2018年5月3日
最近の人間の脳についての研究を見ていて驚くことの一つは、磁場や電流を脳の様々な領域に照射して、脳や病気をコントロールする方法の急速な進展だ。侵襲性が少ないことから正常のボランティアにも脳操作が行われ、記憶を促進したり、自分の性格を乗り越えたりする効果があることはこのブログでも紹介した。この方法はシナプスの結合を強める効果があると考えられているが、メカニズムを完全に理解できているわけではない。それなのに、記憶が高まるならと、一般用の機械まで販売される事態にまで至っている。ただ、論文を読んでいると、物理的刺激にも関わらず効果が長く続く。もしシナプスの結合に変化があるとするなら、複雑な脳内で何が起こっているのか完全に予測することは難しく、私は正常な人に使うのは当分控えたほうがいいと思う。
一方、これもメカニズムは完全に理解できたわけではないが、病気の治療への応用は目覚ましいものがある。中でも、お薬で治療が難しいうつ病の治療に対する経頭蓋磁場刺激(TMS)による治療法は、臨床治験を経てFDAにも承認され、わが国でも保健は適用されていないものの昨年薬事承認された。ただ、FDA に認可されている方法は(10Hzの磁場を6000回近く照射する)一回の治療に約45分はかかるため、治療できる人数が限られており、わが国だけでも100万人以上と推定されているうつ病の治療とし普及するにはもっと短いプロトコルの開発が必要だった。
今日紹介するカナダ・トロントにあるCenter for Addiction and Mental Healthからの論文は、FDAで認可されている10Hzの磁場を38分かけて照射する方法と、その後効果が確認されたTheta burst stimulation(TBS:50Hzの磁場を0.2秒間隔で3分間照射する)方法を比べた無作為化臨床治験研究で4月28日号のThe Lancetに掲載された。タイトルは「Effectiveness of theta burst versus high frequency repetitive transcranial magnetic stimulation in patient with depression: a randomized non-inferiority trial(うつ病患者さんに対するtheta burst法と高頻度反復性経頭蓋磁気刺激法の比較:無作為化非劣勢試験)」だ。
今回対象に用いた患者さんはハミルトン尺度と呼ばれる自己申告に基づく基準値が18以上で、一般の抗うつ剤の効果が見られなかった患者さん414名を無作為化して、FDAが認可したTMS法と、新しいTBSに振り分け週5日照射を4週間続けている。
TMSをうつ病治療に用いた治験論文を読むのは初めてだが、確かに驚くべき効果だ。TMSもTBSもともに、ほぼ半数に効果がみられ、3割が寛解している。ハミルトン指標も平均値で最初の24程度から、14程度に低下し、少なくとも効果は1週間続いている。これまで抗うつ病治療を続けていた患者さんであることを考えると、素晴らしい結果というほかない。ただこの研究の目的は、磁場治療自体の効果ではなく、従来のTMSとTBSを比較することで、この点については効果に差がないという結果だ。しかし、TBSが3分の照射で済むことを考えると、一台の機械で治療を受けられる人数は10倍近くに増やすことができる。こうしてみていくといいことづくめの経頭蓋磁場照射だが、頭痛が65%の人で起こるなど、副作用も間違いなくある。幸い、4週間の治療期間でドロップアウトするほどではなかったようで、なんとか耐えられるレベルの副作用だ。もちろん、抗うつ剤と比べても、だいたいコントロール可能な程度でおさわっているのだろう。
とはいえ、効果のメカニズムが完全にわからないのはやはり気になる。TBSはともかく、TMSについてはかなり症例数も増えてきているはずだ。今後できるだけ早く、自殺率や再発の有無など長期的な経過とともに、MRIによる構造学的変化の追跡など、反応した人のゲノム解析などより踏み込んだ解析結果が発表されることを願っている。うつ病領域でもう一つのトピックスは、麻酔薬ケタミンが注射後24時間でうつ病症状を改善させるという結果だ。これについては、動物実験で少しづつメカニズムがわかってきている。ぜひ、この治療との比較研究も行い、最も安全で確実な治療法を開発してほしい。
2018年5月2日
最近、体内で分泌されて炎症を誘導するTNF, IL-6, IL-17など様々なサイトカインに対する抗体療法が開発され、炎症治療は大きく変化した。しかし、それ以前はステロイドホルモンか、抗炎症剤と呼ばれる化合物が治療の中心だった。このうちの最も歴史が古い薬剤がアスピリンだが、この化合物は、体内で合成され炎症を誘導する物質で最も有名な分子はプロスタグランディンで合成を抑制することがわかっている。
