1月18日 マウス T 細胞特異的 AAV ベクターの開発(1月12日 Cell オンライン掲載論文)
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1月18日 マウス T 細胞特異的 AAV ベクターの開発(1月12日 Cell オンライン掲載論文)

2023年1月18日
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今日のタイトルを見て、「エッ?マウスのAAVベクター?今更なぜ?」と、思った読者も多かったのではと思う。実際、ヒト遺伝子治療を究極の目的とした効率のいい AAV ベクターが既に開発されており、CRISPR/Cas を用いた遺伝子ノックインが可能になりつつある。

しかし、新しい技術の効果を確かめるためには、どうしても動物実験モデルが必要で、特に免疫反応のような複雑なシステム解析にはマウス実験が重要になる。ところが AAV ベクターを使うとなると、ヒト特異的に効率化されているため、マウスには使い勝手が悪く、特に CRISPR/Cas のような遺伝子導入効率が求められる実験には困難を伴う。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、このニーズに応えてマウス T 細胞に高い遺伝子導入効率を可能にするAAVベクターの開発と、それを用いたガンの免疫治療研究で、1月12日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「An evolved AAV variant enables efficient genetic engineering of murine T cells(AAV変異体の進化形はマウスT細胞の高効率の遺伝子操作を可能にする)」だ。

研究の目的の一つは、AAV ベクターの特異性や効率を進化させて目的に合ったベクターを開発できるかだ。このために、マウス T 細胞にはほとんど感染しない,

ヒト用に開発された AAV6 をスタートラインとして、このカプシドの一部をランダムなアミノ酸配列に置き換えたベクターをマウス T 細胞に吸着させ、T 細胞に侵入されやすい配列を特定する進化サイクルを3回繰り返し、最終的にマウス T 細胞に高い遺伝子導入効率を持つ Ark133 ベクターを完成させている。

AAV を進化させられることを示したのがこの研究のハイライトで、新しい Ark133 の感染に関わるホスト側の分子も探索して、これまで知られていた AAV 受容体に加えて、ほかにも4種類の分子が感染効率に関わることをしめし、AAV ベクターはまだまだ開発余地があることを示している。

あとは、正常の T 細胞の T 細胞受容体にガン特異的キメラ受容体を置き換えることに焦点を絞り、例えば CAS9 による遺伝子切断の毒性を修復のための鋳型を Cas9 と同時に導入する方法や、置き換える遺伝子にガイド RNA をつないで切断と相同組み換えを同時に行う遺伝子構成や、さらには相同組み換え以外の修復を抑える操作を加えるなど、様々な改良を加え、最終的に75%という高効率で遺伝子の置き換えに成功している。

またこうして作成した CAR-T 細胞は、通常のレトロウイルスを用いてキメラ受容体を導入する場合より高い抗ガン活性を示すことも示している。

最後に、同じベクターで2つの遺伝子を同時に置き換える可能性にもチャレンジし、低いとは言え7%という効率で両方の遺伝子を置き換えるのに成功している。

結果は以上で、この方法は CAR-T やその派生技術、特に今後予想される固形ガンに対する遺伝子導入 T 細胞治療の検証に重要であると同時に、マウス T 細胞の操作法として定着するように感じる。

カテゴリ:論文ウォッチ