11月30日 トキソプラズマ原虫感染が群れを率いる勇敢なオオカミのリーダーを作る(11月24日 Communications Biology オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2022年 > 11月 > 30日

11月30日 トキソプラズマ原虫感染が群れを率いる勇敢なオオカミのリーダーを作る(11月24日 Communications Biology オンライン掲載論文)

2022年11月30日
SNSシェア

今日の論文は予想外の話で驚いた。イエローストーン資源研究所、オオカミプロジェクトからの論文で、人間にも広く感染しているトキソプラズマ原虫の、イエローストーン公園に生息するオオカミへの感染について、1995年から、原虫に対する抗体の有無を中心に調べた研究だが、感染オオカミを非感染オオカミと比較することで、なんとトキソプラズマ原虫の感染によって、オオカミが大胆な行動をとり、群れのトップに躍り上がることを示した研究で、11月2424日 Communication Biology にオンライン掲載された。タイトルは「Parasitic infection increases risk-taking in a social, intermediate host carnivore(寄生虫の感染によりホストの肉食獣の社会でのリスクテークが上昇する)」だ。

トキソプラズマ原虫への感染の有無は、原虫に対する抗体の有無で判断しているため、決して頻回に検査が出来るわけではない。それぞれの地域のオオカミの健康を長期にフォローアップしてきた結果として、血清を系統的に集めることが出来ている。

驚くのは、1995年の50血清サンプルでは全て感染なしと判断されたことだ。その後、2000年からの5年間で集めたサンプルでは25%近く、そして2015年からの5年間では36.5%に跳ね上がっている。

このように感染が急に上昇してきた原因を、様々な指標との相関で調べていくと、同じ縄張りを奪い合っているアメリカライオンと生息域がオーバーラップしているほど感染率が高いことから、通常半数ぐらいが感染しているアメリカライオンより感染したと考えられる。

トキソプラズマ原虫にかかると、胎児の場合は流産など大きな影響があるが、大人の場合ほとんど健康障害には至らない。ただ、原虫は脳に移動し、嚢胞を形成し、これが脳活動に影響を及ぼすことが示唆されてきた。

この論文を読むまで全く知らなかったが、ネズミからチンパンジーまで、トキソプラズマ原虫に感染すると大胆になり、リスクテークを行うことが知られていたようだ。そこで、オオカミについて、感染オオカミと、非感染オオカミで行動比較を行うと、

  1. 感染オオカミは、アメリカライオンの生息地であっても行動範囲が拡大すること。
  2. 感染オオカミは群れのリーダーになる確率が数倍になる。

この結果は、他の動物と同じでオオカミもトキソプラズマ原虫に感染すると、一部生存率では低下することが予想されるものの、リスクテークする大胆さを兼ね備えるようになり、その結果群れのリーダーになることで、感染個体を一定レベルに維持していること結論している。

さすがに、原虫でゾンビ化するという話ではないが、生きたまま無意識のうちに原虫の都合のいいように振る舞うとは、驚く。

カテゴリ:論文ウォッチ