アスピリンから抗体治療まで全て体内で分泌される炎症誘導物質の機能をおさえるのが炎症治療の中心だが、体内では炎症を抑える物質も合成されており、それを抗炎症剤として使えることを2016年ワシントン大学のグループが発表した。これがイタコン酸だ。この研究によると、イタコン酸はLPSなどによる刺激を受けたマクロファージで特に産生が高まり、TCAサイクルのコハク酸でハイドロゲナーゼを抑えることでコハク酸の合成を高めて炎症を抑えることが示された(Cell Metabolism 24:158, 2016)。すなわち、体内に備わった炎症のフィードバック機構になっている。
今日紹介する論文は2016年の研究の続きで、イタコン酸の作用はコハク酸の上昇だけでは説明しきれず、実際にはこれとは異なる新しい経路で抗炎症作用が発揮されていることを示した研究で 4月25日号のNatureに掲載された。タイトルは「Electrophilic properties of itaconate and derivatives regulate IκBζ-ATF3 inflammatory axis(イタコン酸とその発生物質の求電子的性質がIκBζ-ATF3を介する炎症経路を調節する)」だ。
この研究では、コハク酸による炎症抑制以外の経路を探索するため、イタコン酸を処理したマクロファージで誘導される分子を調べ、イタコン酸処理により求電性の物質や外来の化学物質により細胞がストレスにさらされた時の反応と同じ経路が活性化されていることに気づく。そして、このイタコン酸により誘導されるストレス反応の原因が、ストレス物質を中和するグルタチオン(GSH)にイタコン酸が結合して、GSHがストレス物質を中和するのを抑制するため、ストレスが上がってしまうことを明らかにしている。そして、求電性のストレス分子が蓄積すると、不思議なことにLPSによる刺激のメディエーターIκBζの翻訳が特異的に抑制され、炎症が抑制されることを示している。
あとは、なぜ求電性物質によるストレスが、炎症を抑えられるのか検討し、
1) イタコン酸処理によりストレスが上昇すると、マクロファージ内でATF3が誘導される。
2) ATF3の作用によりeIFαがリン酸化されると、IκBζの翻訳がなぜか特異的に低下する。その結果、LPSによる炎症反応は抑制される。
3) LPSなど自然免疫による炎症時にイタコン酸が合成されるのは、体内に備わった炎症を抑える自然のフィードバック機構になっている。
4) 同様の効果は、イタコン酸でケラチノサイトを刺激しても見られる。
5) イタコン酸はLPSだけでなく、IL-17のようにIκBζを活性化することで起こる炎症を抑える。
以上、なぜ翻訳が特異的に抑えられるのかなど明らかにならない部分も残っているが、イタコン酸を体が備わった抗炎症剤として働くメカニズムを理解した上で、TLR7/8 刺激によるマウスの乾癬モデルを細胞内に浸透できるイタコン酸の派生分子で治療できるか調べて、期待通り炎症をほぼ完全に抑えることを明らかにしている。
もともとイタコン酸は細胞内で産生されており、食品安全委員会などから安全と認可された分子だ。したがって、この論文の結果はすぐに実際の臨床現場で調べ直すことができる。おそらく当面は、動物モデルで有効性を示すことができた乾癬の治療に使われるのではと期待される。難治性の乾癬もサイトカインの抗体などで抑制できるようになってきたが、もし細胞の中にある単純な代謝物にこれほどの効果があるなら、新しいメカニズムの治療として期待できる。本当の意味で
自然治癒の仕組みをうまく利用した、安全な治療法の開発が成功するか期待を持って見ていきたい。
2018年5月1日
我が国ではクリスパー=遺伝子編集として報道されることが多い。しかしクリスパーとは外来の核酸の侵入に対する特異的免疫機能に他ならず、特異的にDNAやRNAの配列を記憶し検出する機能が系の共通の条件で、あとの機能は自由自在に組み合わせられるという本質が忘れられてしまう。しかしこの根本を理解した上でこの系の機能的多様性を巧みに利用して遺伝子編集以外の様々な用途にこのシステムを使おうとする研究者が数多く存在している。例えば、生きた細胞の核の中で、ある特定の遺伝子がどこに位置しているのか連続的にモニターすることができるのは、CASがクリスパーRNA(crRNA)が結合するゲノム領域に結合できるからで、CASの本来の機能を除去し蛍光タンパク質を結合させれば特定の遺伝子の核内の位置を知ることができるというわけだ。このように、crRNAと標的の特異的結合だけに結合するCas分子の基本の上に、核酸に対する働きかけはCasごとに異なっていることから、その活性をうまく利用することで、「びっくりおもちゃ箱」のように新しいアイデアを刺激し、思いもかけない可能性が示されてきた。
今日紹介するこの分野の開拓者Doudnaさんの論文は通常用いられるCas9とは酵素活性が異なるCas12を研究する中で、これをウイルスなどの特異的遺伝子の高速・高感度検出に使えることを示した研究で4月27日号のScienceに掲載された。タイトルは「CRISPR-Cas12a target binding unleashes indiscriminate single stranded DNase activity(CRISPR-Cas12aの標的への結合は非特異的一本鎖DNA分解酵素活性を解き放つ)」だ。
