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10月11日 パーキンソン病の深部刺激治療の有効性はさらに高められる(10月8日号 Science 掲載論文)

2021年10月11日
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パーキンソン病では黒質のドーパミン神経が失われるため、運動をスムースに行う回路が傷害される。すなわち、麻痺が起こるわけではないので、ドーパミン神経なしでこの回路を回復させれば、運動障害を抑えることが可能だと言える。そこで登場したのが、脳の深部刺激で、期待通り有効な治療として定着している。

視床、視床下核、大脳基底核、そして黒質は興奮性、抑制性の入り交じった複雑な回路を形成してスムースな運動を可能にしているが、ドーパミン神経喪失によりネットワークのバランスが狂い、視床下核の過興奮、大脳基底核と黒質網様部の抑制神経の活性化、そして最終的に視床神経の抑制が起こるのが、パーキンソン病の運動障害の原因だと考えられている。そこで、この大脳基底核に刺激を入れて黒質や基底核からの抑制を抑えようとするのがこの治療法だ。なかなかよく考えられているのだが、実際にできるのは視床下核を細胞外から刺激することだけで、この領域の特定の細胞を操作できるわけではない。

今日紹介するカーネギー・メロン大学からの論文は、選択制がない深部刺激も、刺激の周期や長さを工夫すれば細胞特異的な刺激が可能になり、これまでの深部刺激の問題を解決できる可能性を示した重要な研究で10月8日号のScienceに掲載された。タイトルは「Population-specific neuromodulation prolongs therapeutic benefits of deep brain stimulation (神経細胞集団特異的に神経を操作することで深部刺激の治療上のベネフィットを持続させることが可能になる)」だ。

先に述べた複雑な回路も、マウスでは光遺伝学を用いて詳細に解析できる。このグループは、大脳基底核の淡蒼球外節の神経細胞のうち、Parvalbuminを発現する細胞を選択的に興奮させ、逆にLhx6を発現している細胞の興奮を抑えると、運動正常化効果が長期に続くことを明らかにしていた。

そこでこの結果を達成できる深部刺激の条件を機械学習も用いて探索し、さらにその効果を、神経特異的に興奮を抑える光遺伝学を用いた実験で確認するという作業を繰り返し、175Hz、200msといい刺激がPv神経選択的興奮と、Lhx6神経特異的抑制を達成できることを突き止めた。

最後に、現在行われている刺激方法と、新しく開発したBurst法と呼ぶ刺激方法を、パーキンソン病も出るマウスで比べる実験を行い、新しい刺激方法をもちいた場合、刺激後も150分近く正常な運動が可能であることを明らかにしている。一方、通常の刺激方法では、刺激中は自発運動が見られるが、刺激をやめると30分でほとんどが運動しなくなる。

以上の結果は、光遺伝学の様な神経特異的操作でなくとも、細胞集団特異的な操作を電気刺激は可能にすること、そしてパーキンソン病でこのような細胞集団特異的刺激が可能になると、一回刺激しただけで効果が長期に持続する、現在より遙かに優れた深部刺激が実現できることを示している。臨床目的がはっきりした、優れたトランスレーション研究だと思う。

もちろんマウスの話をそのまま人間にもって行くのは難しいが、現在の刺激電極に与える刺激パターンを変化させることは可能で、トライアンドエラーになると思うが、是非新しい刺激方法を実現して欲しい。

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