2021年10月3日
私の現役時代は、慢性骨髄性白血病(CML)に対しては骨髄移植以外の有効な治療法はなかった。しかし、白血病細胞のドライバーとして機能している転座による融合遺伝子Bcr-Ablの機能を抑制するimatinib(グリベック)が開発されてからは、病気の進行をほぼコントロールできるようになり、ガン標的薬の成功例として期待を抱かせるきっかけになった。もちろん、治療中にBcr-Abl分子の突然変異でimatinibの効果が落ちても、新しい世代のキナーゼ阻害剤が開発され、病気のコントロールは可能になっている。この結果、imatinib開発後もしばらくは、積極的に推奨された骨髄移植治療は、急性転化が起こるまで待つのが普通になっている。
とはいえ、グリベックでは白血病細胞が完全に消えるわけではない。ガンの幹細胞が残存し、薬剤をやめるとまた再発する。従って、Bcr-Ablを持つ全てのガン細胞を根こそぎ除去する方法の開発が現在も続いている。
今日紹介する中国済南大学からの論文は、ガンのスーパーエンハンサーに注目しCMLの根治を目指した研究で、結果は期待ほどではなかったが、着眼点は面白いと思った。タイトルは「Super-enhancer landscape reveals leukemia stem cell reliance on X-box binding protein 1 as a therapeutic vulnerability(スーパーエンハンサーの解析は白血病幹細胞の治療標的としてXBP1を明らかにした)」で、9月22日号のScience Translational Medicineに掲載された。
多くの転写因子が一つの遺伝子のプロモーターに集められるスーパーエンハンサー(SE)は、Richard Youngにより紹介されてから、多くのガンで重要な働きがあることが知られるようになり、またこれに関わるERG, CDK7、そしてBRD2/3などに対する阻害剤をガンの治療に利用する可能性が追求されている。
CMLはほぼ治療が可能なためだろうか、不思議なことにSEの解析が行われていなかったようだ。この研究では常法に基づいてCML細胞、あるいはそのCD34分画細胞をH3K27acヒストンコードに対する抗体で沈降し、高いシグナルが得られるSEを特定している。詳細は省くが、4例ともETV6やRunxなど、なかなか面白い顔ぶれで、再度CMLでこれらの分子の機能を調べるのは面白そうだ。
ただ、この研究では個々の遺伝子支配にこだわらず、まずSEを壊す影響について調べている。しかしこの実験も、通常よく使われるBRDを標的にしたBET阻害剤ではなく、CDK7阻害剤THZ1を用いている。詳細を省くが、結果はTHZ1を低い濃度で投与すると、グリベックと共同して白血病細胞の増殖がさらに低下し、またTHZ1処理、あるいはCDK7 ノックダウン細胞では、ガンの幹細胞機能が低下する。そして、期待通り多くの遺伝子の転写が抑制されるが、その多くはSE支配下にあると特定された遺伝子だった。
SEについての解析はここまでで、後はSE支配として見つかっていたXBP1遺伝子に着目し、この経路のCMLでの機能を調べている。ただ、XBP1は小胞体ストレスに対する中心分子で、小胞体膜上のIRE1によりmRNAがスプライスされることで、機能タンパク質が合成され多くのシャペロンを合成し、細胞をストレスから守る。従って、ガンでこの経路が発達していることは十分考えられ、XBP1やIREのノックダウンがCMLの増殖を抑え、またXBP1を過剰発現させるとTHZの効果がなくなるという結果をみても驚きはない。ただ、XBP1もガンではSEの支配下にあるのかと、納得はした。
おそらくXBP1ではなく、他のSE支配転写因子に白血病幹細胞を決める分子が潜んでいると思うが、それをSE解析で探ろうとした着眼点は面白いと思う。久しぶりにCMLの論文を読んだ気がする。
2021年10月2日
ゲノムに様々な転写因子が結合可能かどうかは染色体の構造で決まっていることが多く、染色体が閉じておれば、いくら結合サイトがあっても転写因子は結合できず、遺伝子は発現できない。染色体が開いているか閉じているかを調べる方法として、我々の時代はDNA分解酵素に抵抗性があるかどうかで調べる方法が用いられていたが、現在はトランスポゾンがオープンな染色体に飛び込むことを利用したATAC-seqと呼ばれる方法が利用されている。この手法については、2015年にこのHPで初めて紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/3843)、一読したときから可能性の大きさを感じた。そのときの予感は的中し、今やsingle cellレベルでも染色体の状況を調べることができるようになっている。
