12月8日 抗IL-4抗体が肺がんに対する免疫治療を高める(12月6日 Nature オンライン掲載論文)
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12月8日 抗IL-4抗体が肺がんに対する免疫治療を高める(12月6日 Nature オンライン掲載論文)

2023年12月8日
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チェックポイント治療効果を高めるための様々な方法の臨床治験が行われているが、今日紹介するのは既にアトピーの臨床に用いられている IL-4 に対する抗体が非小細胞性肺ガンの免疫治療に利用できることを示したマウントサイナイ医科大学を中心とする多くの機関が参加した研究で、12月6日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「An IL-4 signalling axis in bone marrow drives pro-tumorigenic myelopoiesis(骨髄での IL-4シグナル基軸が腫瘍を促進する顆粒球増殖を誘導する)」だ。

このグループは非小細胞性肺ガン(NSCLC)の腫瘍環境で免疫を抑えている要因を研究する中で、IL-4の役割を突き止め、さらに抗 IL-4抗体で腫瘍の増殖を抑えられることを報告していた。

ただこの時ガンと周囲組織の相互作用の問題として捉えていた IL-4シグナルの発現を詳しく調べると、ほとんどガン組織で発現が見られないことに気づき、この研究が進められたと思う。ガン局所の問題でないため、実にいろいろ実験を重ねる必要があり、論文で示されているが、最終的に到達したのが以下のようなシナリオだ。

まず、NSCLCが肺で増殖すると、ガン自体及びその環境から様々なサイトカインが誘導されるが、そのうちの8種類は好塩基球やマスト細胞に働いて、IL-4を誘導する。すなわち、ガンが発生すると、サイトカインが循環を通して骨髄に入り、これが骨髄で作られる好塩基球に働き、骨髄内での IL-4濃度が高まる。この結果、好中球やマクロファージの前駆細胞の分化が促進し、この細胞がガン局所に移行してガンに対する免疫を抑える環境成立を助けるというシナリオだ。

実験自体は複雑で、必ずしもこのシナリオが全てかどうか納得できない点もあるが、IL-4受容体を骨髄球からノックアウトするとガンの増殖が強く抑えられるという結果は明確で、さらにマウスモデルで PD-1 に対する抗体と、IL-4に対する抗体を同時に投与すると、ガン抑制の相乗効果が見られる結果も信頼できる。

すなわち最終的なメカニズムはともかく、IL-4に対する抗体を PD-1抗体治療に組みあわせる可能性が生まれた。幸い、抗 IL-4抗体は重症アトピーに対する治療として用いられており、いつでも使える状態にある。

この研究でも最後にコントロールを置かないパイロット治験として、PD-1抗体に反応しない患者さん6人に抗 IL-4抗体投与を3クール行い、経過を見ている。するとほぼ全例で、炎症性サイトカインのレベルが高まり、また末梢血のCD8T細胞の数が増える。

さらに3例については組織バイオプシーでCD8T細胞や、B細胞の数が上昇していることが確認できる。そして、1例ではあるが、X線検査でガンがほぼ完全に消失し、寛解誘導できたことが示された。

結果は以上で、何よりも我が国でも認可されている IL-4に対するモノクローナル抗体を肺ガンの免疫治療に利用する理屈と実際の効果が示されたことは大きい。

最後に個人的感想だが、PD-1抗体治療は言わずと知れた本庶先生がノーベル賞を受賞した業績だが、今回組み合わされた IL-4遺伝子クローニングも、1986年本庶研から報告された。この二つが組み合わされると、より強力なガン治療になるとすると因縁めいているが、面白いのは、PD-1も IL-4も本庶先生のライフワーク、クラススイッチ研究の中から生まれた一種の副産物で、これが今や免疫力のシンボルになっているのを見ると、研究の出口など到底計画できるものでないことがよくわかる。出口・出口とお題目を唱える助成当局もその辺をしっかり理解し、科学力をそいでいるのは当局の責任だと認識してほしいものだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月7日 初期糖尿病の統合的研究(12月4日 Nature オンライン掲載論文)

2023年12月7日
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先日91歳になられた井村元京大総長とゆっくり飲む機会があった。京大再生研やSchool of Public Health開設、さらに神戸CDBの設立まで、ほぼ20年にわたってプロジェクトを一緒に進めてきた思い出の多いお付き合いだ。91歳になられた今も、当時と変わらない頭の冴えに驚いたが、それだけでなく、体型も以前のままで、その上私と同じ量の食事を平らげられたのには感心した。その井村先生が、今でも理解したいとおっしゃっているのが、なぜ日本人の2型糖尿病患者さんには欧米のような肥満が少ないかという疑問だった。