crRNAとDNAが結合した時、多くのCasでは、それを認識して例えばDNAを切断するなど、一つの機能を発揮する。これに対し、同じようにDNAをカットしたあと、これにより変化したcrRNAの構造をスイッチとして使って、全く新しい機能を発揮する2重機能をもつCasの存在が、の2016年,やはりこの分野の開拓者Charpentierさんたちのグループが発見していた。
今日紹介するDoudnaさんたちの研究では、Lachnospiraceaeという細菌種から新しいCas12aと呼ぶ新しいCasを精製し、その酵素活性を試験管内で調べるうちに、この分子がcrRNAが結合した標的DNAを切断するだけでなく、同じ反応系に存在する全ての一本鎖DNAを完全に分解してしまうことに気づく。しかも、この一本鎖DNAは標的と全く関係なくても分解されることがわかった。
生化学実験から、このCas12aがcrRNAとDNAの結合を認識して標的にカットを入れてcrRNAが変化するとカットされた基質がスイッチになって、全ての一本鎖DNAを分解する酵素活性が新たに誘導されることがわかった。2重鎖DNAが標的の場合、この活性化にはPAM配列と正確なcrRNAと標的の一致が必要だが、一本鎖DNAを標的にする場合は、DNAとcrRNAが結合しておれば十分なことが明らかになった。即ち、新しい酵素活性の誘導自体は、crRNAと標的一本鎖DNAが結合して居れば良いが、2重鎖DNAが標的の場合はcrRNAがCas12aを活性化できるよう変化する必要があり、そのためには配列特異性とPAMを介した特異的標的DNAのカットが必要になる。極めて精巧な酵素だとつくづく感心する。
そして最後に、このcrRNAと標的DNAで活性化できる一本鎖DNAを分解する活性は他のバクテリアのCas12aにも存在することを確認している。
以上から、Cas12aが持つ無関係の一本鎖DNAを分解してしまう活性を、crRNAと標的DNAの特異的結合により制御できることがわかる。そこで、この特性を利用するとウイルスなど外来のDNAの高感度の検出法が開発できると着想して、ヘルペスウイルスを例に、これが実現可能であることを示している。
詳細は述べないが、方法は以下のようなものだ。先ず生化学的検討から明らかになった、ウイルスに対する至適なガイドRNAを合成する。次に、ウイルスDNAを増幅して、そこにガイドRNA とCas12aを加える。ガイドに一致するウイルス配列があると、特異的にCas12aの一本鎖DNAに対する分解酵素活性のスイッチが入る。ここに、切断されると蛍光を発するようにした一本鎖DNAを加えておくと、反応液が蛍光を発するという段取りだ。これを用いて、微量なヘルペスウイルスを極めて高い特異性で検出できることを示して論文を締めている。
Doudnaさんの論文と同時に、もう2編、同じ趣旨の論文が同じScience に掲載されており、この分野でいまも熾烈な競争が繰り広げられているのがわかる。ただ、検査法の開発だけでなく、Cas12aの生化学がわかりやすく示されているのは、さすが本家のDoudnaさんと言っていいだろう。
しかし、crRNA と標的核酸の結合を検出する共通性の上に、これほど多様な機能を生み出している進化にはただただ驚くだけだ。
2018年4月30日
ずいぶん昔ルーツという、アメリカの黒人が奴隷としてアフリカを出て、アメリカで家族を形成する歴史を描いたテレビ番組が流行ったが、今生きている一人一人は自分のルーツに興味を持っている。わが国でも、名前や自分の先祖に関するテレビ番組は根強い人気があるし、韓国のように家系を重視するがゆえに例えば戸籍に始祖の出身地を書く欄があり、系統を重視するがゆえに夫婦別姓をまもり、各家系図を出版するところさえある。もちろん、ここまでしなくとも、戸籍を追跡すれば現在でも家系図をかなりの程度で書くことができるが、どの国でも戸籍を科学目的で使うことなど以ての外にになる。
しかしゲノム研究が進んで、この家系図の重要性が一段と増している。すなわち、家族関係がわかっているとゲノムデータの情報処理が格段に容易かつ正確になる。従って、病気や形質に対する遺伝と環境の影響を調べる多くの研究では、家族関係がわかっているデータセットを使うことが多い。例えば同じゲノムデータでも、韓国のように家系図が明らかになっている場合では、データとしての価値が格段に上がる。
