6月14日 最近人々の道徳性は低下してきている?(6月7日 Nature オンライン掲載論文)
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6月14日 最近人々の道徳性は低下してきている?(6月7日 Nature オンライン掲載論文)

2023年6月14日
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今日は、「ChatGPTは実験哲学を可能にするか?」と銘打ったジャーナルクラブの開催日で、医学や生命科学から生成AIを考えて、できるだけユニークな議論をしたいと考えているので、是非Youtube配信をご覧いただきたい(https://www.youtube.com/watch?v=HlO67PydPdM)。 

この企画は私がChatGPTについて学んでいるとき、ChatGPTに英国の哲学者David Humeの経験論が実現していると感じたこと、そしてChatGPTが出来ないことを探れば、カントの絶対理性形式を実験的に示せると思ったことに始まっている。生命科学の枠を超えているといわれるかも知れないが、そろそろ哲学も生命科学として捉えてもいいのではと思っているので、その点についても議論したい。

カントが経験では決して説明できないと考えた一つが道徳だが、今日紹介するハーバード大学からの論文は、一般の人が持つ道徳感覚を定義することの難しさを指摘したユーモアに満ちた研究で、6月7日Nature オンライン掲載された。タイトルは「道徳が低下したという幻想」だ。

個人的には道徳心やその起源は生命科学の問題だと思っている。その時、経験でどこまで説明できるのかというカントの問いは参考になる。この点で言うと、この研究の結論は、「道徳感覚は個人の経験で形成される」でヒューム的だ。

この研究ではこれまで世界中で行われた「最近社会の道徳心が低下していると感じますか」というアンケート調査を集めると、米国ではこの70年間、調査が行われるたびに低下していると考える人が圧倒的に多い。そして、この傾向は米国にとどまらず、世界中のほとんどの国で人々は社会の道徳心が低下していると感じていることがわかる。

メディアの調査ならここでおしまいだが、道徳という言葉が抽象的なので、より具体的に、誠実性、親切心、良い感情など持つ人の割合を2000年から2020年までそれぞれ自己算定してもらうと、前の結果と同じで時間とともに、親切や誠実な人の割合は低下する。基本的にはこれまでの結果と同じだ。

このデータを元に、答えてくれた人の年齢などを考慮していくと、この現象は自分が生まれたときから始まっていると考えていることがわかった。すなわち、自分の生きてきた過去は良かったと思う感覚に基づいている。

面白いことに、社会一般の傾向と、自分の周りの人について、親切・誠実・良い人が減ってきているかと聞くと、社会一般では減ってきているが、自分の周りはいい人だと答えており、実際の感覚と、社会に対する意見は大きく異なる。

そこで最後に、現在と、自分が生まれたとし、そしてそれより前の社会についての道徳心の程度を想像してもらうと、結局生きている今が一番悪いと感じていることがわかった。

後半の調査はちょっと強引な気がするが、これらの結果から古今東西、ほとんどの人が今道徳心が低下していると感じるのは、生まれてから今まで、ネガティブな話を余計に経験として取り込んでいるからで、最終的に道徳心が低下しているという感覚は幻想に過ぎないと結論している。すなわち、道徳感覚も経験により形成されると言うことになる。

ちなみにGPT-4で「最近人々の道徳性は低下してきたでしょうか?」と訪ねてみると、

「たとえば、SNSやインターネットが普及した現代社会では、個人の行動が以前よりも公になる傾向があり、悪行や不適切な行動がより広く共有されやすくなりました。これにより、道徳的な逸脱が増加しているように見えるかもしれません。しかし、反対に考えると、過去には認識されていなかった問題についての認識が高まり、それに伴い新たな道徳的な基準が形成されつつあるとも言えます。例えば、性的マイノリティの権利や環境保護についての認識が高まっています。これらは従来はあまり注目されていなかった問題で、社会全体の道徳的な理解が進んでいることを示しているとも言えます。したがって、人々の道徳性が低下しているかどうかは、どの視点から見るかによります。一部の観点からは道徳性の低下が見受けられるかもしれませんが、他の観点からは逆に道徳的な理解が深まっているとも解釈できます。道徳性というのは個々の社会的な状況や文化的な背景に深く根ざしており、その評価は容易なものではありません。」

と、経験論に基づく至極まっとうな答えが返ってきた。

カテゴリ:論文ウォッチ