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9月18日 細菌、バイオフィルム、ホスト細胞の全てに働く難治性皮膚潰瘍薬(9月14日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年9月18日
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難治性の皮膚潰瘍は現代医学が取り組むべき重要な課題だ。今は元気にしておられるが、痛覚がないため小さな皮膚の傷が、難治性の皮膚潰瘍に発展して、外科治療のために何度も入院を余儀なくされた、脊髄損傷を持つ友人のFさんの戦いを見ていて、医学の限界をもどかしく感じる。

ひょっとしたらこの課題がかなりの程度解決できるのではないかと思わせてくれる論文が、ウェールズのカーディフ大学から報告された。タイトルは「Topical, immunomodulatory epoxy-tiglianes induce biofilm disruption and healing in acute and chronic skin wounds(局所的免疫作用を持つエポキシ・チグリアンは急性と慢性の皮膚傷害でバイオフィルムを破壊と損傷治癒を誘導する)」で、9月14日 Science Translational Medicine に掲載された。

この8月、私たちも自然を満喫したオーストラリア クィーンズランド・アサートン高原に生息する植物のエキスをスクリーニングしていた Ecobiotics 社は、野生の有袋類が嫌うFontaineaの種から、塗るだけで腫瘍の増殖を抑制できる成分、EBC-46 を発見した。現在この薬剤は、PKC 阻害活性があるとして、犬の腫瘍に対する塗り薬として認可され、使われている。

犬についての治験が進む中、EBC-46 が炎症を促進して皮膚の損傷治癒を促進するという発見が行われ、難治性の皮膚潰瘍にも利用できないか調べたのがこの研究だ。

難治性皮膚潰瘍で問題になるのは、感染と、抗生物質の効果を下げるバイオフィルムだが、この研究では、EBC-46 と、側鎖を変化させた EBC-1013 について、抗菌活性、バイオフィルムに対する作用などを調べている。最終的には、EBC-1013 を臨床応用に移すように思えるので、ここでは EBC-1013 についてのみ結果を紹介する。

EBC-1013 は、黄色ブドウ球菌を含むグラム陰性菌の細胞壁に突き刺さって、膜の機能を阻害し、一定程度の殺菌効果と、細菌の代謝変化を促す。

さらに重要なのは、損傷部位に形成されているバイオフィルムに侵入して、バイオフィルムの機能を抑制する点で、フィルム内のナノパーティクルの移動を測定する方法でこれを確かめている。

以上のように、細菌側では一定程度の殺菌効果と、バイオフィルムの機能阻害を誘導できる EBC-1013 は、損傷部位の様々な細胞にも働いて、炎症を高めると同時に、ケラチノサイトに働いて損傷治癒を高める効果があることを確かめている。

実際には、バイオフィルム障害から考えると、逆効果になると思われる白血球のアポトーシス誘導など、多彩な効果を示すため、一つ一つデミルと複雑すぎるが、全体としてみると傷を治す方向に強く引っ張る。

この効果は、牛の皮膚に焼き印を押したときの損傷治癒スピードを高めることだけでなく、糖尿病マウスでの難治性の皮膚損傷が、コントロールと比べて1ヶ月で完全に治ることからも確かめている。

以上が結果で、あまりにも多彩な効果があるため、その作用機序を特定するのは難しいが、細菌に対する直接作用、バイオフィルムに対する作用、そして損傷部位のホスト細胞に対する作用を併せ持っていることは間違いなく、これが難治性皮膚潰瘍を抑えてくれる。現在治験が進んでいるらしいが、今後は皮膚だけでなく、口腔、歯科領域にも拡がる予感がする。

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