前置きが長くなったが、今日紹介するニューヨークゲノムセンターからの論文を読んで、個人の自己申告による家系を集めて世界規模の人間のつながりをしらべ、登録した人たちのルーツや親戚を探してくれるGeniという会社があることを知った(https://www.geni.com/corp/)。すでに一億におよぶ家系に関するプロファイルが集まっており、そのうち半分近くは他のプロフィルと結合している。言ってみれば世界の人類のつながりが把握されだしていることになる。この論文では、こうして集められたデータの問題を解決して信頼度を上げたデータセットを抽出し、それを様々な科学的、社会的用途に使えることを示した論文で4月3日号の Scienceに掲載された。タイトルは「Quantitative analysis of population scale family trees with millions of relatives(何百万人もの親戚が集まっている集団スケールの系統図を定量的に解析する)」だ。
自己申告をもとに民間が集めているデータなど不正確で役に立たないと言ってしまえば簡単だが、このグループはこのようなデータに問題はあっても、ソフトを改良し正確なデータに近づけることが可能で、さらにサンプルを抽出してゲノムデータを集めることで、信頼度を検証できると考え、会社と交渉しさらに信頼度の高いデータセットに仕上げている。その上で、ミトコンドリアとY染色体のプロフィルを211系統について調べさせてもらい、母親の記述についての間違いは0.3%、父親でも1.9%にとどまることを確認している。すなわち、アカデミアが入ることでGeniの信頼度が上がったことになる。この結果、登録した人たちの信頼の置ける膨大な関係図が出来上がり、これは何世紀にもわたるデータをカバーすることができるようになった。
次にこのデータがいかに有効かを調べるために、死亡統計についてついて調べ、アメリカで例えば南北戦争、第一次、および第二次世界大戦で若者の死亡率が選択的に上昇していることがデータとして示せること、あるいは人間の死に場所についての世界地図が書けることを示している。
さらに、寿命についての遺伝的影響が、これまで言われていたよりあまり強くないこと、またどれほど広い範囲から結婚相手が選ばれるのか、それに伴い男女のどちらが移動しているのか、子供と親の生活圏の距離についても長期間にわたって(なんと17世紀から)計算できることを示している。
それぞれのデータはもちろん面白く、このデータが今後医学や、社会学、教育学に大きな役割を演じることを予感する。しかし、習うべき最も重要な点は、家族の系統樹というこれまで利用がタブー視され、行政も公開しないデータを、ウェッブを使っていとも簡単に集められることに気づいたGeniやその他の家族系統を調べるベンチャー企業の創業者と、それと共同して科学的データを集められると考えたこの論文の著者らの発想の豊かさだろう。疫学調査や社会学調査というとアカデミアの統計重視主義は、21世紀のネット社会でいとも簡単に乗り越えられてしまうことがよくわかった論文だと感心した。
2018年4月29日
細胞の基本的機能の維持に大量に必要とされる分子が多くある。なかでもRNAに結合して様々な機能を調節しているFUSタンパク質は細胞内タンパク質の中で濃度が最も高い分子として知られている。問題は、タンパク質の細胞内濃度がこれほど高いと、細胞内で沈殿を作り細胞死を招く心配があることで、実際FUSの細胞内沈殿はALSやFTD(前頭側頭型認知症)の一つの原因になっている。これまで知られているALSとFTD共通にみられるFUS沈殿の条件はFUS が核へ移行できずに細胞質に停留する異常だが、細胞質でFUSが沈殿する条件については理解が進んでいなかった。
今日紹介するミュンヘンのルードビッヒ・マクシミリアン大学からの論文はこの条件を試験管内、細胞内を行き来しながら突き止めた研究で4月19日号のCellに掲載された。タイトルは「Phase separation of FUS is suppressed by nuclear import receptor and arginine methylation (FUSタンパク質の相転換は核内移行受容体とアルギニンメチル化により調節されている)」だ。
これまでの地道な生化学的研究の蓄積の上にまとめられた論文であることがよくわかる研究で、FUSタンパク質は電荷を帯びているため沈殿しやすいのを、うまく遺伝操作で調節して安定タンパク質を大量に作った後、保護している人工タンパク質を除いて沈殿させるという実験系を実験の基本として使って、この沈殿を防ぐ条件を探っている。
もともと沈殿しやすいタンパク質は、沈殿を防ぐタンパク質(シャペロンと呼ばれる)と結合していることが普通で、これまでの研究に基づき著者らはTNPO1と呼ばれる核内へFUSを移行させる分子が細胞質のシャペロンとして働いているとあたりをつけ、このことを確認している。すなわち、TNPO1は核内へFUSを汲み出すだけでなく、細胞質内でFUSの沈殿を防いでいる。
細胞内でこの過程を調べると、TNPO1 が存在することで、FUSがストレス顆粒に濃縮することを防いでいることが最も大事で、ストレス顆粒内にいこうすると、そこで相転換が起こって沈殿が起こることを明らかにしている。そして、様々な変異タンパク質を用いて、FUSタンパク質のRGG配列とC末端にあるPY配列にTNPO1が結合し、RGGのアルギニンがメチル化されることが、TNOP1結合の重要な要因であることを示している。
