一方、私たちの認識は大きく視覚に依存しているが、生まれつき目の見えない人は、同じカテゴリーを他の感覚入力から形成する必要がある。この様なカテゴリー化にも、腹側側頭葉が関わっていることが知られている。この領域の活動法則を知ることは、カテゴリー化とは何かを知るために重要な課題だ。
今日紹介するベルギーのルーベン・カソリック大学からの論文は腹側側頭葉でのカテゴリー化が全く視覚情報とは独立して行えるのか、あるいは視覚、聴覚それぞれの感覚は別々にカテゴリー化されるのかを、生まれつき目の見えない人を選んで調べた研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Development of visual category selectiveity in ventral visual cortex does not require visual experiencee(腹側視覚野での視覚カテゴリーの選択制の発達には視覚経験は必要ない)」だ。
この研究では、発生過程の障害のため、生まれつき目の見えない人を選んで調べることで、視覚刺激が全く存在しないという状況でカテゴリー化を調べている。では、生まれつき目の見えない人に、顔、体、景色、物などのカテゴリーをどの様に認識してもらうかだが、この目的で、顔のカテゴリー化には笑い声や口笛など顔を思い浮かべる音、体のカテゴリー化については手を叩いたり指を鳴らす音、景色のカテゴリーについては波の音、物のカテゴリーについては車や機械の音と、日常自然に存在して、明確にカテゴリー化できる音を聞かせている。
研究では、正常人には、ビデオ画像によるカテゴリー化、音によるカテゴリー化を行ってもらう一方、視覚が欠損した方には音刺激でカテゴリーを思い浮かべてもらい、その過程を帰納的MRIで調べている。
結果だが、正常人が様々なカテゴリーの画像を見た時に活動する腹側視覚野部位は、カテゴリーごとに分離しているが、目の見えない人が画像に対応するカテゴリーを音を聞いて判断している時も、同じ領域が活動する。ただ、この領域がカテゴリーをトップダウンで決める領域でないことは、正常人が音を聞いてカテゴリーを判断する時に活動する領域が異なっていることからわかる。
わかりやすく言うと、視覚刺激の競合がない時だけ、腹側視覚野を使って同じ様に音刺激をカテゴリー化している。この結果に対応し、目の見えない人は、音の刺激から得られるカテゴリーを一次視覚野で区別していることも明らかになった。一方、一次聴覚野でのカテゴリーの分離は正常人でははっきりと見られるが、視覚の欠損した人では、依存性が強くないことも分かった。すなわち、必要に応じて自由に感覚野を使い分けている。なかなか面白い。
素人なりに考えると、視覚野も聴覚野という単純な区別も本当は必要なく、一次感覚野はインプットに応じて自由に再構成できている。実際、目に見えない人が何を感じているのか、正常人もイメージを共有する日が来るのも近い様な気がしてきた。
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