今日はうつ病の意外な治療法について論文を2報紹介する。
まず最初はカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文で、てんかん患者さんに行われる、脳内留置電極を用いた脳活動の記録や、脳ネットワークに基づいた電気刺激パターンを開発し、ほとんどの治療法に反応しないうつ病を治療できたという一例報告で、10月4日、Nature Medicineにオンライン掲載された。タイトルは「Closed-loop neuromodulation in an individual with treatment-resistant depression(治療抵抗性のうつ病患者さんに行ったクローズドループ神経操作)」だ。
今年9月、てんかんの予兆を察知して電気を流して発作を抑える治療法についての論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/17772)。この研究は、同じresponsive neuro stimulation法を、うつ病の発作抑制に使う可能性にチャレンジした研究だ。しかし、発作が始まる場所が特定できるてんかんと異なり、うつ病の場合、何を予兆として捉え、どこを刺激すれば良いのかを決めることが難しい。
この研究では、てんかん患者さんと同じように、まず脳の10カ所に留置電極を装着し、10日間それぞれの場所の神経活動を記録するとともに、毎日の気分やうつ病発作を記録し、うつ病発作に導く脳活動の兆候を決めている。最終的には、予想されていた様に扁桃体でのγ波のバースト出現と、うつ病症状が相関することを確認している。
そして、刺激をベースにした各領域の神経ネットワークを参考にしながら、最終的に右側の腹側内包/腹側線条体に刺激を加えることで、γ波バーストが抑えられ症状が改善されることを発見する。
この結果に基づきresponsive neuro-stimulationの電極NeuroPaceを扁桃体で兆候を検出、腹側内包/腹側線条体を刺激できる様設置、扁桃体のγ波を感知したところで6秒間1mA刺激を発生させる方法で経過を観察している。
結果は劇的で、うつ病の症状がほぼ消失するところまで改善し、論文準備中はこの状態が続いていることを報告している。
以上の結果は、てんかんと同じように、うつ病も何らかのきっかけで扁桃体のγ波活動に反映される神経興奮が引き金になる、反応性の病気だと言うことになる。もちろん、全てのケースに当てはまるかどうかはわからないが、今後この治療を受ける患者さんの解析で、うつ病の理解も進む可能性がある。
現在うつ病に対して、ケタミン注射や、頭蓋外磁気刺激など新しい治療法が開発されているが、これらの治療でも対応できないケースについては、期待できる治療法だと思う。
付録として紹介するペンシルバニア州立大学からの論文は、風変わりなタイトル「Mushroom intake and depression: A population-based study using data from the US National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES), 2005–2016(キノコの摂取とうつ病:米国、国民の健康と栄養に関する調査データを用いた集団調査研究)」に惹かれて読んでみた。論文はJournal of Affective Disorders11月号に掲載されている(294,p686)。
このコホートでアクセスできる24000人に、食事の内容を聞き取りし、そこからキノコの消費量を割り出すとともに、2005年から定期的に自分でアンケートに答える形で、うつ病の気分の有無を診断し、この結果からうつ病にかかっているかを決めている。
本当かと目を疑う結果で、キノコを食べている人ではうつ病にかかるオッズ比がなんと0.45で半減しているという結果になる。
結果はこれだけで、元々このような調査は正確さに欠けるところがあるので、もっと多くの調査で確かめられないと結論できないと思うが、面白い結果だ。ただ、この研究のきっかけになったのが、我が国の九州栄養福祉大学から2010年に発表された論文で、ヤマブシタケを摂取すると、うつ病気分が低下し、不眠や不安症がなくなることを示している。このような話から、新しい薬剤が抽出されるのかもしれない。