この結果をもとに、ALS誘導性のFUSタンパク質を見直すと、単純に核内移行だけでなく細胞質内でストレス顆粒への移行防止も異常化する、ダブルヒットによりFUSが沈殿することを明らかにしている。
ではこれでFUSの変異が原因のALSの患者さんの治療がすぐ開発されるかというと、話はそう簡単ではないだろう。ただ、沈殿が一つの過程で決まるのではなく、様々な過程が条件として必要であるという認識は重要だ。すなわち、治療法開発のための標的過程が増える。その意味で、こういった地道だがプロの研究がトップジャーナルに取り上げられることは重要だと思う。
2018年4月28日
まだノックアウト技術が普及していない頃は、遺伝的異常を示すマウスや人の突然変異を特定することが遺伝学の重要な課題だった。CRISPRの時代から見ればまどろっこしい時代に見えるが、それはそれなりに面白い時代だったと思う。このような分子遺伝学的アプローチで特定された分子の中でも大ヒットの一つが食欲を抑えるホルモンとして華々しく登場したレプチンだろう。脂肪細胞から分泌され、脳に働いて食欲を抑え、エネルギー代謝を促進し、血糖を安定化するいいことづくしの分子で、おそらく代謝研究を脳科学と結合したという意味では重要な発見だったと思う。
しかしよく考えてみると、その後の進展をフォローしなかったこともあるが、今日紹介する論文を読むまで私の理解もここで止まっていた。この理由は、レプチンの機能や作用標的があまりに複雑すぎ、何がレプチンの直接作用か特定するのが難しかったためのようだ。事実、私がレプチンを初めて知ったのはマウスの毛色に関わるAgoutiの促進作用を持つ分子としてだった。今日紹介するタフツ大学からの論文は、クリスパー技術を駆使してレプチンの作用する神経回路を明らかにしようとする研究で、4月26日号のNatureに掲載された。タイトルは「Genetic identification of leptin neural circuits in energy and glucose homeostasis(レプチンの作用するエネルギーとグルコースのホメオスターシス維持回路)」だ.
教科書的にはレプチンは視床下部のAgouti related peptide(AGRP)を発現する神経細胞に作用するとされていたが、この論文を読むとこの細胞でレプチン受容体をノックアウトしてもマウスの食欲や代謝に大きな変化が起こらず、新しい回路を特定することが急務だったようだ。
この研究では、なるべくレプチンの2次的な作用を拾わないような実験系を探索し、インシュリンの分泌が低下したマウスを用いることで、肥満一般の作用を排除してレプチンに反応する神経を特定しようとまず試み、弓状核(ARC)内のAGRP分泌 ニューロンがレプチンに直接反応する神経細胞であることを特定している。
この結果は、AGRPニューロンでレプチン受容体をノックアウトしても異常が起こらないという結果と矛盾する。しかし、アデノ随伴ウイルスベクターで局所的にノックアウトする方法を用いてAGRPニューロンでレプチン受容体遺伝子をノックアウトすると、レプチンの代謝や食欲への効果が完全にブロックできたことから、AGRPがレプチンの作用を媒介することは明らかになった。この矛盾を探るためにAGRPニューロンの作用の調節機構を、局所でのクリスパー技術と一般的ノックイン技術を組み合わせて特定の神経の遺伝子を自由自在にノックアウトする方法を駆使して、AGRPニューロンでのレプチンの作用をKチャンネルが促進すること、さらにこのニューロンをレプチンによりポジテッィブに刺激されるGABA作動性ニューロンが活性化するという複雑な回路になっていることを明らかにしている。すなわち、レプチンはAGRPニューロンを抑制的に調節するが、それをレプチンによりプラスに活性化される神経がGABAを介して2重に調節しているため、単純なノックアウトではレプチンの作用が見えないこともわかった。
レプチンのネガティブ、ポジティブ両方の作用が同じ神経に集まるという分かり難い話だが、要するに、レプチンの作用する主要回路が分かったと理解してもらえばよく、今後新しい分子標的を探し出して、レプチンの機能を臨床にトランスレートするための基盤ができたと考えられる。
ただ、一般の研究者にとって、この結論より遺伝的に特殊な細胞だけでクリスパーが働くようにした上で、アデノ随伴ウイルスを用いて局所で様々な遺伝子をノックアウトするという技術を駆使してこの研究が行われていることで、結論より参考になるのではないかと思った。
2018年4月27日
X-linked hypohidrotic ectodermal dysplasia (X染色体連載低発汗性外胚葉異形成症:XLHED)という日本語で読んでも、英語で呼んでも舌を噛みそうな病気がある。X染色体上に位置するEDAと呼ばれるTNFファミリー分子の欠損による病気で、汗腺の発生が阻害され発汗が低下する、毛が少ない、歯が少ないという3つの症状を中心に、口腔や鼻腔の様々な症状を示す。中でも汗が出ないことで、体温が上昇し易く、特に子どもの場合死につながる。受容体もシグナル経路もよくわかっているのだが、毛根の発生時にだけ使われるため、生後EDAを供給しても治療することが出来ない。従って、胎児期にEDAを供給することで病気を治せないか研究が進められていた。
