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10月30日 グリコーゲンの相分離が発ガンを促す(10月28日号 Cell 掲載論文)

2021年10月30日
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昨日紹介したNRLP6の相分離は、これまでの研究から考えてさもありなんと思ったが、今日紹介する中国・厦門大学からの論文は、グリコーゲンが蓄積して相分離を起こし、ガン増殖を促進するという研究で10月28日号のCellに掲載された。タイトルは「Glycogen accumulation and phase separation drives liver tumor initiation(グリコーゲンの蓄積と相分離は肝臓ガンの発ガンを誘導する)」だ。

このグループは相分離と言うより、肝臓ガンの発生とグリコーゲンの関係を研究していたのだと思う。グリコーゲンはブドウ糖を蓄積するために我々が持っている重要な手段で、解糖系で使わずに余ったグルコースをグリコーゲンに変換し、肝臓や筋肉に蓄積する。グルコースの供給が絶たれると、この経路からG6Pや最終的にはグルコースまで合成して、エネルギーバランスを保つ。

ガンと糖代謝は現在重要なテーマになっており、研究方向は納得できる。この研究ではまずヒトの初期肝臓ガンを調べ、グリコーゲンが腫瘍と一致して蓄積していることを明らかにしている。

次に、より詳しい分子解析を進めるため、マウスの発ガンを用いてグリコーゲン蓄積の影響を調べている。まず、発ガン剤投与によりグリコーゲンを分解してグルコースへと変化させるG6pc酵素の低下が起こり、次にグリコーゲンの蓄積が始まり、その結果肝臓ガンのドライバーとして知られているHippo/Yapシグナル系の変化(詳細は省くが、Hippoシグナル低下、Yap/TAZ転写活性の恒常的上昇)が見られ、これが発ガンを原因になっていることを突き止める。

では、なぜグリコーゲンの蓄積によりHippoシグナルが低下するのかを調べる過程で、肝臓内でグリコーゲンが蓄積すると、相分離を起こして相分離液滴が形成され、なんとそこにHippo(MST1/MST2)が隔離されてしまう結果、Hippoにより抑えられていたYapの活性が高いまま持続することが明らかになった。

次の問題は、なぜMst1/Mst2がグリコーゲン相分離体に隔離されるかだが、Laforinと呼ばれるグリコーゲン脱リン酸化酵素が、相分離したグリコーゲンとHippoをつないでいることを発見する。実際、Laforinを肝臓細胞でノックアウトすると、Hippoはグリコーゲン相分離体に取り込まれず、Yap/Tazの活性を抑えることができる。

後は、G6pcを肝臓からノックアウトして、グリコーゲンをたまりやすくして、肝臓ガンの発ガン過程が高まることなども示しているが、割愛する。

相分離研究という点では、「グリコーゲンよおまえもか」で終わるが、LaforinからYap/Taz活性化までのプロセス解析は、なかなかのグランドストーリーだと感心する。この結果、新しいガン抑制経路が開発できるのではと期待する。

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