今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、肥満につながる高脂肪食を取り続けた時、肝臓での概日リズムが大きくリプログラムされる事を示した研究で、8月9日号のCellに掲載された。タイトルは「Diet-Induced Circadian Enhancer Remodeling Synchronizes Opposing Hepatic Lipid Metabolic Processes (肥満食による概日周期エンハンサーのリモデリングが肝臓の対立する代謝プロセスを同調する)」だ。
この研究ではマウスに高脂肪食・高カロリー食(DIO)を摂取させ、肝臓での遺伝子発現の概日変化を、転写されたばかりのRNAを網羅的に調べるrun-on sequencing方で調べている。結果は驚くべきもので、正常食のマウスで概日リズムを刻む遺伝子が1722種類存在するが、DIOを摂取すると、なんとそのうちの278種類を除いてほとんどの遺伝子発現から概日性が消える。一方、DIO食マウスでは新しく1343種類の遺伝子が概日性を獲得している。しかも、新しく概日性を獲得した遺伝子の多くは、朝10時にピークを持ち、正常食の逆相になっている。しかも、新たに概日性が生まれる遺伝子の多くは脂肪代謝に関わる遺伝子が濃縮されている。さらに、これに合わせて確かに脂肪酸の合成が高まっている。
遺伝子発現の概日性は、遺伝子発現に関わるエンハンサーの活性が概日リズムを刻むことで生まれると考えられるので、活性化されたエンハンサー領域から低いレベルで転写されるエンハンサーRNA(eRNA)をエンハンサー活性を示す指標として、run-on sequencingを用いて調べ、なんと5000近いエンハンサー活性の概日性が失われ、3500近いエンハンサー活性が新たに概日性を獲得する大きな変化が起こっている。
次に活性化されるエンハンサー配列の共通性から、新しく概日リズムを刻む遺伝子を支配するマスター遺伝子を探索し、コレステロール代謝を調節するSREBPがDIOで概日性を獲得することで、多くの脂肪合成に関わる遺伝子の概日性が生まれることを明らかにしている。また、SERBPはもう一つの重要な脂肪代謝マスター遺伝子PPARの概日リズムを増幅して、その結果脂肪を燃やす酸化経路に関わる遺伝子群がやはり概日リズムを獲得する。
最後にこれらの概日リズムを考慮して、これまで高脂肪血症に使われたPPAR阻害剤はPPARのピークに投与するとその効果が高い事を示している。 昨日に続いて、ダイエットの論文を選んだが、食事に合わせて概日リズムがこれほど大きく再編成されることを知ると、体の適応力とともに、私たちが様々な環境因子を同化して進化したことを改めて実感する。次は、マスター遺伝子の概日性を再編するメカニズムについてもぜひ知りたい。
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