今日紹介するニューヨーク大学からの論文は、介在神経の運命決定過程に焦点を絞って、single cell RNAseq(scRNAseq)とsingle cell ATAC-seq(scATAC)を組み合わせて、細胞分化過程でのクロマチン変化のダイナミズムを調べた研究で、細胞分化決定研究が大きく変化していることを覗わせる面白い研究で、9月30日号のNatureに掲載されている。タイトルは「Genetic and epigenetic coordination of cortical interneuron development(皮質の介在神経発生の遺伝的、エピジェネティック的協調)」だ。
これまで、scRNAseqやscATACを用いる論文は多く読んできたが、この研究のように両方の結果を統合して提示する努力はそれほど多くないと思うし、私にとってはこの論文が最初だと思う。もちろん全ての実験で、一つの細胞で両方のアッセイを組み合わせるのは難しいと思うが、一部の実験ではRNAseqとATACを同時に行っている。
さらに、神経発生では細胞が、分裂中か、分裂を終えたか、は重要な指標なので、これを区別できるマウスの脳を用いて解析を行っている。すなわち、最初から用意周到に研究が計画されている。
研究対象は、内側基底核隆起で分化増殖した後、皮質へと移動する2種類の介在神経(PVとSSTと呼んでおく)の分化決定過程で、マウス発生の様々な時期に脳から採取した細胞を、scRNAseqとscATACで解析し、後はその結果から、運命決定に関わる転写ネットワークがどう成立しているのかを解析している。
結果だが、
- 成熟介在神経の遺伝子発現パターンは、生後2日ぐらいから検出できるようになるが、その前は分化決定遺伝子もオーバーラップして発現し、様々なネットワークが混在している。
- 異なる方法でも、同じ分化の道筋を描くことができるが、分化決定に関わる遺伝子では、それを取り巻く染色体の構造が生後急速に固定される。その結果、染色体によるエピジェネティックな調節により、分化最終段階を安定化することができる。
- これまでPV介在神経の分化に必須とされてきたMef2cをノックアウトすると、実際にはPV細胞だけでなく、未分化段階やSST細胞の遺伝子発現パターンやクロマチン構造の変化を誘導していることがわかる。すなわち一つの転写因子の機能を知るためには、それ自体がどの分子を誘導するのかだけでなく、転写ネットワーク全体での関与を基盤に分化決定への寄与を算定する必要がある。
- Mef2cノックアウトのケースを例に、標的遺伝子からなる遺伝子ネットワークを理論的に構築することで、それぞれの遺伝子発現パターンから分化の道筋を予測できることも示している。
分化決定研究としては、常識的な結論なのだが、これを裏付ける実際のデータが、実際の遺伝子発現レベルと、それに関わる染色体構造の変化として得られている点が重要だと思う。この論文では、データの詳しい解析による発見とまでは至っていないが、このようなデータは重要な情報が満載で、是非分化決定に興味のある多くの人が利用して、大きな発見につながって欲しいと思う。
2021年10月1日
生体分子は、自由自在に進化し、一つの分子の中にいくつもの機能を持ち得ることはよくわかっている。それでも、馴染みが深く、詳しく研究が進んでいると思っていた分子が、予想外の機能を持っていることが明らかになり、驚かされることはしばしばだ。
しかし、今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文を読んだ驚きは、これまでの比ではない。なんと、女性ホルモンとして知られるエストロゲンの受容体が、核内受容体としてエストロゲン依存性の遺伝子発現に関わるだけでなく、様々なmRNAに結合して、スプライシングや翻訳調節などの転写後の調節に関わることで、乳ガンの進行に関わっていることが示された。タイトルはズバリ「ERα is an RNA-binding protein sustaining tumor cell survival and drug resistance(エストロゲン受容体αはRNA結合タンパクとしてガンの生存と薬剤耐性の維持に関わっている)」だ。
私が気づいてないだけで、これまでもエストロゲン受容体α(ERα)が転写因子だけでなく、細胞質で働いているという報告はあったようだ。おそらくこの研究でも最初からこの可能性を追求したのだと思う。ERαを免疫沈降して、結合タンパク質を探すと、elongation factorやスプライシング因子の様な、RNA結合タンパク質と結合していることがわかった。
そこで今度はmRNAを沈降して結合タンパク質を調べると、ERαがRNAの3‘UTR領域の、特別なモチーフに結合していることを明らかにしている。また、ERαのドメイン解析から、RNA結合部位と、核内でDNAに結合するドメインが異なること、そしてRNA結合ドメインを欠損させると、核内での転写が正常でも、乳ガンの増殖が低下することを明らかにしている。すなわち、乳ガンではエストロゲン依存性の遺伝子を誘導すると同時に、RNA結合因子としてガンの増殖に関わっていることが明らかになった。
次に、ERαによるRNA調節とガンの増殖との関連を調べる目的で、ERα結合モチーフを持つ遺伝子を乳ガンで網羅的にノックアウトする実験を行い、なんと237遺伝子から転写されたRNAが何らかの形でERαにより調節されていることを突き止めた。
