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8月13日:腸内細菌代謝を標的にした血栓予防薬(Nature Medicine掲載論文)

2018年8月13日
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私たちの身体の中で腸内細菌叢がもう一人の自分として、ポジティブ、ネガティブ両面の作用を発揮していることがわかってきたが、それぞれの作用についてのハッキリとした因果性が明らかにされ、明確な介入方法が構想できるケースはそう多くない。そんな一つの例が、腸内細菌叢の作用で血中の濃度が上昇するTrimethylamine N-Oxide(TMAO)による血小板の活性上昇、それに続く動脈硬化の誘導ではないだろうか。

今日紹介するクリーブランドクリニックからの論文は、腸内細菌叢によるTMAOの血中濃度上昇を抑える薬剤開発についての研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Development of a gut microbe–targeted nonlethal therapeutic to inhibit thrombosis potential (血栓の可能性を抑制する殺細菌性のない腸内細菌叢を標的にした治療法の開発)」だ。

TMAOの合成経路はよくわかっており、コリンやカルニチンなどを多く含む食事をとると、それを原料としてまず細菌によりtrimethylamine(TMA)が合成され、それが私たちの肝臓の中で酸化を受けてTAMAOに変換される。卵やレバーなどに多く含まれるコリンは私たちの体にとっては重要な栄養素だが、これが体に害を及ぼす分子へと細菌により変化させられるのは確かに悩ましい問題だ。そこで、細菌のTMA合成を阻害する化合物の探索が行われジメチル・ブタノール(DMB)が候補として発見されていた。

この研究ではマウスを用いて、DMBが本当にTMAO合成を抑制し、さらに血栓形成を抑えるかを調べ、確かに効果はあるが、血中のTMAO濃度の抑制、及び血栓の抑制効果は完全でないことがわかった。そこで、理論的にこの合成経路を抑制するために必要な条件を列挙し、これを満たす、細菌に対する毒性はないが、TMAO合成に関わるCut/D酵素を非可逆的に不活化し、しかも細菌の中に入って初めて作用を持つコリンアナログの開発に成功している。

この極めて論理的なコリンアナログの開発がこの研究のハイライトで、あとは開発した2つのアナログFMCとIMC の薬剤としての効果の検証をマウスを用いて行っている。

まず期待通り、FMC,IMC投与により、血中のTAMAOは完全に抑制される。そして、これらアナログは盲腸や大腸の細菌内に蓄積して長く維持される。これに対応して、大腸内のコリン濃度は上昇しており、バクテリアのコリン利用を抑制できていることがわかる。

次に高コリン食を取らせたマウスで起こる血栓形成を指標にその効果を調べると、血栓形成までの時間を大幅に抑制することができる。しかも、多くの抗血栓薬が持つ出血という副作用は全く見られない。他にも、動物実験で調べられる副作用は全く見当たらない。すなわち、血栓予防薬としては理想的だと結論している。

さらにこのアナログ自体は殺細菌効果はないが、それでも栄養を介して腸内細菌叢の変化を誘導し、これまで肥満やてんかんを抑える効果がある細菌として知られるAkkermansiaの割合を高める効果があることまで示している。

あとは、人間に対する効果を検証するだけだと思うが、これが成功すると、腸内細菌叢を標的にした治療薬としては最初の成功例になるのではないだろうか。慢性炎症とそれに伴う血栓の予防は、現在多くの研究室が取り組む創薬の重要テーマの一つなので、期待したい。
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