今日紹介するドイツ・エアランゲン大学からの論文は、EDAに免疫グロブリンFc部分を結合させた安定なEDAを開発し、胎生26週から31週の羊水に注射し、予想通り遺伝病を治療した治験研究で4月26日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Prenatal correction of X-linked hypohidrotic ectodermal dysplasia(低発汗性外胚葉異形成症の出生前の治療)」だ。
これまでの研究で、EDAそのものは半減期が短いことがわかっており、EDAに免疫グロブリンのFcを結合させたFc-EDAが胎内で安定で、この病気のモデル動物を用いた前臨床実験でも胎児期の羊水内に一回注射するだけで病気を治療できることがわかっていた。免疫グロブリンのFcは分子の安定性を高めるだけでは無く、Fc受容体を介して胎盤、乳児の腸上皮も通ることがわかっており、動物実験で生後母親のミルクを通してFc-EDAを投与しても皮膚症状を改善させることが出来る。このようなマウス、犬を用いた基礎研究の結果を受けて、実際にこのFc-EDAを2人の妊婦さんに投与、3人のXLHEDの治療を試みたのがこの研究だ。
症例は、すでにXLHEDを持つ子供の親が新しく妊娠し、子供の遺伝子変位が確認されている妊婦さんを2人選んでいる。1人は双子を妊娠しており、治療対象になる子どもとしては3人だ。治療は胎児の体重1kgあたり100mgのFc-EDAを2回、約1ヶ月間隔で羊水に投与しただけで、ほぼどの病院でも可能な手法だ。
まず双子の治療成績だが、結果は目覚ましく、まず最も問題になる汗腺はほぼ正常レベルに発生し、少なくとも2歳まで発熱は起こらなかった。さらに歯の数や、唾液腺、涙腺などもほぼ正常に回復している。
一方、もう一人の子供の場合、汗腺の形成は完全に正常化していいない。しかし、歯や涙腺、唾液腺については、ほぼ正常になっている。この事は、汗腺の発生のスピードは子どもによって多様性があり、投与の回数を増やしたほうがいい可能性を示唆している。ただ、注射回数をあげると流産の危険性が高まる。
結果は以上で、発生学的にも臨床医学的にも、素晴らしい成果だと思う。すなわち、胎児期のみに必要な分子は、母親への影響をほとんど気にする事なく、胎児期に投与できる事、そして、この段階で正常化すると、遺伝子が欠損していても一生生活に支障がない(この研究では2歳までしか追跡できていないが、動物実験から考えておそらく一生問題はないだろう)。とくに、免疫グロブリンFcはリガンドを安定化させる働きがあり、羊水のように流産の危険がある投与法では、投与回数を減らすことが出来ることから、他のリガンドにも利用可能だろう。
体の発生だけでなく、生後の脳の発生にも一回きりのプロセスは多い。遺伝子治療も含めこのような大事な発生過程を標的にする治療法の開発が進むことを期待する。
2018年4月26日
アスペルガー症候群という名前はかなりポピュラーになっているのではないだろうか。何か一つのことにこだわりがあって優秀なのだが、社会性がなくコミュニケーションのとりにくい人がいると、「彼はアスペルガー」などと門外漢でも簡単に診断を下すのをしばしば耳にする。このアスペルガーという名前は、ウイーンの小児病院で自閉症概念の成立に力を尽くしたHans Asperger のことで、症候群に名前が付いているだけではなく、フィラデルフィアのカナー医師とともに、自閉症概念の成立にも大きな貢献があった医師だとされている。
私自身がアスペルガーのことを詳しく知ったのは、「レナートの朝」の著者として有名な、シルバーマンの「Neurotribe」という本でだ。そこには、小児の行動をありのままに把握し、理解を通して独自の見解に基づいて診断する真摯な医師の姿が描かれている。同じ病院には「夜と霧」の著者でユダヤ人収容所を生き延びたフランクルなど多くのユダヤ人が働いていたが、ナチスのオーストリア併合をきっかけに全員職場を追われる。この時、アスペルガーはオーストリア人であったため、医師として研究者としてナチス時代を過ごし、1980年にオーストリアで死去している。
Neurotribeを読んで、私はアスペルガーが、ナチスの発達障害児を安楽死させ社会の負担を軽減する政策に抵抗した良心の医師であるという印象を持った。もちろん、ナチスに対して積極的に抵抗する事は難しかったことは想像に難くない。誰だってあの時代におおっぴらに抵抗するのは難しい。ところが、今日紹介する オーストリア・ウィーン医科大学からの論文は、これまで私が持っていたナチに密かに抵抗した医師というアスペルガーのイメージを完全に覆した。チェコで出版されている雑誌Molecular Autism、4月19日号に掲載された。タイトルは「Hans Asperger, National Socialism, and“race hygiene” in Nazi-era Vienna(ナチ支配下のウィーンにおけるハンス アスペルガー、ナチス、そして民族浄化」だ。
