今日紹介するマサチューセッツ医科大学からの論文は、この構造解析が持つ問題をクライオ電子顕微鏡が見事に解決することを示した研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Ensemble cryo-EM elucidates the mechanism of translation fidelity(アンサンブルクライオ電子顕微鏡は翻訳の正確性を保証するメカニズムを明らかにした)」だ。
クライオ電子顕微鏡(CryoEM)では最初から多数の単分子を記録して、あとはコンピュータ上の計算で向きなどを揃えて最終的な立体構造を得る方法だ。従って、もし最も安定な構造に至る前の中間段階が存在する反応過程をこの方法で解析すると、それぞれの段階に分けて構造を再構成できる可能性がある。
この研究ではEF-TuのGTPが加水分解できないように細工した分子を加えることで、アミノアシルtRNAがリボゾームに結合するまでの過程だけが起こるようにした反応液から取り出した分子をCryoEMで観察し、最終的に5種類の分子構造が3オングストロームの解像度で得られたという結果だ。
具体的な結果は、立体構造の図を見ながらでしか説明できないと思うので詳細は省くが、最初EF-Tuと一緒に30Sリボゾームに寄ってきたtRNAがmRNAのコドンと一致した時だけ、鍵が閉まるようにすべての分子がコンパクトにまとまり、また50SリボゾームとEF-Tuが強く結合できるようになるまでの過程が詳細に示されている。専門外の人間にとっても、RNA同士がこれほど複雑な相互作用を通して、コードが一致するtRNAだけがリボゾーム上にリクルートできるのかと感心するが、おそらくこの分野のプロには私たちが思いつかない様々な重要なヒントが得られたのだろう。
私自身は、翻訳マシナリーの詳細より、CryoEMのポテンシャルの高さに本当に驚いた。計算のスピードなど克服する問題はあるだろろうが、ソフト次第で様々な反応過程の中間段階がこのように明らかになることは間違いない。脱帽。
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