実際、2003年筑波大学医学部の山田さん達は、日本人の2型糖尿病患者さん2200人のBMIが23.1に対して、英国の平均が29.4と大きく違うことを The Lancet に報告している。すなわち、肥満が続いてインシュリン抵抗性が形成される前に、日本人は膵臓でのインシュリン分泌が低下する可能性が高い。実際、東大の門脇さん達によって、日本人糖尿病のメタゲノム解析が行われ、GLP-1受容体の日本人特有の変異も発見されているが、まだまだ明確な答えはない。

ただ、糖尿病の遺伝リスク解析の中から因果性を導き出すのは簡単でない。その一つの原因は、マウスをモデルとして使えない多くの要因があるからだが、今日紹介するバンダービルド大学とミシガン大学空の共同論文は、この問題を初期糖尿病患者の臓器ドナーから得られた膵島細胞を利用して、ゲノム、臨床、細胞生理学を統合した研究を行うことで、長年の糖尿病の問題を解決した研究で、12月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic risk converges on regulatory networks mediating early type 2 diabetes(初期糖尿病に関わる遺伝リスクは遺伝子発現調節ネットワークに集約した)」だ。

研究では、インシュリン分泌が低下した糖尿病患者さんの膵島の遺伝子発現等々のオミックス、組織学的検討、そして培養やマウスへの移植による機能検査を行い、インシュリン分泌不全の原因を探っている。

これまで、初期糖尿病ではβ細胞数が減り始めている可能性が示唆されていたが、今回調べた20人はβ細胞の量、さらにはインシュリン合成は全く正常だが、グルコースの刺激に対して起こるインシュリン分泌反応が低下しており、この性質はマウスへ移植した後も続くことを明らかにした。すなわち、初期糖尿病はβ細胞のインシュリン分泌に関する生理学的機能異常であることが明らかになった。

次にこの機能不全の原因を遺伝子発現解析やクロマチン解析を用いて調べ、糖、脂肪、アミノ酸代謝、さらにはインシュリン分泌に関わる、いわばドンピシャの分子セットに加え、なんと細胞膜の繊毛形成に関わる分子の発現異常が存在することを発見する。さらにこうして糖尿病膵島での発現異常が明らかになった遺伝子の多くは、ゲノムリスク解析で相関が見つかっている遺伝子を多く含んでいる。

発現異常が特定された遺伝子の中で、最も上流にあると注目したのが膵臓発生異常の原因として知られるRFX6転写因子で、正常β細胞でノックダウンすると、2型糖尿病患者β細胞と良く似た遺伝子発現パターンを示し、さらに細胞生存には問題ないが、インシュリン分泌が低下することを発見する。そして、ゲノム解析でもRFX6の発現に関わるイントロンの多型が、糖尿病リスクとしてリストされていることを明らかにしている。

以上が結果で、発生過程に関わる分子として知られるRFX6が2型糖尿病を決める重要なマスター遺伝子の一つであることがわかった。今後、例えばオランダ飢餓研究、あるいは日本人集団など、インシュリン分泌不全が起こりやすい集団での研究は極めて面白く、日本人型の糖尿病を考えている手がかりになるかも知れない。しかし、これだけのことを人間の膵島を使って研究できる時代が来たことは、井村先生も驚かれるように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月6日 αFoldに一つの蛋白質が取り得る複数の構造を予測させる。(11月13日 Nature オンライン掲載論文)

2023年12月6日
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αFold2はアミノ酸配列から蛋白質の立体構造を予測する革命的なモデルで、このおかげで今や何億という分子の蛋白構造がかなり正確に解読された。そして何よりも、αFoldこそ、今、世の中の最大関心事になっているGPTなど大規模言語モデルの基盤 Transformer/attention モデルをいち早く使って成功した言語モデルと言える。

私自身は現役の研究者ではないので利用したことはないが、基本的にαFoldは一つのアミノ酸配列に対して一つの構造がモデル化されるシステムになっている。ただ、蛋白質の中には、安定的に複数の構造を取り得る分子が知られており、今日紹介する Brandeis University からの論文は、αFoldに複数の構造をモデル化させるための方法を示した研究で、11月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Predicting multiple conformations via sequence clustering and AlphaFold2(配列をクラスター化してαFold2に複数の構造を予測させる)」だ。

最初に断っておくが、構造解析とAIの方法の詳細に関して、他の分野と比べると私の理解は極めて乏しい。従って、かなり一般的で大雑把な理解の上で、論文を面白いと楽しんでいる。そこで、今回は思い切った単純化をして論文を説明する。さらに正確な理解が必要な人(例えば利用したい人)は原論文を読んでほしい。

さて、αFold2が構造を予測する方法は、構造を知りたいアミノ酸配列に対応させることが出来る、出来るだけ多くのアミノ酸配列データベースから抜き出し、それをもとに Multiple sequence alignment させることから始まる。これにより、アミノ酸配列を特定の蛋白質の系統進化にリンクさせ、蛋白進化を制限する3次元構造がコンテクストととして浮き上がるように設計されている。