ナチス時代、ウィーンの小児病院では、民族浄化の名の下に、発達障害を持つ子供を安楽死させる政策に積極的に関与したことが知られている。結果、戦後この病院で働いていた医師全員がアスペルガーを除いてナチスの協力者として病院から追放される。この事は、アスペルガーがナチスへの抵抗を続けていたことを裏付けているように思えるが、一方このような親ナチ的病院の中で仕事を続けることができたのは、彼もナチのシンパだったからではないかという疑いも持たれてきた。
この研究では、これまで見落とされてきた様々な当時の資料を集め、彼がナチスに小さな抵抗を試みていたとする、彼自身の証言も含めたこれまでの記録の正当性を再検討している。
アスペルガーが反ナチスだったとするこれまでの根拠は、1)ナチスの組織に属さなかった、2)ナチス当局にマークされていた、3)自分が扱った障害児が安楽死処理を受けないよう、診断をごまかした、の3点になる。
43ページという長い論文で詳細は省くが、この研究ではこれまでの見解には殆ど証拠が無く、実際の記録からは、
1) 彼はナチス直下の組織ではないが、ナチスが認める関連組織には属しており、また彼の倫理活動の中心だった、カソリック組織は必ずしも反ナチというわけではなかった事、
2) 役所側に残っている、ゲシュタポのアスペルガーに対する評価の記録を探し出し、決して彼が要注意人物としてマークされていなかった事、
3) 安楽死施設の方に残っている小児病院での彼の診断書と、安楽死施設の医師の診断書を比べ、彼が診断を軽めにして安楽死を防ごうとした痕跡がないどころか、彼のほうが安楽死施設の医師より重い診断を下し、子どもが親の負担になると書き添えた診断書まで存在する事、
などを裏づける記録を探し出し、彼がナチスの協力者で、障害児の診断を安楽死施設へ送られることを知った上で行なったことを記録で裏付けている。
私にとっても驚きの論文だったが、自分ならどうするかと考えると、到底非難できる立場にないことを思い知る。そしてこの論文は右傾化しつつあるオーストリアの知識人に向けた著者からの「一旦政治が暴走すると、抵抗などできるものではない」というメッセージではないかと感じた。最近、この論文と同じ趣旨の本「Asperger’s Children」が出版されたようだが、このような再検討が今行われるのは、オーストリアの政治状況が、ナチス時代に近づいているのではと懸念する知識層が増えているからではないだろうか。
それでも、オーストリアでは、安楽死させた一人一人の子供の記録が当局により残されているのに感心するとともに、記録を保管することの重要さと、アスペルガー自身も含め、人間の証言がいかに虚偽に満ちているかよくわかった。これに引き換え、「我が国の役所はなんという体たらくか」といつもの愚痴で論文紹介を終える。
2018年4月25日
Natureが人間の研究を重視し、病気の診断、メカニズム、治療方法など、臨床医学と言って良い研究も積極的に掲載しているのは感じているが、いわゆる臨床治験を掲載するのを目にした事は、私の記憶には殆どない。
ところが今日紹介するオックスフォード大学からの論文は、まさに正真正銘の臨床治験研究で、臓器移植に用いる臓器の新しい保存方法を従来の方法と比べた研究だ。もちろん科学性を重視した研究論文とは言え、Natureの編集者が純粋な治験論文を掲載したのを見て少し驚いた。タイトルは「A randomized trial of normothermic preservation in liver transplantation(肝臓移植での室温肝臓保存法の無作為化治験)」で、オンライン先行出版されている。
臓器移植でドナーの臓器をレシピエントへ運ぶ方法というと、氷が入ったコンテナーというのが定番で、移植が始まってから30年全く変わっていない。代謝を低下させ、細胞内に代謝による様々な老廃物の蓄積を防ぐ目的で冷やさざるを得ないが、よく考えると細胞骨格などは完全にバラバラになると思われるし、その結果細胞間の接着装置も痛んで、もう一度体内に戻したとき様々な問題が起こるように思ってしまう。さらに、代謝は氷温でも完全に停止するわけではなく、どうしても排除されない活性酸素などの代謝産物が時間とともに蓄積し、移植後の再灌流障害を引き起こしてしまう。
この問題を改善するには、臓器を取り出した後も血液循環を維持できれば代謝物を排出し、細胞骨格の障害も最小限に抑えられる。おそらくこれまでもこの可能性は追求されてきたと思うが、今日紹介する研究でも取り出した臓器に血液を循環させ、代謝を維持する装置を開発し、実際の肝移植の現場でこの臓器保存法を、従来の氷を用いる方法と比較している。
