1月29日 自発行動に見えてもドーパミンにより意味付けられ構造化されている(1月18日 Nature オンライン掲載論文)
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1月29日 自発行動に見えてもドーパミンにより意味付けられ構造化されている(1月18日 Nature オンライン掲載論文)

2023年1月29日
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今日もドーパミンと行動の話だが、条件づけられていない自由行動を扱っている点で、面白い研究だ。

昨日紹介した性行動で示されたように、特定の行動の動機づけにドーパミンが深く関わっていることは一般にも広く知られるようになっている。すなわち、私たちの行動も結局ドーパミン分泌により得られる快感を動機として構造化されるということになる。

とはいえ、同じ結果が得られるように褒美を与えるような条件づけを前提とする実験的状況は別として、我々の行動の多くは、最初から目標が決まっているわけでない、自発的行動だ。そんな場合、その行動の動機はどこから来たのか不思議だ。今日紹介するハーバード大学からの論文は、外界からの刺激や条件づけのない状況でマウスが自然にとる行動も、ドーパミンの分泌と相関することで、行動の意味づけと構造化が行われている事を示す研究で、1月18日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Spontaneous behaviour is structured by reinforcement without explicit reward(自発的行動も明確なご褒美がなくても強化により構造化される)」だ。

この研究では、一見自発的に見える行動も、必ずドーパミン分泌と相関することで、その行動に意味づけが行われ、一定の構造化がおこなわれると決めて研究している。これを調べるために、ドーパミンセンサーを線条体に注入して、分泌されたドーパミン量を継時的に記録できるようにしたマウスの自発的行動をビデオで撮影し、行動とドーパミン分泌の関係を探索している。

こう書いてしまうと簡単に見えるが、自発的行動を類型化して、その行動を定義することは極めて難しい。この研究では、マウスの行動をまず動きの要素に完全に分解し(前への動き、上下の動き、左右の動き等々)、これら運動要素を AI により一連の運動セット(例えば、じっとする、起きあがる、前に歩くなどで、ここではシラブルと呼んでいる)へカテゴリー化し、このシラブル単位とドーパミン分泌の関係を探っている。

このように、運動を要素化し AI でカテゴリー化出来るようにした事がこの研究のハイライトで、これまで人間の観察による判断として行われた事が、完全にコンピュータでできるようになった事で、初めて高い時間解像度で行動要素(シラブル)の開始から終わるまでを、正確にドーパミン分泌の時間経過と相関させられるようになった。

結果だが、特定の行動が目的づけられているわけではないため、特定のシラブルやシラブルが重なった行動にドーパミン分泌が結びついているわけではないが、各シラブルの開始すぐから様々なレベルのドーパミン分泌が見られる事がわかった。すなわち、各行動に自発的にドーパミン分泌が割り振られている事がわかる。

この時のドーパミン分泌レベルは、思いがけなく食べ物にありついたときのドーパミン分泌レベルに匹敵することから、自発的であっても、ご褒美反応と同じレベルの動機づけが行われているように見える。

ではどんな動機づけかを調べるために、それぞれのシラブルでのドーパミンレベルと、シラブルが起こる頻度や、シラブル同士のつながりを調べると、個体毎に結果は異なるが、シラブル毎のドーパミンレベルは、そのシラブルが現れる頻度を反映しており、自発行動とはいえ、シラブルごとに意味づけが行われている事を強く示唆している。その結果、高いドーパミンレベルと相関しているシラブルは、多様なシラブルと結合して行動を形成できることから、行動のオーガナイザーとしての機能を持っている。

そこで、自発行動のシラブル発生に合わせて、光遺伝学的にドーパミンの分泌を増加させると、期待通り一定時間内にそのシラブルの利用される頻度が増加する。すなわち自発運動でもドーパミンにより意味づけられる事が明らかになった。

結果は以上で、自発的に見える行動も、おそらく成長過程で行動を形成する要素がドーパミン分泌と結合し、意味付けされることで、どう行動した方がいいのかが自然に学習されていく話になる。いずれにせよ、自発的行動を分析できる AI 技術開発がこの研究の鍵で、面白い技術だと感心した。

カテゴリ:論文ウォッチ