この時出来るだけバイアスが入らないようにアラインメントをとることで、一つの構造にたどり着けるように出来ているが、その結果メタモフフィック蛋白質のように2種類の安定構造がある場合でも、一つしか出てこない。GhatGPTで様々な答え方があるのに、一つの答えしか返ってこないのと同じだ。

そこで著者らは2種類の安定構造をとるKaiB分子の構造を決めるとき、Multiple sequencing alignmentのトップ50、及びトップ100を指示して計算させると、それぞれ異なる構造モデルが提供されること、そしてこれらが熱力学的に安定な構造であることを確認する。

すなわち、アラインメントをとった蛋白質構造のコンセンサスが異なる構造に対応することで、これらの蛋白質の配列から一つの構造から、もう一つの構造へとスイッチするために必要なアミノ酸変換についても推察し、実際に3種類のアミノ酸を置換すると、スイッチした構造に安定してしまうことも示している。

最後に、このようにメタモルフィックな構造がわかっている分子ではなく、他の構造可能性が知られていない分子についても、アラインメントが得られる蛋白質の種類をあらかじめ変えて計算させることで、これまで知られなかった新しい構造がモデル化されることを示している。

要するに、コンテクストをうまく変えることが出来れば、出てくる結果を変えることが出来るという話で、Transformer/attentionモデルから考えれば当然の結果だろう。間違っているかも知れないが、一種のトランスファー学習で、どの分野でも大規模言語モデルを活用する一つの鍵が、こんなところにあるように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月5日 一つの VβTcR サブファミリーを活性化するだけで十分腫瘍免疫として役に立つ(11月29日 Science Translational Medicine 掲載論文

2023年12月5日
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ワクチンから CAR-T まで、今やさまざまなガン免疫を利用するシステムが開発され、実際臨床応用も少しづつ進みつつある。もちろん究極のガン免疫治療は、ガン抗原特異的T細胞を誘導して、ガンを抑制することで、原理的には個々のガンの抗原に対するテーラーメードガン免疫治療も可能になってきている。しかし、まだまだ金と時間がかかる。

今日紹介する米国国立衛生研究所と Marengo Therapeutics 社の共同論文は、特定の Vα と Vβ が組み合わさり、さらに突然変異も加わったガン特異的T細胞を刺激するのを諦めて、Vβ サブファミリー全体を刺激することでも、かなりうまくガンに対するキラー細胞を増幅し、ガンを抑制できることを示した研究で、11月29日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「AT cell receptor β chain–directed antibody fusion molecule activates and expands subsets of T cells to promote antitumor activity(T細胞抗原受容体の一つの Vβ を活性化、増幅することで抗腫瘍を高めることができる)」だ。

ワクチンや CAR-T の他に、IL2 の様なサイトカインを使ってT細胞を増やすことができないか研究が続けられているが、IL2 シグナルは複雑で、そのまま注射したのでは免疫をコントロールできないばかりか副作用が出る。そのため、特定のT細胞だけを刺激する方法の開発が進んでいるが、この研究もその一つだ。

ヒトには Vβ遺伝子が20種類存在するが、この研究ではこのうちの一つに対する抗体に、IL2分子を融合し、さらに Fc部分の突然変異により、キメラ抗体が絡まって一つの Vβ を持つ TcR を刺激すると同時に、活性化されたT細胞を IL2 で刺激するという算段になる。

標的の数を減らせるとはいえ、何%と言えるT細胞を全部刺激することになるので、抗ガンT細胞を増やすことができたとしても、他の体に悪いT細胞も増えるかもしれないし、また IL2 そのままだと、キラーの代わりに抑制性T細胞を増やしてしまうかもしれない。本当にうまくいくのと疑いながら読んだが、マウスと猿の実験で期待以上にうま行くことが示された。

まず試験管内でヒト末梢血T細胞を刺激すると、期待通り抗体が認識する Vβ が選択的に増えてくるが、驚くことに CD8キラーが一番よく増え、抑制性T細胞はほとんど増えない。

次にマウスの自己腫瘍モデルで、例えばヒトとマウスの両方を認識する Vβ13抗体+IL2 を一回注射すると、調べた6種類の同系統のガンの増殖を強く抑制し、一つのモデルでは完全に腫瘍を消失させることに成功している。すなわち、ガン抗原の中には Vβ13 に反応するものが存在ており、特異性は落ちるがそれでも IL2 で増幅されると、強い反応が誘導できる。

ではどの様な細胞が増幅されてきたのか調べると、ガン浸潤T細胞はエフェクター機能だけでなく、エフェクター記憶細胞も出現し、長く続くキラー活性を誘導できていることがわかる。さらに、腫瘍局所ではより腫瘍特異的と思われるクローンが増幅していることも分かった。

