病気を治せないか研究が進められていた。
今日紹介するドイツ・エアランゲン大学からの論文は、EDAに免疫グロブリンFc部分を結合させた安定なEDAを開発し、胎生26週から31週の羊水に注射し、予想通り遺伝病を治療した治験研究で4月26日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Prenatal correction of X-linked hypohidrotic ectodermal dysplasia(低発汗性外胚葉異形成症の出生前の治療)」だ。

これまでの研究で、EDAそのものは半減期が短いことがわかっており、EDAに免疫グロブリンのFcを結合させたFc-EDAが胎内で安定で、この病気のモデル動物を用いた前臨床実験でも胎児期の羊水内に一回注射するだけで病気を治療できることがわかっていた。免疫グロブリンのFcは分子の安定性を高めるだけでは無く、Fc受容体を介して胎盤、乳児の腸上皮も通ることがわかっており、動物実験で生後母親のミルクを通してFc-EDAを投与しても皮膚症状を改善させることが出来る。このようなマウス、犬を用いた基礎研究の結果を受けて、実際にこのFc-EDAを2人の妊婦さんに投与、3人のXLHEDの治療を試みたのがこの研究だ。

症例は、すでにXLHEDを持つ子供の親が新しく妊娠し、子供の遺伝子変位が確認されている妊婦さんを2人選んでいる。1人は双子を妊娠しており、治療対象になる子どもとしては3人だ。治療は胎児の体重1kgあたり100mgのFc-EDAを2回、約1ヶ月間隔で羊水に投与しただけで、ほぼどの病院でも可能な手法だ。

まず双子の治療成績だが、結果は目覚ましく、まず最も問題になる汗腺はほぼ正常レベルに発生し、少なくとも2歳まで発熱は起こらなかった。さらに歯の数や、唾液腺、涙腺などもほぼ正常に回復している。

一方、もう一人の子供の場合、汗腺の形成は完全に正常化していいない。しかし、歯や涙腺、唾液腺については、ほぼ正常になっている。この事は、汗腺の発生のスピードは子どもによって多様性があり、投与の回数を増やしたほうがいい可能性を示唆している。ただ、注射回数をあげると流産の危険性が高まる。

結果は以上で、発生学的にも臨床医学的にも、素晴らしい成果だと思う。すなわち、胎児期のみに必要な分子は、母親への影響をほとんど気にする事なく、胎児期に投与できる事、そして、この段階で正常化すると、遺伝子が欠損していても一生生活に支障がない(この研究では2歳までしか追跡できていないが、動物実験から考えておそらく一生問題はないだろう)。とくに、免疫グロブリンFcはリガンドを安定化させる働きがあり、羊水のように流産の危険がある投与法では、投与回数を減らすことが出来ることから、他のリガンドにも利用可能だろう。

体の発生だけでなく、生後の脳の発生にも一回きりのプロセスは多い。遺伝子治療も含めこのような大事な発生過程を標的にする治療法の開発が進むことを期待する。
カテゴリ:論文ウォッチ
3 / 17112345...102030...最後 »
2018年5月
« 4月  
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031