今日紹介するドイツフライブルグ大学からの論文はTM部分にコレステロールが結合することでT細胞抗原受容体(TcR)のシグナル伝達機能が抑えられていることを示す研究で5月17日号のImmunityに掲載された。タイトルは「A cholesterol-based allostery model of T cell receptor phosphorylation (TcRリン酸化のコレステロール結合によるアロステリック効果)」だ。
これまでTcRにコレステロールが結合していたこと、そしてT細胞表面のTcRには、刺激を受けにくい静止状態(TcRr)、すぐに刺激を伝達するプライム状態(TcRp)の2種類が存在していることもわかっていたようだ(私自身にとっては初耳だが)。著者らはこのTcRr とTcRpのスイッチがTM部のコレステロール結合にあるのではないかと着想し、TcR刺激前後でコレステロールと結合したTcRの割合を調べ、刺激によりコレステロールと結合したTcRの割合が減ることを確認、この可能性が高いことを確信している。
あとは、この可能性を生化学的に詰める実験が行われ、1)リガンドと結合したTcRはコレステロールと結合できない、2)コレステロール結合部位が変異したTcRは細胞内でリン酸化を受けにくい、3)正常T細胞をコレステロール酸化酵素で処理しコレステロールの結合を抑えると、TcRはリン酸化されやすくなり、またシクロデキストリンでコレステロールを除去すると、T細胞の活性化が上昇する、4)コレステロール結合によるTcRリン酸化の低下は、コレステロール結合によりLcKリン酸化酵素がTcRに結合できなくなることによる、等の結果を示している。最後にこの結果に基づいて数理モデルを作成し、TcR、抗原(MHC)、そしてコレステロール結合の間の様々な状態から、T細胞反応を予測できる可能性を示している。
話はこれだけだが、詳細な実験が行われており説得力が高い。私自身考えたことのなかった可能性だが、もしこれが正しいとすると、ガンの免疫療法、自己免疫病などの分子基盤を考えるとき、TMの変化についても考える必要があることを意味している。また、他のシグナル分子についても、同じようにTMの状態が興奮性に寄与していないかも興味がある。
もちろんTcR特異的な現象かもしれない。もともとTcR複合体は、抗原受容体と4種類のCD3分子が結合してできている複雑なものだ。おそらく、他の分子より微細なシグナルチューニングが必要だからだろうと思っていたが、TMへのコレステロール結合までこのチューニングに加わるとすると、T細胞操作による疾患治療は、様々な可能性を考えながら進歩させる必要があると感じた。
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