また腫瘍モデルではないが、サルに注射する実験を行い、期待通り末梢血の標的VβT細胞を強く誘導することができるが、その結果として副作用はほとんど出ないことを確認している。

最後に、人間での可能性を確かめる意味で、試験管内で腫瘍のオルガノイド培養に、腫瘍浸潤T細胞を Vβ6+IL2 で刺激して加えると、刺激しなかった浸潤細胞と比べて、強いサイトカイン反応を示すことがわかった。すなわち、ガン抗原に反応していることになる。

結果は以上で、タイトルを見て、アイデアは面白いが本当にうまく行くのかと疑ったが、実際には予想以上にうまくいった結果になっている。しかし、マウスで効果があっても、最終的には人間で確かめることが必要で、早く治験が進むことを期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月4日 LXR活性化薬はAβ蓄積を抑えるだけでなくTau異常症も抑える(11月22日 Neuron オンライン掲載論文)

2023年12月4日
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アルツハイマー病(AD)の原因をめぐっては、Aβ仮説、Tau異常症仮説、あるいは炎症説などさまざまな考えが提示されてきたが、実際にはさまざまな要因が同時に関与している複雑な病気だと思う。レカネマブは一見 Aβ 仮説が大事に見えるが、早期にしか効かないという事実は、他の要因が絡み合っていることを示している。

その中で治療標的になるのではと多くの研究者が注目してきたのが ApoE の関与で、論文ウォッチでも何回か研究を紹介してきた。ApoE にはさまざまな対立遺伝子が特定されているが、ほとんどの人はApoE2、 E3、E4のタイプのどれかに入る。そして、人口の13%に存在する ApoE4 は、古くから AD リスクを高めることがわかっていた。

ApoE は言わずと知れた VHDL の構成質としてコレステロールの体内輸送をになっているが、かなり前から ApoE4 が Aβ の蓄積や、クリアランスを影響することが報告されていた。ただ、ApoE4 を持つと動脈硬化のリスクにもなることがわかっており、さまざまなレベルでの脂肪代謝の変化が AD を促進すると考えられてきた。そこで、脂肪代謝システムを調節する LXR受容体因子を活性化して AD を抑えられないかの研究が続いており、沈殿型 Aβ の生成を抑えることが報告されている。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、Aβ 関与なしに Tau 異常症が発症するマウスモデルに ApoE4 を掛け合わせて、ApoE4 によるグリア細胞での脂肪代謝異常により急速に神経編成が進むことを明らかにし、この進行を LXR活性化因子が一定程度抑えることができることを示した研究で、11月22日 Neuron にオンライン掲載された。タイトルは「Amelioration of Tau and ApoE4-linked glial lipid accumulation and neurodegeneration with an LXR agonist(Tau と ApoE4 が関係するグリアでの脂肪蓄積と神経変性を LXR活性化剤で軽減することができる)」だ。

この研究では Tau異常症と ApoEタイプを組み合わせたマウスモデルで脂肪解析を行い、Tau異常症と ApoE4が組み合わさると、ミクログリアやアストロサイトでコレステロール代謝の異常と、脂肪の蓄積が起こることをまず明らかにしている。そこで、この脂肪代謝異常を LXR活性化剤で抑えることが可能か調べ、一定程度ではあるが神経変性を抑えることができることを明らかにしている。すなわち、これまで指摘されてきた Aβ や、脳血管関門の変化だけでなく、Tau異常症があるとグリア細胞内で ApoE4 の脂肪代謝異常が大きく変化することが間接的に神経変性を促すこと、またこれを LXR で一定程度抑えることを明らかにした。

少し多過ぎるのではないかと思えるほどの実験データが示されているが、まとめると以下の様になる。

  • Tau異常症と ApoE4 が組み合わさると、グリア細胞内での脂肪代謝異常が起こり、コレステロールなど脂肪の蓄積が起こる。
  • この蓄積が細胞ストレスを生じ、炎症を高め、神経変性を誘導する。
  • グリア細胞の脂肪代謝異常は。LXR活性化剤を経口摂取することで、ABCA1分子の発現上昇を通じ一定程度解消される。
  • その結果海馬の神経変性が抑えられ、行動異常が改善する。

結果は以上で、Tau異常症という神経変性の直接要因に介入できたことは重要だ。ただ、これは ApoE4 を持つ患者さんのケースで、それ以外の AD でも LXR活性化剤の効果があるのかは今後の課題になる。いずれにせよ、AD のメカニズムの多様性を改めて知ることができ、AD治療もまずゲノム検査から進めることの重要性がよくわかった。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月3日 T細胞が認識するペプチド抗原を網羅的に解析するT-Scan(11月27日 Cell オンライン掲載論文)

