9月3日 ダウン症の認知障害は治療できるかもしれない(9月2日号 Science 掲載論文)
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9月3日 ダウン症の認知障害は治療できるかもしれない(9月2日号 Science 掲載論文)

2022年9月3日
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21番染色体の全部、あるいは一部が余分に存在するダウン症では、様々な障害が生後現れるが、中でも重要なのは、年齢と共に認知機能が低下する症状だと思う。

今日紹介するフランス・リールにある、リール神経認知科学研究所からの論文は、ダウン症で起こる認知機能と嗅覚障害に絞ってその原因を探り、卵胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモンの分泌を調節するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌低下が背景にあることを突き止め、これを補うことで認知機能や嗅覚の低下を止める可能性があることを示した画期的な研究で、9月2日号 Science に掲載された。タイトルは「GnRH replacement rescues cognition in Down syndrome(GnRH を補うことでダウン症の認知機能を救済できる)」だ。

この研究は、ダウン症で見られる嗅覚障害が、GnRH 欠損を示すカールマン症候群でも見られること、またダウン症の特に男児が性的成熟が欠如することなどから、ダウン症の病理、特に神経症状や性成熟の異常は GnRH 分泌異常にあるのではとの着想から始まっている。

ダウン症モデルマウスでも、人間と同じように、成熟に伴い、認知機能と嗅覚機能異常が現れることを確認した後、GnRH の発現を調べると、やはり年齢と共に GnRH を発現している視索前野神経細胞の数が低下することを明らかにする。

次に、ダウン症で GnRH の発現が低下するメカニズムを遺伝子発現から探って、遺伝子の翻訳調節を行っている miRNA のいくつかの発現が、ダウン症で年齢とともに低下しており、この中の miR-200 を視策前野神経に発現させることで、嗅覚機能や認知機能が少し回復することを示している。

メカニズムはともかく、この研究の真価は、GnRH 発現低下と嗅覚、認知機能低下を関係づけたことで、当然 GnRH を補充することで認知機能の回復が見られるかが最も重要な実験になる。

浸透圧ポンプを用いて、3時間ごとに10分間、不妊治療に用いられる GnRH を投与する実験を行い、嗅覚機能とともに、認知機能が回復することを確認している。

最後に、既に認知機能が低下している成人のダウン症患者さんに、同じように GnRH を6ヶ月投与する治験を行い。様々な認知機能が回復することを確認している。発達期を対象にしたマウス実験と異なり、嗅覚機能は回復していないが、fMRI で調べた、脳各領域の結合性が間違いなく上がっていることから、白質障害を間違いなく抑えられる可能性が示された。

これ以外に、視索前野に正常細胞を注射する細胞治療、あるいは GnRH の発現を視索前野で誘導する遺伝子治療もマウスでは劇的効果があることを示している。

以上の結果は、今後認知機能が低下する前から GnRH 補充療法、あるいは脳細胞の移植や遺伝子治療を行えば、ダウン症の児童の認知機能の低下を防げる可能性を示している。勿論成人への効果は示されたので第2相以降の治験を進めて欲しいし、発達期を標的にし治験も今後行われると思うが、期待できる画期的研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