装置自体は一定量の血液を臓器と肺の代わりをする酸素付加装置の間を行き来させ、門脈系と臓器を浸す液を循環させ代謝物の交換を行うという、小型だが結構複雑な装置だ。研究では、脳死および心臓死後の肝臓を用いた移植を対象に、保存法だけを無作為化して常温保存、冷温保存に分けている。ただ手術での話なので、二重盲検法というわけには行かない。それぞれ最終的に120名、100名の手術を行って結果を比べている。
詳細を省いて結論を述べると、最も重要なのが臓器の利用率高まる事で、廃棄率は50%以下に低下している。移植後の肝臓機能だが、トランスアミナーゼの上昇を指標とする急性毒性は抑制できる。しかし、1年後の死亡率、移植定着率、肝機能で見ると両者に違いはないという結果だ。
まだ当局の認可が下りているわけではないと思うが、FDAなどの認可は問題はないだろう。しかし、1年後の結果で差がないとすると、如何に急性毒性を防げたとしても、導入は価格次第ということになるだろう。さらに、機械を動かすためのスタッフも必要だし、移動中の事故は機械の方が多いだろう。現在のところ、移植機関が導入する最終決断の決め手は貴重な臓器を廃棄する率を半減させられる点で、心臓死後の移植にとっては重要かもしれない。もちろん、もっと長期に観察することで、初期の肝毒性に対応する違いが見えるのかも知れない。このためには更に長期の追跡を待つしかない。
個人的には、やはり純粋な臨床治験研究がNatureに掲載されたことのほうが驚きだった。できれば程々にしてほしいなというのが希望だ。
2018年4月24日
ガンは上皮細胞の腫瘍だが、同じガン組織の中に上皮の細胞間接着が失われ、上皮とは思えない細胞に変化した部分をしばしば認めることがある。この多くは、上皮・間葉転換(EMT)によるメカニズムに基づいている。この現象自体は、ガンに特異的ではなく、例えば中胚葉が胎児上皮から分離してくるときも同じメカニズムが働いている。発生過程でのEMTはプログラムに従って変化する周りの環境により誘導されるが、ガンがEMTを起こすプロセスが、EMTと呼べるようなE or Tといった2者選択の分化決定の問題なのか完全に理解できているわけでは無い。
今日紹介するブリュッセル大学からの論文は動物の発ガンモデルをうまく使ってガンのEMT過程の多様性について明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Identification of the tumour transition states occurring during EMT(EMT過程で生起する腫瘍の移行状態の特定)」だ。
この研究では、ガンのEMT過程はEからTと言ったワンスイッチで起こるのではなく、多様な状態が生まれるのではないかと最初からにらんで、皮膚ガンのシステムを用いてこの可能性を調べている。まず、EMTマーカーとしてEpCamを用い、ガン細胞を陽性(E型)と陰性(T型)にわけ、次にEpcam陰性集団を様々な抗体を用いて染色し、この集団が期待通りこれらのマーカーで区別できる何種類もの細胞からなっていることを明らかにしている。そして、単一細胞のRNA発現を調べることで、Epcam発現が低下した後、EMT程度の異なる様々なガン細胞に多様化する事を明らかにしている。
次に、人間の乳ガンや皮膚ガンでも同じようなEMT過程での多様化が起こっていることを示し、これが決して実験的にできた特殊な現象でないことを示している。
これまでガンがEMTを起こすと、悪性度が高まることが知られているが、では増殖や転移などのガンの悪性度とEMTの各段階との関係はどうか、次に調べている。結果だが、増殖能の上昇はEpcamが消えた時点で起こり、EMTが始まるとすぐに誘導されるが、例えば皮膚内でもう一度上皮にもどる力は徐々に失われる。また、血中に流れ出す頻度を転移性の指標として調べると、やはりEMTが進むと転移が高まることが確認されている。
さらにEMTが一見不可逆的に起こり、転移が進むように見えても、例えば肺で増殖を始めるとまた上皮性がもどることも観察している。このことから、EMT過程は遺伝子の突然変異で起こるのではなく、染色体構造を変化させるエピジェネティックな過程である可能性が高い。そこで、Attaq-seqと呼ばれる染色体の開放度を調べる方法で、EMTに伴う転写の変化と染色体構造の相関を調べると、期待通り最初の遺伝子発現の変化は全て染色体構造のオン・オフにより調節されていることを確認している。
最後に、EMTの多様化をもたらすメカニズムがエピジェネティックスだけとすると、ガンの置かれた環境により多様化が起こっていることになる。そこで、それぞれの段階の組織内での位置を調べると、EMTが最も進んだ細胞は血管内皮に近い炎症巣と一致しており、マクロファージを中心とする炎症の程度でEMTの多様化が決められていることを示している。
全部読んでみると特に驚く結果ではなく、誰もが考えていたことをしっかりと示したと言う話だが、ガンの進展にゲノム変異とエピジェネティックの両方が協力しているのをみると、改めて厄介な相手だと実感した。