2023年12月3日
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感染症やガンに対する免疫を解析する時、B細胞の反応する抗原を見つけるのは、受容体即ち抗体が抗原自体に結合するので、比較的簡単だ。実際、コロナの時どの抗原エピトープに対して抗体ができて来るのか調べるのは簡単だった。一方T細胞が反応するのは抗原自体ではなく、抗原がプロセスされてできたペプチドと MHC 抗原の結合した複合体なので、抗原に反応するT細胞が反応しているペプチドの特定は困難だった。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、T細胞が反応している短いペプチドを特定できる網羅的方法の開発で11月27日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「TScan-II: A genome-scale platform for the de novo identification of CD4 + T cell epitopes(TScan-II:CD4T細胞の認識するエピトープを新たに特定するゲノムスケールの枠組み)」で、今後この分野での大きな貢献が期待できる。

同じグループは、2019年 TScan-I を Cell に発表しているので、そちらでまず説明する。例えばコロナウイルスに反応していると思われるT細胞があると、CD8キラー細胞の場合、コロナに感染した細胞に反応すれば、免疫が成立していることはわかるが、どのペプチドに反応するかは、ペプチドを一個一個調べる以外に方法はない。これに対しTScan-I は、ペプチドに対応する DNAライブラリーを刺激側の細胞にバーコードと共に導入し、さらにこの刺激細胞がT細胞と反応した時、T細胞から標的細胞へと移行してくる Granzzyme に反応して標的細胞が発色する様にしておくと、反応するT細胞を刺激するペプチドを発現する細胞だけが発色するので、セルソーターで分離することができる。こうして分離した刺激細胞の発現するペプチド遺伝子は、次世代シークエンサーで特定できることになる。

実際には反応するT細胞は一つではないので、数千のペプチドライブラリーの中から20種類ぐらいのペプチドが同定できる。

以上がクラス I -MHC+ ペプチドに反応する CD8T細胞についての TScan-Iプラットフォームになるが、今回チャレンジしたのはクラス II MHC+ ペプチドに反応する CD4T細胞が認識するエピトープを特定する実験システムだ。クラス I の時と同じでいいのではと思われるかもしれないが、クラス II の場合ペプチドのロードされ方が違い、抗原を分解処理するリソゾームシステムが、マクロファージと同じ様な細胞を新たに設計して用意する必要がある。さらに、Granzyme による蛍光標識の活性化についても問題があり、一筋縄では行かなかった様だ。その結果、TScan-I から TScan-II まで、4年の歳月が経過している。

この様に苦労して完成させた TScan-II もパワフルで、例えばエイズウイルスに対するT細胞の反応ペプチドを29種類に絞り込むことに成功し、またこれらに変異を導入して、ウイルスの変異に対するT細胞側の反応を調べ、変異分子に対してもT細胞は反応することが可能であることなどを示している。今後この方法を用いてワクチンの設計なども行えると思う。

この方法をテストするため、HIV に対する反応をはじめ、さまざまな実験系が用いられているが、個人的に最も興味を引いたのは、膵臓ガンのガン抗原エピトープの特定実験だ。この実験では膵臓ガン患者さんの末梢血を膵臓ガンのオルガノイドで刺激、反応しているT細胞のエピトープを、膵臓ガンネオ抗原エピトープから設計したペプチドセットを発現する TScan-II でスクリーニングし、まだ機能がわからない分子由来の一つのペプチドが膵臓ガン抗原として働いていることを明らかにしている。

また、シェーグレン自己免疫反応に関わるペプチドの特定を試み、DDIAS および MTK1キナーゼ由来のペプチドを特定することに成功している。これらの分子は、唾液腺上皮に発言しており、さらに唾液腺上皮はクラス II MHC の発現が見られるので、これが自己光源として働いていることが明らかになった。

他にも口内細菌叢との関係など、面白い結果も示されているが、TScan-I および II の活用はこれからで、大きなブレークスルーになると期待している。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月2日 うたた寝も数を稼げば十分な睡眠になる:ヒゲペンギンの話(12月2日号 Science 掲載論文)

2023年12月2日
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2日前、新しい発見とは言え、マウスの眠りを完全に遮断する恐ろしい方法を開発して眠りの重要性を調べた後味の悪い中国の研究を紹介した。これに対し、今日紹介するフランスの神経科学研究センターと韓国の極地研究所からの論文は、野生のペンギンに GPS とともに脳内電極とその記録系を設置して、卵やヒナを抱いている時、ヒゲペンギンは一日中短いうたた寝を繰り返して睡眠を確保しているという、ちょっと微笑ましい研究で、12月2日 Science に掲載された。タイトルは「Nesting chinstrap penguins accrue large quantities of sleep through seconds-long microsleeps(巣を守るヒゲペンギンは十分な量の睡眠を数秒のうたた寝を繰り返して確保している)」だ。

