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5月23日:クロマチン構造維持に関わるCTCFの役割(5月18日号Cell掲載論文)

2017年5月23日
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21世紀に入って急速に進展した分野が染色体構造の構造解読研究だろう。2mにも及ぶDNAが小さな核の中に折りたたまれ、折りたたむ方向と核内の位置が決められ、さらにそのパターンが細胞分裂のたびに再現されることは驚き以外の何物でもない。このゲノム構造化の鍵を担うのが、CTCFとコヒーシンだが、あまりに当然すぎて、この分子が急に欠損したらどうなるなどあまり考えたことがなかった。
   今日紹介する米国サンフランシスコ・グラッドストーン研究所からの論文はCTCFが消えたらクロマチンはどうなるのかという極めて素朴な疑問にチャレンジした研究で5月18日号Cellに掲載された。タイトルは「Targeted degradation of CTCF decouples local insulation of chromosome domains from genomic compartmentalization(CTCFの分解は染色体ドメインのインシュレーションをゲノムのコンパートメント化から切り離す)」だ。
   もちろんこれまでもCTCFの翻訳を様々な方法でoffにする試みは行われてきた。しかし、いったん翻訳されたCTCFは残存し、たんぱく質の除去の程度は限界があった。これに対し、この研究では植物ホルモン・オーキシンによってAID領域を持つタンパク質を分解するシステムを用いて、細胞に存在するCTCFを完全に分解してしまう方法を使っている。方法自体は私が現役の時に我が国で開発された方法で、動物細胞にはシステムそのものがないので、ES細胞のCTCFをAIDで標識したCTCFに置き換え、加えてオーキシンに反応するTir1分子を加えることで特定のタンパクを細胞内で任意の時点に分解することができる。
   CTCFが分解したら細胞はすぐ死ぬのではと思って読み始めたが、オーキシン添加により増殖速度は低下するものの、2日間ぐらいはほとんどの細胞が生き残り、増殖する。これにより、CTCFの機能をかなり正確に調べることが可能になっている。
   結果だが、CTCFがなくても生き残るのは、on/offを決める大きな染色体構造自体はCTCFが除去されても維持されることが明らかになっている。また、ヒストンのメチル化による染色体の広い範囲にわたるクロマチン凝縮もCTCFなしに維持できる。最初、いったん構造ができると、かすがいが外れても、構造は維持されるのかと思ったが、オーキシン添加後2日だと、細胞はすでに細胞周期を終えており、クロマチンの再構成自体が可能であることを示している。一方、TADとよばれるゲノム領域内に転写活性を止めておくインシュレーター機能は完全に破壊されている。
   他にも様々な検討を行っているが、これらの結果からコヒーシンを中心とする複合体がゲノムに結合してゲノムのルーピングを進めるが、その時CTCFはこの複合体をそれ以上進めないで止める働きがあることが明らかになった。
   この結果、では転写では何が起こるかも調べており、半分の遺伝子の転写が抑制され、半分が上昇する。この検討から、CTCFが確かにエンハンサーの作用範囲を制限していることがわかるが、TAD境界が失われた状態での変化は極めてランダムで、説明自体は難しいと思う。
   今後、コヒーシンをロードするたんぱく質など同じ様な方法で分解する実験を組み合わせることで、CTCFとコヒーシンの役割がさらに明らかになるだろう。
   これまでなんとなく頭の中でわかったつもりになっていても、最も確実な方法で実験を行うことが重要だと納得した。
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