では、メカニズムがERαによる調節はどのようなメカニズムで行われているのか?これを知るため、ガン増殖との関係がはっきりしているXBP1、elF4G2、そしてMCL1を選んで、ERαの作用を調べると、XBP1では、オルタナティブスプライシングに、MCL1やelF4G2では、elongation factorとの結合を通して、翻訳促進に関わっている可能性を明らかにしている。また、その結果としてMCL1、XBP1、elF4G2のタンパク質の発現量が乳ガンで上昇していることも明らかにしている。
エストロゲンの機能阻害剤を用いて乳ガンの治療を続けると、耐性ガンがしばしば現れるが、最後に、この過程にERαのRNA結合活性が関わる可能性について調べている。詳細は省くが、タモキシフェン耐性を獲得した細胞でも、RNA結合能が欠損しているERαに遺伝子を変化させると、タモキシフェンが再び効くようになる。一方、RNA結合能が欠損したERαでは、様々な細胞ストレスによる閾値が低下し、細胞が死にやすくなることも明らかになった。すなわち、多くの分子がERαで誘導されると細胞のストレスが高まり、これを抑えるためにErαのRNA結合能が働いていることを意味する。そして、ガンはこの両面性を持ったERαの機能をうまく利用して、ERα阻害剤の作用をすり抜けていることを示している。
以上が結果で、今後乳ガンの治療を考えるときには、転写因子としての機能だけでなく、RNA結合能に対しても介入することで、より効果のある治療が可能になることを示している。
しかし、ERαに予想外のRNA結合能があるというだけでなく、ここまで詳細な機能解析が行われたことに、本当に驚いた。
2021年9月30日
一度はご覧になったことがあるのではと思うが、清水茜さんによる漫画で、体内で働いている細胞を擬人化して描いた「はたらく細胞」シリーズがある。ビデオにもなっていて、例えばウイルス免疫に関して言うと、自然免疫から獲得免疫、抗体とT細胞など、考証がしっかりとできており、漫画であってもこのようなシリーズが700万部を超えて売れる我が国の一般の人たちの知識欲を感じる。
ただ、生物学者としては、細胞の機能や目的を擬人化することで際立たせるという手法には常に問題を感じる。というのも、アリストテレスが生物の原理として目的因を導入して以来、目的という非科学的因果性をいかに科学的因果性に転換するかが生物学の課題だったからだ。その後、ダーウィンによるアルゴリズムの導入、シャノンをはじめとする20世紀の情報科学の進展の結果進んだ、生物情報の研究のおかげで、生物学は徐々に目的論から解放されつつある。
などとえらそうに言ったものの、生物現象はまだまだ目的を考えることでよりよく理解できることが多い。だからはたらく細胞がヒットするのだが、研究者でも同じことが言える。今日紹介するドイツ・ボン大学からの論文はまさに目的論の極致とも言える、ミクログリアが強調し合うことで炎症を抑えてシヌクレインを処理するという、よくできた話についての研究で9月30日号のCellに掲載された。タイトルは「Microglia jointly degrade fibrillar alpha-synuclein cargo by distribution through tunneling nanotubes(ミクログリアは繊維状αシヌクレインを細胞質のナノチューブを通して運んで、協力して分解している)」だ。
パーキンソン病やレビー小体認知症で蓄積が見られるαシヌクレインについては何度も紹介してきたが、これらの病気で神経細胞死がおこる引き金を引く過程だと考えられている。恐ろしいことに、このシヌクレインは細胞から細胞へとプリオンのように受け渡されると考えられており、例えば盲腸や迷走神経の手術するとパーキンソン病の発症が抑えられるという話も、シヌクレインが神経間を伝搬することを示唆している(https://aasj.jp/news/watch/9180)。
αシヌクレインの集まったレビー小体は神経細胞内で形成され、決してグリア内に見られることはないが、細胞外に排出されたシヌクレインの多くが、ミクログリアで分解されるからだ。この研究では、ミクログリア培養でシヌクレインの処理能力を調べると、確かに15分でシヌクレインが貪食されるが、その結果ミクログリアはストレスを抱えて、炎症性の活性化型へと転換し、さらに細胞死の引き金も引かれることが明らかになった。すなわち、シヌクレインはかなり強い刺激で、貪食にも自ずと限界があることがわかった。
もしこの状態が続いて、炎症が広がると大変なことになる。そこで、これを抑えるメカニズムがあるのではと着想し、培養を詳しく眺めてみると、シヌクレインの凝集塊が、小さいものは細長い細胞間のブリッジ、大きいものは太く短いブリッジを通って、貪食していないミクログリアに受け渡されることが明らかになった。これはシヌクレイン特異的な現象で、アミロイドやTauでは見られない。
