現在2つのサイトを閲覧しているが、最近生命科学の中に経済や政治の論文が結構混じっている。政治も経済もいつかは生命科学になると思うとキュレーターの判断に納得するが、息抜きとしてたまに読むようにしている。
今日紹介する論文もこのキュレーションサイトで紹介していたのをダウンロードした。このバージニア工科大学からの論文は、一般的な意味での生命科学とは全く関係なく、幾つかの公表された統計データを集めて、SNSが政治や権力の腐敗を防ぐ役割があるかを検証した論文だ。タイトルはズバリ「Does sociall media reduce corruption? (ソーシャルメディアは腐敗を抑えるか?)」で、Information Economics and Policyオンライン版に掲載された。
この雑誌は初めてなのでデータを調べてみたが、それほどレベルの高い雑誌ではないようだ。ただ、研究の方法は単純明快で、世界銀行から発表されている腐敗度を示すControl of Corruption Index(CCI)と、フェースブックのデータをもとに世界各国のフェースブックユーザーのデータを集め分析し提供しているQuintlyという会社のデータから、各国でのフェースブックの普及度を調べ。両者の相関関係を調べている。この研究の最も重要なデータはこれだけで、後はこのデータの信頼性について様々な要因を加味して検定している。したがって、論文の中で図1として示されたデータをまとめると、
1) まず予想通り、フェースブックの普及率が低い国と、世界銀行の発表している腐敗指数は逆相関する。
2) 腐敗係数が極めて高く、フェースブックの普及がほとんど進んでいない一かたまりの国が数多く存在し、リビア,赤道ギニアなど多くのアフリカの国が含まれる。
3) 腐敗度の最も低いのが北欧3国だが、フェースブックの普及率も高い。
4) 最もフェースブック普及率の高いのはアイスランドで、腐敗度は我が国と同じ程度。
5) 我が国は極めて特殊で、フェースブックの普及率は開発途上国並にもかかわらず、腐敗指数はだいたいフランス、英国、ベルギーに近い。
もちろんこのデータだけからフェースブックが普及すると腐敗は防げると結論するのは早計だろう。実際には経済発展や福祉、政治の伝統の方が腐敗度ともっと相関すると考えてもいい。この点を調べるため、様々な回帰試験を行っており、確かに都市化など多くの要因がこの結果に反映されることも検証している。
中でも面白いのは、報道の自由度との関係で、報道の自由がない場合はとくにSNSの力が発揮できる点、また一般報道との補完性なども指摘している。
いずれにせよ、これはスタートラインで研究としてのレベルが高くないことは専門外でもわかる。しかし、このデータからスタートして、例えば腐敗の激しい一かたまりの国を、同じ指標で追い続けるなど、研究手法としては期待できるのではと思う。
それに加えて、不完全な統計であっても我が国の立ち位置も面白い。特に警官が賄賂を取るといったことはないが、今問題になっている権力者に対する忖度や、役所が文書を平気で破棄する点など、違った腐敗が問題になっている我が国でも、SNSが腐敗を防ぐ可能性の解析は重要だと思う。
論文としては物足りないが、腐敗の解析まできちっと論文として残そうとする精神には感服している
カテゴリ:論文ウォッチ