南極海にあるキングジョージ島のヒゲペンギンに、GPSトラッカーを設置して行動を調べるのは普通に行われているが、この研究ではこれに加えて、両方の脳半球に電極を2個づつ設置し、脳波を測定できる様にし、さらに頚部に筋電計を設置してうたた寝の身体的側面も記録している。もちろんこれらはテレメーターに集められ、観察基地で記録できる様になっている。また、地上にいるうちはビデオで観察し、目が閉じたなども調べる念の入れ様だ。

野生の生物に脳内電極まで設置するとは、マウスの拷問より酷いと思われる向きもあると思うが、脳波の研究はよく行われている様で、論文ウォッチでも一度ガラパゴスのグンカンドリの脳に電極を挿入し、高く舞い上がったグンカンドリが脳波から見ても完全に睡眠しながら飛び続けていることを示した論文を紹介した (https://aasj.jp/news/watch/5615) 。

まず確かめる必要があるのは、この様な仕掛けを装着されたペンギンも、正常に行動できるかだ。これについては GPSトラッカーの行動から確かめており、巣で卵やヒナを守る仕事が始まると、ペアは交代で餌を探しに行く。この装置を背負っていても、平均1日8時間、34kmにわたって餌を探し、50m近く海に潜る。そして巣に戻ると平均22−36時間、ほぼ立ったまま子供を守る。

ではいつ眠るのか?大事な卵やヒナを寝ずに見守るのか。驚くことに、この時の眠り、すなわち除波の出現は、2秒から長くても30秒続くだけで、しかも8割は10秒以下で終わる。すなわち、ほんの数秒うとうとするという状況が BSW、USW それぞれ800回近く繰り返される。

こんな睡眠で大丈夫かと思うが、狩に出かける番になると、確かに水の中でも短い除波が現れることはあっても、それが続くことはなく、しっかり覚醒状態で狩を何時間も続ける。すなわち、うとうとも数を重ねれば十分寝たことになる。

この様な寝方をするのは、カモメなどの外敵からひなをまもろうとしての習性か調べるため、襲われやすい集団の端に巣を持っているペンギンと、真ん中のペンギンを比べると、期待に反して集団の端にいるペンギンの方が除波が長く続き、また深く眠っていることがわかった。すなわち、中央に巣を持つと、他のペンギンからの介入があるため、短いうたた寝を繰り返すしかないと考えられる。

以上が結果で、巣にいる時は短いうたた寝を繰り返してなんとか睡眠時間を稼いでいる種が存在することが明らかになった。まさに、四六時中夢か現かという状態が続く様だ。前回紹介した論文と比べると、ともかく除波を一定期間発生させられれば、眠りは稼げることになり、人間でもさまざまな睡眠パターンが取れるのかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月1日 同じ研究室で働く重要性(11月29日 Nature オンライン掲載論文)

2023年12月1日
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すでにヨーロッパに来て1週間が過ぎたが、その間自分が主催したり、または参加したリモート会議は今日で5回目になる。以前は考えられなかったが、Covid-19が残してくれた最大のレガシーといえる。おかげで対面で行うコンサルテーションがない週には、ゆっくり外国に行ける様になった。現役時代の忙しい旅行とは雲泥の差で、旅行を楽しむことができる。ただこれは私の様にすでに現役を引退して、自分のラボの運営がなくなった後、様々な会社のアドバイザーとして拘束の少ない仕事についているからで、実際の研究に取り組んでいる現役の人だと、実験はともかく、ディスカッションはリモートで良いと割り切れないのではないだろうか。実際、10年前の感覚を思い起こしてみると、研究員と同じ場所で働くことは絶対必要だと確信する。

さて、今日紹介するピッツバーグ大学からの論文は、離れた研究室同士の共同実験では、イノベーションが起こる確率が減ること、そして研究で概念が形成される過程は、今でも同じ場所での議論から生まれることが多いことを解析した研究で、11月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Remote collaboration fuses fewer breakthrough ideas(遠距離の共同研究はブレークスルーのアイデアを融合させる確率が低い)」だ。

論文のインパクトファクターやさまざまな統計データをどう使うかは議論の多いところだが、この研究の様に1960年から2020年まで60年間に行われ、著者の所属から論文のさまざまな統計までが利用できる2千万にも及ぶ論文のパテントを解析するという様な、科学活動の分析には欠かすことができない。

この研究ではまず、この60年間に論文やパテントでの共著者間の距離が、1960年の100kmから、2020年には1000km近くに達していることを示している。面白いことに、芸術や人文科学の論文ではさらに距離が伸びている。

人分科学でさらに距離を超えた共同研究が行われているとすると、人間同士のアイデア交換には距離がないのかと思えるが、科学論文やパテントがそれまでの考えを変えるほどの破壊的イノベーションだったかを測る Disruptive score(D score) を用いて評価すると、共著者間の距離が離れているほど Dスコアが低く、さらにタイムゾーンが異なるほどその傾向が強くなる。

