その後、ネアンデルタール人ゲノムを解読したペーボさんが書いた「Neanderthal Man」の中で、戦後ドイツのタブーを破ってマックスプランク人類進化研究所が設立された時、発達比較心理学部門を設けてトマセロさんに教授就任を依頼したことが書かれており、高い理想で研究所を計画しているなと感心すると同時に、一度実際の研究論文を読んでみたいなと思っていた。
とは言っても分野が異なり、なかなか私の網に引っかかってこなかったが、先週ようやくトマセログループからの論文を読むことができた。タイトルは「One for you, one for me: human unique turn-taking skills(一つは君に、一つは僕に:人間独特の交代制を設定するスキル)」だ。
この研究では、二人のどちらかしか褒美を得ることができないが、得るためには協力が必要な課題を、競合するのではなく、交代に褒美を得る様交渉しあって行う共同行動がいつ発達するのか、3歳半、5歳の子供と、大人のチンパンジーにほぼ同じ課題を行わせて調べている。ビデオも添付された論文で、本を読むのとは違って、トマセロさん達が課題を設定する過程を詳しく理解することができた。
結果は5歳にならないと、「まず君、つぎ僕、OK?」といったコミュニケーションが成立しないことを示している。チンパンジーも共同作業を行うが、順番を決めて褒美を得るまでには全く至らない。同じ様に、この様な行動は3歳半でも発達できていない。
トマセロさんの本を読んだ時、人間の心理発達は思いの外遅いという印象を持ったが、この順番に獲物を得る交代制も、5歳まで発達できないのかと驚いた。今後はこの背景にある、例えば、未来の成果が想像でき、自分の欲望を抑えて一回待てる脳ネットワークなど、メカニズムの解析が必要だろう。
言語も含めて人間特有の脳機能の中心に、同じ概念をシンボル化して他人と共有できる能力がある。実際に論文を読んでみて、一見他愛ない様に思える実験の中に、深い構想があることがよくわかる。言語の発達もこの様な研究の繰り返しの上に進むのだろう。
しかし、人類進化学研究所を作って最初にトマセロさんに教授就任を依頼したペーボさんの構想力には脱帽。
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