7月1日 毒を薬に:一酸化炭素をホイップクリームにして治療に使う(6月29日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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7月1日 毒を薬に:一酸化炭素をホイップクリームにして治療に使う(6月29日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年7月1日
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ガス中毒といえば、まず頭に浮かぶ一酸化炭素が、なんと薬として使えると聞くとだれもが驚くはずだ。長年医学論文を読んできた私も全く初耳だった。当然今日紹介するハーバード大学からの論文のタイトル「Delivery of therapeutic carbon monoxide by gas-entrapping materials(治療用一酸化炭素をガスを閉じ込める材料を用いて患部に届ける)」を見ると、それだけで引きつけられる。

イントロ部分を読むと、一酸化炭素が何故薬になるのかまとめた総説が2010年、Nature Review Drug Discoveryに掲載されているので、ざっと目を通してみた。

勿論、ヘモグロビンに結合してしまうと酸素と拮抗して、呼吸が出来なくなる。しかし実際には私たちの体の中でも一酸化炭素が作られており、局所でヘムを持つ分子と相互作用を行い、様々な効果を発揮すること、特に血管リラックス効果のあるNO産生に重要な働きをしていることが述べられている。その結果、炎症や損傷治癒を促進する効果があり、外部からCOを投与しても、十分同じ効果を得ることが出来るようだ。

しかし、どうやって安全な量の一酸化炭素を患部に投与するのか?今日紹介する論文の目的は、大腸にCOを投与する方法の開発で、6月29日号Science Translational Medicineに掲載された。

極めて単純化して結果をまとめると、多糖類の一つキサンタンガム、メチルセルロース、そしてマルトデキストリンを基質にして、ホイップクリームを作り、そこに一酸化炭素を溶け込ませるという方法を用いると、経口的に胃を満たしたり、あるいは肛門から逆行的に直腸を満たして、局所でヘモグロビンと結合できることを示している。すなわち、COを比較的簡便に投与可能で、ヘモグロビンへの結合から見て、組織内で利用されていることを示している。

そして、安全な量を直腸に投与することで、

  1. アセトアミノフェンによる肝臓の急性中毒を軽減できる。
  2. デキストランスルフェーとによる慢性腸炎をほぼ完全に抑えることが出来る。
  3. 放射線による大腸上皮の障害を抑えることが出来る。

を実験的に示し、様々な病気の基礎治療として用いることが出来ることを示している。

大変勉強になったが、今後ホイップクリームの作り方などを工夫して、様々な治療に役立てられる可能性を感じた。

カテゴリ:論文ウォッチ