この過程はシヌクレインを取り込んだストレスによる活性酸素の発生により誘導される、アクチンの再構成をともなう能動的プロセスで、ROCKを阻害することで抑えることができる。すなわち、自分で抱えきれなくなったシヌクレインを他のミクログリアに細胞ブリッジを通して受け渡すことで、自分のストレスを減らし、炎症誘導を減らし、シヌクレインを処理していることになる。
さらに驚くのは、同じブリッジを通って、今度は受け手の細胞からミトコンドリアが移行し、活性酸素の処理を助けて、シヌクレインを食べ過ぎた細胞のストレスを防いでいる。
最後に、マウスの脳内にシヌクレインを注射し、試験管内の過程が同じように見られること、さらにはレビー小体認知症の死後脳でシヌクレインを貪食したミクログリアが細胞間ブリッジのネットワークを作っていることを確認している。
以上、はたらく細胞のように、かなり目的論的に結果を説明したので、いつもよりはわかりやすかったと思う。ただ、生物学者としてはこの現象の進化的背景などを理解できないと、ちょっとできすぎと違う?と考えながら終わらざるを得ない。
2021年9月29日
セグメント細胞と呼ばれる上皮への接着性が高いバクテリアが、腸管上皮の血清アミロイドを誘導し、腸のTh17細胞のエフェクター機能を活性化することは、慶応大学の本田さんや、米国のLittmanらにより明らかにされた、この分野では重要な発見だ。
SAAは小腸から吸収される脂溶性ビタミンの一つ、ビタミンA結合分子と知られており、おそらくSAAはビタミンAを介して、免疫系に作用するのではと考えられていたが、詳しいメカニズムは解析できていなかった。
今日紹介するテキサス大学からの論文は、SAAの受容体LRP1を特定し、これに結合したSAAにより受け渡されたビタミンAが、白血球内でレチノイン酸に変換され、このレチノイン酸がリンパ球の分化やホーミングを誘導することを明らかにした研究で、9月17日号のScienceに掲載された。タイトルは「Serum amyloid A delivers retinol to intestinal myeloid cells to promote adaptive immunity(血清アミロイドAはレチノールを白血球に届け獲得免疫を促進する)」だ。
SAAの免疫系への作用が解析できていなかった最大の理由は、SAA+ビタミンAに結合する受容体が特定されていなかったためだ。この研究では、まずクロスリンカーを用いてSAAと受容体を共有結合させ、受容体を精製する手法を用いて、LDl受容体ファミリー分子の一つLRP1がこの受容体であること、さらにSAAに結合したビタミンAはLRP1発現細胞に多く伝達されることを示している。
小腸内でLRP1の発現が最も高いのはCD11陽性白血球細胞だが、他のマクロファージやリンパ球も少し低いレベルではあるが発現が認められる。そして、LRP1にSAAが結合すると、ファゴゾームに取り込まれてCD11陽性細胞へ受け渡され、そこでレチノイン酸へと転換される。事実、CD11陽性細胞では、SAA-LRP1結合により、レチノールからレチノイン酸合成に関わる酵素系が誘導されることも明らかにしている。
後は細胞特異的、SAAノックアウト、あるいはLRP1ノックアウトマウスを用いて、この経路が遮断する実験を行い、これまで示されていたように、Th17細胞のエフェクター機能の増強、B細胞、CD4T細胞の小腸組織へのホーミングも高まることを示している。
そして最後に、サルモネラ感染実験系で、サルモネラ死菌の腸管投与による免疫がLrp1ノックアウトでは成立しにくいことを示し、これまでSAAの機能として知られていた現象が、ビタミンAの受け渡しを介して行われていることを明らかにした。
この論文では、CD11陽性細胞でレチノイン酸が合成され、これがリンパ球に働くと考えているようだが、低いとはいえ、リンパ球にもLRP1が発現していることを考えると、SAAが直接他の細胞に結合していることも十分考えられると思う。いずれにせよ、腸内免疫に関わる分子過程が着々と明らかになっていることを実感する。
2021年9月28日
昨日はエクソン内のコーディング領域に発生した繰り返し配列数の多様性が、私たち人間の形質をどう変化させるのかを、英国バイオバンクのエクソームデータと、ゲノム/形質の関係を調べた大規模ゲノムデータを駆使して調べる研究を紹介した。この研究から、身長や毛の強さ、あるいは血中脂肪などのレベルが、リピート数と相関し、人間の多様性を生み出すのに寄与していることが理解できたと思う。
このように、変異により遺伝子発現のレベルが少しづつ変化して、形質の多様性を発生させる可能性がある領域の中には、3‘UTRと呼ばれるmRNAのコーディング領域下流に存在する領域があり、mRNAの安定性を決めたり、マイクロRNAの標的となることで、転写後のRNA量を調節するのに関わっている。ただ、この領域の変異は機能が特定しづらく、多型と形質との関係に関する研究は進んでいなかった。
