1月10日 自身を犠牲にする細菌の免疫戦略(1月4日 Nature オンライン掲載論文)
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1月10日 自身を犠牲にする細菌の免疫戦略(1月4日 Nature オンライン掲載論文)

2023年1月10日
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多細胞動物の細胞は、実に多様な死に方のメカニズムを持っている。これは、個体の維持にとって、個々の細胞の生き死にをうまく調節することの重要性を物語り、アポトーシスの語源、落葉の意味を考えるとよくわかる。

ただ、このような細胞死は細菌には存在しないと思っていたが、2020年、カリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文が、なんと感染後に生じるトリヌクレオチドによって、細菌内の全ての核酸が分解され、細菌が死ぬという現象が存在することが明らかにされ(Structure and Mechanism of a Cyclic Trinucleotide-Activated Bacterial Endonuclease Mediating Bacteriophage Immunity、Molecular Cell,77:723,2020)、細胞死が種の保存のためのメカニズムとなっていることを示した。

これに相当するのが、これまでもテクノロジーとして紹介してきた Cas12 や Cas13 のように、活性化後は特異性なしに、RNA や DNA を分解する酵素活性を持つ CRISPR/Cas システムで、当然自分の持つメカニズムも犠牲にすることになる。今日紹介するドイツ・ビュルツブルグにあるヘルムホルツ感染病研究センターとユタ大学からの論文は、自己犠牲にするという意味ではこれまで以上の酵素活性を持つタイプVと分類されるCas12a2の機能についての研究で、1月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Cas12a2 elicits abortive infection through RNA-triggered destruction of dsDNA(Cas12a2はRNAによりトリガーされる二重鎖RNA破壊を通して不念感染を誘導する)」だ。

この研究は新しく発見された Cas12a2 の機能を、親戚の Cas12 と比較して明らかにすることだが、同じ時に RNA によりこの分子の酵素活性が誘導される構造基盤を明らかにしているテキサス大学からの研究も掲載されており、それも参考になる。

詳細を省いて結果をまとめると、次のようになる。

  1. Cas12a は一本鎖 RNA や DNA を標的にしているが、2本鎖 DNA(dsDNA) は分解できないが、Cas12a2 はほぼ同じ効率でdsDNAを切断できる。その結果、クリスパーアレー中のガイドと結合できる RNA を感知すると、同時に存在するプラスミドも含めて、核酸を分解することが出来る。
  2. Cas12a2 の外来 RNA の感知システムは、Cas12a とほぼ同じだが、感知する外来 RNA の2カ所のミスマッチまでは許容できるフレキシビリティーを持っている。その結果、特異性が低下してしまう危険はあるが、逆にファージウイルスのように変異率が高い外敵に対しても対応できる。
  3. これまでの Cas と最も違う点は、dsDNA として、ホストゲノムも含まれることで、冒頭に紹介した CBASS のように完全に DNA が分解されることはないが、ホストのゲノムが切断されることで、ホストの増殖が完全に抑制される。

以上、細菌も種を様々な外敵から守るためには、自分を犠牲にすることもいとわないメカニズムを身につけていることがよくわかる論文だ。

カテゴリ:論文ウォッチ