現在国立科学博物館では「化石ハンター」と題して、化石研究について展示が行われている。10月までなので一度行こうと思っているが、もう少し感染が収まってからがいいだろう。しかし、どの国の自然史博物館を訪れても、恐竜の化石が一番人気だ。ただ、自然科学として見た時、こんな動物がいたという博物学を超えて、発掘された恐竜から何を学ぶのかを考えるのは面白いが、そのためには深い知識が必要になる。そこで今日は、アフリカ ジンバブエで発掘された竜脚目の恐竜の骨から何を学ぶことができるのかについてわかりやすく教えてくれるエール大学からの論文を紹介する。タイトルは「Africa’s oldest dinosaurs reveal early suppression of dinosaur distribution(アフリカで最も古い恐竜は恐竜の分布が最初抑制されていたことを明らかにする)」だ。
新種の恐竜の骨を見つけたというだけでは、マスコミは取り上げてくれても、科学としては高い評価は得られない。まず大事なのは Question を提示することだ。
現在恐竜と呼ばれている爬虫類は、ペルム紀の爬虫類の生き残りが三畳紀に進化、多様化したもので、その後ジュラ紀、白亜紀と恐竜は進化し続けていく。恐竜だけでなく、三畳紀初期が面白いのは、ペルム紀末の大火山活動で地球上の9割以上の生物が絶滅したため、三畳紀、地球上の生命は新たに生まれ変わる。この中で、恐竜や哺乳類が誕生する。
もう一つ面白いのは、三畳紀では、現在分離している大陸がパンゲア大陸にまとまっていたことで、その後分離された結果の独自の進化を比べることができる点だ。
この研究の Question は、三畳紀初期、恐竜はどこで最初に進化したのか、その後どのように分布したのかを明らかにすることだ。これまでの研究で、竜脚類、獣脚類、鳥盤類など主だった恐竜ははほとんどパンゲア大陸南部に限局して出土することがわかっている。ただパンゲアといってもほとんどの発掘場所は南米に限られており、分布を議論するには発見された化石の数が少ない。
これに対し、これまでほとんど恐竜の化石が発見されてこなかったアフリカジンバブエの三畳紀初期の地層から、現在続々恐竜の化石が発掘され、今回M.raathiと名付けた、最も古い竜脚類の完全な化石が発見され、論文として発表された。
骨格の特徴から竜脚類で、ブラジルで発見されたサトゥナリア、アルゼンチンで発見されたパンファギアなどの同時代の竜脚類に近いことがわかる。また同じ場所から、ヘレラサウルス、Hyperodapedoninae、Gomphodontosuchinae、 aetosaurus、ディキノドンなども出土していることから、パンゲア大陸東側(現在南アメリカ)とほぼ同じ恐竜分布を示す場所が、西側(現在のジンバブエより西)に存在していたことを示している。
結果は以上で、南アメリカに続いて、アフリカでも三畳紀初期の類似した恐竜分布が発見されたことで、恐竜の進化がパンゲア大陸南側の、雨季と乾期の差がはっきりした、高温の気候帯のみで進化したと結論している。その後、気候が温暖化することで、まず獣脚類、そして鳥盤類の北への移動が始まるが、それまではこの領域に限られることから、恐竜の初期の進化を知るためには、パンゲア南部に相当する領域を徹底的に調べる必要があるという結論だ。
恐竜の骨発掘は決してロマンだけではない。