今日紹介する論文もハーバード大学からの研究で、3‘UTRの変異の効果を調べるためのシステムを構築し、英国バイオバンクを始め、様々なデータベースを駆使して、このシステムの妥当性を示そうとした研究で9月30日号のCellに掲載される。タイトルは「Genome-wide functional screen of 3’ UTR variants uncovers causal variants for human disease and evolution (全ゲノムにわたる3‘UTR変異の人間の病気と進化への関与を機能スクリーニングする)」だ。
この研究のハイライトは様々なデータベースから3‘UTRの変異を集めて、網羅的に変異の影響をレファレンス配列と比較できる実験系を開発したことだ。実際には、人間進化の過程で変異した可能性の高い3‘UTR変異をリストしたデータベースや、GWAS研究から病気の関連が指摘されている3‘UTR変異リストのデータベースなどから、約1万2千種類の3‘UTR変異を集め、これらの変異をカバーする100bpの配列を全てバーコードとともに合成、対応するレファレンス配列とともに、それぞれGFPレポーターベクターに組み込み、細胞に導入、細胞内に発現しているmRNA(バーコードからカウントする)の量を、対応するレファレンス配列と比べ、それぞれの変異効果を算定できるようにしている。
こうして、約2500種類の変異がmRNA量に影響することを明らかにしている。1万以上の変異配列を合成するだけでも大変な研究で、おそらくこれまでならリストを形成していただいてご苦労さんといった感じで論文として発表されていたのだろうと思う。ただ、現在は英国バイオバンクをはじめとする、多数のデータベースが存在し、新しい実験系で得られた変異リストが信頼できるかを確かめることができる。この研究でも、様々なデータベースやアプリケーションを用いて、この検証を丹念に行っている。
- 染色体ごとのRNA発現を調べたデータベースと対応させ、今回リストした変異の多くが、このデータベースで発現量に影響することがわかっている3‘UTR変異と一致した。
- eQTRと呼ばれる多型と遺伝子発現を調べるデータベースと比べ、この論文でリストされた3‘UTR変異の効果と、絵QTRデータベースの結果が一致した。
- これまでの研究で知られている3‘UTRの機能に関わる様々な特徴(例えば安定性に関わるAUrich領域やCUrich領域、あるいはマイクロRNA結合領域など)と、今回特定された変異はオーバーラップする。
- 英国バイオバンクなどのGWAS研究や、各人種にのゲノムデータベースと照らし合わせて、今回リストされた変異によるRNAの発現量の違いが、統合失調症、高脂血症などをはじめとする疾患や、あるいはコーヒー嗜好や、髪の毛の色などの一般形質の変化の原因となることが確認される。
- また新型コロナウイルスを始め、ウイルス自然免疫に関わるTRIM14の3‘UTR変異は東アジア人で選択的に増加しており、発現レベルを変化させる変異が人種形成に関わることがわかる。
- またこのシステムを用いると、特定の遺伝子多型について、突然変異を人為的に導入してその効果を比べることができ、データベースの結果を、実験的に確かめられる。
- 網羅的な機能的検証が可能になることで、3‘UTRの配列から、機能的効果をある程度推定することが可能になった。
などが示されている。これまで、データベースから少数の変異に焦点を当て、個々に機能検証していた方法に対し、より網羅的な方法論が導入した研究と位置づけられるが、今回リストされた3千弱の変異は、これから多くの研究者により、様々な角度から利用されるのを待っていると言っていいだろう。
一般の方には理解しづらい論文が続いたが、2回に分けて、21世紀生命科学がデータベースの利用なしに存在し得ないことがわかってもらえたのではと思う。データを求めて世界のデータベースをサーフィンし、面白い研究を行う若手研究者が我が国にももっともっと現れることを期待している。
2021年9月27日
我が国も含めて数あるバイオバンクの中で、英国バイオバンクは最も成功したバイオバンクだろう。実際私のような素人でも、毎日論文を眺めておれば、英国バイオバンクを用いた論文の数が増え続けていることは実感する。この驚きについては、2018年に2回に分けて、このバンクからの成果をまとめて紹介した(https://aasj.jp/news/watch/9080 、https://aasj.jp/news/watch/9083 )。 このバンクを見ていると、英国の科学力が当分揺るがないことはよく理解できる。
あれから3年がたったが、今日から2回、UKバイオバンクのデータを用いて、これまで困難とされてきたタイプの遺伝子変異について解析した論文を紹介することにした。最初はハーバード大学からの論文で同じ配列が繰り返すtandem repeatのなかで、タンパク質をコードするリピートについてのリピート数の変異と、形質との相関を計算できるようにした研究で、9月24日号のScienceに掲載された。タイトルは「Protein-coding repeat polymorphisms strongly shape diverse human phenotypes(タンパク質をコードしている繰り返し配列の多型は多様な人間の形質の発生に関わっている)」だ。
