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9月5日 パーキンソン病を寝ている間に診断する(8月22日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2022年9月5日
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病気の中には、今も確定診断を現れている症状にもとづいて行っているケースがある。パーキンソン病(PD)もそんな一つで、α シヌクレインの蓄積があると言っても、まだ広く検査として使えるバイオマーカーは存在しない。

今日紹介する MIT からの論文は、睡眠時の呼吸状態を調べることで、PD を少なくとも問診に匹敵する精度で診断できるという研究で、8月22日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Artificial intelligence-enabled detection and assessment of Parkinson’s disease using nocturnal breathing signals(睡眠時の呼吸シグナルを測定し人工知能で処理することでパーキンソン病の評価が出来る)」だ。

かなり昔から PD には睡眠時の呼吸パターンが異常を示すという論文が発表されていた。例えば睡眠時の酸素飽和度が低いことが知られているし、睡眠時無呼吸も高い確率で見られることも報告されている。また、その呼吸のパターンは、PD に特徴的であることも示唆されていた。

この研究では、睡眠時の呼吸パターン(頻度、深さなど)を呼吸を調べるベルト、あるいはラジオ波による呼吸モニタリングにより測定、それをエンコーダーで数値化し、Self-attention module を用いた深層学習で処理し、睡眠時の呼吸から PD の診断、あるいは PD の様々な指標を診断できるか調べている。

結果は上々で、呼吸ベルトで一日だけ呼吸を計測し分析したデータにより、正確度の評価に使われる ROC 曲線から割り出す AUC が0.889と期待通りだった。すなわち、十分相関性が有り診断に使える。

さらに、呼吸ベルトではなく、ラジオ波で呼吸状態を測定する方法を用いると、さらに良い結果で AUC で0.906になった。さらに、ラジオ波の場合、家庭で何回も測定可能なので、測定回数を増やすことでさらに高い精度が得られるか調べ、12日間に計測数を増やすと、なんと0.95まで精度が高まることを明らかにしている。

さらに、この指標は問診による重症度診断指数とほぼ完全に一致しており、重症度の指標としても使える。そして、徐々に PD の症状が進行することも正確に捉えることが出来る。

この Self-attention モデルを用いた AI が PD のパターンとして特徴づけた眠りのセグメントについて、他の指標との相関を調べると、ノンレム睡眠時、脳波のδ波が低下し、代わりに β 波が上昇すると相関が認められており、呼吸の少なくとも一部が脳波を反映することも明らかにしている。

以上が結果で、AI を用いた研究なので、メカニズムを云々するより、やはり診断的価値を重視すればいいと思う。AI 診断の妙味は、決して難しい検査の解釈ではなく、これまで病気の診断には利用できなかった単純な生体情報を長期的にフォローすることで、これまで気づかなかった変化を検出し、診断に使うことが出来る点で、その意味ではこの研究は素晴らしいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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