CFTR分子は巨大で、様々な場所の突然変異によりCFが起こるが、最も多い突然変異は508番目のフェニルアラニンが欠失するタイプだ。この突然変異は、分子自体の機能もある程度低下するが、タンパク質の折りたたみがうまくいかず、細胞膜への輸送が妨げられる。このことから、変異分子の機能をなんとか正常化させるIvacaftorという薬剤と、細胞膜への輸送を促進するlumacaftorという薬剤が現在治験中だ。
今日紹介するイタリア・ペルージャ大学からの論文はこれまでのように直接CFTRを標的にするのではなく、Thymosinαと呼ばれる主に胸腺で作られる小さなペプチドで上皮細胞の炎症への抵抗性を与えることで、CFTRの細胞膜への輸送を高め、同時に炎症も沈めてしうことが可能であることを示す画期的な研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Thymosinα1 represents a potential potent single molecule-based therapy for cystic fibrosis(Thymosinα1は嚢胞性線維症の単一分子による強力な治療への可能性を持っている)」だ。
この研究のハイライトは、ウイルス感染や、免疫不全、慢性呼吸器疾患に現在使われているThymosinα1が細胞内の様々な経路を変化させ、CFTR分子の輸送や機能にも良い影響を及ぼすのではないかと着想したことだ。
この着想を確かめるため、CFの上皮細胞をThymosinα1で処理すると、上皮のTLR9シグナルを介してIDO1と呼ばれる炎症への抵抗性の鍵になる分子が誘導される。そして期待通り、IDO1が誘導されるとオートファジーが高まり、変異型CFTRの細胞膜への輸送が正常化することが明らかになった。細胞学的に調べると、Thymosinα1処理により確かに変異型CFTRの折りたたみが正常化するとともに、タンパクの再利用が進むことで、細胞膜への発現が高まることがわかった。この研究では、変異CFTRの細胞内でのプロセッシングについてさらに詳しく調べているが詳細は省いて良いだろう。重要なのは、モデルマウスでこの結果、上皮のクロライドチャンネルが正常化することだ。さらに、これまで開発された分子機能を高めるivacaftorとの協調作用も示されている。
まとめると、Thymosinα1により上皮細胞の炎症への抵抗性が上昇することで、CFTRの輸送や再利用が高まり、遺伝子改変なしにも一定程度の治療が可能であることを示している。さらに、Thymosinα1はCFTR以外のクロライドチャンネルを誘導することで、臨床的にはCFTRの機能を高める以上の臨床的効果が期待できるという結果だ。Thymosinα1はすでにZadaxinという薬品として市販されている。もちろん、いくら体内で作られている薬剤だからといって長期間投与が可能かなど問題はあるが、気管内投与、気管内遺伝子投与、あるいは今回明らかになったThymosinα1により誘導される経路の分子を標的にした治療など、様々な可能性が新たに生まれたと思う。期待したい。
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