最初タイトルを見たとき、ハンチントン病の様な短いリピート数の変異の話かと思って読み始めたが、この研究ではそれよりは大きな遺伝子領域(実際には18bpから114bpの大きさ)がリピートする数の変異(VNTR)を特定しようと試みている。
このようなリピートの存在は、ヒトゲノム解析データからある程度推察することができるが、それが本当に遺伝する、しかもタンパク質の長さとして表現されることを確認するためには、発現遺伝子の配列から確認する必要がある。これを可能にしたのが、英国バイオバンクに集められた、全く同じ方法で解析された5万人のエクソーム解析で、まず118のVNTRを特定している。
次にVTNRの周りにある遺伝子多型と相関させることで、遺伝可能なVNTRを特定し、最後にそれぞれのVNTRのリピート数とUKバイオバンクに記載されている形質との相関を調べている。また、UKバイオバンクのSNP(一塩基多型)とリンクさせることで、UKバイオバンク50万人の多型データとの関連も調べることができる。
などと簡単に書いたが、膨大な補遺として添付されている方法を見ると、in silicoの仕事といっても、大変であることがわかる。逆に言うと、それをいとわない研究者であれば、この論文のように米国の研究者にも英国バイオバンクは開かれている。
この大変なビッグデータ処理の結果、最終的に5つのVNTRと形質との関わりを特定し、それぞれについて解析結果を紹介している。ただ、上がってきた遺伝子を見て驚くのが、すべてサルや人間で特に変化が見られてきた遺伝子で、人間の形成に深く関わっている点だ。それぞれについての結果は、以下に短くまとめておく。
リポプロテインA: 旧世界ザル以降に現れる分子で、これまでもKringle IV type 2ドメインの繰り返しが分子内に存在し、しかもこの繰り返し数に多型が見られることが知られていた。その意味で、この分子が特定されたことは、方法論の妥当性を示す。この研究ではさらに詳しくリポプロテインの血中濃度とリピート数の解析が行われ、大体10リピートが最大値で、それ以下、あるいはそれ以上の場合、リピート数が10個から離れるごとに、低下していくことを示している。
アグリカン:細胞外基質分子で、成長プレートの構造に関わる。57bpを単位とする繰り返しは13回から44回と多様で、大体1リピート増えるたびに1mm身長が伸びることがわかった。
TENT5A: PolyAポリメラーゼで、骨形成不全症に関わることが知られている。15bpの繰り返しが2回から7回と、多様性は大きくないが、5回繰り返しを持つ遺伝子で、身長が一番高く、2回繰り返しの場合と比べると0.6cm高い。
ムチン1:ガン細胞で合成が高まることが知られた、上皮により分泌され、細胞表面に結合して接着などに関わるが、その発現様式は複雑な分子といえる。割となじみがあったので、60bpの繰り返し配列が、なんと20回から125回まで大きく変化していることを知り、私も驚いた。ただ、この繰り返しとガンとの関わりはわからないが、腎臓の機能、特に血中尿素窒素や尿酸値がリピートが増加と並行して上昇する。
トリコヒアリン:ケラチンの構造維持に関わる分子で、毛の強度と関わることが知られている。18bpのリピートが5回から15回と多様性を示す。リピート数が増えると、男性型ハゲのスコアが低下する。一方、縮れ毛の程度は高まる。
以上が結果で、人間の様々な量的な形質の違いに、タンパク質をコードするリピートの数が関わることがよくわかる面白い論文だ。今後、メカニズムの解析が進むと、人間の進化や人種についての理解が大きく進展すると期待する。
2021年9月26日
IL-2 は脊髄動物進化の後期に現れたサイトカインで、そのシグナルは複雑だ。というのも、受容体はα、β、γの3ユニットからできており、それぞれは独自のシグナルを誘導する。また、細胞分化の過程で、それぞれの発現が異なり、例えば未分化なT細胞ではαの発現が低くIL-2の作用が限られる。しかも、同じ受容体を使うほかのサイトカイン、IL15やIL7まで存在しており、生体でこれほど複雑なシグナル系がうまく利用されているのは驚くべきことだ。ただ、医療に使うという点ではこのような複雑なシグナル系に阻まれて、かなり最初に発見されクローニングされたサイトカインであるにもかかわらず、臨床応用はほとんど進んでいない。
これに対し、3種類の受容体を区別して刺激する方法の開発が進んでおり、これまで紹介したようにモノクローナル抗体でβγ受容体刺激をブロックし、IL-2が最初にαに結合できるようにする方法、あるいは逆にαに結合せずにβγだけに結合するよう設計し直し、キラーだけを誘導できるようにしたIL-2などが開発されている。
今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、IL-2を人為的に変異させて受容体の結合を変化させることで、ガン治療に最適のキラーT細胞を培養できる可能性を秘めたサイトカインの開発で、9月15日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「An engineered IL-2 partial agonist promotes CD8 + T cell stemness(操作したIL-2の部分的アゴニストはCD8陽性T細胞の幹細胞的性質を促進する)」だ。
