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9月24日 ハンチントン病の新しい治療可能性(9月23日 Science 掲載論文)

2022年9月24日
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ハンチントン病(HD)は、ハンチンティン(HTT)遺伝子に挿入された長い CAG リピートにより、HTT が細胞内に蓄積し、変性を誘導することで起こる神経疾患だと考えられている。発症は遅く、中年期とされているので、HTT の蓄積を抑えることが治療の方向性と考えられてきた。

これに対し、今日紹介するフランス・グルノーブル大学からの論文は、変異型 HTT は蓄積とは別に発生期の神経ネットワーク形成異常に関わり、これを乳児期に治療することで発症そのものを抑えられる可能性を示した画期的研究で、9月23日号の Science に掲載された。タイトルは「Treating early postnatal circuit defect delays Huntington’s disease onset and pathology in mice(生後早期にハンチントン病の回路異常を治療することで発症を抑えられる)」だ。

この研究の全てはまだマウスを用いた実験段階なので、実際に人間へ応用できるかはさらに研究が必要だ。ただ、この研究では変異型 HTT は蓄積前でも、発生期の回路形成に何らかの役割があると考え、生後すぐから脳皮質の神経活動を詳しく調べている。

結果は読み通りで、生後1週間までは、脳細胞のグルタミン作動性シナプス活動が正常と比べ抑制されていることを観察している。また電流に対する興奮反応で見ると、最初は低下しているが、生後4−6日で正常より反応が高まることもわかった。これらの異常は成長とともに正常化するので見落とされる。また、HTT をノックアウトしたマウスでも同じような生後の神経活動の低下が見られるので、発生時回路形成では変異型 HTT も機能不全を持ち、この結果回路形成の異常が発生すると言える。

さらに、細胞学的にもこの変化を対応させることが出来る。すなわち、神経細胞の樹状突起の成熟がつよく抑えられ、正常化するのに3週間もかかることがわかる。

以上の生理学的解析から、生後のグルタミン酸作動性シナプスの機能を高めるために、生まれてから1週間 Ampakine を1日2回投与する実験を行っている。Ampakine は当然正常マウスのシナプス活性を高めてしまうため、様々な異常を引き起こす。一方、HD モデルマウスでは、この処理により、例えば乳児期の起き上がりテストでは無処置の正常マウスのレベルに改善する。

また、成長後様々な時期に運動機能や作業記憶をテストすると、無処置の正常マウスレベルに改善していることを確認している。これに対応して、シナプスの活動や脳構造を8ヶ月齢マウスで調べると、やはり正常に近いこともわかった。

結果は以上で、生後グルタミン作動性シナプスの活動が低下している時に、薬剤で高めることで、その後持続する回路正常化が実現し、その結果時間をおいて起こってくる HD の発症を抑える可能性が示された。

Ampakine は正常児に使えない薬剤なので、この結果を応用するには様々なハードルが待ち受けていると思うが、HD を単純にポリグルタミンの毒性だけで終わらせないことの重要性がよくわかった。

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