この10年、古代人ゲノムの解析が進み、私たちの先祖、現生人類とネアンデルタール人、デニソーワ人のユーラシアで生きていた3種類の古代人類が交雑を繰り返していたことは、もはや誰も疑わない事実になっている。とすると、いつかは異なる古代人を父と母に持つ子供の骨が発見される可能性はあった。事実、4−6世代前の親戚にネアンデルタール人がいるという現生人類がルーマニアのOaseで見つかっている。とはいえ個人的には、確率論的に異なる古代人を父と母に持つ子供の骨が発見される確率はほとんど0に等しいと思っていた。
ところがだ!!!今日紹介するドイツライプチヒ・マックスプランク研究所のペーボさん達の論文は、シベリアのデニソーワ洞窟から発見された女の子のゲノムから、この子供がネアンデルタール人の母とデニソーワ人の父から生まれた子供であることを示した、ほとんどありえない話で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルはズバリ「The genome of the offspring of a Neanderthal mother and a Denisovan father(ネアンデルタールの母とデニソーワの父から生まれた子供のゲノム)」だ。
デニソーワ洞窟からは何体もの骨が出土し、すでにゲノムが完全に解読されたネアンデルタール人、デニソーワ人などが含まれていることから、デニソーワ人とネアンデルタール人の交雑を知るための鍵となる遺跡として現在も発掘が進んでいる。そして、9万年前の13歳ぐらいの女児の骨として調べられてきた骨から採取したゲノムが解読され、なんと38.6%が同じ洞窟で見つかったネアンデルタール人と一致し、42.3%が同じ洞窟からのデニソーワ人と一致した(年代が違うので、実際の両親と勘違いしないでほしいが)。断片化されたDNAを繋いでいく古代ゲノム解読では、この結果からすぐに異なる古代人が両親とは結論できないが、様々な理論的検証を行い、この女児がネアンデルタールの母とデニソーワの父の子どもに間違いないと結論している。また、ネアンデルタール人のお母さんの方のげのむは、以前に解析された同じ場所で発見されたネアンデルタールゲノムより、クロアチアのビンジャ・ネアンデルタール人ゲノムにより近い。
さらにゲノムを詳しく見ると、1Mbほどの長さの両方の染色体がネアンデルタール人由来の箇所が少なくとも5箇所見つかっており、デニソーワ人の父親にもかなりネアンデルタール人の遺伝子が流入していたことを物語っている。ただ、この父親に流入したネアンデルタール人の遺伝子は、母親のネアンデルタールのゲノムとは異なっていた。おそらくこの子供の時代(9万年前)から遡ること2万年以上前には、デニソーワ人と様々なネアンデルタール人が交流していたという複雑な物語が浮き上がって来た。何れにせよ、なんども両者の交雑は繰り返されているようだ。
以上がデータだが、両方の古代人の直接の子供が発見されたことは、この地域ではネアンデルタールとデニソーワが長く接して暮らし、もともと遺伝的には近い為交雑を繰り返していたことを示唆している。ただ、西ヨーロッパではこのような共存は存在せず、その後現生人類の進出によるまでそれぞれの人類は交渉なく暮らしていた。結局ペーボさんが語るように、競合(戦争)という形で交渉が起こる時に交雑が起こるとのが歴史の法則であることが、ますます明らかになってきたように思える。
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