このグループは受容体とIL-2の構造解析を元に、IL-2の受容体結合性が変化した遺伝子変異体を作成し、α受容体が存在しなくても強くβγを刺激できるH9と呼ぶ変異IL-2を2012年に開発していた。この論文はその延長で、H9の129番目のアミノ酸を変異させて、γ受容体への結合を低下させ、よりβ下流シグナルだけが活性化できるようにしたH9Tの作用の解析だが、結果はおそらく期待以上で、増殖力を維持した幹細胞型、あるいはメモリー型のT細胞特異的な増殖に成功している。この分野はそのまま臨床応用につながり、競争が激しいので、論文掲載までの抵抗が大きかったようで、なんと論文掲載までにまる2年を要している。
さて結果だが、H9TでT細胞を培養すると、エフェクターへの分化を抑えたまま、キラーT細胞を増殖させることができる。すなわち、キラー活性に関わる分子、サイトカイン、さらにチェックポイント分子の発現は全く起こらないまま、細胞の増殖が続く。
クロマチンの構造を調べるATAC-seqで調べても、幹細胞型のクロマチン構造を維持したまま増殖が持続していることがわかる。さらに驚くのは、増殖細胞の代謝を調べると、IL-2で刺激した細胞と比べると、糖分解が抑えられたエネルギー代謝へとシフトしていることがわかる。この原因をさらに探ると、H9T刺激では、STAT5の活性化が抑えられており、これがチェックポイント分子の発現低下や代謝の変化につながっていることが明らかになった。
かなり割愛して紹介したが、まとめると、γ受容体への結合を低下させ、β受容体により選択的に結合するよう操作したIL-2変異体は、γ受容体下流のSTAT5活性化を抑えることで、チェックポイント分子の発現を低下させ、また未分化段階の嫌気的なエネルギー代謝が維持され、結果として分化が低下し、自己再生能力の高い幹細胞的性質を維持したままT細胞の増殖を維持させることが明らかになった。
最後にH9T を用いてメラノーマ抗原とともに試験管内で増殖させたT細胞の抗ガン活性を、マウスメラノーマ移植モデルで確かめると、IL-2で増殖させたT細胞と比べ、高い抗ガン活性を発揮する。また、CD19抗体をキメラ受容体として用いるCAR-Tを、H9Tで増殖させると、通常のIL-2を用いて増殖させたT細胞と比べて、極めて高い抗ガン作用を持つことを示している。
以上、腫瘍浸潤T細胞の試験管内での増殖、CAR-Tの試験管内増殖、さらにはガン抗原による試験管内での刺激・増殖、によるガン治療の可能性に大きく道を開くサイトカインが開発できたのではと期待できる、面白い論文だった。
2021年9月25日
最初、アミロイドβが蓄積することが神経死を誘導するのがアルツハイマー病と単純に考えていた頃から考えると、今はその病態理解はもっともっと複雑になっている。私個人の頭の整理として、アルツハイマー病の神経死は、細胞内のリン酸化Tauが線維様に絡まった蓄積物(fibrillary tangle)を形成することが直接の原因で、このtangle 形成過程をアミロイドβの蓄積が、おそらくグリアを介して影響すると理解している。この神経内のtangle 形成については、Braak stagingとして詳しく病理学的に解析されている。
この理解にたって、リン酸化Tauのtangle 形成を病理学的に調べる研究が進み、例えば嗅内野でのタングル形成がアルツハイマー病(AD)の初期から見られ、認知機能と深く関係することも明らかになってきた。さらに驚くことに脳幹の小さな青班核と呼ばれる神経核では、50歳代の正常人でも、なんと50%にtangle 形成が見られることが明らかになり、ここで始まったTauの異常が嗅内野を通って皮質全体に伝搬するかどうかが、ADの発症を決めるのではと考えられるようになっている。ただ重要性はわかっても、この青班核は1−2万の神経細胞からできた極めて小さな神経核なので、死後解剖以外ではその異常を特定することが困難だった。ところが、最近になって3TMRIといった高解像度のMRIが用いられるようになり、青班核密度(LC密度)をADの初期診断に使えないか期待が集まっている。
前置きが長くなったが、今日紹介するハーバード大学からの論文は、認知機能を追跡するコホート研究参加者の中で、様々な認知機能とともに、MRIでのLC密度、またAβやTauの広がりについてのPETデータが得られ、死亡後解剖して青班核の病理が正確に調べられているケースについて、それぞれの検査データを青班核の病理と相関させることで、LC密度が初期診断に利用できる可能性を調べた研究で、9月22日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「In vivo and neuropathology data support locus coeruleus integrity as indicator of Alzheimer’s disease pathologyand cognitive decline(生存中のデータと死後の神経病理データから、青班核の密度がアルツハイマー病の病理と認知機能の低下の指標になることがわかる)」だ。
