1月3日 痛いとき七転八倒するとどうして痛みが和らぐのか?(12月23日 Science 掲載論文)
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1月3日 痛いとき七転八倒するとどうして痛みが和らぐのか?(12月23日 Science 掲載論文)

2023年1月3日
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痛みで七転八倒すると言うことがあるが、痛いときに「痛い!痛い!」と喚きながら動いた方が少し痛みが楽になる気がするのは確かに経験する。実際、運動野に電流を通して刺激して痛みを和らげる治療も行われており、我々の感覚もまんざら間違いではない。

今日紹介するハイデルベルグ大学からの論文は、運動すると痛みが和らぐ神経回路解明にチャレンジした論文で、12月23日号 Science に掲載された。タイトルは「Layer-specific pain relief pathways originating from primary motor cortex(一次運動野から発する痛みを和らげる層別の回路)」だ。

この研究では、後ろ足の腓腹神経を切断したときの痛みや足裏を低温に晒したときの痛みを、一次運動野全体の刺激で抑えられることをまず確認し、そのあと、運動野の興奮性神経の活動で起こること、それも第5層および第6層の刺激が効果を持つことを明らかにしている。

作用のスタートラインがわかると、後は光遺伝学や回路トレースのテクノロジーを駆使して、運動野神経興奮が脊髄からの痛み感覚を抑制するのか神経回路を丹念に調べることになる。論文を読むと、時間や人手のかかる研究だが、現代のテクノロジーをもってすれば、確実に突き止められることがわかる。ただ、「丹念に回路を特定する」実験過程は全て飛ばして、明らかになった2本の回路をそのまま紹介する。

まず運動野第5層から投射する神経だが、運動野興奮神経は視床の不確帯と呼ばれる部分と、元々痛覚抑制作用が知られる水道周囲灰白質へと投射し、ここから脳幹の青班核やRostral Ventromedial Medullaという部分に投射し、ここから直接痛み感覚を抑えるシグナルが発生する。すなわち、運動野が興奮すると直接痛み感覚が上記の回路を経て抑制される。

次に運動野第6層の興奮神経は視床背内束核へと投射し、ここから側座核のGABA作動性神経へつながり、ドーパミンの分泌を変化させ、痛みによる環状のストレスを和らげることが明らかになった。

結果は以上だが、光遺伝学、電気刺激、回路トレースなど、現在神経科学で利用できるテクノロジーの完成度がよくわかる論文だ。とはいえ、これを全てこなして研究を完成させることは大変な仕事だ。そのおかげで、七転八倒することでなぜ痛みが和らぐのか少し理解できた。また、うまくいけば痛みを抑える新しい方法も開発できるかも知れない。

カテゴリ:論文ウォッチ