9月15日 頭が混乱するぐらい複雑な腸管での免疫系、細菌、そして栄養の関係(8月29日 Nature オンライン掲載論文)
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9月15日 頭が混乱するぐらい複雑な腸管での免疫系、細菌、そして栄養の関係(8月29日 Nature オンライン掲載論文)

2022年9月15日
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先日は腸管内に複雑な樹状細胞(DC)系が存在し、その存在が免疫を高めるか抑えるかを決めていることを示す論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/20522)。そして、慶応の本田さん達により明らかにされたように、DC やT細胞は細菌叢の中の SFB と呼ばれる特殊な細菌群により調節されている。これだけでも複雑なのだが、今日紹介するコロンビア大学からの論文は、この免疫系と栄養との関わりを追求した論文で、読む側の頭をさらに混乱させるが、栄養と免疫を考える上で面白い研究だ。タイトルは「Microbiota imbalance induced by dietary sugar disrupts immune-mediated protection from metabolic syndrome(食事の中の糖により誘導される細菌叢の不均衡がメタボリック症候群を防止する免疫系を消失させる)」で、8月29日 Cell にオンライン掲載された(論文の筆頭著者の Kawano さんは慶応の内分泌内科所属になっている)。

この研究は、最初合成された高脂肪食(HFD)による肥満を抑える免疫系を特定すべく計画されている。マウスに HFD を摂取させると、Th17細胞が低下、逆にTh1細胞が上昇する。これと同時に、Th17誘導に重要とされている細菌種 SFB も消失する。

面白いことに、Th17細胞の誘導を操作したマウスを用いて同じ実験を行うと、Th17 が欠損したマウスでは、HFD によりおこる肥満と代謝異常の程度が強い。また、メタボになりやすいTh17マウスもCD4T細胞を移植することでメタボを防ぐことが出来る。一方、HFD によるTh17 低下は、SFB を直接投与することでも防ぐことが出来る。以上のことから、HFD により起こる肥満は、栄養だけでなく、腸管内で SFB が減少し、Th17 が低下することで、メタボリック症候群防御機構が低下することも要因であることを明らかにする。

では、HFD の何が Th17 低下を招いているのか?追求していくと、驚くことに原因は HFD中の脂肪そのものではなく、なんとそこに加えられた砂糖が原因になっていることがわかった。すなわち、砂糖を投与することで、SFB が減り、Th17 が減る。

以上のことは、砂糖により SFB の増殖が変化することを示すが、SFB のみを移植された無菌マウスでは砂糖の影響が全くないことから、砂糖により他の細菌が増え、結果 SFB が Th17 誘導に関われなくなる可能性を示している。そして、最終的に Erysipelotrichiaceae と呼ばれるバクテリアが増殖して、SFB を粘膜上皮から引き剥がすことで、Th17誘導能がなくなることを示している。

最後に Th17 がメタボリック症候群を抑える仕組みが問題になる。勿論全身の自然炎症を抑える役割がある可能性も捨てられないが、この研究では上皮の脂肪輸送に関わる CD36 の発現を Th17 が抑制することも示し、全身の影響だけでなく、脂肪の体内への移行を抑えることで、Th17 が肥満防止に関わることを示している。

どんどん複雑になり、頭も混乱するが、これらの結果をもとに、メタボのない、バランスの取れた免疫系の維持方法について指針を出して欲しい。

カテゴリ:論文ウォッチ