しかしガンの原因になる変異の多くが増殖時のDNA複製エラーによるならガンの頻度は体の大きさに比例してもいいはずで、比例しないとすると特別なメカニズムが働いていることになる。事実、同じ種の場合体が大きいほどがんになりやすい。体が大きくなることに伴うガンの危険性の問題を象は新しいLIF遺伝子を使って解決していることを示したのが今日紹介するシカゴ大学からの論文で8月14日号のCell Reportsに掲載された。タイトルは「A Zombie LIF Gene in Elephants Is Upregulated by TP53 to Induce Apoptosis in Response to DNA Damage(象ではゾンビのように蘇ったLIF遺伝子がDNA損傷によるp53により活性化され細胞死を誘導する)」だ。
おそらく象のゲノムの特徴を調べるうちに気づいたと思うが、この研究では象だけでLIF遺伝子が繰り返し重複し、アフリカゾウでは10個以上になっていることから、これがガンの発生を抑えるのに一役買っていると最初から考えて研究を行なっている。
次にもし重複したLIFが一役買っているなら全ての細胞で発現しているはずで、アフリカゾウやインドゾウの培養ファイブロブラストや血液を調べて、分泌されない形のLIF-Tの一つLIF6をこの条件を満たす新しいLIFとして特定している。
もともと細胞内で止まるLIF-Tは細胞死誘導を助けることがわかっているので、このシナリオに沿ってLIF6についての実験を行い、
1) DNA損傷により誘導されるp53により転写が高まる
2) ファイブロブラストに遺伝子導入すると、細胞死を誘導できる
3) LIF6による細胞死もカスパーゼ阻害で完全にブロックできる
4) LIF6を象以外の動物細胞に誘導しても細胞死を誘導できる
5) マンモスやパレオォクソドンなど化石DNAや現存の象のDNAを比較し、LIF6はすでにこれらの絶滅象にも存在し、6千万年ほど前に進化した時一旦機能が失われるが、その後2.5千万年前に機能を回復させる突然変異が起こり、大きな象を実現するのに働いた
などを明らかにしている。
ゲノムから細胞実験まで、結構実力のあるチームだと思うし、面白いストーリーだった。もちろんこれ一つで全て説明できるかどうかはわからない。ただ、象は体が大きいだけではなく、長生きだ。損傷した細胞をいち早く除去することが長生きの秘訣であることはわかっているので、LIF-Tを使った長寿法も開発されるようになるかも知れない。
カテゴリ:論文ウォッチ