今日紹介するバージニア大学からの論文は、この重要な問題をマウスモデルで研究するため、脳のリンパ管系の機能を低下させたマウスを作成し、その影響をしらべた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Functional aspects of meningeal lymphatics in ageing and Alzheimer’s disease(老化とアルツハイマー病での脳髄膜のリンパ管の機能的側面)」だ。
このグループはこれまで、脳内の老廃物を排出するのが髄膜にあるドレーンシステムで、遺伝子の発現からリンパ管と呼んで良いことを示してきた。実際、リンパ管の形成が押さえられているProx1(+/-)マウスでも脳のドレーン機能が落ちていることが示されている。この研究では、Visudyneと光を用いて管腔を詰まらせる方法を用いてマウス髄膜のリンパ管を塞ぐ方法を開発し、ドレーン機能と、脳機能の関係を調べることが出来る実験システムを作り上げている。
この操作で確かにドレーン機能が低下し、様々な大きさのタンパク質が脳内に蓄積しやすくなることを確認した上で、ドレーン機能の低下が脳機能に及ぼす影響を調べている。念のため、2週間おきにリンパ管の機能を除去する操作を2回繰り返し、そのあと広い場所でのマウスの行動、および2種類のテストによる記憶能力を調べている。この結果、ドレーン機能を抑制しても、マウスの一般的行動は正常マウスと同じだが、記憶テストは両方とも強く低下しており、ドレーン機能が脳機能,とくに記憶に重要であることが実験的に示された。
そこで、老化による記憶減退にもこのドレーン機能が関わっていないか調べると、老化マウスでは髄膜リンパ管が細くなりドレーン機能が低下していることがわかった。そこで、脳内にリンパ管新生を誘導するVEGF-Cを様々な形で投与すると、管腔が拡がり、ドレーン機能が復活し、新しい場所の記憶や、迷路実験に必要な記憶が正常化することがわかった。
最後にさまざまなアルツハイマー病でドレーン機能の役割を調べ、遺伝的アミロイド蓄積マウスの実験系で、リンパ管を塞ぐと、アミロイドβの髄膜リンパ管への蓄積が亢進することを見出している。そして、実際のアルツハイマー病の患者さんでも、髄膜リンパ管へのアミロイド蓄積が見られる事を発見している。
結果は以上で、老化による記憶減退や、アルツハイマー病でのアミロイド蓄積にドレーン機能が関わっている可能性が示唆され、おそらく初めて大脳のドレーン機能を担うリンパ管の役割が明らかになったといえる。最初、「本当かな」と見ていた大脳でのドレーン機能が少しづつ市民権を得てきたように思う。今後VEGF-Cゲルによるアルツハイマー病の進行抑制や老化による認知障害の改善などが本当に明らかになれば、大ブレークする可能性もありそうな気がしてきた。
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