変性性疾患の代表とも言えるパーキンソン病でも、ミクログリア反応が見られるため、病気の進行に及ぼす炎症の関わりは研究されてきた。今日紹介するカナダ モントリオール大学からの論文はさらに進んで、ミトコンドリア上のタンパク質に対して自己反応性T細胞が誘導されることがパーキンソン病の引き金になる可能性を示唆する研究で、7月14日号のCellに掲載された。タイトルは「Parkinson’s disease-related proteins PINK1 and Parkin repress mitochondrial antigen presentation (パーキンソン病発症に関与するPINKとParkinはミトコンドリア抗原提示を阻害する)」だ。
読んでみると、この研究は細胞生物学の研究で、抗原提示能は細胞内過程を特定するための一つの標識として使われているに過ぎないことがわかる。すなわち、抗原が組織適合抗原(MHC)と結合して細胞膜上に提示されるためには、抗原が分解され、MHCが発現するエンドゾームでMHCと結合し、最後にエンドゾームが細胞膜に運ばれるという細胞生物学的過程が必要だ。
しかも、抗原が分解される経路は様々で、それに応じて細胞膜までの経路も変化する。例えばミトコンドリア内の抗原はオートファジーでミトコンドリアごと分解されると予想される。この研究では、ミトコンドリアに局在するウイルス抗原がどの様な経路で細胞表面上に提示されるかについて研究している。この過程で、ミトコンドリア抗原が提示される経路は、オートファジーではなく、ミトコンドリアの一部が離脱したミトコンドリア小胞(MDV)がエンドゾームに取り込まれる特殊な過程であることを細胞生物学的に示すとともに、この過程に関わる分子Snx9,Rab7,Rab9などを特定している。
オートファジーが関係ないとすると、パーキンソン病とどう関わるのか?この研究では、パーキンソン病でのオートファジーに関わるParkinやPINKが欠損した細胞ではMVDの生成が促進し、その結果ミトコンドリア抗原提示が上昇することを示している。
シナリオをまとめると、ミトコンドリア抗原は様々なストレスで誘導されるMVD経路でのみ提示される。ただ、ParkinはMVD形成に関わるSnx9を分解し、またミトコンドリア全体がそのまま分解されるオートファジーを促進するため、ミトコンドリアからのMVD形成は抑えられている。ところがParkin/Pink機能が低下するパーキンソン病では、MVD形成の抑制が外れるため、ミトコンドリア内の分子が抗原として提示され、自己免疫を誘導する可能性が高くなるという話だ。
示されたデータだけですぐパーキンソン病に免疫性の炎症が関わると結論するのは早いと思うが、十分考慮に値する面白い論文だと思った。
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