極めて膨大な研究で、詳細は省くが、まず結論を紹介すると、「MRIで得られるLC密度は、嗅内野のTau蓄積を反映しており、高齢者で特にAβ蓄積度の高い人では、認知機能の低下と相関している」になる。ただ、これだけでは素っ気ないので、個人的に気になった結果を箇条書きにまとめておく。
- これまでの研究で、LC密度は、Tau蓄積によりノルアドレナリン神経のメラニン顆粒の脱落などが反映され、Braakのtangle形成による神経編成過程の病理ステージを反映している。
- LC密度が低下と、Tauの蓄積は強く相関する。特に、認知機能障害の見られない人では、LC密度は、嗅内野のTauの蓄積と密接に相関しており、LCの病理から、Tauによる変異が広がる初期過程をキャッチできる。
- この初期変化は、Aβ蓄積より早く起こる。従って、Aβの蓄積が一定レベルに達すると引き金になってTau病変が進むのではなくTau病変が先にあって、その過程をAβの蓄積や老化が修飾する。例えばAβ蓄積が進んだ人でLC密度が異常の場合、広範なTau蓄積が見られ、多様な認知機能が傷害される。
ほかにも様々なデータが示されているが、LC密度を中心にADの病態を整理してみることで、より包括的なAD理解を進め、新しい治療法も開発できることを示している。実際、青班核はノルアドレナリン神経の塊で、様々な場所に投射しており、最近では長期記憶にも関わることが知られていることから、治療標的としては面白いと素人ながらに思う。
ディスカッションを読んでみると、動物で青班核にリン酸化Tauを注入する実験が行われており、ここからTauの変成が脳の様々な場所に伝播することが示されているらしい。だとすると、青班核の病理研究は、50歳で半分の人がすでにAD予備軍となっていることを示しており、なぜ半分だけなのか、また何が伝搬の引き金になるのかなど、面白い課題が山積みだ。いずれにせよ、青班核からADを見るのは複雑なAD病理を理解するための頭の整理になった。
2021年9月24日
南太平洋の島々には、いわゆるポリネシア人が分布しており、紀元800年前後にサモアから、カヌー一つで広がったことが知られている。実際、台湾の現地人もこの系統に当たると聞くと、未知の島を求めて片道の旅に出かける勇気があったのか、陸上の歴史しか知らない私たちにとって、最も興味が引かれる点だ。
今日紹介するスタンフォード大学、コンピュータ計算科学研究所からの論文は、インフォーマティックスを用いてこの謎に迫った研究で、9月22日Natureに掲載された。タイトルは「Paths and timings of the peopling of Polynesia inferred from genomic networks(ゲノムネットワークから推論されるポリネシア人の移住経路と時期)」だ。
この研究では、計算科学の人たちとゲノム科学の人たちが、しっかりとタッグを組んで、集めた現存のポリネシア人DNA情報を必要なアプリケーションを開発しながら解析し、移住の方向性や時期を完全に特定している。
私も素人なので具体的な方法の詳細は把握していないが、1)ポリネシア以外からの様々なゲノムインプットを完全に除外して純粋なポリネシア人の標識のみを用いて、それぞれの島の人たちを比較したこと、2)島から島へと大人数が移動するはずはないので、新しい島へ移動するたびに、ゲノム多様性が低下すると想定し、急速に起こる多様性の低下を利用すること、3)共通に存在する遺伝子の長さをもとに世代計算を行うことを組み合わせて、いつ、どこからどこへ、移動が行われたのかを計算している。
結果は、これまでのアイソトープや、遺物を用いた結果とと大きく変わることはなく、最初紀元800年ごろサモアから2000キロも離れたRarotongaという島に定着した一群の人たちが、紀元1100年から移動を始め、400年をかけて、島から島へと飛び石伝いに広がって、最後はサモアから6000キロ以上離れたイースター島にまで到達しているプロセスを明らかにしている。すなわち、最初にアメリカ現地人と出会ったユーラシア人は、コロンブスではなく、ポリネシア人ということになる。
この移動を飛び石伝いと表現したが、要するに一つの島に定着した後、一定期間後にまたカヌーの旅を始め、次の島へ移動する過程が繰り返されている点で、これを可能にした文化、精神性、身体性には驚く。
おそらく手こぎのカヌーといった単純なイメージではないだろうが、水にしても食料にしても、そう多くは携行できないだろう。とすると、海の上ですべてを調達できる知恵と、それでも厳しい条件に耐えてカヌーを操作し続ける驚異の身体性、そして星を使った海洋術、さらに遠く見えない島を信じて大洋へ漕ぎ出す精神性を備えていたはずだ。この一部は、今回抽出されたポリネシア人特有の遺伝子領域からある程度解析可能かもしれない。