今年は、ドイツでバウハウスが設立され100周年に当たります。我が国でも多くの企画が進んでいますが、AASJも日本フンボルト協会と共同で「バウハウス100年に向けてー多様性の中の総合/総合の中の多様性」というタイトルで、フンボルト協会会員による対談をを以下の通り行い、Youtubeで放送します。
日時 8月19日 日曜日 午後2時
出演者:京都工業繊維大学教授 三木順子
同志社大学名誉教授 岡林洋
京都大学名誉教授.・平安女学院大学教授 高橋義人
聞き手 AASJ代表 西川伸一
番組 YouTube site:
https://m.youtube.com/watch?v=Myl5OcOS0eA
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三木先生による番組の概要
2019年、バウハウス創立100周年を迎えます。1919年に設立されたバウハウスは、モダンデザインの中心的な教育機関のひとつとして、1933年に閉校するまでのあいだの14年間にわたって、ドイツ国内外から多くの学生を迎え入れました。その教育方法や造形思考は、後世に大きな影響を与えるものとしてなお注目されています。バウハウス100年に際して、バウハウスを今日的でグローバルな視点から再考する国際プロジェクト「bauhaus imaginista(創造のバウハウス)」が立ち上げられ、現在、世界の各地でイヴェントが繰り広げられています。この国際プロジェクトの一環として、日本では京都国立近代美術館で、日本とインドの造形教育におけるバウハウス受容の足跡を辿る展覧会が開催されています。
よく知られているように、バウハウスは、14年間のあいだにワイマールからデッサウ、ベルリンへと場所を変え、経営母体も国から市へと移り、最終的には私立の学校となることを余儀なくされました。校長を務めた3名の建築家のそれぞれが掲げた主張はけっして同一のものではなく、具体的な授業を受け持つマイスター(教員)らもまた、それぞれに独自の造形と教育の方法論をもっていました。バウハウスとは、変化と多様性をはらみながら展開した、大きなプロジェクトであったとみなされねばなりません。
とはいえ、バウハウスは、ただ多様であっただけではありません。むしろその多様性の根底では、一貫して、ある志向が推進力として機能していました。それは、「総合(Gesamtheit/Einheit)」への志向です。バウハウスにおいては、総合という理念もまた多義的でした。それは、諸芸術の総合や芸術と技術の統合を意味しただけでなく、あるときは、中世のギルドを範とする共同制作を意味し、あるときは、合理的な機械の時代にふさわしい生産ラインの一本化のことを指し、またあるときは、社会主義的な共同体思想と共鳴してもいました。
変化や多様性というものに自覚的であると同時に、総合や全体性という理念の普遍性を希求し、近代の新しい住まいと生活と社会の形成(Gestaltung)ことを目指したのがバウハウスというプロジェクトであったといえるでしょう。多様性と総合という二つのキーワードのもとにバウハウスを振り返り、100年という年月を経たそのアクチュアリティを議論してみたいと思います
グリオブラストーマは現在も完治の難しいガンの一つだ。最近のゲノム研究でグリオブラストーマに高い頻度で現れるさまざまな突然変異が特定されているが、このような変化が蓄積するガン発生前の過程については、今だによくわからない。グリオブラストーマと言うぐらいだから、当然アストロサイトなどのグリア細胞やその幹細胞由来と考えられるが、本当の由来すらわからないというのが現状だと思う。
今日紹介する韓国の先端科学技術研究所KAISTと延世大学医学部からの論文は、最初から脳室のすぐ下にある神経幹細胞のニッチ領域(SVZ:subventricular zone)の神経幹細胞が人間のグリオブラストーマの起源だと仮説を立て、患者さんの手術時に、がんと同時にSVZ細胞も集めて、遺伝子変異を比べた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Human glioblastoma arises from subventricular zone cells with low-level driver mutations(人間のグリオブラストーマは低いレベルのドライバー変異を持った脳室下帯の細胞から発生する)」だ。
この研究は全て人間の患者さんの脳組織で行われており、その意味で最初からグリオブラストーマの起源をSVZと決めて研究を進めている。そのため、患者さんのグリオブラストーマ細胞と、そこから離れた場所のSVZ、及び全く正常部位の脳皮質あるいは、血液細胞の3種類の細胞の全ゲノムを同時に調べ、正常組織にない変異がすでにSVZ細胞に存在するかどうか調べるところから始めている。
驚くことに(あるいは期待通り)、ガンから遠く離れたところにあるSVZ細胞にも比較的多くの変異が見られる。また多くの患者さんでは、がん細胞で見られる変異がSVZ細胞でも存在する。このようなガンと共通の変異を持つ例を詳しく見ると、グリオブラストーマのドライバーとして最も有名なisocitrate dehydrogenase(IDH)に変異が存在しない場合のみSVZ細胞にも共通の変異が認められ、なんとその8割が、TERT(テロメア合成酵素)のプロモーターやガンのドライバー遺伝子自体の変異を持っている。このことから、IDH変異のないグリオブラストーマではまずTERTのプロモーターなどドライバー遺伝子が変異を起こし、その上でガン化に伴うガン特異的変異が積み重なることでグリオブラストーマが成立すると提案している。TERTプロモーター変異については、PCRで他の病気の脳組織についても調べているが、グリオブラストーマの患者さんのように高い例はなかった。
SVZ自体は幹細胞以外の様々な細胞からできているので、次にSVZからレーザーによる顕微解剖により細胞をとりだしTERTプロモーター変異を調べると、神経幹細胞が存在する層だけにガンと同じ変異を見つけられる事を示している。
ガンから離れたSVZのドライバー変異が既に存在していることは、グリオブラストーマの起源はガン発生場所のグリアではなく、他の場所の神経幹細胞から発生する可能性を示唆している。これを確かめるため、今度はマウスモデルで脳の一部の領域のSVZに存在する細胞だけにがん遺伝子を発現させ、ガンが発生するまでの経過を追いかける実験を行い、まずSVZの幹細胞で変異が起こり、その後増殖しまた移動する過程で他のがん遺伝子が変異を起こしてグリオブラストーマが発生することを、マウスで確認している。
結果をまとめると、グリオブラストーマも白血病や多くのガンと同じで、幹細胞の増殖がほんの少し高まるレベルの変異を基礎として、少し増殖能力が上昇した幹細胞に他の遺伝子変異が蓄積してできるという話で、特に目新しいというわけではない。しかし、人間でそれを確かめるための研究を計画して示した点が重要だ。しかし、幹細胞から変異が始まるとすると、ガンを制圧する困難を再認識させられる。