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10月15日 G1-S 細胞周期進行に関する新しいモデル(10月14日号 Science 掲載論文)

2021年10月15日
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細胞周期のメカニズムについては、私が現役の頃急速に理解が進み、我が国の研究者も大きな貢献をした。そして、ノーベル賞が2001年ハントとナースに授与されている。もちろんトランスレーションに関しても進んでおり、乳ガンに対するCDK4阻害剤は重要な治療法になっている。すなわち、大きなフレームワークは完全に解明されたと言える、と思っていた。

ところが今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、少なくともイーストに関しては、肝心なことが見落とされていたことを示す研究で、10月14日号Scienceに掲載された。タイトルは「G 1 cyclin–Cdk promotes cell cycle entry through localized phosphorylation of RNA polymerase II(G1サイクリンとCDKは局所的RNAポリメラーゼリン酸化を介して細胞周期のエントリーを促進する)」だ。

私たちは細胞周期の開始について、哺乳動物の場合CyclinD/CDK4が、E2Fによる転写を阻害しているRb1をリン酸化して抑制を外すことで、E2Fによる転写が誘導されると理解してきた。これは出芽酵母でも同じで、Cln3がCdk1と結合してWhi5をリン酸化してSBFの転写抑制を外し、細胞周期に必要な遺伝子が誘導されると考えられてきた。

しかし、早いG1期でCln3/cdk1がWhi5をリン酸化するという証拠はなく、Whi5を強くリン酸化するのはCln1/2/cdk1であることが確認された。一方、Cln3/Cdk1はG1期の進行には必須であることから、Whi5のリン酸化による転写抑制解除とは異なる経路で、Cln3/Cdk1が働いていることが示唆された。

そこでCln3/Cdk1が直接リン酸化する可能性がある分子を探索し、最終的に転写に直接関わるRNAポリメラーゼII(Pol II)のコンポーネントRpb1をリン酸化することを突き止める。

もともとPol IIのリン酸化は転写開始のスイッチとして知られており、酵母ではCcl1がその役割をすることが知られていた。しかし、Ccl1によるPolIIのリン酸化と細胞周期とはリンクしない。すなわち、SBFによる転写とは関係しない。

これらのことから、Cln3/Cdk1はSBFと結合し、その場所にリクルートされたPol IIを直接リン酸化し、転写を開始させるのではないかと仮説を立て、研究している。

例えば、本来のPol IIリン酸化酵素Ccl1をSBF結合サイトにリクルートできる様に操作すると、細胞周期とは無関係だったCcl1を、G1期進行のプロモーターとして利用することができる。

またCln3/Cdk1結合サイトは免疫沈降法で調べると、ほぼ完全にSBFの結合サイトと重なる。従って、Cln3/Cdk1にPol IIリン酸化による転写開始が可能であるという結果は、細胞周期に必要なSBF依存性転写開始が、これまで考えられてきたようにWhi5リン酸化を介して抑制を外すという時間のかかる方法ではなく、SBF結合サイトで直接Pol IIを活性化して、速やかに転写を誘導することで行われていることを強く示唆している。

以上が結果の要約で、細胞周期をわかったというのはまだまだ早いことを実感させる面白い仕事だと思う。哺乳動物でも同じことが言えるのかはまだわからないが、可能性は十分あると思う。

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