Dスコアの例として、これまで最もスコアの高い論文がワトソンとクリックの有名な Nature 論文で、0.96(満点は1)、逆に低い例がヒトゲノム解読でー0.017になるそうだ。どちらの論文も極めて重要な論文だが、たしかにゲノム解読は破壊的イノベーションとは言えない。

この様に、距離の離れたもの同士の研究で破壊的イノベーションが生まれにくい原因を探す目的で、研究の着想など概念形成と、実際の実験過程などに分けて共同研究のあり方を調べると、概念形成は距離が離れるほど共同では行われていないことがわかる。

さらに、概念形成に関わった共同著者を、研究社会でのポジションで調べると、遠距離の研究者が共同した場合は、引用数から計算できる研究社会のポジションが同等であることが多いが(例えば教授同士)、近くにいる研究者同士の場合は回想を超えた共同研究が行われていることがわかる。すなわち、教授とポスドクや、学生など様々な階層が一緒に概念形成に関わるためには、同じ場所にいることが望ましいことになる。

以上が結果で、現役の研究者の実感に近いのではないだろうか。完全に読んではいないが、最近最も注目された論文は Google の8人の研究者が2017年に arXiv に発表している「Attention is all you need」論文で、すでに引用は10万回に達しており、いうまでもなく、αFold や ChatGPT などに使われているモデルを提案した論文だ。著者欄を見ると、Google 研究所以外の所属も2人いるが、全ての研究は Google 研究所で行ったとなっているので、まさに破壊的イノベーションは同じ場所での議論から生まれることの典型だろう。

研究助成に関わる組織こそ、この様な解析をしっかり行い、研究者の何を支援するのかまで本当に理解しないと、日本の凋落を止めることはできない気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月30日 マウスを眠らさない新しい拷問法を開発し、サイトカインストームでマウスを殺すことに成功した(11月27日 Cell オンライン掲載論文)

2023年11月30日
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これまでも動物を眠らさないと何が起こるか調べた研究はあったと思う。もちろん、人間でも眠らさない拷問は常套手段だったのではないだろうか。しかし、眠りを完全に妨げることは簡単ではない。例えば眠りを妨げる外側からの刺激にも関わらず、寝てしまっていることはありうる。

今日紹介する北京の国立生物学研究所からの論文は、確実に眠りを妨げる方法を開発して、48時間以上全く睡眠が取れないとサイトカインストームが起きて死に至ることを示した論文で、読んでいて少しゾッとした。タイトルは「Prolonged sleep deprivation induces a cytokine-storm-like syndrome in mammals(哺乳動物で、長く睡眠を妨げるとサイトカインストーム様の症状が発生する)」だ。

ちょっとゾッとしたと述べたのは、この研究の売りが、これまで達成できなかった睡眠を完全に妨げる方法を開発できたことを、誇らしげに述べている点だ。

研究では、マウスが眠る時どの様な姿勢を取るのかビデオで仔細に観察し、眠りで意識が失われると鼻が下向きの体勢に陥ることを発見する。この発見から開発された方法が、マウスをくるぶしまで水につからせて生活させる方法で、眠り始めると鼻が水に浸かるため、息ができないためすぐに起きてしまう。もちろん足が水に浸かっているというストレスはあるとは思うが、水があってもプラットホームに上がると息ができ、寝られる様にして、ストレスの影響だけを測定できる群も作っている。

この新しい方法で、脳波上でもほぼ完全に眠らせないことができること、そしてこの状態を4日も続けると多くのマウスは力尽きて死んでしまうことを、新しい工夫として淡々と記述している。私はヒューマニズムや一方的倫理を振りかざして実験動物愛護を訴える人間ではないが、それでもこの部分の記述は新しい拷問法の開発を誇っている気がして、これが中国独自のメンタリティーでないことを祈った。

4日でマウスは力尽きるのだが、何が起こっているのか。組織的には肝臓や肺、そして脾臓にまで血液浸潤がおこり、組織構造の破壊が起こっている。これはサイトカインストームと呼ばれる状態に近いと考え、血中のサイトカインを調べると予想通り IL-6、IL-17A を中心にサイトカインストームが起こっている。そしてこの状態は睡眠できないと24時間ぐらいから始まる。

これまで使われていた外からの刺激で眠りを妨げる方法ではここまで強いサイトカインストームは起こらない。すなわち、眠らさない拷問は体の内部から臓器を傷害する。

Single cell RNA sequencing を用いて細胞レベルの変化を調べると、リンパ球ではなく、ほぼ完全に白血球の関わるサイトカインストームで、骨髄と末梢血を比べると、眠らないことで骨髄の白血球が末梢に動員され、これがサイトカインストームを起こしていることがわかる。

