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10月13日 Covid-19感染に対する免疫記憶は主に肺と所属リンパ節で維持される(10月7日 Science Immunology オンライン掲載論文)

2021年10月13日
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以前紹介した、エール大学の岩崎さんの研究では、いくら全身レベルで抗体ができても、そのままでは抗体は膣内に分泌されることはなく、組織にリンパ球が浸潤して初めて、抗体も分泌されるようになることが示されていた(https://aasj.jp/news/watch/10382)。この結果は、対象となる組織内で免疫反応を調べることの重要性を示した重要な研究だと思っているが、当然同じことはCovid-19感染についても言える。ただ、死亡例はともかく、回復者の組織を調べることは通常不可能に近い。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は、Covid-19に感染した経験がある方が、何らかの事故で脳死に陥り、臓器提供を行った時に、全身の様々な組織を採取して、Covid-19に対する免疫記憶の成立を調べた研究で、10月7日Science Immunologyにオンライン掲載された。タイトルは「SARS-CoV-2 infection generates tissue-localized immunological memory in humans(SARS-CoV2感染は人間の組織局在型免疫記憶を誘導する)」だ。

コロンビア大学のあるニューヨークの感染状況から考えると、ドナー登録した人々の中からSARS-CoV2(Cov2)に感染した後、ドナーになるケースが出てきても何ら不思議はない(といっても我が国では、まだまだ奇跡レベルの確立だと思う)。この研究ではそんな4人のドナーをキャッチし、臓器摘出手術時に、血液、骨髄、秘蔵、肺、肺所属リンパ節、腸管所属リンパ節を採取、それぞれの組織での、Cov2へのB細胞、CD4T細胞、 CD8T細胞の反応を調べている。

驚くのは、4人のうち2人が70歳以上の高齢者で、どの臓器が利用可能なのか興味がわくが、血中抗体などを調べると、確かに高齢者の抗体価は若いグループより低いのがわかる。

これらの組織から採取した血液細胞分画に、ウイルス分子のアミノ酸配列を元に網羅的に合成したペプチドを混ぜ合わせたペプチドプールを加え、活性化分子が発現するかどうかでT細胞の反応性を調べている。

これに加えて、限られたペプチドセットではあるが、MHC 分子と会合させた後、これに結合するT細胞を、抗原特異的T細胞として、他の分子の発現を調べてプロファイリングを行っている。

個人差があり、どうしても結果はばらつくが、この貴重な機会を捕まえた実験から見えてきたことをまとめると、

  • 全員で、調べた全組織で抗原特異的記憶T細胞を認めることができる。
  • 一般的に、CD4T細胞反応の方が、CD8T細胞反応より強い傾向がある。
  • 全身に記憶細胞は認められるが、肺組織とその所属リンパ節で、最も高い反応が見られ、またT細胞記憶の成立が確認できる。
  • 細胞を培養して分泌される50種類のサイトカインを調べると、同じ記憶T細胞でも組織特異的に調整されている。
  • 記憶B細胞はほぼ全身に分布しているが、肺組織自体が最も高い。
  • リンパ節では感染収束後も、濾胞形成反応が続いている。

詳細をかなり省いたが、以上が結論だ。

組織像の解析がないため、肺組織で維持されている記憶細胞がどのように存在しているのかはよくわからないが、ひょっとしたら浸潤が構造化されている可能性もある。また、感染収束後も何が肺に細胞を引き留めているのかにも興味がある。

いずれにせよ、末梢血だけを見ていてはわからない免疫系の複雑性を物語るし、気道を狙ったワクチン研究にも重要な情報になると思う。

おそらく次は、ワクチン接種者の様々な組織の反応が発表される予感がする。

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