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5月14日:新薬の最終安全性は実際の使用を通してしか明らかにならない(5月9日号米国医師会雑誌:JAMA掲載論文)

2017年5月14日
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   一つの薬剤が市場に出るためには長期にわたる開発研究が必要だが、最も時間と金のかかるのが実際の患者さんを使った臨床治験と呼ばれる段階だ。この過程で薬剤の効果が確かめられるのと同時に、重篤な副作用がでないか、またそれに対応する方法はあるのかなどが調べられる。これらの結果をもとに我が国では医薬品医療機器総合機構、米国ではFDAが審査し、市場に出してもいいかどうか判断する。従って、新薬の認可には副作用も含めて審査が行われている。しかし1000人以下の患者さんで、期間を限って行われる通常の治験では見落とされる副作用が必ず存在する。そのために、使用が始まってから常に副作用をモニターして、有害事象が発生した場合我が国では「医薬品安全情報」として、米国では「Safety communications」として情報が公開される。
   今日紹介するエール大学内科を中心にしたグループの論文は、2001年から2010年までの10年間にFDAの認可を受けた222種類の新薬が、実際に臨床に使われる中で、当初想定しなかった副作用がどの程度発見されるのかを調べた論文で5月9日号のJAMAに掲載された。タイトルは「Postmarket safety events among novel therapeutics approved by the US Food and Drug Administration between 2001 and 2010(2001年から2010年までにFDA認可を受けた新薬の上市後の安全関連事象)」だ。
   このような研究は地味だが、医師や患者さんが、あらゆる新薬には常に新しい安全問題が付きまとうことをしっかり認識する意味で大変重要だと思う。研究では、222種類の新薬を、対象疾患別、および化学化合物か生物製剤かに分類した後、FDAの記録を丹念に調べ、1)市場撤退、2)boxed warning(パッケージや仕様書に黒枠で特別に有害事象の警告が加えられる)、3)safety communicationとしてウェッブサイトに記載される、の3段階に対応した薬剤をリストしている。ただ調査が完全かというと、そうでない点もある。我が国発の薬剤について少し調べたが、例えば第一三共のオルメサルタンについて2011年に出されたsafety communicationは最近それほど心配がないと訂正されており、safety communicationの訂正までは追跡していないようだ。
   結果だが、222種類の薬のうち、3剤は市場撤退、61剤はboxed warning、59剤がsafety communications掲載と、新しい有害事象に見舞われている。オーバーラップを引いて計算すると、新薬のなんと32%は予想外の副作用が出る。有害事象の報告は平均で使用後4年で、10年以内に有害事象が報告された新薬は30.8%ののぼっている。
   重要なのは向精神薬、および抗体薬やサイトカインなどの生物製剤に有害事象が多いことで、薬剤の開発がどうしても効果に集中するため、他の作用が見落とされやすいことを示している。個人的印象でいうと、生物製剤は特異性が高いため副作用が出にくいと思っていたが、そうではないようだ。すなわち、薬効のメカニズムについて完全にわかっているわけではなさそうだ
   また、患者さんの期待が大きく審査をスピードアップした薬剤に、有害事象発生が多いことも分かった。
   個々の医師や患者さんにとっては今使っている薬剤が問題になるが、さらに審査を科学的かつ迅速に進めるためには、このような調査によって、全体の傾向がわかるのは極めて重要だ。
    ただこのような論文をネガティブにだけ捉えると、薬剤の開発は不可能になる。個人的には市場撤退に追い込まれた薬剤がまだ3剤に止まっていることの方が重要な気がする。しっかりと情報を公開さえすれば、危険を承知で薬剤を正しく使うことが可能なことも、この研究は教えている。    
カテゴリ:論文ウォッチ
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