1月22日 新しいエピジェネティック老化モデル(1月19日号 Cell 掲載論文)
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1月22日 新しいエピジェネティック老化モデル(1月19日号 Cell 掲載論文)

2023年1月22日
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老化は様々な原因が合わさって進む過程だが、古くから知られた重要な要因は、DNA 損傷が繰り返されることだ。DNA 損傷は当然突然変異の原因になるので、DNA 損傷に様々な箇所に起こる突然変異による機能不全が、老化の一つの原因と考えられてきた。

今日紹介するハーバード大学からの論文はこの通説を覆し、DNA 損傷もエピジェネティックな再編成を通して老化を進めることを明らかにした重要な論文で、1月19日 Cell に掲載された。タイトルは「エピジェネティック情報の喪失が老化の原因である」だ。

これまで DNA 損傷誘導には、放射線照射や抗ガン剤、あるいは活性酸素などゲノム全体にランダムに起こる損傷を用いて研究が行われてきた。CRISPR/Cas 系が開発されてからは、部位特異的損傷も可能になったが、系が複雑なためか DNA 損傷手段としてはあまり使われていない。そもそも、DNA 損傷とその修復自体が老化のドライバーなどとは誰も考えていなかったと思う。

この研究は細胞内の DNA 損傷を、制限酵素 I-PpoI を細胞内で発現させることで誘導して、突然変異とは全く無関係の DNA 切断効果を調べることを可能にした。

もう少し詳しく説明すると、I-PpoI は CTCTCTTAA;GGTAGC という極めて長い配列を認識してカットするため、マウスゲノムには20カ所しか切断可能箇所がない。しかもそのうち19箇所はノンコーディングで、基本的には切断が突然変異につながらない。また変異が起こったかどうかを20箇所で調べるのは簡単だ。

この方法を着想したことで、純粋に DNA 切断と修復自体が老化に及ぼす影響を調べることが出来る。実験は、生後2−6ヶ月目に3週間だけ I-PpoI を全身で発現させ、老化の程度を観察している。勿論ゲノム配列を徹底的に調べ、これによる突然変異は起こらないことを示し、切断が起こり、きれいに修復されるという過程が3週間繰り返したことがわかる。

このマウスの観察を続けると、3週間しか処理しなかったのに、あらゆる臓器で老化が促進する。例えば認知機能を調べると、著明な記憶障害が起こるとともに、脳ではアストロサイトやミクログリアが活性化し、いわゆる神経炎症状態になっている。筋肉も同様で、筋肉機能や筋肉量が低下する。

この原因を調べると、3週間という短い期間の処理で、しかも正確に修復が行われているにもかかわらず、H3K27 ヒストンのアセチル化で見たときのエピジェネティックス状態が、クロマチンがオープンなところでは閉じる方向に、閉じたところではオープンになっていることがわかる。さらには、染色体の 3D 構造にも変化が起こり、エンハンサーとプロモーターの位置がずれて相互作用が起こらなくなっていることがわかる。

すなわち、全ゲノムでたった20カ所しか切れていないのに、それを修復する過程により、ゲノム全体でクロマチン構造が大きく変化し、その結果老化が進むことを明らかにしている。実際、これにより例えば筋肉で免疫系の遺伝子が発現したりする異常な状態が出来ている。

ただ、これはあくまでもエピジェネティックな変化で、山中4因子を導入することで完全にリプログラムできる。

以上が結果で、老化領域では極めて重要な貢献だと思う。切断と修復の箇所が限定されているため、今後修復によりエピジェネティックを支える分子がどう変化していくかの詳しい過程が明らかになるだろう。例えば本当にサーチュイン分子活性化で老化を抑えられるのかなど、重要な問題の理解が進むように思う。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