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9月10日 自律神経研究3題:2. 腸で脂肪を感じる自律神経回路(9月7日 Nature オンライン掲載論文)

2022年9月10日
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自律神経研究紹介2日目は、内臓で味を感じる回路の研究だ。甘みを感じる受容体を消失したマウスが、それでも人工甘味料ではなく砂糖に対する嗜好を示すという有名な研究が発表されて以来、腸で様々な栄養成分を感じるメカニズムの研究が続いている。例えば今1月17日、腸内で砂糖に反応する neuropod 細胞を特定した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18825)。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は、脂肪に対する嗜好が、味とは別に生まれる自律神経回路を詳細に解析した論文で、9月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Gut-Brain Circuits for Fat Preference(脂肪嗜好性の腸脳回路)」だ。

まずマウスに脂肪液と人工甘味料液を選べるようにして、どちらを選ぶかを調べると、最初は人工甘味料を選ぶことが多いのだが、1日たつと脂肪の方を選ぶようになり、この嗜好性は48時間まで上昇し続ける。

この脂肪を摂取したときに活動する脳を調べると、昨日炎症を感じる領域として紹介した延髄孤束核に強い反応が現れる。昨日紹介した TRAP という方法を用いて、脂肪に反応した神経細胞を除去すると、脂肪への嗜好性は消失する。また、腸と脳をつなぐ自律神経系である迷走神経を切断すると脂肪嗜好性は消える。従って、脂肪に対する腸の感覚は迷走神経を伝って、延髄孤束核に投射することがわかる。

以前にも紹介したように、甘みやアミノ酸も腸で感じることが知られているので、脂肪を感じる経路と同じか違うのかをまず孤束核の細胞の反応で調べると、甘みを感じる経路は、アミノ酸にも、脂肪にも反応する一方、脂肪だけに反応する経路が存在することを突き止める。すなわち、腸では全ての栄養成分に反応する栄養感覚と、脂肪だけに反応する脂肪感覚があり、孤束核の異なる細胞がそれぞれの回路に関わることになる。

あとは、それぞれの経路を使われている受容体や、神経伝達因子について調べ、

  1. これまで知られていたように砂糖の刺激は SGLT1 を受容体として、コレストキニンを神経伝達因子として伝えられ、おそらく同じ細胞が脂肪に反応する GPR40/GPR120 を発現し、脂肪刺激を伝えること。
  2. 脂肪だけに反応する経路は、GPR40/GPR120 で脂肪が感知され、TRPA1 陽性迷走神経を介して延髄孤束核に信号が伝えられること。

が明らかになっている。 結果は以上で、脂肪だけに反応して、腸から脳へとシグナルを伝える自律神経系が、私たちが自然に脂肪を求める嗜好を支配しているという話だ。しかし、甘みやうまみに反応する経路は脂肪にも反応するのに、これとは別に脂肪に反応する経路が同じ程度に発達しているのは面白い。私たちの脳は要するに脂肪を求めるように出来ていることか。是非食生活とこの感覚との関係を調べてほしいものだ

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