眠れないのは頭の中の問題で、これがなぜ白血球の骨髄からの動員とサイトカインストームを誘導するのか調べ、眠れないことで脳血管関門からの分子の湧出が上昇すること、そして脳内でプロスタグランジンD2 の濃度が高まり、これが障害された脳血管関門から末梢に流れ出し、サイトカインストームの原因になっていることを突き止める。実際、脳血管関門から抹消への流出に関わることが特定できたトランスポーターABCC4 が欠損したマウスでは眠らなくてもサイトカインストームは起こらない。

以上が結果で、メカニズムはよくわかるが、読後感はよくなかった。

ただ読みながら、学生時代に生化学を習った早石先生が頭に浮かんだ。早石先生は日本の生化学を国際レベルに高められた大先生で、本庶先生をはじめ多くの研究者を育てられたが、大阪バイオサイエンス研究所に移られてから、プロスタグランジンD2 が睡眠物質の一つであることを見つけられた。それを考えながらこの論文を読むと、眠らせないと、脳の方では頑張って睡眠物質としてプロスタグランジンD2 をこれでもか、これでもかと作り始める。そして、それでも眠れないと、体に漏れ出して体を蝕むという話になる。なんと酷い拷問か。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月29日 体に良いとされている食物も悪いことがある:2)食物繊維はクローン病に関わる(11月14日 Cell Host & Microbiome オンライン掲載論文)

2023年11月29日
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今日の話題は食物繊維で、論文ウォッチでも取り上げてきたが、ほぼ全て腸内細菌叢を整えて、体に良い働きをするという研究の紹介だったと思う。ところが、食物繊維が、病気、特にクローン病を悪化させることがわかっていたようで、今日紹介するミシガン大学からの論文は、なぜクローン病にとって食物繊維が悪いのかについてのメカニズムを調べた研究で、11月14日 Cell Host and Microbiome にオンライン掲載された。タイトルは「Fiber-deficient diet inhibits colitis through the regulation of the niche and metabolism of a gut pathobiont(食物繊維を含まない食事は腸の病原性細菌のニッチと代謝の調節を介して腸炎を阻害する)」だ。

ここで実験的クローン病マウスについて説明しておく。クローン病は TH1 型免疫反応による腸の強い炎症で、自然免疫に関わる NOD2 とマクロファージの NADオキシダーゼが欠損して自然免疫が弱まったマウスが Taconic.社由来マウスの細菌叢に触れると、細菌叢内の Mucispirillum菌が体内に侵入し、これに対する免疫反応が引き金になり炎症が発生する。この菌が存在しないJakson研究所由来のマウス細菌叢では病気は起こらない。

この実験系で、マウスに食物繊維が全くない食事を与えると炎症が起こらないことが知られていたが、メカニズムについてはわかっていなかった。この研究では、食物繊維を与えないマウスと、与えたマウスを比較する実験から、

  • 食物繊維を与えないと、粘液層が縮小する。
  • その結果、通常粘液層に存在して、クローン病を引き起こす原因になる Mucispirillum(Tacoma社のマウスには含まれ、Jakson社マウスには存在しない)が粘液外に追いやられ、体内への侵入が防がれクローン病が発症しない。
  • 遺伝的に粘液層が形成できないマスでも Mucispirillum 菌が増殖できず、クローン病は起こらない。

を明らかにする。すなわち、食物繊維依存的に形成された粘膜層があると、Mucispirillum がそこで増殖でき、結果体内へ侵入する一方、粘膜がないと上皮近くで増殖できないため、体内への侵入がなくなる。

もともと Mucispirillum は粘膜を分解し利用する能力は持っていないので、粘液層で増殖する理由がない。そこで、おそらく粘液を好む細菌が、通常は粘液内で増殖しない Mucispirillum を助けるのではないかと考え、食物繊維に依存性の高いバクテリアの中から、R. torques を、粘液層合成には関わらないが、粘膜層を分解して発生した代謝物を通して、粘膜内での Mucispirillum 菌の増殖を可能にしている菌であることを明らかにする。

あとは細菌の発現分子の解析および細菌培養実験を行い、R.torques が主に H2 を提供することでMucipirillum 菌の増殖を助けることを明らかにしている。

以上、少しややこしいのでまとめ直すと、食物繊維は粘液層の維持に必須で、この粘液層を好んで増殖する菌が存在する。その中に、R.torque が存在すると、Mucipirillum 菌が増殖することができる。もちろんこの菌が存在し、体内に入っても自然免疫系で対応するのだが、Nod2 など自然免疫系が欠損すると、そのまま Th1 型の炎症へと発展する。しかし、この場合も食物繊維を止めると、粘膜層が低下し、結果 R.torque が消滅し、ここから H2 供給がなくなるため、Mucipirillum 菌が粘液外へ追いやられ、炎症を抑えることができるという話だ。

食物繊維や粘液も時には問題になることがわかるとともに、細菌叢での複雑な相互作用の一端を垣間見ることができた。

カテゴリ:論文ウォッチ