1月31日 ウイルス感染は脳の神経変性疾患発症のリスクになる(1月16日Neuron オンライン掲載論文)
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1月31日 ウイルス感染は脳の神経変性疾患発症のリスクになる(1月16日Neuron オンライン掲載論文)

2023年1月31日
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Covid-19では、brain fogと呼ばれる脳症状が高い頻度で発生した事が知られ、後遺症として位置付けられている。ただ、ウイルス感染が脳へ波及しなくとも、ウイルス感染自体が神経変性疾患のリスクになることは、昨年の10大ニュースの中にサイエンスが選んだ「EBウイルス感染が多発性硬化症の原因になっている」という発見からもわかる。

今日紹介する米国国立老化研究所からの論文は、極めてシンプルだが恐ろしい論文で、様々なウイルス感染が、アルツハイマー病を含む様々な神経変性疾患の引き金になっている可能性を示した研究で、1月19日 Neuron にオンライン掲載された。タイトルは「Virus exposure and neurodegenerative disease risk across national biobanks(国レベルのバイオバンクデータからわかるウイルス感染と神経変性疾患リスク)」だ。

この研究では、30万人のデータが集まっているフィンランドバイオバンクのデータから、アルツハイマー病(AD)、側索硬化症(ALS)、痴呆、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病(PD)、そして血管性痴呆の発症前にウイルス感染症の既往があるかどうかを調べている。

これにより、ウイルス感染とそれぞれの神経変性疾患の関わりが、感染しなかった人と比べた時のオッズ比として計算される。次に、英国の50万人のデータが集まっている UK バイオバンクで、フィンランドのバンクで抽出されたリスクが確認できるかを調べ、両方でリスクが確認された時に、ウイルス感染がその神経変性疾患の何らかの引き金になったと結論している。

さて結果だが、最も相関が見られるとして EB ウイルス感染と MS がリストされると思いきや、もちろん強い相関はあるが、オッズ比でいうと3.8程度になっている。これは、EB 感染は必須の条件でも、感染= MS 発病ではないからで、実際世界的にも EB ウイルス感染はほとんどの人で感染しているが、MS の発症率は10万人に7人程度だと知ると納得する。

では、神経変性疾患の最も高いリスクはどのウイルス病か?答えを知るとなるほどと納得だが、ウイルス性脳炎と AD 発症の関係で、オッズ比がなんと30というスコアで、UK バイオバンクでも確認される。これ以外にも、脳内でのウイルス感染は AD や痴呆症のリスクになっている。間違ってはいけないのは、ウイルス感染が AD の原因になっているわけではない点で、あくまでも病気を誘発するリスクがあることを示している。事実、AD 診断よりかなり前から、β アミロイド沈着など病気が始まっていることを考えると、AD に関しては、おそらく発症までの過程を促進したと考えたらいいように思う(論文ではここまでは言っていない)。

もっと驚くのは、脳に感染が波及しなくとも、インフルエンザ肺炎が起こると、ALS や痴呆がその後起こるリスクオッズ比が高まることで、UK バイオバンクでは ALS でオッズ比が7を超え、痴呆のオッズ比が6を超えており、インフルエンザ肺炎を起こしやすい高齢者にとっては恐ろしい話だ。

他に気になる結果だが、肺炎を併発しなくても、インフルエンザにかかった後でパーキンソン病が発症するオッズ比が2−3に上昇することで、メカニズムはわからないが、間違いなくウイルス感染は神経変性性疾患の引き金になっている可能性が高いと思われる。この研究では、実に16種類のウイルス感染と、様々な神経変性疾患の組み合わせがフィンランド、UKのバイオバンク共に確認できている。

主な結果は以上だが、面白いのはウイルス感染から神経変性性疾患発症までの期間ごとにオッズ比プロットすると、ほとんどの場合間隔が短いほどオッズ比が高く、時間と共にオッズ比が低下していくことが示されている。このことから、ウイルス感染の急性効果が神経変性性疾患発症に関わる可能性が示唆される。今後この二つのイベントをつなげるメカニズムについて検討する必要があるだろう。

今後膨大な数の人が感染したCovid-19についても、多様な病像と神経変性疾患との関わりについての相関がわかって、この研究で明らかになった組み合わせに新しい組み合わせが加わると予想でき、ウイルスに感染することの恐ろしさが認識されていくだろう。

しかし、両者の関係が認識されたとして何か対処の方法はあるのだろうか。現在のところ、唯一の対策はワクチンということになる。例えば昨年、インフルエンザワクチン接種により AD リスクが下がることを示す論文が出た。この研究の結果、ウイルス感染を防ぎ、重症化を防ぐワクチンのそれ以外の役割については研究が進む予感がする。そして同じ延長線上に、将来コロナワクチン接種と、アルツハイマー病やパーキンソン病と言った神経変性疾患の相関がわかってくると、新しいワクチンの意味が理解できるような気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