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6月8日:テロメアが伸びた細胞の運命(Nature Communications DOI: 10.1038/ncomms11739掲載論文)

2016年6月8日
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原核細胞が進化し線状のゲノムをもつ生物の誕生の際、染色体のが短くなって遺伝子が失われないようにするメカニズム、テロメアが生まれた。テロメアは、各染色体の両端に存在する繰り返し配列で、断端がDNA修復により他の染色体と融合したりしないよう厳重に守られるとともに、幹細胞ではテロメラーゼが発現し、短くなったテロメアを元に戻して、細胞分裂が続くようにできている。これまでこのテロメア機能を調べるため、テロメラーゼや断端保護に関わる分子を操作した細胞やマウスが作られてきたが、人為的にテロメア自身が長くなった細胞の体内での運命を調べた研究はあまり見たことがなかった。
  今日紹介するスペイン国立ガン研究所からの論文はテロメアの長いマウス細胞を作成する方法を開発して、その細胞の生体内での振る舞いを調べた研究でNature Communicationsに掲載された。タイトルは「Generation of mice with longer and better preserved telomeres in the absence of genetic manipulations(遺伝子操作なしに長いテロメアが維持されたマウスを作成する)」だ。
   この研究はマウス細胞のテロメアの長さが内部細胞塊時期の未分化細胞の分裂時に形成されるという独自の発見からスタートしている。内部細胞塊に対応するES細胞を培養し続けるとテロメアが長くなるかどうか調べると、数回分裂することで通常より長いテロメアを持ったES細胞ができるが、一定の長さに達するとテロメア断端を守るシェルタリン分子の発現が低下し、それ以上長いテロメアができるのを防いでいることが明らかになった。
  次にこうしてできた長いテロメアを持った細胞を胚盤胞期のマウスに注入して、長いテロメアと正常のテロメアが混在するキメラマウスを作り、両者を比べることで長いテロメアがどのような影響を持つか調べている。このようにテロメアの長い細胞を作るために全く遺伝子操作が行われていないことがこの研究の一つの売りになっている。
  さて、長いテロメアを持つことの意味だが、悪い作用はあまりなさそうだ。例えば複製のしにくいテロメアが長いとDNAが障害される心配があるが、障害の程度が異常に上昇することはない。逆に、老化とともに上昇するDNA障害によるテロメアの脆弱性が抑えられる効果がある。とはいえその効果は相対的で、正常の2倍程度の長さだと、体のあらゆる細胞へと分化し、組織で機能できると結論していいのだろう。
  気になる幹細胞機能だが、正常に機能するだけでなく、正常テロメア長の幹細胞より増殖能が高い傾向にある。実際修復機能が高まっている。
  ではガンになりやすいか調べると、正常テロメア長の細胞と比べて特に変化がないという結果だ。
  話としてはこれだけだが、これまでテロメラーゼなどを操作した細胞で研究されてきた結果とは異なる面白い研究だと思った。残念ながら、長いテロメアだけからできたマウスについては全く触れておらず研究は全てキメラで行われている。ひょっとしたらびっくりする話が待っていて、あえて隠しているのか、あるいは技術的に難しいのか?実際このストーリーが正しいと、ES細胞からできたマウスは全てテロメアが長くなっているはずだ。例えば、生殖細胞ができるときにテロメアの長さが元どおりになることも考えられる。本当にテロメア長が2倍のマウス系統ができるのか?おそらくできないのではと思うが、期待して待っておこう。
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